ハイパーインフレーション(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ハイパーインフレーション』とは、日本の漫画家・住吉九による経済バトル漫画。2020年に集英社の『少年ジャンプ+』にて連載を開始し、2023年に完結した。経済とバトルがかけ合わさった異色の作品。経済の歴史や仕組みが学べる内容になっており、高度な頭脳戦やその合間に挟み込まれるギャグ要素の絶妙なバランスが読者に多く支持されている。
主人公のガブール人の少年・ルークは、ヴィクトニア帝国の奴隷狩りで攫われた姉・ハルを助けるために、精巧な贋札(ハイパーノート)を身体から生み出す能力を使って戦っていく。

『ハイパーインフレーション』の概要

『ハイパーインフレーション』とは、日本の漫画家・住吉九による経済バトル漫画。集英社のWeb漫画アプリ『少年ジャンプ+』の漫画作品である。

「『少年ジャンプ+』超速!連載グランプリ2019」にて、『ハイパーインフレーション』のプロトタイプがゴールドグランプリ(大賞)を獲得。『少年ジャンプ+』での本連載と単行本化の権利を勝ち取った。2020年には、『少年ジャンプ+』で本連載が開始され、2023年3月に堂々完結を迎えている。2021年に「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門で6位を獲得。同年12月、「このマンガがすごい!2022」オトコ編にて11位を獲得した。

経済とバトルがかけ合わせた異色の作品で、経済の歴史や仕組みが学べる内容になっている。高度な頭脳戦はもちろんだが、合間合間に挟み込まれるシュールなギャグや下ネタと心理戦が絶妙なバランスが読者から高い評価を得ている。それらを織りなす個性が強すぎる登場人物・キャラクターも魅力的だ。Twitterでも何度かトレンド入りをしており、2022年3月4日に公開された第34話が、同日公開されたタイザン5の『タコピーの原罪』や松本直也の『怪獣8号』などの話題作と共にトレンド入りを果たして話題になった。

主人公のガブール人の少年・ルークは、姉のハル共々ヴィクトニア帝国の奴隷狩りで捕まってしまった。美しい容姿を持つハルは、ルークよりも一足先に売られてしまい、それによって二人は離れ離れになってしまう。心から慕うハルを救うため、ルークが思い悩んでいると、ガブール人が崇めるガブール神が現れ、ルークに特別な能力を授けてくれた。それは、身体から精巧な贋札(ハイパーノート)を生み出す力だった。生み出せる贋札は、全て通し番号が同じであるという欠点があったが、ルークは持ち前の頭脳でその欠点を補いながら、ハルを助けるために大奴隷商人グレシャムやヴィクトニア帝国秘密情報部レジャットと、裏切り裏切られの経済バトルを繰り広げていく。

『ハイパーインフレーション』のあらすじ・ストーリー

救世主ルーク誕生

ガブール人の少年・ルークは、幼い頃にヴィクトニア帝国の奴隷狩りで両親を失った。肉親は姉のハルだけだ。ルークはガブール人の信仰するガブール神を憎んでいた。どんなに自分達がガブール神に信仰を捧げても、肝心なところでガブール神は助けてくれないからだ。ルークは両親が死んだ時に何もしてくれなかったカブール神など信じず、村に産業を興し、それによってみんなで豊かな暮らしをしようと考えた。そのためにヴィクトニア帝国の言葉・ヴィクト語を覚え、経済を学んだ。しかしそれに反対する人々もいる。ガブール神を象った銅像や銀の仮面、金貨を溶かして贋金を作ったルークは処罰されることとなった。その処罰を下したのは姉であり、村の巫女であるハルだ。ハルはハルなりに村を守ろうとしており、またルークのことも深く愛していた。結局ルークは死罪を免れて、贋金ではなく、本物の金貨の鋳造業務をすることになった。

