【映画紹介】悪の正体はなにか?ユダヤ人哲学者の生きざまを描いた『ハンナ・アーレント』の魅力
ユダヤ哲学者のハンナ・アーレントをご存知ですか?米・プリンストン大で女性初の専任教授になり、高名な学者として名声を得た彼女。しかし事態は一転、とある記事が原因で世界中から大バッシングを受けることとなります。彼女が主張し続けた「悪の陳腐さ」とはなにか?正義に生きたユダヤ人女性哲学者の生きざまを描いた映画『ハンナ・アーレント』を紹介します。
映画『ハンナ・アーレント』とは?
映画『ハンナ・アーレント』は2012年に公開されたドイツ・ルクセンブルク・フランスの合作映画です。ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントにスポットを当て、彼女の生きざまを力強く描いています。ドイツ系ユダヤ人のハンナ・アーレントは、第二次世界大戦中にナチスの強制収容所から脱出し、アメリカに亡命しました。その後、哲学者としての功績が認められ、アメリカの名門・プリンストン大初の女性専任教授として名声を得ることとなります。
1960年代に入り、アーレントはザ・ニューヨーカー誌の仕事で、イスラエルで行われたナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、同誌にそのレポートを発表しました。その衝撃的な内容に、世界中から大バッシングを受けることとなります。多くのユダヤ人をガス室送りにした張本人、アイヒマン。しかし、アーレントは、アイヒマンの<悪の凡庸さ(陳腐さ)>を主張し、思考が停止した1人の小役人に過ぎないと言い切ったのでした。アーレントの主張は、世間の目には、ナチスを擁護しているように解釈され、非難されました。「考えることで、人間は強くなる」という信念を貫き、思考停止の恐ろしさを説き続けた彼女の力強いメッセージとはいったいなんだったのでしょうか?ユダヤ人女性哲学者ハンナ・アーレントを描いた本作は、とても奥の深い映画となっています。
絞首刑に処されたナチス戦犯アドルフ・アイヒマン
高校中退後、1932年ナチス親衛隊入隊。1935年ユダヤ人担当課に配属され、ユダヤ人追放のスペシャリストとして頭角を現す。終戦までユダヤ人列車移送の最高責任者を務めた後、バチカン発行のビザと偽名を使い、アルゼンチンへ逃亡。1960年イスラエル諜報部(モサド)に拉致され、1962年絞首刑に処せられた。
出典: www.cetera.co.jp
<悪の凡庸さ(陳腐さ)>を主張し続けたアーレント
アーレントがアイヒマン裁判のレポートで導入した概念。上からの命令に忠実に従うアイヒマンのような小役人が、思考を放棄し、官僚組織の歯車になってしまうことで、ホロコーストのような巨悪に加担してしまうということ。悪は狂信者や変質者によって生まれるものではなく、ごく普通に生きていると思い込んでいる凡庸な一般人によって引き起こされてしまう事態を指している。
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映画『ハンナ・アーレント』レビュー抜粋
映画『ハンナ・アーレント』には、1961年にエルサレムで行われた「アイヒマン裁判」の実際の映像も使われています。傍聴席からの攻撃などを防ぐために、ガラスボックスの中から裁判を行うアイヒマン。アイヒマンは、上からの命令に従い任務を遂行したと証言します。そしてアーレントはこう分析するのです。アイヒマンは極悪人などではなく、小役人に過ぎないのだと。そして<悪の凡庸さ(陳腐さ)>という概念を提唱します。
彼女の主張に共感できるかどうかは映画とは違う場所で語るとして、現代に、この哲学者を題材にした製作者の意図を考えたいと思います。
「思考を止めてはダメだ」流されることの危機がいかなる時代にあっても深刻な問題であることを、この作品は我々に訴えます。難解なところはありませんから、是非多くの方にみて欲しいです。
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戦争から発生する人間の思考について深く考えさせられる名作でした。
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アイヒマン裁判を通じて、「ナチスの悪魔的犯罪に携わった人々は、軍服に着替えると疑問無く悪魔的行動を行うが、帰宅して背広に着替えると平凡な一市民に変わるという二面性を持っている」ことが発見された。
今では常識となっているこの考え方を、1960年代という「戦後」を引きずる時代にユダヤ人の出自でありながら、権威ある雑誌「ザ・ニューヨーカー」で発表したハンナ・アーレントの行動は、尋常ではない勇気を必要としただろう。
この映画は彼女の『勇気の物語』である。
では、彼女の勇気はどこから生まれたのか。それはカント、ヘーゲル、ニーチェ、そして彼女の恩師ハイデッガーへと連なるドイツ実存主義哲学だ。
「知と思考」は武器にはならない。ナチスは多くの本を焼き、トーマス・マンは国を逃れ、ハイデッガーでさえ「総統万歳」を叫んだ。しかし、「知と思考」は勇気になる。
この映画が伝えたかったこと、アーレントが後生に残したかったのは、その事実ではないかと思った。
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まとめ
いかがでしたか?
本日は、2012年に公開された映画『ハンナ・アーレント』を紹介しました。アーレントは、ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンを極悪人ではないと言い切ります。そしてこう主張するのです。思考することを停止してしまった役人に過ぎないのだと。考えることをやめてしまえば、無実の人を殺しても罪悪感すら感じなくなる危険性を孕んでいる、それこそが恐ろしいことなのだとアーレントは伝えたかったのではないでしょうか?本作の題材となっているアーレントのレポートは、『イェルサレムのアイヒマン』というタイトルで日本語訳も出版されていますので、彼女の主張についてさらに詳しく知ることができます。
これから映画『ハンナ・アーレント』を観てみようと考えているみなさま、ぜひこの記事を参考にしてみてください!
Amazon.co.jp: イェルサレムのアイヒマン——悪の陳腐さについての報告: ハンナ・アーレント, 大久保 和郎: 本
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