加瀬さんシリーズ(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『加瀬さんシリーズ』とは、高嶋ひろみによる百合漫画作品。コミックアンソロジー『ひらり、』(新書館)から読み切りで始まり、その後は『ウィングス』(新書館)にて連載。2018年にシリーズを原作とするOVA『あさがおと加瀬さん。』が劇場公開された。
高校2年生で内気な緑化委員・山田結衣が憧れているのは、同じ学年の陸上部・加瀬友香。人気者で男子よりカッコイイ女子と言われる加瀬。仲良くなるうちに山田は加瀬に惹かれていく。内気×人気者の性格が正反対の2人による青春ラブストーリーである。

『加瀬さんシリーズ』の概要

『加瀬さんシリーズ』とは高嶋ひろみによる漫画で、コミックアンソロジー『ひらり、』(新書館)Vol.2に読み切りで『あさがおと加瀬さん。』が掲載された。その後Vol.4からシリーズ化。Vol.14で休刊したが、『ウェブマガジンウィングス』(新書館)を経て『ウィングス』(新書館)で連載を開始。高校生編はコミックのタイトルと、各話のサブタイトルが「○○と加瀬さん。」で統一されており、大学生編の「山田と加瀬さん。」からはサブタイトルだけ「○○と加瀬さん。」表記となっている。『加瀬さんシリーズ』を連載していた『ひらり、』では女の子同士の恋愛を描いた「ピュア百合」をテーマとしている。「ピュア百合」について作者・高嶋ひろみは、学生時代の「好きでたまらない」「歯止めがきかない」感じがピュア百合だ、という考えで『加瀬さんシリーズ』ではそれを表現しようとしていると語っていた。
西高校2年の山田結衣(やまだ ゆい)は内気な性格の緑化委員で、毎日校内の草むしりをしていた。草むしりをする山田を遠くから見つめるのは、同学年で隣のクラスの人気者・加瀬友香(かせ ともか)。性格が正反対の2人だが、友人として交流していくうちに山田は加瀬に惹かれていく。初めて好きになった人が女の人で少し戸惑う山田だったが、気持ちは止められず「加瀬さんと付き合いたい」と思うようになる。一方加瀬は、仲良くなる前から山田のことを知り好意を寄せていた。両想いに気づかない2人だったが、校内で行われたマラソン大会の日に加瀬が山田に告白をして交際がスタートする。

『加瀬さんシリーズ』のあらすじ・ストーリー

男子よりカッコイイ女の子

夏休みに入る少し前、高校2年生の山田結衣は緑化委員の仕事で学校にある「あさがお」に水やりをしていた。山田はじょうろに水を入れあさがおの前に戻ってくると、隣のクラスの加瀬友香が立っていた。「水やりに来たのか?山田」と急に話しかけられて戸惑ってしまう山田。なぜなら彼女は陸上部のエースであり、美人で「男子よりカッコイイ女子」と言われる校内の人気者だったからだ。加瀬はバケツであさがおの水やりをしていて、山田が女の子らしい一面があるんだなと思った束の間、急に水道の蛇口に頭を入れ豪快に水浴びを始めた。その光景に驚く山田だったが、気持ちよさそうに笑顔を向ける加瀬を見て思わず胸を高鳴らせてしまう。これを機に山田は加瀬のことを意識し始めるのであった。その後山田は加瀬と交際することを願いつつ、「女の子同士」であることを気にして何もできずにいた。しかしあさがおの一件以来、加瀬が話しかけてくることが増え、「山田に会いたいから」と夏休み中も水やりに来てくれないかと言われ感動で思わず涙する山田。そうして山田と加瀬は、放課後一緒に帰る友達になったのだった。

