パレス・メイヂ(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『パレス・メイヂ』とは、2012年7月より久世番子(くぜばんこ)が『別冊花とゆめ』にて連載した宮廷ロマンス系少女漫画。架空の明治時代を舞台に、少女天皇・彰子と、彼女に仕える子爵家の次男・御園公頼が互いを尊重し、身分の差を飲み込みながら緩やかに惹かれあう様を描いた物語。筆者はデビューこそ少女漫画であったものの、『暴れん坊本屋さん』をはじめとしたエッセイコミックをメインに活動しており、少女漫画はこの作品が6年ぶりとなっていた。

『パレス・メイヂ』の概要

『パレス・メイヂ』とは2012年7月より久世番子が『別冊花とゆめ』にて連載した宮廷ロマンス系少女漫画である。掲載誌の読者アンケートにて1位を獲得し、「この漫画がすごい!2014オンナ編」にて6位を獲得している。

舞台は架空の明治時代。
貧乏故に「宮殿」に侍従見習いとして出仕することになった子爵家の次男・御園公頼は、ある事件を解決したことをきっかけに、宮殿の主である少女天皇・彰子に気に入られ、彼女と交流を深めていくことになる。だが二人の間には歴然とした身分の差があり、かつ女の身で天皇に即位した彰子には、結婚も出産も許されていなかった。この二つの障害に翻弄されつつ、二人が互いの立場や夢を尊重しながら進む道を選ぶ姿を丁寧に描いている。全編を通し、未来の時間軸から公頼が彰子に仕えた日々を振り返る回想の形で語られている。

『パレス・メイヂ』のあらすじ・ストーリー

プロローグ

御園家次男・御園公頼(みそのきみより)は、侍従職出仕(じじゅうしょくしゅっし)として宮廷勤めをすることになった。
侍従職出仕の役目は、女官たちが仕切る「奥御座所(おくござしょ)」と「表御座所(おもてござしょ)」の間を取り継ぐことだ。奥御座所と表御座所の間にある「渡御廊下(とぎょろうか)」と呼ばれる廊下に入れるのは、帝と未だ「男」とみなされない侍従職出仕だけだった。

張り切る公頼だが、初日から帝直筆の絵皿が割れるという事件が起きる。
少女帝・彰子(あきこ)は「割れたものは仕方ない」と言うが、周囲は公頼を犯人だと思い込む。公頼は、以前装飾品を破損させた者から「素知らぬ顔をしていると帝の逆鱗に触れる」と聞いたのに、何故今回は怒る様子がないのかと疑問を抱く。

そこで自分の作品が飾られ続けることを恥ずかしがった彰子本人が犯人だと見抜いた公頼は、「今ここで自分の命を持って償う」と彰子に訴え、彰子自らが犯人であると言質を取る。その度胸を彰子に気に入られ、公頼は宮殿勤めを続けることとなった。

その後、奥御座所で盗難事件が起きる。犯人は一向に見つからず不穏な空気が流れるが、高価なものではなく帝が身に着けていたものばかりが盗まれていることに気付いた公頼が、犯人は帝の飼い犬・ロンであると見破る。
その褒美として、公頼は帝から指輪を賜る。この指輪が一体何であるか、公頼は知ることはなかった。

惹かれあうも、障害は多く

2年後、公頼は16歳になっていた。
彰子の元婚約者である鹿王院宮威彦(ろくおういんのみや たけひこ)が、彰子に謁見を申し出る。彰子が帝位に付いた際に婚約は解消されたが、威彦は彰子を諦めきれていない。彰子が公頼に下賜した指輪も、威彦より渡された婚約指輪であった。

威彦は彰子に想いを告げるが、その内容は籠の鳥として生きると決めた彼女を追い詰めるもので、それ故話を遮った公頼は以降威彦から敵視されるようになる。早速威彦は公頼を宮殿から下がらせるよう命じる。
元々侍従職出仕を許されるのは「少年」の期間のみであり、最早16になった公頼はふさわしくないと任を解かれてしまう。

なんとか出仕に戻りたいとあがく公頼は、下働きとして17歳になるまで働くことを許される。しかし、今度は帝の姿を見ることも許されない。一方彰子は女官長に「公頼を寵愛する気か」と問われていた。その言葉に、彰子は籠の鳥だと思っていた自分自身が公頼を籠に閉じ込める側でもあることに気付いてしまう。

威彦は彰子との謁見中に公頼を呼びつける。顔も見えない御簾の向こうの彰子から「今までご苦労だったな。私はお前が好きだよ」と言われた公頼。返事をしようとするが威彦に直答は許されないと一喝され、公頼は口を開くことも顔を見ることも出来ないまま退出する。