そんなある日、大奴隷商人グレシャムから武器を買った親帝国派のガブール人達がルーク達の村を攻めてきた。ルーク達は捕まり、奴隷にされてしまう。そこで一際美しい容姿を持ったハルは、ルークから離されてオークションに賭けられることとなった。兵に殴られて意識を失ったルークの前に、ガブール神が現れる。ガブール神は、ルークと同じ年頃の子供に分け隔てなく、ある能力を授けていた。それは子孫を残すための力・生殖能力だった。しかしガブール神は、ルークがそれ以上に欲していることがあると見抜き、その力を与えるためにルークの目の前に現れたという。ルークは問答の末、「ってかさァ!!もう全部全部俺の望むとおりに!!俺は…俺は…カネが欲しいッ!!世界を買えるカネを寄こせッ!!」と叫んだ。ルークはそれによって、身体から精巧な贋札(ハイパーノート)を生み出す力を得た。生み出せる金は、ヴィクトニア帝国の通貨・ベルク札だった。しかしルークが生み出せるベルク札は、贋札発行防止のために振られた通し番号が全て同じという欠陥品だ。ルークはそれに落胆したが、それならばそれなりにと頭を振る回転させ、通し番号が全て同じの贋札を使ってハルを助けるために動き出すのだった。

オークション会場にて

身体からハイパーノートを出せる能力を授かってから5日。親帝国派のガブール人に拘束されたルークは、ハルを助けるために観察を続けた。その時他のガブール人から反乱を起こすことを提案される。ルークは反乱を起こすための策を練り、レジャットというガブール人を始めとする協力者と共に反乱を決行することに決めた。

ハイパーノートで見張りの兵士を買収したルークは、ハルが出品されるというオークション会場に乱入。身体から出した大量のハイパーノートを使って、時間をかけてハルを競り落とすことに成功した。その間にオークション会場の外では、レジャット達が起こした反乱が成功していた。ガブール人の多くが助かったのは良かったが、ルークが買ったハルは、ハルの姿を象って作られた自動人形(オートマタ)だったことがわかった。ハルが殺されてその皮を使って自動人形が作られたと思い込んだルークは絶望する。しかしオークションの主催者であるグレシャムは強欲な男だ。自動人形に使われた皮は別の人間のもので、本物のハルは秘密裏に他の人間に売られたかもしれない。そう考えたルークは、レジャットと共にグレシャムの側近であるフラペコを捕らえて真実を吐かせた。思った通りハルは生きており、既に他の人間に売られてしまっていた。その行き先はヴィクトニア帝国本土。出航したのは4日も前のことだった。

ルークはそのショックと身体から大量のハイパーノートを出した疲れで気を失う。その間にレジャットは、ルークを反乱を成功に導いた救世主として祭り上げた。ガブール人には救世主を信仰する文化があり、レジャットはそれを利用して今後ことを運びやすくするためにガブール人を味方につけたのだ。レジャットは、ヴィクトニア系ガブール人であり、ヴィクトニア帝国政府の秘密情報部に所属している。政府からの密命を受けて、ガブール人の救世主伝説の真相を突き止めにやってきていたのだ。ルークが眠っている間に、レジャットはフラペコを拷問し、ルークに”カネ”にまつわる何らかの能力があることを確信。ルークを研究するために、ヴィクトニア帝国本土へ連れ帰るために動き出した。

船上での戦い

ルークが目を覚ますとそこは帆船の上だった。ルークが寝ている間にレジャットはガブール人の有志を募り、ハルを救出するためにヴィクトニア帝国へ向けて出港したのだ。ルークは乗っているガブール人達に救世主と慕われ、それについて困惑した。たしかに反乱は成功したが、そのためにガブール人同士が戦い、死んだものもいる。ルークはそれを悲しんでいた。レジャットはそんなルークを励まし、ルークの心に取り入ろうとする。

そんな時、船の中で騒ぎが起きた。生まれた時から野生で育った、大柄なガブール人の女性・ダウーが船に乗っていて暴れだしたのだ。もともとオークションの商品として捕らえられていたが、逃げ出して船の食料の箱に紛れていたのだ。野生で育っているため、ダウーには言葉が通じず、その怪力で何人かのガブール人が大怪我をした。ダウーがハルと面識があり、懐いていることに気がついたルークは、ハルの自動人形をダウーに差し出す。ダウーは落ち着きを取り戻し、事なきを得た。

しかしまだまだ不幸は続く。船を動かすために乗り込んだ航海術を持つフラペコが、秘密裏に連絡を取っていたグレシャムがルーク達の船に追いついたのだ。ルークは、自分達が安全に航海を続けるために、グレシャムと商談の場を持つ。一度はグレシャムに言い負かされてしまったが、ルークは「ここにいるみんなが得をする方法がある」とグレシャムに再度提案。儲け話なら誰のどんな話でも聞くグレシャムは、その話に飛びついた。そうして商談は成立。ルークはレジャットが自分の能力について嗅ぎ回っていることに気づいており、レジャットと行動を共にするのは危険だと密かに思っていた。そのためレジャットを裏切り、レジャットを船に残して、グレシャム達と逃亡を謀った。グレシャムは逃亡中に片足を失って行方不明になってしまったが、ルーク達はなんとかレジャットから逃げ切ることに成功したのだった。

