ホテル・メッツァペウラへようこそ(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』とは、漫画家・福田 星良によって2020年より『KASOKAWA ハルタ』にて連載しているヒューマンドラマ漫画である。フィンランドのラップランド地方にある1軒の小さなホテル・メッツァペウラを営む2人の老紳士たち・クスタとアードルフ、ホテルに突然訪れた1人の青年・ジュンとの心温まる物ストーリーが描かれている。孤独な青年ジュンが真冬のフィンランドでの暮らしやホテルに訪れる宿泊客たちとの交流によって、感情を取り戻しゆっくり変化する彼の心情が繊細に描かれている。

『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』の概要

『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』とは、漫画家・福田 星良(ふくた せいら)によって2020年10月号より『KASOKAWA ハルタ』にて連載しているヒューマンドラマ漫画である。
単行本1巻は発売後即重版がかかるほどの人気で、「全国書店員が選んだおすすめコミック2023」で第11位に選ばれている。また「KADOKAWAanime」からボイスコミック化されており、2023年2月からYouTubeで公開されている。

本作では、フィンランドのラップランド地方の町外れにある1軒の小さなホテル・メッツァペウラを営む2人の老紳士たち・クスタとアードルフ、ホテルに突然訪れた1人の青年・ジュンとの心温まる物語が描かれている。
ある日フィンランドのラップランド地方の町外れにあるホテル・メッツァペウラに、17歳の青年ジュン・シノミヤが訪ねてくる。どこか事情を抱えた様子の彼を、ホテル経営者のクスタとアードルフは新米ホテルマンとして迎え入れる。孤独に心を閉ざしていたジュンは、彼らの優しさによって人の暖かさを知り感情を取り戻していく。そしてフィンランドの美しい大自然や、ホテルに泊まりに来た客や共に暮らす人々と交流することで、ジュンは閉ざしていた心を開き、彼らしさを育てて成長していく。

『ホテル・メッツァペウラへようこそ』は、作者・福田 星良の画力で描かれているフィンランドの美しい描写も魅力である。本作では美しくも厳しい真冬のフィンランドの大自然が繊細に描かれ、フィンランドの冷たく透き通った景色をも感じることができる。
また本作ではフィンランドならでは建物・食事・アイテムが登場するため、フィンランドの知られざる文化を知ることができる。フィンランドで有名なサウナ部屋、ラップランド地方のホテルならではのオーロラ観測部屋、ニシンの酢漬け、ジンジャーブレッドケーキなどを始め、クリスマスマーケットや中古屋など、フィンランドの普段の生活も垣間見える。フィンランドの生活や文化を知り楽しめることも本作の魅力である。

『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』のあらすじ・ストーリー

突然の訪問者

長く暗い夜が続く12月のフィンランド。ラップランド地方の町外れにあるホテル・メッツァぺウラは、降り続ける雪に埋もれていた。ホテル従業員は料理人のクスタとホテルマンのアードルフの2人のみで、長く続く冬のせいでホテルに客は1人もいなかった。

ある日アードルフはホテルの玄関口に怪しい青年がいる事に気付き、クスタと共に無言で佇む青年に声をかける。すると彼は意識を失い倒れ込んでしまい、2人は青年をロビーのソファに寝かせて彼が起きるのを待った。
ほどなくして目を覚ました青年は施設育ちである事や、金も泊る所もないという身の上を明かす。クスタとアードルフは詳しい事情を聞かず、風呂や食事を用意して部屋へ案内した。青年が寝付いた後、クスタとアードルフはこっそり彼の荷物を調べてみる。中身はパスポート・小銭のみの財布・小さなナイフ・少しのお菓子・小さな狼の人形のみで、ジュン・シノミヤという名前しかわからなかった。
翌日起きてきたジュンは、ロビーにある大きなクリスマスツリーを見て目を輝かせる。クスタとアードルフは「ホテルマンとして働かないか」とジュンを誘うと、彼はすぐに了承し、ホテル・メッツァぺウラの従業員となったのだった。