年が明け、公頼は17歳になった。
新年祝賀の儀で下働きとして忙しく働く最中、帝の飼い犬・ロンに、彰子から賜った指輪を奪われてしまう。慌てて追った先は、もう自分には入ることが許されない鶏の杉戸であった。
躊躇するもロンに煽られ扉を開くと、その先にいたのは彰子であった。

「お前が好きだと言った私に何と答えようとした」と彰子に問われ、「陛下をお慕い申し上げております」と答える公頼。そして「彰子が少しでも楽しく過ごせるような籠になりたい」と告げる。
威彦のように彰子を籠から連れ出すことは出来ないし、籠を破壊することなど更に不可能だ。そんな公頼が彰子のためにできる精一杯だった。
彰子は笑って、公頼を「寵愛」する覚悟を決める。公頼は、彰子がいくら羽ばたいても平気なほど広く、また宮殿の外にも持ち出せる籠になると誓うのだった。

ある日、東宮の母である女官・真珠が訪れる。過去に友誼を結んでいた彰子と真珠は、公頼と遊ぶ東宮を眺めながら言葉を交わしていた。
彰子が公頼を見つめる視線に気付いた真珠は、「まるで恋でもしているよう」だと彰子に言う。だがそれは帝である彰子に許されることではない。彰子は、これが恋であるなら断ち切らなければならないと決意する。
一方、公頼は真珠から「陛下を泣かせることは許されない。臣下の身を弁えよ」と諭され、なんのことかと困惑する。

彰子にも短い夏休みがやってくる。
公頼も数日の休暇を挟んで勤めに出るが、その際御園家の女中・お律(おりつ)と一緒に移動する。律は公頼に密かに思いを寄せていた。並んで歩く2人を偶然見かけた彰子は、2人の仲を誤解し食欲を失くしてしまう。

心配した料理番は獲れたての鮎を献上しようとするが、その釣りの現場に公頼と律が出くわす。彰子の為にと公頼は奮闘するが、公頼も料理番も全く釣れない。大量の鮎を釣ったのは律だけだった。公頼は自分が釣ったことにして献上するが、嘘をついている罪悪感で行動が不自然になってしまう。律のことを気にして「何か隠してないか」と彰子が問うが、そんな誤解をされているとは知らない公頼は「鮎を取ったのはうちの女中です!」と叫ぶ。

誤解が解け食欲が戻る彰子。鮎を献上した褒美として、彰子は律に謁見を許す。
律は凛々しく美しい彰子に気後れするが、どこか寂しげで羨ましげな目で律を見る彰子に、「天子様のこと美しくてご身分もこの上なくて欲しいもの全部持ってらっしゃるのだと思ってたけど、そうではないのかもしれない」と思う。
実際聞こえないほど小さな声で、彰子は「律が羨ましい」と言っていた。彰子はいくら望んでも、律のように公頼と並んで歩いたり、一緒に釣りをしたりはできないからだ。

帝の誕生日である天長節がやってくる。女官たちは彰子にドレスを着せたがるが、軍服の方が慣れているし国のトップに相応しいと、彰子は取り付く島もない。

天長節を祝うため、威彦の友人の露西亜皇太子・アレクセイとその弟・アリスが日本にやってきた。
宴の最中、アレクセイは彰子に「皇太子妃として国に来ないか」と誘う。彰子は「国の決まりに準じる、それが民の平穏のためだ」と返すが、アレクセイも「両国の将来を考えてのことだ」と返した。一方宴に参加できない公頼は、アリスがロンを踏みつけにしているのを目撃する。なんとかロンを助け出すが、その際アリスに彰子を侮辱される。怒りを覚えつつその場を去る公頼。

翌日、アレクセイが暴漢に襲われ負傷する。露西亜の侵略を恐れた先走りによるものだ。大した負傷ではなかったが、急遽アレクセイは帰国することとなり、告別の晩餐会は露西亜の軍艦上で極少人数で開きたいと言い出した。彰子は行くと言い張るが、拉致される恐れもある。しかし彰子は、危ないからこそ自分が行くことに意味があると言い、公頼に手助けを求める。

公頼の手は、彰子がいつもの軍服ではなくドレス姿で晩餐会に赴くことだった。威彦に、何かあれば策を講じた公頼は宮殿に居られなくなると脅されるが、もう公頼に彰子を止める気は無かった。
そして晩餐会は無事終了。アレクセイは彰子に、将来外交をやるべきだと告げる。自分の信念と相手の懐に飛び込む度胸のある彰子は、世界に出れば弟帝の助けになり、延いては国の為にもなると判断したのだ。
その予言めいた言葉は、今後の彰子の行く末を決定づけるものとなる。

将来世界に出たいと願い始めた彰子は、英語を学んだり積極的に巡幸を行って民の暮らしを見つめようとする。彼女を籠の中に閉じ込めてしまいたいと一瞬血迷った公頼だが、それがいかに馬鹿げた独占欲であるかに気付く。

