伊藤潤二『マニアック』(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『伊藤潤二「マニアック」』とは、伊藤潤二のホラー漫画を原作としたオムニバスアニメで、2023年1月からNetflixで配信された。伊藤潤二の『首吊り気球』、『墓標の町』、『恐怖の重層』、『富江』といった人気の高い短編作品をアニメ化している。櫻井孝宏や朴璐美などの人気声優を起用し、高いクオリティの演技力と作画で伊藤潤二の世界観を表現している。
配信開始前から伊藤潤二ファンを中心に注目され、高い評価を得た。

吉川剛(よしかわ つよし)は妹のかおるを車に乗せて、遠い町に引っ越したかおるの親友・村上泉(むらかみ いずみ)を訪ねていた。すると森の中でよそ見をした瞬間、おさげ髪の少女を轢いてしまった。ピンク色のブレスレットをした少女をふたりがかりで車に乗せ、すぐに病院に連れていこうとするが、かおるは後部座席に横たえた少女の脈が止まっていることに気付く。剛はかおるに指示して少女を後部座席からトランクに移す。
混乱のまま車を走らせた兄妹は、泉の住む町に到着した。そこは道端や道路の真ん中など、いたるところに墓標がたっている奇妙な町だった。その町では人が死ぬと肉体が地面と一体化して硬質化し、墓石のようになるのだった。泉が住んでいる家の中には、前に住んでいた人が亡くなった際の墓標がたつ部屋があった。
その夜、泉の妹が行方不明になったと騒ぎになる。妹はおさげ髪で、ピンクのブレスレットをしているという。兄妹は捜索を手伝う中で、墓標になれなかった人が「ひどいこと」になること、大昔に墓標になれなかった人を投げ込んでいた古い井戸の存在を知る。一方で泉は、剛の車の後部座席に血がついていることに気が付き、妹の失踪に兄妹が関与していることを疑う。兄妹は迷いながらも泉に何も告げずに町を去ることを選択し、車のトランクで墓標になれず岩の塊のようになってしまった妹の死体を井戸に投げ込んで逃げていった。泉は井戸の側にピンクのブレスレットが落ちているのを発見する。
後日、泉の家には遺書と薬の側に、3つの墓標ができているのであった。

恐怖の重層

ある大学教授が、遺跡で奇妙なものを発見した。それは横たわった人のような形をした何十もの地層で、その中心には小さな人骨があった。教授はその人骨を取りつかれたように見つめていた。
それから長い年月が経ち、大学教授の家族は母親と姉妹の3人で暮らしていた。母親は美しい妹を溺愛し、反対に美しくない姉を露骨に邪険に扱った。あるとき姉の運転で移動している最中に姉と母親が言い合いになり、姉が一瞬よそ見をしたために事故を起こしてしまう。母親と姉は軽傷だったが、妹は顔の皮が剥がれる大怪我を負った。
妹が手当を受けた病院で、検査のために撮ったレントゲン写真が奇妙なものを写した。本来あるはずの骨や内臓が写っておらず、妹の体は樹木の年輪のような層でできていたのだ。
帰宅した後、母親は事故を起こした姉をなじり、涙を流して妹を哀れむ。そんな母親の姿に、妹の長年の鬱屈が爆発した。自分をお人形のように支配したがる母親を拒絶したのだ。その夜、母親は寝室で眠っている妹の前に立っていた。医者の話を聞いた母親は、妹の皮を剥いでいけば幼く無力で従順な娘を取り戻せると考えたのだ。姉も母親を止めることができず、妹の皮はどんどん剥がされていった。やがて皮の下から現れたのは、幼児の顔にナナフシのような細長い体が生えたおぞましい生き物だった。
かつて地層と人骨を見つけた大学教授は、取りつかれたようになって死んでしまった。家族は層の呪いから逃れることはできないのだった。

漂着物

ある日海岸に、クジラのような巨大な生き物が漂着した。学者でもその生き物の正体はわからず、砂浜には見物客があふれた。
漂着物を見物にきていた弘原海(わだつみ)は、体調が悪そうにしている女性、美枝(みき)と出会う。彼女は何年も前に婚約者を海難事故で亡くしており、その遺体は未だに見つかっていないのだという。漂着物を調べていた学者が、半透明になっている部分の向こうにたくさんの人影を発見した。切り裂いてみると、真っ白な無数の人間がこぼれ出てきた。それを見ていた美枝は、その中のひとりに駆け寄る。なんと美枝の婚約者だった。
漂着物の中の人間たちは、なんと生きていた。しかし受け答えなどはせず、動物のように呻きながら陸に向かって這っていく。その様子はまるで、大きな生き物に寄生する生物のようだった。

