『親なるもの 断崖』を徹底紹介!教科書に載らない暗い歴史【超大作】

曽根富美子の『親なるもの 断崖』は、昭和初期の北海道に実在した幕西遊郭を舞台にした物語。思わず目をそらしたくなるような生々しい描写が特徴的なヘビーで残酷な作品ですが、史実を元にした物語は一見の価値があります。
ネット広告などで紹介され、じわりじわりと知名度を増している『親なるもの 断崖』について紹介します。

江戸時代ではないが、昭和初期の遊女は1日平均して5人以上の客を取っていた模様。大正時代、娼妓として売られた森光子の『光明に芽ぐむ日』によると、1日12人を相手にすることもあったそう。
生理中も見世側が許す休みは2日程度であり、それ以上休みたければ馴染みの客や間夫(恋人)に来てもらうか、「身上がり」といって自分で自分の玉代(花代)を支払わなければならなかった。借金が増えることを恐れて2日の休みも取らずに働く妓は多く、その分体を壊すことになった。
女郎のほとんどが、淋病・梅毒などのあらゆる性病(花柳病と婉曲に表現)に感染していたことも知られている。
足抜き(逃亡)を企てれば折檻による死が待つのみ、誰が親かも判らない子を妊娠したら強制的に堕胎させられ、体を売っての稼ぎもピンハネされていつまで経っても借金を返済できない。何人もの男に抱かれても化粧品代、着物代などで けして消える事のない借金。結婚を機に遊郭を脱したとはいえ、生きにくいのは想像に容易いが、想像以上に酷いものだった。子供の道生の成長にもずっと付きまとうのだ。

漫画「仁-JIN-」でも梅毒に感染した遊女が登場します。ここの舞台は江戸時代の吉原遊廓。

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身請けされ、遊郭を出てもひどく差別を受け、梅の子どもも「女郎の子」といじめられた。
結婚しても決して幸せというわけでもなかったが、作品の2部では梅の母としての姿が描かれている。

史実に基づいたリアルな描写が話題に

出典: ameblo.jp

そんな梅を愛する男が現れる。

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こんなに正義心の強い彼が、昭和初期の日本では「非国民」扱い…。

資本主義社会の底辺でひもじい思いをした民衆、また歴史の中でもあまり語られる事のない労働者や遊郭の女郎達のリアルな生き様、葛藤がリアルに描写され、話題となった。
武子は芸者の道、梅は遊女の道、道子は下働きと、それぞれ全く違った方向で、色々な苦労を抱えながら進んで行く。人間の描写が複雑に描かれており、読み進める手がとまらなくなるのだ。

主人公・梅が生き地獄の中で絶望し、「誰か聞いて 人に生まれながら牛馬にもおとる虐待を受けた 女のうめきを いつも空腹で目が覚め ああ 今日も私は女郎なのかと それでも 夜 男をむかえるため 身じたくをする せめて忘れないでいてほしい 私のような女たちがいたことを」という言葉が胸を抉る。

そんな彼女を愛する男が現れる。彼が埋めにかけた「自分が女郎でいることを当たり前だと思うな」「自分が女郎でいることを疑問に持て」という言葉には、異常とも思える現状を不思議と思わない社会、現代にも通じそうな社会の中にある「麻痺」というものへの危惧が込められているようにも感じられる。
賛否両論あるのかもしれないが、目をそむけてはいけない1つの歴史を描いた傑作なのだ。

地獄のような日々を過ごす人たち

出典: jellyfish.blog.jp

武子は売られてきた当初から、一人肝が座っていた。武子もまた、客と情を絡ませ妊娠したが、遣り手の女将に堕ろされる。

出典: ic.mixi.jp

せめて忘れないでほしい
私のような女たちがいたことを

梅のこの言葉こそ、女郎たちの心の叫び。
これは遊郭を出てしまい、足抜きを疑われた梅が裸にされ、ムチで拷問される場面。

道子は最期、血を吐きながら「お梅ちゃんはきれいな顔してるなァ…うらやましいなァ…」という言葉を呟いた。

痣が残るほど武子の肌をつねりあげ、嫌がらせをする先輩芸者たち。武子は凍りつくような冬の庭先で、泣きながら三味線をかき鳴らす。

11歳の梅は、自殺した姉・松恵の姿を見て11歳で生理が来る前の見習いの時期に、番頭の直吉に客の取り方を教えてもらい、女郎となる。
誰の生き方をとっても、重すぎる内容に胸が苦しくなる。

「重い内容です。北海道に住むものとしては、今のこの生活はこれだけの犠牲の上に成り立っているという事実を知っておかなければいけないと思います。日本人はともすれば過去の過ちをなかったものにしようとしたり、程度を低く言ったりすることが多々あり、事実を事実として多くの国民が認識しなければいけないと思います。マンガという媒介は、読みやすく理解しやすいものなので、ぜひ学校現場で使ってほしいと思います」と感想を述べる読者もいた。

まとめ

『親なるもの 断崖』は1部と2部に分かれており、1部で幕西遊郭で働く女性たちの生き様がリアルに描かれている。絶版になっていて電子書籍でしか読めないものの、多くの方に読んでほしい作品である。

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@mahya_o8

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