加瀬さんの噂と、すれ違う気持ち

放課後一緒に帰るようになった山田と加瀬。山田はバス通学で、加瀬は自転車通学なので一緒に帰れるのはバス停までなのだが、山田はこの時間が一番好きだった。加瀬と別れてバスに乗る山田は、加瀬が自分のことを好きになってくれればいいのにと、加瀬への気持ちが抑えきれなくなっていく。ある日山田のクラスメイトで親友の三河(みかわ)と昼食をとっているとき「加瀬さんと仲良い?」と聞かれ焦る山田。そんな山田に対し三河は「気を付けたほうがいいよ」と言った。なぜなら加瀬は「女子と付き合う人」という噂があるというのである。実は陸上部内に彼女がいると噂になっているらしく、山田はこっそりと陸上部の練習を覗き見しに行った。残念ながら彼女らしき人は見つけられなかったが、加瀬が誰かを自転車の後ろに乗せているかもと考えると憂鬱になり、加瀬を避けるようになってしまう。山田に避けられていると気づいた加瀬は、理由を聞くため山田を問い詰めると「自分も自転車の後ろに乗せてくれ」という。予想外の回答に驚く加瀬だったが、山田を自転車の後ろに乗せて仲直りすることができたのだった。

加瀬さんと友達から恋人へ

校内のマラソン大会を控えたある日、山田は加瀬からマラソン大会用にシューズを買いに行こうと誘われた。初めて学校以外の場所で加瀬と会うことに喜ぶ山田。お出かけ当日、気合を入れすぎて前髪を切りすぎてしまった山田。落ち込む山田の元へやってきた私服姿の加瀬を見て、思わずドキッとしてしまう。同じく加瀬も、制服とは違う山田を見て緊張しているようだった。加瀬の行きつけの靴屋でシューズを購入し、すぐに履いてみることにした山田。加瀬に靴ひもを締めてもらっていると、距離が近いことにドキドキしてしまう。すると加瀬から、マラソン大会まで一緒に練習しないかと誘われる。休日にまた会いたいと思っていた山田は、加瀬と一緒に練習することを決めるのだった。
マラソン大会当日、加瀬との猛特訓の成果を出すべくやる気に満ちた山田。昨年は完走できなかったため、今年は完走を目標にしている。そして加瀬から、「全校で一位取れたらお願いを聞いてほしいと」頼まれていた。内容は恥ずかしいからあとで伝えると言われ、「恥ずかしいお願い」なのかと緊張する山田。マラソン大会がスタートした直後、山田はコース途中に作った花壇が踏み荒らされているのを目撃する。思わず荒れた花壇に駆け寄る山田。だが背後から男子の団体が走ってきて巻き込まれてしまう。男子に巻き込まれ怪我をし鼻血を出してしまった山田は、三河に連れられ保健室で休むことになってしまう。今年も完走できなかったと落ち込む山田は、保健室の窓からトップが帰ってくるところを見た。しかしトップを走っていたのは加瀬ではなく、別の陸上部の男子でがっかりする山田。その時、男子の少し後ろを走る加瀬が目に入る。思わず窓を開け加瀬に「がんばって!」と叫ぶ山田。傷だらけの山田を見て驚いた加瀬は、急加速して男子たちを抜き一位でゴールするのであった。加瀬の急加速に感動した山田は、自分も完走するために戻ろうと決意する。しかし山田より先に保健室へ加瀬が駆け込んできたのだった。何があったのかと息を切らして聞く加瀬に対し、状況を説明すると、「学校行事ごときに全力出しちゃったじゃん…」と崩れ落ちる加瀬。山田は加瀬に「一位おめでとう加瀬さん」と声をかける。その言葉を聞き「やだ!」という加瀬。実は加瀬のお願いはおめでとうと山田に拍手してもらうことだったのだ。お願いの内容に拍子抜けした山田は、「もっとすごいお願いかと思った」という。ふと我に返り思わず漏れた言葉に動揺する山田。そんな山田の手を取り加瀬はキスをしてしまう。加瀬はお願いを変えたいと言い「つきあって」と山田に告白をした。茫然として言葉が出ない山田を見て、だめならごめんと謝る加瀬。戸惑う加瀬に対し山田は、「わたしもずっと、そういうの思ってました」と気持ちを伝え、二人は交際をスタートさせる。