ジュンがホテルマンとして働き始めてから初めてのゲストは、クスタやアードルフとも旧知の仲である女性警察官・エンマだった。
ジュンはエンマからホテル内にあるオーロラ観測部屋に誘われて同行する。「亡くなった夫との思い出の場所だ」と言いながら涙を流すエンマに、ジュンはそっと毛布を差し出して彼女が落ち着くまで寄り添った。
翌日、昨日の沈んだ様子から一変して晴れやかな笑顔を浮かべていたエンマの姿を見てジュンは安心する。エンマはホテルを出る前、アードルフに「ジュンはなぜここに来たのか」と聞いてみたが、アードルフは「詳しい事情は知らないし無理に踏み込むことはしたくない。よっぽどの事情があるのだろう」と答えていた。そんな会話をしているとはつゆ知らず、ジュンはエンマの帰路を見送り、彼の初めてのホテルマンとしての仕事が終わったのだった。

フィンランドの人たち

倉庫の整理をしていたはずのジュンが頭から血を流して食堂にやってきた。ジュンは棚の上の木箱をどかそうとして手が滑り、中身の瓶で怪我をしてしまったのである。謝罪の言葉ばかりで自分の怪我を一切気にする様子のないジュンに対し、アーノルドとクスタは「一体日本でどういう暮らしをしてきたんだ?」と心配になってしまった。

次の日「休め」と言いつけておいたはずのジュンが勝手に仕事をしていることに気付き、クスタは怒って仕事を中断させる。そして彼に朝食として、ジュンが割ってしまった瓶の中身だったニシンの酢漬けを食べさせた。ジュンは「子供の頃食べた母親の料理によく似てる」と言い、自分の母親はフィンランド人だということを打ち明ける。
少し考え込んだクスタはジュンをホテルの食料倉庫に連れて行き、「お前も半分フィンランド人なんだろう?ならフィンランドの料理を覚えておくべきだ。ここで働くならお前も作り方を知っておくと良い。必要なことだ」と言いながら、ジュンに料理を教える。そして「ちょっと自分の体を大事にしろ。心配するだろう」とジュンを諭した。

別の日、ジュンはアードルフにホテルマンの仕事であるベッドメイクを教わっていた。アードルフのベッドメイクテクニックは特別で、速さも正確さも仕上がりも素晴らしく、きっちり正確にベッドメイクを次々と終わらせていく。ジュンはアードルフのように出来るよう尽力するが、なかなかうまくいかずヘトヘトになっていた。
アードルフはそんなジュンに対して元々は軍で働いていたことや、前の支配人に拾われて怒られながら仕事を覚え、ベッドメイキングは誰よりも早くなったことなどを明かす。そして「この国の冬はとても厳しい。生き残っていくためには学び続けなければいけないし、お互いに助け合わなければ冬は越せない。それがこの国の人間の生き方だ」とジュンに諭した。

暗く寒い日の出来事

気分も憂鬱になるような天気の中、テム・バーナーという飛び込みの客がやって来る。テムは部屋で1人で静かに過ごすことを希望していた。アードルフから「なるべくテムから目を離さないように」と忠告されていたジュンは彼の部屋にコーヒーを運び、テムの様子をうかがう。笑顔で迎えてくれたものの、テムはどこか顔色が悪く体調も悪そうだった。ジュンは持っていたチョコレートをテムにプレゼントして、マッサージをサービスする。少し元気になった様子のテムは「散歩に行こうかな」と呟くが、ジュンは天候が崩れることを心配して彼のことを引き留めた。
少ししてアードルフがジュンにテムの様子を尋ねる。実はこの時期のフィンランドでは自殺が多く、テムも病んでいるように見えたため、アードルフはテムを心配していたのだった。
不安になったジュンは慌ててテムの部屋に戻るが、部屋に彼の姿は無く、ホテルの裏口から出て行った彼の足跡を見つける。「危険だから警察に任せろ」という2人の制止を振り切り、ジュンは雪の中を森へと駆けていった。

