奈緒子(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

「奈緒子」は1994年から2003年までビッグコミックスピリッツに連載された坂田信弘原作・中原裕作画による漫画。2008年2月16日に実写映画化もされた。漫画の終盤は「奈緒子 新たなる疾風」というタイトルで仕切り直しがされた。
長崎県壱岐市をモデルにした「波切島」を舞台に、小さくして事故で父親を亡くした「日本海の疾風(かぜ)」と呼ばれる天才走者壱岐雄介の成長を描いた物語である。

『奈緒子』のあらすじ・ストーリー

幼い壱岐雄介(いきゆうすけ)とその兄の壱岐大介(いきだいすけ)の運動会の日に、東京から来た日本で十本の指に入る大会社の社長一家の篠宮家の父親に無理を言われ、一家と海に出た父・壱岐健介(いきけんすけ)。海が荒れそうなことを感じていて乗り気ではなかった健介だったが、予想は当たり、荒れ狂った波に飲まれ、一家の娘、篠宮奈緒子(しのみやなおこ)は海に投げ出されてしまう。奈緒子を助けるため海に入り、荒れ狂う海にさらわれ、命を落としてしまう健介。健介の死に重い責任感を感じる篠宮奈緒子。健介の死の原因が彼女にあると知ったまだ幼い壱岐雄介は、沈んでいる奈緒子に辛くあたる。なお重く責任感を抱く奈緒子。だが一方で彼女は、父を不慮の事故で亡くしても腐らない健気な雄介に惹かれていき、その後、彼の姿を走りの現場で見守ることになる。

雄介は幼くして走りの才能を開花させ、小学四年生で学童新記録を複数樹立し、リレーではアンカーを任されて優勝に貢献した。だが中学一年生のときに100m、200m、1500mで中学新記録を作るものの1500mで黒田晋(くろだすすむ)に写真判定の末敗れる。同じ年の人間に初めて走りで負けた雄介は黒田のことを意識する。
続いて雄介は全国中学校駅伝大会の長崎県代表選考会でアンカーとして走り、三分以上の差を詰めるという驚くべき追い上げを見せて波切島北中の代表選抜に貢献する。
その後の決勝大会では、アンカーを務め、意識していた船橋第一学園中の黒田晋と競った末に勝利し、初出場での初優勝に多大に寄与した。
しかし雄介は自分の家の経済的状況を知り、走ることを辞め、偶然知り合った大山権太のもとで漁師修行を兼ねたアルバイトを始める。そしてそれはかつて走りの指導者だった権太の、雄介へ向けた中距離のための体作りのトレーニングでもあった。共に走った雄介の先輩たちや雄介が高校に来るのを待っていた指導者の西浦天宣(にしうらてんぜん)は雄介が再び走り出すことを信じて日々を過ごす。

中学三年生になった壱岐雄介は知り合いに頼まれてJC主催の10キロマラソンに参加する。そこで雄介の前に立ちはだかったのは、九州北部で10キロレースで彼に勝てるものはいないと言われた一匹狼のランナー、本田大作(ほんだだいさく)だった。激しく競り合って記録上の上では本田の勝利にレースは終わるが、本田は自分の負けだと感じていた。
本田とのレースで走ることの楽しさ、充実感を再び思い出した雄介は波切島高校へ進学してまた走ることを決める。
中高と指導者に恵まれず、一人でトレーニングをしていた本田は、雄介が伝説の指導者である大山権太に指導されて再起しようとしているということを知って波切島へやってくる。波切島高校に入学した雄介と雄介たち波切島高校の陸上部は全国高校駅伝のための練習に入っていた。本田は駅伝大会に向けての練習をしている雄介たちに混じってトレーニングをすることになる。夏休み中の合宿で、「鬼」となって部員たちをしごく西浦天宣。それに付き合い、壱岐雄介にひたすらつっかかる本田。
夏が終わったあと、本田は単身パリに渡り、初マラソンとなるパリマラソンに参加。マラソンで12勝無敗でアフリカの英雄と言われるアキーム・シンバと首位を争う。結果は負けだったが本田は今季世界2位のタイムを叩き出し陸上界で注目を集めることになる。
合宿が終わり、夏が終わって厳しすぎる監督とぶっきらぼうな雄介に反意を抱く一部の部員たち。部内の雰囲気は荒れる。だが駅伝寸前に西浦が癌であることを明かされた部員は全国大会本選に向け一転して闘志を燃やす。
全国高校生駅伝大会本番の全国大会では骨折者や脱水症状を起こした者を出しながらも途切れずにアンカーの雄介にタスキを繋いだ部員たち。アンカーの壱岐雄介は船橋第一学園の黒田晋、アキーム・シンバの甥、シャバ・シンバと競り合い全国駅伝大会を優勝を決める。そしてその優勝の三ヶ月後、西浦天宣は癌で命を落とした。

