ビンテージ・キーボードの役に立たないウンチク~国産ポリフォニック編
これまで紹介したビンテージ・キーボードはすべて海外製のものでしたが、日本製も負けてはいません。今回紹介するRolandの「Jupiter-8」は、国産のポリフォニックシンセサイザーとしては最高峰ともいわれた楽器ですし、YAMAHAの「CS-80」も著名なミュージシャンが数多く使用しているなど、いずれもビンテージ・キーボードの名にふさわしいものです。「ものづくり日本」を象徴する名機を紹介します。
日本を代表する?ポリフォニックシンセ「Jupiter-8」
Prophet-5やOB-X系などのポリフォニックシンセサイザーの全盛期には、日本の楽器メーカーからもそれらと比肩するレベルのビンテージ・キーボードが発売されていました。RolandのJupiter-8、YAMAHAのCS-80がそれです。この2つのうち、当時多く使用されていたのがJupiter-8です。
Jupiter-8は1980年に発売され、価格の方は98万円とかなりのものだったのですが、海外製のポリフォニックシンセに比べると(輸入代理店がぼったくっていたこともあり)半分ぐらいの設定でした。このため、多くのミュージシャンに使用されるようになり、日本では坂本龍一氏も使用していたことが知られています。海外ではハワード・ジョーンズやジャーニーのジョナサン・ケインらが使用しています。下の動画では、ハワード・ジョーンズを象徴する楽器として、真っ先にJupiter-8が挙げられています。
海外での方がメジャーだった?CS-80
これに対してもう1つのCS-80は当時、国内ではJupiter-8の陰に隠れた感がありました。8音ポリフォニック、2系統のオシレーターはJupiter-8と同じですし、オシレーターがそれぞれ独立したフィルターとアンプリファイヤーを備えているという仕様はJupiter-8を上回っていました。なぜJupiter-8の陰に隠れてしまったのかは分かりませんが、Jupiter-8よりもやや高い128万円という価格設定も理由の1つだったのかもしれません。
海外での方がメジャーだった?
日本国内ではともかく、海外では全然そんなことはなくて、いろいろな楽曲に使われていたことが分かっています。例えばブルース・スプリングスティーンの「Born in the U.S.A.」の冒頭のシンセはこのCS-80ですし、一世を風靡した「TOTOホーン」はCS-80でなければ出せない音でした。当時、TOTOのメンバーだったスティーブ・ポーカロはCS-80がお気に入りだったようで、「99」のPVでは実際に弾いている姿が収録されています。
現代に伝わる「ものづくり日本」の遺伝子
Jupiter-8の方は、現代にもその「遺伝子」は伝わっています。昨年10月に発売されたRolandの音源モジュール「JP-08」は、デジタル技術を用いてJupiter-8を現代に蘇らせたものです。音数が8ではなく4なのが残念なところですが、モジュールを2台つなげればちゃんと8音になってくれます。ただ、インターフェースにJupiter-8の面影があまりないのが残念なところです。
一方のCS-80はどちらかといえば日本国内よりも海外のミュージシャンが使用することが多かった楽器だけに、仏Arturiaがソフトウェアで復刻させると発表したときは、結構驚かれた記憶があります。現在はこのArturiaのCS80-Vに加えて、MemorymoonからもME80というソフトシンセが出ています。
どちらが実機に似ているかは判断の難しいところですが、価格はCS80-Vが99ユーロなのに対しME80が40ドル。いずれもWindows、Macとも64ビットに対応していますので、あとは好みでお選びください。本当はRolandがやったように、YAMAHA自ら復刻してくれるのがいいんでしょうけれど…。
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