不浄を拭うひと(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『不浄を拭うひと』とは沖田×華による漫画作品。『本当にあった笑える話Pinky』にて連載が始まった 。ストーリーは特殊清掃員を生業にしている山田正人が依頼を受けて孤独死をした人の部屋や、ゴミ屋敷の清掃を通じて人の生死や生活について考えるものとなっている。特殊清掃員という仕事上、人の死や人生について深く触れている内容になっているため、死後にどのような清掃がおこなわれるのか、残された遺族たちの言動などリアリティに溢れる内容が魅力となっている。

正人の前の職場の先輩だった男性。正人に特殊清掃の仕事を教えていた。孤独死した人の気持ちを考えて複雑な心境に陥っている正人を励ました。正人が開発した独自の清掃グッズの情報を売ってほしくて食事に誘うなど強かな性格をしている。

『不浄を拭うひと』の用語

特殊清掃

特殊清掃とは主に事故、事件、自殺などで出た遺体の痕跡を清掃する仕事である。長期間放置されたために液状化してしまった遺体の清掃、遺体に湧いた虫の駆除、悪臭の除去など汚損された家を原状復帰させる。また、ゴミ屋敷などの通常の清掃では手に負えない清掃も請け負っている。遺体は警察が回収するため遺体の破片に触れることはあっても遺体本体に直接触れることは少ない。清掃の内容が特殊なので専門知識が必要とされる場合が多いため、臭気判定士、医療環境管理士、防除作業監督者、1級葬祭ディレクターを資格として有しているか、同等の知識を要求される。

山田の務める特殊清掃会社では汚損された箇所の清掃とゴミ屋敷の清掃を請け負っている。従業員の携帯に依頼主から直接電話を貰って見積もりを行い、依頼主が納得したら契約成立となっている。

遺品整理業者と混同されてしまうことが多いが、まったくの別物である。

ゴミ屋敷

ゴミ屋敷とは住居内、もしくは敷地内に大量のゴミが積まれた状態を指す。ゴミは住居者が出すものと外から拾ってくるものとがある。生活スペースを圧迫するほどゴミをため込むことが多く、悪臭、虫、ネズミなどが繁殖するため住民トラブルに発展しやすいなど問題がある。また、ボヤ、放火などの危険性もはらんでいるため社会問題となっている。さらに、住居者がため込んだゴミに押しつぶされて亡くなってしまう事故も発生することがある。住居者がゴミをため込む理由として単にだらしがないということもあるが、精神病に罹患していることが多いと言われている。

大量のゴミが玄関まで溜まっていることが多く、出入りは困難を極める。しかし、住居者が普段いるスペースはアリジゴクのようにくぼんでいることが多い。作中でも正人は「アリジゴク」と呼んで、そこを起点に清掃をしている。

小便爆弾

小便爆弾とは、ゴミ屋敷などに置かれている尿が入ったペットボトル、またはなんらかの容器のことを指す言葉で、正人が名付けた。ゴミ屋敷の住人はトイレも衛生管理ができておらず、そこで用を足せなくなってしまったために手近なペットボトルに尿を溜めることがある。また、精神疾患、認知症などの病気が原因で排泄を適切におこなえなくなるため爆弾が生成されることもある。ゴミのなかに埋もれているのが見えないために、不用意に踏むと破裂してしまう恐れがある。破裂してしまうと汚染の拡大、感染症に罹患する可能性があるため正人は細心の注意を払っている。

『不浄を拭うひと』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

正人「人は生きている限りやり直すことができるから…」

両親が自殺した男性からの依頼を受けて、男性の家庭環境について聞いた正人は男性に対して「人は生きている限りやり直すことができるから…」と思った。

依頼人の男性の両親、特に母親は長らく精神を患っていて、男性が小さい頃から学校や友達にヒステリーを起こしていたりと問題行動が多かった。男性が就職しても母親が職場にやって来てヒステリーを起こしたり、彼女ができても口を出されて別れる羽目になったりと、男性は長く母親の存在に苦しめられていた。そしてある時、母親が男性にいつも通り電話で「死ぬ死ぬ」とヒステリーを起こしたため、男性が「死にたいなら死んでくれ」と怒ると、母親は一言謝って電話が切れてしまう。次の日に久しぶりに実家に帰宅すると両親は自殺していた。血の繋がった両親であれど、長らく苦しめられてきたことから男性は死んでしまった哀しみよりも「やっと終わった」と思ったと、正人が清掃する中で誰に聞かせるでもなくひとり言のように語った。男性の親が死んでよかったなどと誰にも言えない気持ちを汲んだ正人はただ相槌を打った。

実家を見つめる男性の背中を見ながら、幼い頃から母親に支配されてきた男性が新しい人間となり自分自身の人生を取り戻してほしいと正人は願った。

家族関係に悩む人は少なくない。親や子を疎ましく思う気持ちを友人知人に相談できたとしても、疎ましく感じていた家族が死んでホッとしたという気持を明かせる人はなかなかいない。それでも、誰かに気持ちを話したかった男性の複雑な心境を物語るシーンとなっている。