そんな中、公頼と同じ修学院に通い始めた東宮が、同級生に馬遊びの馬にされる事件が起きる。馬にされたことにショックを受けたのかと思いきや、馬の方がかっこいいから自分が馬になりたかったらしい。それなのに周囲に誤解され、同級生と遊べなくなってしまった。
どうすればいいかと泣く東宮に、みんなで馬になって比べ馬として遊べばいいと公頼は提案する。それを実行した東宮は、友人たちと笑顔で遊び始める。
そんな様子に、彰子の英語教師アスター夫人は公頼を東宮付きにすることを提案する。

それは彼女がいつもの軍服ではなく、着飾ったドレス姿で晩餐会に赴くことだった。女性を傷付ければ世界中から非難を受ける。最善の策ではあったが、絶対の安全ではない。彰子の身に何かあれば、その策を考えた公頼が宮殿にはいられなくなると威彦に脅されるも、公頼はもう彼女を止める気はなかった。軍艦に彰子を送り出すために乗った小さな船の上、公頼は彼女に下賜された指輪を手渡す。長く宮中に仕える下働きの男・柏木(かしわぎ)が見つけて公頼に返してくれていたのだ。だが彼はこの指輪が威彦に見つかることを恐れ、「陛下に返した方がいい」と公頼に告げていた。公頼がこの指輪を持っていることが威彦にバレれば、ただでは済まないからだ。だがその指輪を今彰子に渡したのは、その言葉に従って返却するためではない。何度紛失しても、不思議とこの指輪が公頼の手元に戻ってくるからだ。だからこれを付けていれば、彰子も無事に戻ってこれるはずだと思い、彰子にその旨を告げて一度指輪を渡したのだ。
晩餐会に出席する彰子を待つ間、公頼はアリスに彰子を侮辱したことを謝罪される。だが言葉は通じないので、なんとなくそんな気配を感じるだけだ。言葉の通じない妙な気やすさから、公頼も彼に「陛下の籠になりたいと言っておきながら、籠の中に誰も入れたくない」と本音を漏らすのだった。そして晩餐会は無事終了し、彰子を見送りに甲板に出てきたアレクセイは、このまま嫁いでこないかと彰子を誘う。当然彰子は断るが、それを見てアレクセイは、将来彰子は外交をやるべきだと告げた。自分の考えをしっかりと持ち、なおかつ相手の懐に飛び込む度胸もある彰子ならば、退位後世界に出れば弟帝の助けになり、国の為にもなると判断したのだ。その予言めいた言葉は、今後の彰子の行く末を決定づけるものとなる。

将来世界に出たいと願い始めた彰子。彼女を籠の中に閉じ込めてしまいたいと一瞬血迷った公頼だったが、元イギリス大使夫人であるアスター夫人を英語の師として招聘したり、積極的に巡幸を行うことで民の暮らしを見つめようとする彰子の姿に、それがいかに馬鹿げた独占欲であるかに気付く。帝の座についた彼女には叶わぬはずのささやかな夢を二人は密かに共有するが、ある日彰子のその夢を知っているのだと、何故か公頼は威彦に匂わされてしまう。それにショックを受けないではないが、慣れっこだと公頼は自分を奮い立たせた。そんな中、公頼と同じ修学院に通い始めた東宮が、同級生に馬遊びの馬にされる事件が起きる。馬にされたことにショックを受けたかと思われた東宮だったが、本当は馬の方がかっこいいから、自分が馬になりたかったのだ。なのに周囲には誤解されてしまい、もう同級生と遊んではいけないと言われてしまった。どうすればいいと泣く東宮に、みんなで馬になって比べ馬として遊べばいいのだと公頼は提案する。それを実行した東宮は、友人たちと笑顔で遊び始める。そんな様子を見て、アスター夫人は彰子に公頼を東宮付きにしてはどうか、と提案する。彰子の夢を威彦が知ったのも、アスター夫人を通してのことだった。アスター夫人は威彦の友人でもある。威彦と彰子を結びつけるために画策したことだが、それは彰子に一蹴された。東宮とその友人たちを、公頼はかわるがわる馬に同乗させていた。このまま本当に東宮職にされるんじゃないか、と危惧していたところ、突然彰子がやってくる。「返してもらうぞ」と彰子は子供ではなく自分が公頼と同じ馬に乗り、馬を駆けさせた。

災害にて気付くもの、変わるもの

帝都を大震災が襲う。この結果、帝都の半分が燃え落ちる大火災となり、彰子も御園家が立っていた辺りが燃えているのを目撃する。公頼は帝都から逃げるよう兄に言われるが、帝都に残ることを決意。一方彰子は、公務に追われ眠ることもできず心身ともに疲れ果てていた。

