ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~価格破壊編
技術の進歩とは怖いもので、かつては高嶺の花だったポリフォニックシンセサイザーも、だんだんとアマチュアが手の届くレベルにまで価格が落ちてきます。100万円を超えていたものが20万円台、10万円台になっていく様子は、驚き以外の何物でもありませんでした。こうした価格破壊の波をもたらしたのは海外製品ではなく、国産の「Polysix」と「JUNO-106」だったのです。
価格破壊の波をもたらした「Polysix」
かつてポリフォニックシンセサイザーといえば高嶺の花でした。Sequential CircuitsのProphet-5が170万円、それよりもはるかに安いRolandのJupiter-8が98万円と、アマチュアには手が出るような代物ではありませんでした。当時のアマチュアたちは、いつかはあれを弾いてみたいものだと指をくわえて見ているしかありませんでした。ですが、技術の進歩はそうした製品の低価格化をもたらしてくれるのです。ポリフォニックシンセサイザーもその例外ではなく、価格破壊の波が訪れます。その波を最初にもたらしたのは、わが日本のKORGから1981年に発売された「Polysix」です。
当時、驚かれたのがその価格です。ポリフォニックシンセといえば上記のように高価なものばかりだったのですが、それが24万8000円です。これで6音ポリフォニックのうえ、音色メモリーまで付いていたのですから、アマチュアたちはこぞってこの楽器に飛びつきました。オシレーターはメイン1系統とサブ1系統、エンベローブはフィルターとアンプ兼用の1系統と、音作りの幅はかなり狭かったのですが、なんといっても価格が価格ですから、人気にならないわけがなかったのです。
価格破壊の決定打となった「JUNO-106」
もちろん、KORGのライバルであるRolandも、Polysixの人気を黙って見ているわけがありません。1984年に発売した「JUNO-6」は、それを下回る16万9000円に価格設定されました。ただ、音色メモリーが付いていなかったこともあり、Polysixほどのムーブメントにはなりませんでした。その後、音色メモリーを追加した「JUNO-60」が発売されたものの、こちらは23万8000円とPolysixと価格がほぼ同じになってしまいました。Rolandの価格破壊の決定打となるのは、これらの後継機である「JUNO-106」です。
価格なんと13万9000円、しかもJUNO-60と同様に音色メモリーが付いていただけでなく、ハイパスフィルターが追加されて音作りの幅が広がったのです。これが人気にならないわけがなく、現在でも多くの実機が残っていることが人気のほどを証明しています。アマチュアに限らず、電気グルーヴなどプロのミュージシャンも使用したほどでした。
バンド少年たちの「ビンテージ」
価格ゆえに人気になった両機ですが、機能が限られているだけにシンセの音作りを勉強するのには最適な楽器でもありました。人気機種ゆえに多くの音楽少年が使用したため、青春の思い出としての「ビンテージ」になっていることもよくあるようです。このため、どちらもソフトウェアで復刻されています。
Polysixについては本家本元のKORGから「KORG Legacy Collection Polysix」として、4980円で販売されています。
一方、JUNO-106の方は本家Rolandから音源モジュール「JU-06」として復刻されていますが、価格が4万円台とPolysixに負けてしまっているのが悔しいところ。他のベンダーが開発したソフトシンセもありますが、注目すべきはTALの「TAL-U-No-62」で、なんとフリーソフトです。これならば「価格破壊の決定打」にふさわしいのではないでしょうか。
関連記事
ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~海外モノフォニック編 - RENOTE [リノート]
renote.net
「ビンテージ」と呼ばれる楽器がありますが、キーボードにもそう呼ばれるものが存在しています。知っている人は「あの楽器か」と懐かしく思えるでしょう。知らない人にとっては「何それ?」と思えるかもしれませんが…。そんなビンテージ・キーボードを紹介していきたいと思っています。まずはシンセサイザー黎明期に発売された単音式の2機種からです。
ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~海外製ポリフォニック編 - RENOTE [リノート]
renote.net
最初は単音しか出ないモノフォニック式が多かったシンセサイザーですが、和音が出せるポリフォニック式のものも徐々にサイズが小さくなっていきます。そして、世界的な知名度を持つ2つのビンテージ・キーボードが誕生したのです。1つはProphet-5、もう1つはOB-Xaです。楽器そのものの名前は知らなくても、使用されている楽曲を聴くと懐かしく思う人も多いかもしれません。
ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~国産ポリフォニック編 - RENOTE [リノート]
renote.net
これまで紹介したビンテージ・キーボードはすべて海外製のものでしたが、日本製も負けてはいません。今回紹介するRolandの「Jupiter-8」は、国産のポリフォニックシンセサイザーとしては最高峰ともいわれた楽器ですし、YAMAHAの「CS-80」も著名なミュージシャンが数多く使用しているなど、いずれもビンテージ・キーボードの名にふさわしいものです。「ものづくり日本」を象徴する名機を紹介します。
ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~エレピ編 - RENOTE [リノート]
renote.net
ビンテージ・キーボードはシンセサイザーだけではなく、エレクトリック・ピアノの中にもそう呼ばれるものはあります。有名なものだとアメリカ製のRhodes(ローズ)と、YAMAHA製のCP-80がそうです。ピアノとは似ても似つかない個性的なRhodesと、グランドピアノを電子楽器化したようなCP-80では音のキャラクターは全く違いますが、多くのミュージシャンに愛されたという意味では変わりません。