ジュンは自分の身近な人を死なせるのが嫌だった。素行が悪かった思春期のころ、ジュンは1人のヤクザと知り合う。ジュンに食事を与えて世話をし、世の中の様々なことを教えてくれた。親がおらず児童養護施設で育ったジュンは彼を慕って先生と呼んでいたが、ある日先生は何者かに襲われ腹から血を流し、ジュンの前で息絶えたのだった。
やっとの思いでテムを見つけたジュンは後ろから羽交締めにして彼を引き留め、もみ合いながら雪の中を滑り落ち意識を失ってしまう。2人はアードルフとクスタに発見され、無事ホテルへと戻ることができた。
ロビーのソファーで目を覚ましたジュンは、アードルフから「自殺行為だ」とキツく叱られる。しかしジュンの行動で結果的にテムが助かったため、共にテムを捜索してくれていたエンマからは「よくやった」と褒めてもらえた。
テムは以前自殺をはかり、自殺を止めようとした弟を刺して逃げていた。そして保護されたテムは、彼を待っているという弟の元に帰ることになったのだった。テムの身柄をエンマに引き渡しホテルを出る前、ジュンは痛む身体を引きずりホテルの玄関口を自ら開け「またのお越しをお待ちしております」と頭を下げる。テムは涙を流しながらジュンに感謝をして帰っていった。その後ジュンはクスタとアードルフと暖かい夕食をとり、2人が心配してくれたこと、テムを助けられたことに安堵し涙をこぼしたのだった。

ホテルで過ごすうちに、ジュンは少しずつ感情を表すようになっていた。ジュンは「自分は人間が嫌いって言ったけど、クスタさんと先生のことは好きです。俺みたいなのを拾ってくれて感謝してます」と素直に気持ちを伝える。ジュンの変化に2人は目元を緩め「俺たちもお前がいてくれて助かっている」と返したのだった。

結婚式の贈り物

ジュンがホテル・メッツァぺウラに来てから1番の大仕事となる、結婚パーティの予約が入っていた。来客は新郎新婦含め26名を予定しており、ジュンは裏方だけではなく当日ホールに出ることになった。会場の準備も着々と進み、結婚式の日が近づくとジュンの不安と緊張は高まっていく。アードルフはジュンのために提供する料理や飲み物の詳細をメモした冊子を用意して、ジュンを励ました。
準備中、ジュンとアードルフはホテルのエントランスで暗闇の中をこそこそ動いている若い女性を発見する。彼女はクスタの娘・ファビーだった。

彼女がホテルに来た理由は、2脚の椅子を運び込むためだった。椅子はファビーのお手製で、結婚パーティーで新郎新婦への結婚祝いの贈り物として渡すものだという。フィンランドでは婚約した男性が女性のために椅子を作って贈り「自分の家に妻の居場所をつくりましたよ」という気持ちを伝えるという、昔からの風習がある。ファビーは花嫁と幼馴染で「彼女の新しい居場所を祝うために椅子を贈るのだ」と言った。ファビーが新郎新婦に椅子を贈る理由がもう一つあった。実は彼女は児童養護施設で育ち、8歳の時にクスタ夫婦に養子として引き取られた。施設を離れる時、住み慣れた場所から離れるのが寂しくてずっと泣いていたファビーだが、家につくとクスタがファビーのための椅子を用意してくれていた。自分のための椅子、それは新しい自分の居場所で、ファビーはそれがとても嬉しかったのだ。

いよいよ結婚式当日となり、会場に人が集まり結婚パーティが始まる。ファビーの手を借りながらなんとか接客をこなして一息ついていると、用事で会場を離れていたアードルフが戻ってくる。ジュンは贈り物の椅子を取りに会場を離れるとふと思いつき、花束を取りに行くふりをして自分の代わりにクスタをファビーの元によこす。嬉しそうにクスタとの思い出を語ったファビーの様子を見て、ジュンは「椅子はクスタとファビーの2人で渡してほしい」と思ったのだ。クスタの姿を見てジュンの意図がわかったファビーは「新郎新婦に一緒に椅子を渡して欲しい。新しい家族には椅子が必要でしょ?」と笑い、クスタも昔の記憶を思い出し微笑み返す。
新郎新婦に椅子を贈るととても喜んでもらえた。クスタはジュンの心配りに「悪くない体験だった。ありがとう」と感謝する。そして最後にジュン、クスタ、アードルフ、ファビーの4人で記念撮影をし、無事結婚パーティは終了したのだった。