富江・写真

ある学校の写真部に所属している泉沢月子(いずみさわ つきこ)は、女性生徒の依頼で男性生徒の写真を撮り、高額で売りさばいていた。月子はある日、風紀委員に所属する転校生・川上富江(かわかみ とみえ)に目をつけられてしまう。富江はいつも風紀委員の男子生徒を引き連れており、高圧的な態度の美しい少女だった。月子は富江に煽られて彼女の写真を撮っている最中、富江にはめられる形で写真を売っていたことが教師にばれ、停学になってしまう。
怒り心頭の月子が現像した写真を受け取ると、富江の体から異形の怪物のようなものが現れていることに気が付く。それは富江の写真全てに写り込んでいた。月子は腹いせに、その写真を大量に焼き増しして学校中にばらまいた。すると富江は自分に心酔する男性生徒たちを使って、月子を抹殺しようとする。校内を逃げ回る月子は憧れの先輩・山崎に助けられるが、山崎もまた富江の虜になっており、月子の首をしめて殺そうとした。
なんとか山崎を撃退した月子が家で謹慎していると、富江が訪ねてくる。親し気に自慢話をまくしたてる富江に、呆れた月子が写真のことを引き合いに出して「化け物」と罵ると、とつぜん富江の様子がおかしくなった。月子の「化け物」という発言に激昂したかと思うと苦しみだし、その頭から写真に写っていたものと同じような異形の顔が生え始める。富江の悲鳴を聞いた男子生徒たちが月子の家に押し入ってきて、月子は拘束されてしまう。男子生徒たちは富江に言われるがままに斧で異形の顔を切り落とそうと奮闘し、月子の部屋は血まみれになる。やがて男子生徒たちは富江の首ごと切断してしまったが、しばらくすると富江の首から顔のようなものが生えてきて、ふらふらと月子の家を出ていくのだった。

耐えがたい迷路

小夜子(さよこ)は人の視線がどうしても気になって耐えられなくなる症状を抱えており、不登校になってしまった少女だ。友人の法子(のりこ)は小夜子を気晴らしのハイキングに誘い、ふたりで山を歩くことになる。
ふたりは歩いているうちに迷ってしまい、困っていると修行僧のような一団に出会う。彼らは山の中にある大きな寺で修行する人々で、僧侶以外にも多くの人が泊まり込みで座禅や精神統一に励んでいるという。小夜子と法子は僧侶の勧めで寺に泊まり、簡単な修行を体験することになった。
宿泊部屋で同室になったのは倉本文(くらもと ふみ)という少女だった。彼女は兄がこの教団に入ったきり行方不明になってしまい、探すために教団に潜入しているという。
文に付き合う形で小夜子と法子は夜中に寺を抜け出し、僧侶たちから逃げるうちに地下へと広がる奇妙な建物に入り込む。彼女たちがそこで見たものは、立った状態の無数の即身仏が迷路のように並んでいる異様な光景だった。その中で、文は兄の遺体を発見する。泣き崩れる文に「先に行ってほしい」と言われて出口を探し始めた小夜子と法子だが、即身仏の迷路の中で迷ってしまう。小夜子は自分たちを取り囲む即身仏が目を開いてこちらを凝視していることに気付き、悲鳴をあげるのだった。

いじめっ娘

幼い少女・栗子(くりこ)は、気になる男の子を見るために毎日公園に通っていた。ある日、引っ越してきたばかりで遊び相手がいないという年下の少年、直哉(なおや)を紹介される。直哉の母親がくれるお菓子につられて直哉の遊び相手を引き受けた栗子だったが、毎日自分につきまとう直哉のことが徐々に鬱陶しくなっていく。栗子は直哉の耳をひっぱったり、滑り台の上から飛び降りるように命令したりと、直哉をいじめるようになる。水面に顔を押し付けたり、凶暴な番犬のいる庭に直哉を行かせたりと、栗子のいじめはエスカレートしていった。
やがて年齢があがるにつれて公園に行くことが減っていき、栗子と直哉の関係は自然消滅した。それから長い時間が経ち、大人になった栗子は直哉に再会する。直哉は穏やかな美青年に成長していた。いじめのことを後悔していた栗子だが、直哉は気にしていない様子で笑顔を見せる。
栗子は直哉に恋をし、ふたりは結婚した。息子が生まれて数年が経った頃、直哉は帰ってこなくなった。直哉は復讐のために栗子と結婚したのだ。
息子は直哉にそっくりだった。栗子は息子を「なおくん」と頻繁に呼び間違えるようになる。直哉の失踪が決定的になった夜、栗子は子どもの頃のように赤いスカートを履いて、髪をツインテールにし、顔に口紅を塗りたくった姿で息子を公演へと連れ出すのだった。

路地裏

大学生になった青年、石田(いしだ)はある家族の家の下宿することになった。母親と中学生の娘・忍(しのぶ)のふたり暮らしのその家で、石田は忍が使っていたという部屋をあてがわれる。
夜、石田は家の近所で子どもが大騒ぎする声を聴く。声の出所を探ると、家に隣接する路地のようだった。家の隣にコンクリートの壁があり、その向こうで誰かが騒いでいるのだ。石田は注意しようとして窓から身を乗り出し、壁の向こうの路地を覗き込む。そこは、コンクリートの壁で囲まれた出入り口のない空間だった。もちろん人はいない。
石田の部屋の本棚を動かすと、壁に囲まれた路地に面した窓が現れた。石田がロープを使って降りてみると、コンクリートの壁には子どものような3つの影が浮かび上がっていた。
石田が部屋に戻ろうとしたとき、窓から忍が顔を覗かせ、石田を突き落してしまった。その路地は、かつて忍が3人の子供を殺して埋めた場所だった。コンクリートの壁を作ったのは忍の父親だった。路地には毎晩子どもたちが現れては、忍に復讐しようと機会を伺っているのだという。気絶した石田を処理しようと忍が路地へ降りると、なんとロープが切れてしまった。