贋札合戦の開始

レジャットから無事に逃げることができたルークは、フラペコ達と行動を共にするようになる。旅の中でルークはダウーに言葉を教え、ダウーは次第に人間らしくなっていった。フラペコもルークの姉を助けたいという健気さに心を打たれて、心からルークに協力するようになっていく。ルーク達はハルの行方を追った。その結果、ハルはゼニルストン自治領にいることが判明する。ゼニルストン自治領は、ヴィクトニア帝国の中で自治を認められた地区であり、多くのガブール人を奴隷として働かせている場所だった。そしてガブール人救世主伝説を信じており、人為的に救世主を生み出すために拷問を含めた実験を繰り返していた。ゼニルストン自治領からハルを助け出すために、ルークは自分のハイパーノートを生み出せる能力を使って、ヴィクトニア帝国の通貨・ベルク札の贋札を作って帝国の経済を破綻させる計画を思いつく。そして経済を破綻させたくなければ、ゼニルストン自治領からハルを救い出す手助けをするように要求するのだ。

そうと決まればとルーク達は様々な人材を集め始める。旅の中で出会った金貸しを営むガブール人・クルツの助力で、ルークを救世主としてあがめるガブール人の信者を大量に増やして労働力を確保。紙漉き職人や元画家のビオラなどに協力を仰いだ。ベルク札は、「贋札殺し」と呼ばれるヴィクトニア帝国紙幣局の局長の手でよって作られおり、贋札を作るのは容易ではない。ルークや職人達は徹底的にベルク札を研究し、本物と判別が不可能なハイパーノートを造り出した。それを帝国全土にバラまくためには、各地の反社会勢力などにハイパーノートを売る必要があった。その売買を担うのはグレシャムだ。行方知れずだったグレシャムは、違法な奴隷の密貿易がバレて資産を全部取り上げられて借金地獄。失った足は義足で補いながら、再び業界に返り咲くためにルークに手を貸すのだった。

古城での戦い

ルーク達はクルツが用意した古城でひらすらハイパーノートを作り、目標の製造枚数に到達した。そしてそれをグレシャムの手で販売相手のいる各地へと運ぶ。その裏では、レジャットが部下の二丁拳銃使いコレットと外国の剣士ヨゼンと共にルークの作戦を防ごうと動いていた。レジャットはコレットをスパイにし、ルーク達がハイパーノートを製造している古城を突き止める。そして秘密諜報部の精鋭を連れて、古城に攻め入った。

その頃、古城ではグレシャムがクルツに命を狙われていた。クルツはそもそもガブール人を奴隷にして密貿易してきたグレシャムのことを快く思っておらず、用済みになった後は始末するつもりだったのだ。グレシャムはグレシャムでルークの力を独占しようとしていたため、クルツと戦闘になる。そこへレジャット達も乱入したため、古城での戦闘は激化した。レジャットの目的は、ルークの確保、及び、ルークが出せる贋札の通し番号を知ること。ルーク達が製造した贋札は全て通し番号が同じであるため、番号さえわかれば贋札がばらまかれても対処ができる。グレシャムの目的もルークの確保。レジャットとグレシャムは互いの利害が一致していることに気づき、すぐさま手を組んだ。レジャットとグレシャムに追い詰められルークは逃げる。クルツはルークを逃がす時間を稼ぐためにレジャットと戦い、激戦の末に死亡した。

ルークを追い詰めた場面で、レジャットはグレシャムを裏切り、グレシャムはレジャットを裏切った。またまた三つ巴に戻り、戦場は激化する。グレシャムはコレット達と戦いながら、ルークの元へ向かった。ルークはグレシャムの裏切りを罵倒しながらも、再び手を組み、レジャットから逃げ出す方法を話し合う。しかし、古城での戦いを制したのはレジャットだった。レジャットはルークの出すハイパーノートの通し番号を確保し、古城を脱出。ルーク達は作った贋札を全て焼却するハメになった。