加瀬さんと同じクラス

高校3年生になった山田は、加瀬と三河と同じクラスになる。山田は加瀬のためにお弁当を作って渡そうと決意する。しかし、人気者の加瀬の周りにはいつも人がいて渡すタイミングがなく、話も出来ないまま昼休みを迎えてしまう。結局昼休みも加瀬とすれ違い、山田は三河と共に二人分のお弁当を広げた。落ち込む山田とお弁当を見て、三河は山田と加瀬が付き合っていることに気づく。だが祝福はしてくれたものの、三河に「本当に山田なの?」と交際を疑われてしまう。それは加瀬の彼女が、美人の運動部の子が多いという噂があったからだった。三河の言葉に、山田はさらに落ち込んでしまう。
噂を聞き涙ぐみながら流しで片付けをする山田の元へ、加瀬がやってきた。残っている山田の弁当をつまむと、それが自分のために作られたものだと聞く。山田とお弁当を食べるため、加瀬は屋上に山田を連れてきてくれた。本来立ち入ることはできないが、陸上部のエースの特権を使い、休み時間に一人で練習したいからと教師にお願いして鍵を作ってもらったという。加瀬のことを何も知らないと落ち込む山田を見て、加瀬は「私のほうは山田のことをいろいろ知ってるよ」と山田の手を引きフェンスまで連れ出す。そこから見えるのは、山田がいつも草むしりをしている植え込みだった。加瀬は屋上から山田が草むしりをしているところをずっと見ていたのだ。驚く山田に加瀬は、「ずっと前から大好きなの」とキスをする。自分の知らないところで加瀬が見ていてくれたことを知り、山田の抱えていた不安はなくなったのだった。

加瀬さんの受験と、山田の決断

高校3年の夏、インターハイを一位で終えた加瀬には、東京にある大学の推薦の話しが来ていた。加瀬が上京してしまうかもしれないと悩む山田。応援したい気持ちと寂しさで悩む山田は、加瀬とうまく話すことができなかった。その様子を見て加瀬も不安になり、コーチに地元の大学に進学したいと話すと、職員会議になってしまったという。話を聞き、寂しさを抑え受験を頑張るように応援する山田。遠距離になっても毎日電話するという山田の言葉を聞き、加瀬は受験のために東京へ行く決意を固める。推薦受験の前日、加瀬は新幹線に乗る前に、校庭で水やりをする山田に会いに来てくれた。「頑張ってくる」と言う加瀬を複雑な気持ちで見送る山田。去り際に加瀬は「どうして地元の文学部なの?」と山田に問う。突然の問いに山田は答えることができなかった。また夜に、とそのまま加瀬は出発してしまう。加瀬のいない学校は静かで、がらんとしていた。何かを決意した山田は、急いで加瀬の後を追い駅へ向かう。新幹線の前でコーチと最終確認をする加瀬。出発直前、加瀬は遠くから走ってくる山田の姿を見つけた。山田は「やっぱりわたしも東京の大学に行く!」と新幹線に飛び乗ってきたのだ。入り口で支えきれず電車内へ転がり込む山田と加瀬。加瀬がいないと地元にいても仕方ないと泣きじゃくる山田に、状況が理解できず加瀬は固まってしまう。勢いで飛び乗ってきた山田が握っていたのは、乗車券ではなく入場券だった。
その後、山田はずっとやりたかった園芸を学ぶため、東京の園芸科がある大学の受験を決める。一足早く推薦合格をもらった加瀬の後を追うため、山田は日々受験勉強に励むのであった。
そして受験当日、初めての東京と大学受験に不安を隠しきれない山田の元へ、加瀬が会いに来てくれた。すでに大学の練習に参加している加瀬は、山田を心配して会いに来てくれたのだ。緊張で手袋を忘れてしまった山田に、片方自分の手袋を渡し「負けないで」と激励した。加瀬に励まされ「負ける気がしない」と受験に向かう山田は、後日合格の通知をもらい晴れて上京を決めたのだった。