首のない彫刻

高校生の留美(るみ)は同級生の美術部員、島田(しまだ)が美術教師の岡部と作業しているのを見ていた。岡部は近々個展を開くことになっており、島田はその準備を手伝っていたのだ。岡部の作品は何体もの首のない大きな人形だった。島田に促されて、留美は先に帰宅した。
翌朝、留美の通っている高校で殺人事件が発生した。首のない岡部の死体が発見され、首が行方不明だという。島田は体調不良で学校を休んでいた。
放課後、留美が島田の家を訪ねると、マスクをしたうつろな目の島田が現れた。留美は島田に頼まれて、岡部の死体が発見された校舎へ同行する。岡部は教室で留美とふたりきりになった途端、刃物を持って留美に襲い掛かってきた。留美が必死で抵抗すると、島田の首がぼとりと落ちた。それは島田ではなく、島田の首をのせた人形だった。人形たちは首を求めて留美に襲い掛かる。
校舎の中を逃げ惑う留美は、岡部や同級生の少女たちの首をのせた人形に遭遇する。逃げ場を失った留美に、首を求める人形たちが迫る。

耳擦りする女

資産家のひとり娘、まゆみは奇妙な精神病に悩まされていた。「座る」「立つ」「歩く」といった日常のごく簡単な動作でも、人の指示を受けないと行うことができず、パニックを起こしてしまうのだ。父親はまゆみの介助役として色々な人間を雇ってきたが、まゆみの異常な言動に耐えられずみんな辞めてしまった。あるとき、父親は内田美津(うちだ みつ)という女性を雇った。美津は自信のなさそうな暗い雰囲気の女だったが、叫び散らすまゆみを上手く宥めて的確な指示を出し、落ち着かせることに成功する。美津はまゆみの介助役としてこの上ない人材だった。
父親は美津に感謝していたが、だからこそどんな生活をしている人物なのか確かめようと考え、部下に美津の身辺調査を指示する。結果、美津は安いアパートで暴力的なヒモと暮らしており、まゆみの介助の仕事も金目当てのヒモに指示されて引き受けたことが判明する。それを聞いた父親は、ヒモと引き離せば美津が仕事を辞めてしまうかもしれないと考え、ヒモの件については干渉しないことを決める。この頃になるとまゆみはすっかり明るくなり、普通の少女らしい元気を取り戻していた。しかしそれと反比例するように美津はやつれていき、肌は土気色になり、常にまゆみの耳元に寄り添ってひそひそと指示を出す姿は死人のようだった。
それからしばらくして、アパートで美津の死体が発見された。犯人はヒモ男と思われたが、その行方は知れなかった。
美津がいなくなったにも関わらず、まゆみは元気だった。元気に庭を歩き、咲き誇る花々を愛で、地面に刃物を振り下ろして人を刺す練習をした。ある晩、まゆみは血まみれになって帰宅した。驚愕する父親が「なにがあった」と尋ねると、まゆみは「殺してきたの」「殺せって言うから、美津さんが」と笑顔で答えるのだった。

双一の愛玩動物

双一の姉、さゆりが愛らしい子猫を拾ってきた。一家は子猫をコロンと名付けて可愛がるが、双一はコロンをいじめようとして返り討ちにあい、怒りと恨みを募らせる。
それからコロンの様子が徐々におかしくなっていった。人が近づくと凶暴な顔つきで威嚇し、家じゅうの障子を破り、異常に毛が抜けるようになる。さゆりと広一はまた弟が何かしたのだと考え、双一を問い詰めるが、双一は膝にコロンをのせてご機嫌で白を切る。するとさゆりたちを威嚇していたコロンが雷のようなエネルギーを発し始めた。部屋は青白い光でいっぱいになり、さゆりと広一は逃げだす。ますます喜ぶ双一だったが、エネルギーはどんどん大きくなり、とうとう双一を呑み込んでしまった。
電撃で全身にやけどを負った双一は、町の病院に入院することになった。コロンはすっかり元通りの子猫になっていたが、包帯でぐるぐる巻きにされた双一を凶暴な顔つきで威嚇するのだった。

伊藤潤二『マニアック』の登場人物・キャラクター

怪奇ひきずり兄弟 降霊会

引摺一也(ひきずり かずや)

CV:櫻井孝宏

引摺家の長男。両親亡き後の引摺家で家長として振舞っている。家族には大手の保険会社に勤めていると言い張っているが、実際は日中に公園で時間を潰しているだけ。

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