先輩「だって孤独死する人はみんな、自分が孤独死するなんてこれっぽっちも思っていないんだから」

布団の上で孤独死していた女性の部屋の清掃に入った際に、正人が故人が気の毒であると気に病んでいると先輩が「だって孤独死する人はみんな、自分が孤独死するなんてこれっぽちも思っていないんだから」と言った。

普段生活をしているうえで死を意識している人は少ない。さらに自分自身が孤独死すると考えることなどうそうない。実際に孤独死をした人たちもまさか自分が孤独死をするなどとは考えていない。しかし、孤独死とは誰にでもやってくるものである。正人が遭遇した布団で孤独死した女性も、キッチンのシンクには軽く洗ってあった食器が置いてあった。これは、具合が悪くなってしまったからあとで洗おうと考えていたためであると思われ、その後死んでしまうとは本人も思っていなかっただろうと先輩は語った。実際、孤独死をする人たちの部屋は、死ぬ直前まで明日を考えて生きていたことを思わせる生活ぶりが家に残されている。

最期には見るに堪えない姿になっていようとも周囲の人間が思っているほど亡くなった人たちは悲惨な生活をしていたわけではないだろうし、どんな死に方であれ「人として一つの命をまっとうした」と思わないかと先輩は正人に語った。特殊清掃という職業柄、報われない人たちの死を見てきた正人の気持ちを救った言葉であった。

いつ、どのようにして死ぬかなど誰にも予想ができないことであり、必ず明日がくると思い込んで人は生きている。しかし、死は等しく誰にも訪れ、またそれが突然である。その死が病気や事故、自殺であっても、その人の人生そのものを悲観して憐れむ必要はないことを知らせてくれるセリフとなっている。

正希「死にたきゃひとりでいけばいいのに…こんなの…ひどすぎるよ…」

正人の仕事を手伝いに来た正希が家主の自殺に巻き込まれた犬たちの遺体を見たときに「死にたきゃひとりでいけばいいのに…こんなの…ひどすぎるよ…」と言った。

正希は急遽無職になってしまったため、特殊清掃のバイトとして正人の手伝いに入ることになる。家主が自殺した家の清掃へと2人は赴いた。そして、依頼してきた家主の姉から家主が飼っていた犬がいるはずだから保護してほしいとも頼まれたため、犬たちを探していた。家主の自室に犬たちは犬用ベッドに寝ているのを発見したが、犬たちはすでにこと切れていた。犬たちの死因に餓死を疑う正希に、正人は犬たちの毛並みがきれいであることから家主による心中であろうと推測して話す。正人の推測に正希は心を痛めて、自殺に犬たちを巻き込むなと怒りを滲ませていた。家主は病気を患っており生活に不安を抱えての末の自殺であり、犬たちはみな高齢であったことから引き取り手が見つからないだろうと考えての無理心中であったのだ。

その後、犬の遺体を専門業者に引き渡すために動かそうとすると、犬の遺体の内部で腐敗が進行していたため腹部の皮が脆くなっており指で突き破ってしまった。結果、内部で湧いていたウジが大量にあふれ出してきたためパニックに陥った正希は逃げ出してしまった。このことがきっかけで正希は特殊清掃員の仕事を諦めて、他の職に就いた。

どのような理由で自殺を選んだとしても、たとえ動物であろうと他者を巻き添えにすることはさらなる悲しみを生むだけであると思わせるシーンとなっている。

『不浄を拭うひと』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

作中に出てくる虫の正体

ハラジロカツオブシムシの幼虫と思われる虫

『不浄を拭うひと』18話「虫のいる部屋」に登場する虫の正体について、作者である沖田×華自身も把握しておらず、おそらく清掃員も名前を知らない可能性がある。

しかし、ゲジゲジに似た姿で石膏ボードに穴を空けるほどの顎の力を持ち、殺虫剤が効かない虫はハラジロカツオブシムシの幼虫、他の虫を捕食している虫は閻魔虫の類であると考えられる。

ハラジロカツオブシムシは主にかつおぶし、煮干、乾魚などに湧く虫で、さらに動物の死体、骨などにも湧いている姿が見られる。木材をかじるため家屋の壁に入りこむこともある。また、石膏ボードをかじり壁内に潜んでいたという話もある。成虫は丸っこい姿をしているが、幼虫はゲジゲジに似た姿をしている。また、沖田×華のイラストにも似ているためハラジロカツオブシムシである可能性が高い。閻魔虫はずんぐりとした丸い形をした虫で、死体や糞便に湧くため「閻魔」の名前が付いた。死体や糞便に湧くが、実際に食べるのは死体や糞便に湧くウジ虫である。作中で出てくる虫は黒エンマと思われる。

汚い物を書くときの作者のこだわり

本作は特殊清掃員が主人公ということもあり、遺体、血液、虫、汚物など生理的悪寒を感じるものが多数出てくるが、沖田は「汚いものをどれだけ汚くなく描くか」が大変だとインタビューで語っている。そのため、遺体の腐敗度合いなどのグロテスクな描写はぼかして描かれていたりする。また、虫なども生理的嫌悪を煽るため人間の子供に置き換えたり、ゴキブリをホストの男性に置き換えたりなどの工夫がされている。

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