大学生活編『山田と加瀬さん。』

無事に東京の大学へ進学することを決めた山田と加瀬。そして三河も東京の専門学校へ入学することになった。山田は大好きな園芸に関われることが嬉しく、楽しい毎日を過ごしていた。ある日行われた実習の日、面倒臭そうな雰囲気の生徒が多い中、真面目にメモを取る人を見つけて思わず声をかける山田。彼女の名前は吉村華(よしむら はな)。花農家の娘で後継ぎというサラブレッドだという。偶然にも実習でペアを組むことになった二人。似た雰囲気を持つ二人はすぐに打ち解け、友達になる。
後日山田は、華から遊びに誘われるのだが、行先は「街パーティー」という名の合コンだった。良くないと思いつつ誘いを断り切れない山田は、加瀬に電話で説明をし参加することを話すが、拒否されてしまった。自分から話しかけて友達を作ったのが初めてだという山田は、頑張ってみたいと加瀬に訴えるが、加瀬は首を縦に振らなかった。電話の途中、加瀬が住む大学寮のルームメイトである深見香織(ふかみ かおり)が戻ってきてしまう。思いがけずルームメイトの声を聞いた山田は、モヤモヤとした気持ちを抱える。それに気付かない加瀬は、合コンの日に合宿の予定があると告げる。山田は聞かされていない加瀬の予定をこの場で話されたことで、嫌な気持ちが抑えきれなくなっていた。勢いで「街パーティー」へ参加すると言い電話を切ってしまった。そして連絡を取らないまま合コン当日を迎えてしまう。加瀬を気にしつつも、山田は初めて自分から作れた友達との時間を楽しもうと決めた。
合コン開始の時間、男性陣の気迫に押され、華とも席を離されてしまった。緊張で固まる山田に声をかけたのは、いつものジャージではなくスーツを着た加瀬だった。突然のことに状況が呑み込めず戸惑う山田。山田に声をかける男性たちを牽制しながら慣れたように加瀬はドリンクの注文を入れる。だが隠しきれない機嫌の悪さを感じ、山田は何も言えずにいた。加瀬の注文した「ジンジャーエール」をお酒だと勘違いして思わず止める山田に、周囲の男性陣は可愛いと盛り上がってしまう。その様子に怒った加瀬は、山田を連れ出そうと席を立つが、華がいるからと山田に言われトイレに駆け込んだ。嫌なことを我慢してまで友達が欲しいのかと心配する加瀬を見て、山田は加瀬のルームメイトにヤキモチを妬いていたことを打ち明ける。全く気付いていなかった加瀬は驚いてしまうが、加瀬は山田の怒っていた理由を知り安堵するのだった。そこに華がやってきて、怒った様子でもう帰ろうと言いはじめた。参加者に未成年で飲酒している人がいるらしく、許せないというのだ。まだ寮のご飯に間に合うから、と帰ってしまう華。マイペースで慌ただしい彼女を見て、いい子だねと笑う加瀬に安心する山田だった。帰宅途中、山田は加瀬に「これからは嫌なことは嫌っていうよ」と告げる。すれ違いながらもお互いの気持ちを伝える大切さを知った二人は、さらに絆を深めていくのだった。

『加瀬さんシリーズ』の登場人物・キャラクター

山田結衣(やまだ ゆい)

CV:高橋未奈美

西高校に通う女子高生。部活には入っておらず、緑化委員として活動している。夏休みなどの長期休暇中も学校へ来て植物の世話をしたり、放課後や休み時間も草むしりをするくらい園芸が好き。本人曰く「草むしりは趣味」らしい。内気な性格で、自他共に「どんくさい」と言われている。高校卒業後は地元の大学へ進学するつもりだったが、好きなことをしに上京を決めた加瀬を見て、自身も大好きな園芸を学ぶため東京の花仙(かせん)女子大学へ進学することを決めた。加瀬の周りにいる女子に嫉妬することが多く、気持ちを抑え込んでしまうこともある。感情に合わせ頭から双葉や花が生える描写があり、悲しい時はしおれたり、嬉しい時は花が咲いたりと心情を表している。

加瀬友香(かせ ともか)

CV:佐倉綾音

西高校に通う女子高生。陸上部のエースで、学校の人気者。美人で男子よりカッコイイ女子と言われていて、少々ガサツな性格をしている。束縛心が強く、山田が男子と関わるのを嫌い、男子が好みそうな服装をするのも嫌がる。その割に自分はあまり気にせず人と接するため、度々山田に妬かれているが本人は気づいていない。高校卒業後は陸上の推薦で東京の大学へ進学を決めた。走るのが好きで陸上を続けているが妬まれることも多く、人間関係に悩んでいるときに山田と出会う。誰かに評価されるためではなく、自分が楽しいから草むしりをしているのだと教師に語る山田を見て、悩んでいた加瀬の気持ちが晴れたのだった。このことがきっかけで山田のことを意識するようになる。

三河(みかわ)

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