年は変わり三年の先輩たちは卒業し雄介たちは二年になった年、雄介たちは都道府県別対抗駅伝にチャレンジしようとしていた。
本田を監督兼選手に迎え、大学に通っていた雄介の先輩・宮崎親(みやざきちかし)も長崎代表に加わり、レースに向かう波切島出身の選手たち。
だが宮崎はトレーニングで無理をしたせいで腰に故障を抱えていた。それでも走りたいと願い、権太のところにやってくる宮崎。鍼と波切島の海水を使った治療法を試そうというのだ。なんとか故障を治して壱岐雄介といっしょに走りたいという夢を叶えたいと願う宮崎。だが負傷は重かった。
本番の駅伝で、靱帯断絶・骨膜剥離を起こす宮崎。それでもタスキはなんとかつなぎ、雄介と一緒に走りたいという宮崎の夢は叶った。
責任感を感じた雄介の気合の入り方は尋常ではなく、駅伝で四十三位でスタートし、全員をゴボウ抜きして「不滅」と言われる区間新記録を生み出す。その様子を涙を流しながら聞き、トップでタスキを受け取る本田。駅伝の結果は長崎代表の優勝に終わった。

波切島を去るときに「マラソンで待つ」と言い残した本田。その言葉と「マラソンを走りたかった」という亡き父、健介の夢のため、マラソンに挑戦することを決めた雄介。だが練習では42.195キロを一度も走り通すことができなかった。何かが起きそうな不穏な空気が漂う中、壱岐雄介は特別推薦枠で東京国際マラソンを走ることになる。
高地トレーニングを積んだ体で立ちはだかる本田。また、マラソン中に壱岐大介が危篤となるというアクシデントも起こる。本田と熾烈な首位争いを行う雄介。
東京国際マラソンの結果は雄介の優勝で、本田が2位だった。記録は2時間2分22秒という驚異的なタイムだった。
そのまま雄介は高校3年生のときアテネオリンピックに出て優勝。本田も2位を穫り銀メダル。オリンピック後は雄介は走るのを止め、大山権太のもとで漁師の修行を始めた。本田もふたたび権太の家の居候になった。かくして日本海の疾風の物語は終わりを告げるのだった。

『奈緒子』の登場人物・キャラクター

壱岐雄介(いき ゆうすけ)

父の才能を受け継ぎ「日本海の疾風(かぜ)」と呼ばれる天才ランナー。ぶっきらぼうで頑固な少年である。「海の男」といった趣の男子で、黙して多くを語らず、普段の口数は少ない。小学校四年のときに100mと走り幅跳びで学童新記録達成。400mリレーでアンカーをつとめ優勝に貢献する。その後、100m、200m、1500mの3つの種目でで中学一年生のとき、中学新記録を達成。ただ、1500mは写真判定の末に黒田晋に負け同タイムだが二着。
その後、全国中学校駅伝大会の長崎代表選考会にアンカーとして出場し、先頭の走者と三分以上あった差を逆転するという驚くべき走りを見せ、優勝する。そのまま全国大会に出てここでも争うことになった黒田晋に今度は競り勝ち、初出場で優勝に貢献する。
輝かしい記録を打ち立てた雄介だったが、駅伝優勝後、自分の家の経済的な事情を知り、高校には行かずにお金を稼ごうと考え、大山権太の元に弟子入りして漁師見習いのバイトを始める。
そのまま走ることは辞めていた雄介だったが、中学三年生のとき知り合いに頼まれて10kmマラソンに参加することとなる。そこで本田大作との優勝争いで走ること、競い合うことの楽しさを思い出した雄介は中学校を卒業して波切島の波切島高校に進学を決める。
進学した高校では再び走ることを再開し、高校駅伝でアンカーを務め、黒田晋や本田と激しく競い合った最強ランナー、アキーム・シンバの甥、ジャバ・シンバと激しい首位争いを行い、初出場で初優勝を飾った。その後は都道府県対抗駅伝で43位でタスキを受けながらも自分の目の前のランナーをごぼう抜きし、「不滅」とまで言われる区間新記録を打ち立てアンカーの本田へとバトンを渡し、長崎代表の優勝に貢献した。その後は高校二年でマラソンで待っていると言っていた本田の言葉や、父親がマラソンで走りたかったという夢を持っていたことなどからマラソンに挑む。陸連特別推薦枠で東京国際マラソンに出場し、本田とデッドヒートを繰り広げる。結果は僅差で優勝。その後は高校三年でアテネオリンピックに出場する。結果は金メダル。高校を出たあとは、走ることは辞め、大山権太のもとで漁師の修行を始めた。