アードルフの師匠

ある日、アードルフはいつにもなく張り切って仕事をしていた。普段ジュンに任せている雑務も、アードルフが1人で準備を終わらせてしまう。ジュンがクスタに訳を聞くと、明日ホテルにアードルフが新人の頃にお世話になった上司であり、彼の恩師の1人がやってくるのだ教えられた。アードルフの恩師は仕事に厳しいと聞き、ジュンも緊張して背筋を伸ばす。
翌日、大柄で温和そうな男性・クラウスがやって来た。アードルフとクラウスは久しぶりに会えたことを喜び、ジュンに対しても友好的に接してくれる。荷物を置いたクラウスは釣りをにしに行くと言い、「仲良くなりたい」との理由でジュンを連れて湖へと向かった。

到着した湖は一面凍り、目の前がパァッと開けて清々しい空気と景色にジュンは感動する。この湖はクラウスがホテルマン時代から通ってる場所で、仕事が休みの日によくアードルフと来ていたという。クラウスは何も知らないジュンに一つずつ手順を教え、釣りを楽しみながらアードルフの昔話を話して聞かせてくれた。
「昔のアードルフは自分の話はあまりせず、無愛想で不器用で、本当にホテルマンに向いていない男だった。しかしある日ホテルの暖炉の火を起こすように頼むと、彼はものの数分でホテル中の暖炉に火をつけることができた。何故かと問うと、彼は軍にいたから火おこしには慣れていたんだと教えてくれた」とクラウスは話す。それは昔のことを頑なに話さないアードルフが、珍しく自分から自らのことを話してくれた瞬間だったという。その後もクラウスは昔アードルフに何があったのか、何も聞かず仕事を教えて優しく見守ったのだ。ジュンは「アードルフが自分の事情を聞かずに仕事を教え見守ってくれているのは、昔の自分を重ね合わせているからなんじゃないか」と思い、クラウスに「自分は確かに先生のことを全然知らないけれど、ホテルの仕事は少しずつ楽しいと思えるようになってきた」と伝えると、クラウスはホッとしたように優しく笑ったのだった。

その夜暖炉に火を入れる際、ジュンはクラウスから習った火おこしを今度見てほしいとアードルフに頼む。アードルフは昔を懐かしむような表情を見せ、そして優しく頷いてくれたのだった。

ジュンの母親探し

フィンランドにもクリスマスシーズンがやってきた。ホテル・メッツァぺウラにはテムからジュン宛の大量のプレゼントが届いていた。テムからのプレゼントは大量でどれも高価で良い品ばかりで、プレゼントと共に大量のクリスマスカードも届いていた。夜、アードルフの部屋に「カードの返事を書くから辞書を貸して欲しい」とジュンが訪ねてくる。実はジュンはテムからの贈り物を全部彼に返すつもりでいた。ジュンは「人が死ぬのをみたくないという個人的な気持ちで彼を止めてしまった。自分にはそんな高価なものを貰う資格なんてない。クリスマスカードを貰いとてもうれしかった」と、正直な気持ちを明かす。アードルフは辞書を貸し「そのままの気持ちを全て手紙に書き、正直に伝えると良い」とアドバイスした。ジュンは自室に戻り、テムからのクリスマスカードを改めてじっくり丁寧に読みすすめていく。ジュンは「ビザが切れるまであと2ヶ月と6日しかない。夏までこの国に自分はいられないんだよな…」と思い返したのだった。

翌日、アードルフはテムの弟が明日ホテルにやってくることをジュンに伝える。しかし次の日の夕方になり、外は吹雪いて暗くなってもテムの弟は現れなかった。
夜もふけた頃ホテルのドアが激しく叩かれ、ジュンが慌てて玄関口を開けると、大男が傾れ込むように入ってきた。男はそのままジュンの顔をガシッとつかみ、額にキスをする。ジュンは思わず男の顔にストレートをお見舞いし彼は倒れるが、実はこの男こそ待っていたテムの弟・アキだった。

