青年が抱える社会と親との確執を描く、『破戒』

『破戒』は〈穢多(えた)の子孫であることをひた隠していた青年教師が己の立場と信念のはざまで告白すべきか悩み苦しむ…〉と言う内容の社会派小説。あの夏目漱石から「明治の小説としては後世に伝ふべき名篇也」と称賛された作品でもあります。

あらすじ・ストーリー

明治の後期、被差別部落出身の青年・瀬川丑松は、父からの固い言いつけによってその出自を隠しながら教師を務めていた。

しかしながら自分ら"穢多の子孫"への理不尽な待遇や差別に疑問を持つ若い彼は、やがて解放運動家の猪子蓮太郎に傾倒する。そしてそのどこか反発を匂わせる姿勢は、いつしか権威主義的な校長一派のカンに障るものとなっていた。

そんなある日のこと、丑松のもとに故郷の父の訃報が届く。こうして彼は一時的に地元に戻ることとなるが、その過程で敬愛する猪子蓮太郎氏と顔を合わせる機会を設けられる。近くでその話を聞いた丑松は、己の在り方について疑問を持つようになる。

やがて勤め先に戻る彼だが、校長一派からそれとなく自分の出自を勘ぐられて苦悩する。徐々に精神的に追い詰められるさなか、丑松のもとに今度は猪子蓮太郎の訃報が届く。

その知らせに呆然としつつも、丑松は猪子氏に自分の出自を打ち明けなかったことを後悔する。しばし生きることについて考えた彼はとうとう決意して、人々にこう宣言した。
「我は穢多なり」と。…

親の意思からの決別

主人公・丑松は親の「出自をバラすな」という言いつけをひたすらに守った優等生。しかしながら、たくさんの知識や思想を吸収し、自分なりのアイデンティティを持った彼は親の考えに疑問を持ちます。一人の人間が殻を破って「個」を掴む、そんな自立の物語でもあるのです。

実写映画

市川雷蔵が演じる瀬川丑松

1948年と1962年、二度ほど実写映画化しています。写真は1962年、大映製作のもの。

まとめ

当時の身分格差の実情と、多くの人がモラトリアム期に経験するであろう親と自分との間に生まれる確執を生々しく描いた物語。お年頃の方にオススメしたい作品の一つです。

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