藤子・F不二雄の「タイムスリップ」劇場

ドラえもんの声優さんが交代して10年になりますね。今なお世界中で愛されるドラえもんを生んだ藤子・F・不二雄先生の作品の中から、知っているかぎりの「タイムスリップもの」をセレクトしました。様々な話、エピソードがあって、改めてF先生の才能、引き出しの多さに驚かされます。「昭和の漫画じゃん」なんていったら損をするかも?興味を持っていただければ、幸いです。

時代を駆けて人々を救え!『T・Pぼん』

トップバッターは『T・P(タイムパトロール)ぼん』。ドラえもんでもおなじみのT・Pですが、本作では役割が少し違います。タイムボートなるマシンを操り、歴史に影響を与えない程度に、不憫な死を遂げた人物を救う、という物語です。

作中の「歴史」とはかなりデリケート。

歴史に関わることはいっさいやってはならないという掟は絶対であり、何をするにも確認をとらなくてはならないほどです。裏を返せば、「歴史が変わらなければ、消えたって構わない人物もいる」というスタンスであり、主人公のぼんは「T・P隊員の活動を目撃した」という理由で消されそう(生まれなかったことにされる)になるのですが…。

晴れてT・Pの一員となります。助ける方法は千差万別、タイムボートの機能をうまく使い、「本当なら死んでいた」人々の命を救っていくという話。けれどいいことばかりではありません。「対象者」以外でも、歴史に影響がなければ助けることはできます。でも、そうでない場合は…『戦場の美少女』というエピソードが個人的には印象に残っています。「助けたくても助けられない状況」に、先輩で指導係のリームも涙するシーン、胸に来ます。

本当なら、助けたい。でも「助けてはいけない」というジレンマ。

余談ですが、「人助けのため」と称してF先生に似た観光客の首を絞めてカメラのフィルムをせしめるシーン。じわじわ来ます。

洞窟で入れ替わり『みきおとミキオ』

次は『みきおとミキオ』。文庫版で読んだのみですが、こちらは少しライトな感じです。時は1974年。とある洞窟で、自分とそっくりな少年に出会ったみきお。彼の名はミキオといい、2074年から来たと言います。お互い、未来や昔の生活に憧れていたこともあって、二人は軽い気持ちで「時々入れ替わる」といった遊びをするのですが…。

みきおは未来の暮らしを満喫しつつ、その社会にある危機を覚えます。他の登場人物は、両親から友人からコピーしたようにそっくりなのですが、ここが一つのポイントです。『ドラえもん』でいうジャイアンのようなガキ大将がいるのですが、彼は現代でのガキ大将よりもずっと体力が落ちていました。みきおが無我夢中であったということを抜きにしても、数発殴っただけで気絶するほどに。月には簡単に行けても、自力で計算ができず、地震エネルギーを吸収する機械があっても風邪で死にかけるほど免疫がない。気楽な子供向け漫画に見えて、科学文明に対する警鐘の教科書とも言える作品でした。

切ないラブストーリー『ノスタル爺』

最後に『異色短編』シリーズから、一本。誤って戦死報告をされていた男性が復員。出生前夜に娶った妻は「戦死報告」の後で死亡。叔父からそんな話を聞かされていた男性は、気が付けば自分が子どもの頃の故郷へ戻っていた…というお話。タイムスリップものですが、何とも切ない気分になりました。主人公が少々自己満足が過ぎる気もしますが、名作であることに間違いはありません。ここまで、心に残るのですから。

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