アキはジュンの居場所を尋ね、ジュンが名乗り出ると「兄を森から引きずり戻したと聞いていたからどんな男かと想像していたが、まさかこんなSöpö Poika(ソポポイカ)、かわい子ちゃんだったとは」とアキは驚く。ジュンは子供扱いするような言葉に腹を立て、一気に彼のことが苦手になってしまった。落ち着いたところで、ジュンはアキに「もらったプレゼントを返したい」と申し出ると、アキは頭を抱えてしまう。彼がホテルにやって来たのは追加のプレゼントをジュンに渡すためだったのだ。
受け取りを辞退するジュンに対し、アキは「世間はもうすぐクリスマスだし、余ったプレゼントはジュンの大事な人に渡せばいい」と提案する。それに対しジュンは「自分には家族がいないのでそれはできない。母は生きているだろうけど、長い間会っていない」と返す。ジュンの母親タルヤ・レフトはこのホテルの近くの街・サーリセルカに住んでいると明かした。
「母親に会いに行け」と言うアキと拒否するジュンが押し問答していると、アードルフが「明日2人でサーリセルカに買い出しに行ってきてもらえませんか?日が暮れたら帰ってくればいいですよ」と助け舟を出す。
こうして翌日、ジュンはしぶしぶアキの車に乗り込み、サーリセルカへと向かった。

アードルフに頼まれた買い出しを終えた2人は、手分けしてタルヤの聞き込みをするがなかなか彼女の情報は得られず、外は雪が降ってきて吹雪いてきてしまった。「今日はもう帰ろう。遅くなると先生たちが心配するから」というジュンの言葉で、2人はホテル・メッツァぺウラへ帰ったのだった。ホテルではクスタとアードルフが2人を心配して待ってくれていた。吹雪の中、皆で車の中のプレゼントを一旦ホテルに戻す。ジュンはアードルフに「プレゼントをこのホテルに置いておきたいです」と伝えると、アードルフはプレゼントをきちんと保管できる部屋を用意すると約束してくれた。その後じゃれ合うアキとジュンを眺めながら、クスタはアードルフに「作戦成功か?」と尋ねる。アードルフがわざとジュンをサーリセルカに行かせたのは、人からの好意を素直に受け取れるように、そして何かが変わればと思ったからだった。2人は引き続きジュンを静かに見守ることにしたのだった。

クリスマスの思い出

ロビーのツリーの飾り付けをしながら、アードルフはジュンに「日本のクリスマスはどんなふうに過ごすのか?」と聞く。ジュンは日本にいたころクリスマスを祝った経験がなかったため、正直に「クリスマスには良い経験がない」と伝える。そんなジュンのため、クスタとアードルフは皆で楽しめるクリスマスを計画する。
クスタはジュンのため、日本のクリスマスケーキを作ることにした。ケーキを調べているクスタのもとに、娘・ファビーから「クリスマスは休みだからそっちに帰るね」と電話がくる。2人は家族になった初めてのクリスマスの思い出話に花を咲かせていた。
ファビーが養子になったとき、クスタは料理人ではなく消防士だった。クスタが毎日仕事が終わって家に帰るも、ファビーはクスタになかなか懐かなかった。クスタはファビーとなんとか仲良くなるため、休日に一緒にクリスマスケーキを作らないかと彼女を誘う。ケーキを作っている最中、クスタの腕の怪我をそっと心配するファビーに「パパは強いから大丈夫。火事で困っている人を助けるのがパパの仕事だから、パパが負けないように応援してくれ」とファビーを抱っこすると、ファビーは安心して笑顔を見せた。2人で初めて作ったクリスマスケーキは失敗したが、一生忘れられない思い出の味となったのだった。クスタはジュンが喜ぶことを願いながら、クリスマスケーキを完成させた。

一方ジュンは、毎晩悪夢を見て心を苦しめられていた。悪魔の引き金はクリスマスケーキだった。ジュンは昔日本にいたころ悪い友人たちとつるんでおり、友人がクリスマスケーキの販売をぐちゃぐちゃに潰してしまったことがあった。ジュンが友人を止めて慌ててその場から逃げ、問い詰めると「浮かれた顔した奴らを見るとぶち壊したくなる。お前だってさっきそう言っただろ」と友人は悪びれなく笑った。実はクリスマスで浮かれている周りに対してジュンも愚痴をこぼしており、友人はクリスマスを憎むようなジュンも共犯だと言ったのだ。さらにジュンは、実はクスタがクリスマスケーキを作ってくれたことをこっそり覗き見てしまっていた。ジュンが味わう初めてのクリスマスケーキを作り、当日までこっそり隠して準備をするクスタとアードルフの優しい姿を見て、ジュンは昔の自分を恥じ自己嫌悪していた。そして経験したことがないクリスマスのお祝いに、ジュンはどうしたらいいか分からず戸惑っていたのだった。