ゼニルストン自治領にて

万策尽きたと消沈するルークは、フラペコやグレシャム、共に戦ってきたビオラ達職人やガブール人信者の励ましで再び奮起する。

ルークは新たにハイパーノートの製造をすることに決めた。それも前回は断念した、通し番号が全てことなる贋札を、だ。前回は一枚一枚の番号を変えると膨大な時間がかかるために諦めたのだ。しかし今回は、前回よりも大勢の労働力を確保して、番号が全て違うハイパーノートを作ることにした。その名も真・ハイパーノート。大勢の労働力とは、ゼニルストン自治領にいるガブール人奴隷だ。ルーク達はゼニルストン自治領へと赴き、自治領を管理している委員会と商談の場を持つ。委員会を実質取り仕切っているイェルゴーは、ルークの策を飲んだ。しかし、ガブール人のことを徹底的に見下しているイェルゴーは、ルークとの約束を守る気なんてなかった。

しかしそれはルークにもわかっていることだ。ルークは、イェルゴーに話した内容とは別の真の策を用意していた。ルークは完璧な贋札を作って、ヴィクトニア帝国へ商談へ行く。そこにはレジャットが待ち構えていた。ルークはレジャットと贋札を巡って、頭脳戦を繰り広げる。そしてルークは勝利した。ヴィクトニア帝国は、ルークの要求を飲み、植民地にしていたガブール人の土地をルークに譲渡し、ガブール人の国を建設することを認める。そしてゼニルストン自治領については、贋札を作って帝国を脅かした罪として自治権を剥奪することを決めた。ルークはレジャット、グレシャムと共に兵を率いてゼニルストン自治領に進軍。イェルゴーなどを逮捕し、ハルを始めとするゼニルストン自治領の奴隷の解放に成功するのだった。

それぞれの道へ

ヴィクトニア帝国が統治していたカブール人が多く住む植民地は、約束通りルークに譲渡された。そしてそこにルークはカブール人の国家を建設する。ゼニルストン自治領で働いていたカブール人奴隷は解放され、その多くが新国家への移住を希望した。移住当初は移住民と先住民との間で争いが起こるのではないかと懸念されてが、ハルが両者の間を取り持つことで平和的に移住が完了する。ルークは新国家建国に関する様々な手続きを終えて、ダウーと共に、一足先にハルが帰っている故郷の村へと帰還する。互いに忙しい日々を送っていたため、ハルとルークはまだきちんと再会ができずにいた。しかしルークはハルに会うのに緊張し、戸惑っていた。ゼニルストン自治領の奴隷をまとめあげるほどのカリスマ性があるハルなら、もしかしたら自分が何もしなくても様々な問題を解決できたのではないかと不安になったからだ。それに危険な旅をしたことを怒られるかもしれない。ルークはダウーに背中を押されて意を決してハルの前に出る。ハルはルークの肩に手を置いて、ブルブルと震えて泣き出した。「怖かったよぅ~~ さみしかったよぅ~~ ルーク~~~!!」とハルは涙を流しながらルークに抱きついた。初めてハルが人らしく感情を顕にした瞬間だった。

ハルときちんと再会を果たしたルークは、新国家の紙幣の作成に職人達と取り掛かる。フラペコはグレシャムの元を離れ、独立するために旅立った。グレシャムはその時フラペコに裏切られ、金を持ち逃げされたため、またルークに金儲けの相談を持ちかける。レジャットは、世界のどこかにいる救世主の力を持つカブール人を探すために、秘密情報部の人間と共に立ち上がった。死んだクルツの遺志は娘に引き継がれ、クルツの娘はヴィクトニア帝国でのカブール人の地位向上のために尽力する。

それぞれがそれぞれの道を歩き始めたのだった。

『ハイパーインフレーション』の登場人物・キャラクター

主要人物

ルーク

『ハイパーインフレーション』の主人公の少年。物語開始時点では12歳。ガブール人。幼い頃に奴隷狩りで両親を失った。そのことからガブール神を恨んでいる。独学で経済や言語を学び、大人顔負けの交渉術や駆け引きを披露する。両親が死んでから唯一の肉親となった姉のハルを心から慕っている重度のシスコン。ハルが奴隷として売られてしまったので強く助けたいと願ったところ、ガブール神から「身体から精巧な贋札(ハイパーノート)を生み出す力」を与えられた。ハイパーノートを生み出す副作用として、ハイパーノートを出している最中は知能が著しく低下する。しかし逆にハイパーノートを出し切ると頭が冴えわたり、次々と新しい策を考えつく。

レジャット

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