壱岐大介(いき だいすけ)

雄介の兄で波切島が産んだ秀才。雄介と仲がよく彼の姿を見守っていた。奈緒子に惹かれている。九大の医学生として大学生になるまで奈緒子が父が死んだ理由を知らなかったが、雄介の応援のために都道府県別駅伝に来ていた奈緒子本人からその事実を聞かされ、奈緒子を許し、また雄介のために身を引く。

壱岐健介(いき けんすけ)

波切島の漁師で雄介と大介の父親。「韋駄天」や「日本海の疾風(かぜ)と呼ばれた天才走者で、その将来を嘱望されていた。だが働き手がいない家庭に育ったため、高校進学は諦め走ることを辞めた。雄介がマラソン走者として、大介が医者としてそれぞれ大成するのが夢だった。波切島に遊びに来た奈緒子が海に落ちたのを助けて命を落としてしまう。

篠宮奈緒子(しのみや なおこ)

大会社の社長令嬢で波切島には最初遊びにやってきた。海に出たときに誤って船から転落し、壱岐健介に助けられる。が、その際に壱岐健介は海にさらわれ帰らぬ人になってしまう。その事実を知っていた壱岐雄介に辛く当たられるが、父を亡くしても健気に生きていく雄介に次第に惹かれていく。中学一年生のときに喘息の治療のために波切島にやってくるが、罪の意識に耐えられず、すぐにまた東京へ戻ってしまう。しかし高校のときに覚悟を決め波切島に三度やってくる。陸上をやっていて短距離から長距離へと転校し高校では高校駅伝での結果に大きく寄与する。「奈緒子」という物語は奈緒子の回想と言う形をとって語られている。
雄介のレースを常に見守り、大事なところで彼を励ましている。

大山権太(おおやま ごんた)

ベテランの漁師。だが、最初から漁師をしていたわけではなく、三十年前は大学の教師だった。当時としては非常に先進的なスポーツ生理学・心理学・トレーニング方法論を確立していたが、先進的であったために敵を多く作り、すべてを捨てて波切島で漁師になった。本人曰く「人間関係を壊してまでやる学問ではなかった」とのこと。壱岐雄介と偶然出会い、彼に漁師見習いの修行と中距離の体作りを同時にやらせていた。

西浦天宣(にしうら てんぜん)

波切島高校の陸上部の監督。根性先生と言われる。激しい気性をした熱血型の男で、現役時代は闘魂の走りと言われた。だが大学生活の終了と同時に現役を引退。波切島で波切島高校の教員になる。彼が中学校の頃から壱岐雄介が高校に来るのを待望しており、雄介が一度走るのを辞めたときには願掛けの石拾いをするほどだった。雄介が高校一年のときに全国高校駅伝で一位を取るため雄介たちに「鬼」と呼ばれるほどのシゴキをする。駅伝が終わった三ヶ月後に癌で命を落とす。

本田大作(ほんだ だいさく)

一匹狼の社会人ランナー。いい指導者に恵まれず、中学、高校と一人きりで練習をしていた。その後実業団入り。雄介が知り合いに頼まれて走ったJC共催10kmマラソンで雄介に「本人としては」競り負けた結果に終わり、雄介のことを気にかけ始める。雄介が大山権太の元で再起しようとしていると聞き、優秀な指導者を探していた本田は彼のもとに向かい居候をさせてくれと願いこむ。大山家の居候になった本田は波切島高校陸上部の合宿に付き合い、才能を花開かせた。初となるマラソンのパリマラソンで、これまで十二戦無敗の戦績を誇るアフリカの英雄、アキーム・シンバと競り合い、惜しくも2位で敗れる。しかし初出場のマラソンで世界2位のタイムを叩き出したことにより、本田は脚光を浴びることになる。その後は西浦天宣亡き後の波切島高校陸上部の監督代行となり、陸上部の指導に当たる。が、選手としての活躍をしたくなり、夏合宿後に監督を辞退。選手兼監督として都道府県対抗駅伝の長崎県代表になり、アンカーとして優勝を自分の足で決めた。その後は中国まで行き高地トレーニング合宿を一人で行ったあと、オリンピック代表のかかった東京国際マラソンに出場。特別推薦枠で出場した雄介に僅差で競り負け2位。そしてアテネオリンピックに雄介と共に出場し銀メダルを獲得。その後は再び波切島で大山権太の家の居候に戻った。

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