悪夢を消すかのように一心不乱に雪かきをしているジュンのもとにエンマが現れる。雑談する中でクリスマスの話になり、ジュンは「世話になっている2人に何か用意したいけど、クリスマスプレゼントって何を渡したらいいかわからない」とエンマにこっそり相談する。エンマは「プレゼントはそんな高価なものじゃなくていい。フィンランドのクリスマスは家族で一緒に過ごすのが重要だ」と教え、ジュンをクリスマスマーケットに誘う。
エンマに誘われて向かった町内のクリスマスマーケットは、大きさや派手さはないが、さまざまな屋台が並んで賑わっていた。マーケットを歩いている途中、子供が転んで泣いていたためジュンが母親の店まで送って行くと、いつもホテルに商品を仕入れてくれる顔馴染みの女性・エルッキの店だった。そのまま子守を頼まれたジュンは、エルッキにクリスマスプレゼントの相談をすると「帽子とかマフラーとか、何か手作りしてプレゼントしたら?」と提案される。彼女はお店が終わってからでよければ編み物を教えてくれるという。ジュンは彼女から編み物を教わりプレゼントを手作りすることを決めた。
エルッキに編み物を教えてもらいながら、ジュンは「クリスマスは感謝する日。恋人や友人や家族、そういう人たちを思う時間が大事だ」と教わる。ジュンが家族と聞いて思い出すのは、このフィンランドに来て過ごした2人、クスタとアードルフのことだった。ジュンは昔の嫌な思い出を吹っ切り、2人のクリスマスプレゼントのために編み物を続けたのだった。

一方エンマから「ジュンをクリスマスマーケットに連れて行った」と聞いていた2人は、昔の自分たちのクリスマスを思い出していた。若いころのクリスマス休暇で、皆が家に帰るのを横目に、アードルフはカトラリーを1人で磨いていた。そこへクスタが忘れていた取りにホテルに戻り、1人で仕事をしているアードルフを見つける。クスタはアードルフの仕事を手伝い、アードルフも早く帰れるように協力した。しかし仕事を全て終えてもアードルフは家に帰らずホテルに残るという。アードルフは父親と2人暮らしをしており、関係がうまくいっていなかったため帰りたくなかったのだ。そんな彼にクスタは娘用に作ったジンジャーブレッドケーキを彼にプレゼントし、手土産に持って帰れと説得する。するとアードルフは「ジンジャーブレットケーキは父の好物なのできっと喜びます」とクスタの好意を素直に受け入れ、家に帰ることを決心したのだった。

そんな昔の記憶を思い出しながら、真夜中の暖炉の前でクスタとアードルフはお酒を飲み交わす。実は2人は悪夢に苦しめられ、様子がおかしかったジュンに気付きながらもただ見守っていたのだ。2人は昔、ホテルマンの在り方について話したことをお互いに覚えていた。若い頃2人で仕事について意見しあったとき、アードルフは「話したくないのであれば無理に話をさせたくない。私はこのホテルの支配人や先輩に、“他人の心に無断で立ち入らない、それがホテルマンだ”と教わった」と言い、クスタは「俺たちの仕事はいろんな思いや事情を抱えた凍えた旅人がここで安心して休んで力をつけて、次の目的地に元気に迎えるようにもてなすことだ」と返した。 2人はその気持ちを今も待ち続けていたのだった。アードルフとクスタはジュンが自分の足で進んでいけるようこれからも見守っていくことを決めた。

『ホテル・メッツァぺウラへようこそ』の登場人物・キャラクター

ホテル従業員

ジュン・シノミヤ

ホテル・メッツァペウラの従業員で、新米ホテルマン。17歳の青年。
日本とフィンランドのハーフで、母親がフィンランド人。自身は日本国籍を取得している。
ある冬の日、吹雪の中ホテル・メッツァペウラにたどり着き、そのままホテル従業員になった。仕事を教えてくれるアードルフを「先生」と呼ぶ。
小さい頃親に捨てられ日本の児童養護施設で育つ。中学生の頃に育ての恩師であるヤクザの男性に出会い、恩師に憧れて背面に刺青を入れている。

クスタ

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