参内してきた威彦に、人々が罹災列車に殺到している旨を聞かされる。「公頼が遠くへ避難できているのならいいが、彼は帝都に留まっている予感がする」「もしかするとあの日見た炎の中にいたのかもしれない」と嘆く彰子。
「心配でたまらない…!」と感情を吐き出す彰子の姿に、威彦は公頼への怒りを覚える。居れば目障りだが居なくても腹立たしい。「生きているならとっとと参内せんかあの馬鹿!!」と一人叫ぶが、その言葉が公頼に届くことはない。

その頃、救護所でようやく知人を見つけた公頼は律を託して家の様子を見に戻るが、その帰りに倒れてしまう。公頼を助けたのは、公頼を探していた威彦だった。彼は自分の屋敷に律と公頼を連れていく。公頼は今すぐ参内すると言い張るが、威彦にしばらく休めと言われる。

一方、公頼を案ずる彰子は半ば無理やり帝都に視察に出ていた。
しかし、被災地の悲惨な状況を目の当たりにし、自分が公頼のことしか考えられなくなっていたことを強く悔やむ。この天変地異は天子の不徳故の天罰だと声が上がるが、彰子は新聞にそれを肯定する声明を出してしまう。

威彦が、そんなことあるはずないと言うが彰子は否定する。公頼と出会ってから、公頼のことを考える時間が増え勤めを忘れることが増えた。「だから天罰が下って、一番大切なものを奪われたのだ」と言う彰子の痛ましい様に、威彦は公頼を屋敷で匿っていると告げてしまう。何故言わなかったと叫ぶ彰子に、威彦は「幾千の罹災民より一人の少年の方が大事だったのですか?」と突きつける。

それを認めることは帝である彰子には許されない。彰子は、御寵愛は許されても「愛」は帝には許されないと痛感していた。その時、威彦の屋敷を抜け出した公頼が部屋に飛び込んできた。
彰子は迷わず公頼を抱きしめ、これで思い残すことはないと公頼の侍従職出仕の任を解くと告げる。
「好きだよ御園。お前が生きているだけで十分だ」と笑い、「帝としてこれ以上は望めない。これ以上は許されない。ここでお別れだ」と告げる彰子。公頼は衝撃と混乱で、何も言うことができなかった。

公頼は呆然と汽車に揺られていた。そこで偶然、東宮の母・真珠と再会する。聞かされたのは彰子の過去だ。
父・明慈帝(めいぢてい)が崩御されたときも、誰もが泣き崩れる中で彰子は鈍色の喪服ではなく、新帝として金モールの軍服を着ていた。彰子は本当に強い人間だから諦めろと告げる真珠に、公頼は「そんなに強い方が、私なんかに悩んで苦しまれると心配なさったのですか」と問う。自分はそれほど強い人を泣かせたのだ、自分は彼女にとってそれだけの存在なのだと知った公頼は、汽車を降りて走り出す。

震災から三か月。公頼は威彦の屋敷から学校に通っていた。時々宮殿にも連れていかれるが、彰子には会えない。廊下越しに足音を聞くのが精いっぱいだ。
威彦は公頼を花街に連れて行き「彰子は手の届かない人間なのだから、忘れてしまえ」と言う。しかし公頼は「よく女を知ってる宮だって執心してるんだ、どうして私が諦めきれましょう!」と反射的に叫び、自分の本心に気付くのだった。

威彦の屋敷に帰ってきた公頼に、律は「震災の日すぐ宮殿に駆けつけてたら、今でも出仕を続けていたか」と問う。「そうだったかもしれない」と答えた公頼に、律は自分が夢を見ていたことを思い知らされる。
優しさ故に律を見捨てられなかっただけだとわかっていたが、夢を見てしまった。公頼は律を助けていたせいで侍従職出仕の任を解かれたのではと噂され、それを事実だと思い込んだ律は行方知れずになる。

律を探し回る公頼は、知人のところでようやく律を見つけ出し、誤解を解くため解任された本当の理由を告げる。
「妄想と思われるかもしれないが」と前置いて告げられた彰子の告白を、律は信用する。「律が羨ましい」と言ったような気がしたあの声は、聴き間違いではなかったのだ。
ずっと傍にいた律にも告白する勇気はなかったのに、彰子は想いを告げたのだ。敵うはずがないと思い知った律は、公頼に早く宮殿に戻るよう伝える。

新年の宴がやってきた。威彦の侍従として連れてこられた公頼は控えの間までしか入ることができないが、それを助けたのはかつての侍従仲間たちだった。
一方、彰子は裾持ちがいない状態での裾の長い衣裳の扱いに難儀していた。見かねた女官長が廊下まではと裾を持つが、思った以上に重く長く持ちづらい。女官長が「御園さんは難なくお持ちだったのに」と驚くと、公頼は自分の歩き方をよく知っていたから、と彰子が答える。女官長は公頼1人くらいなら女官長の力で守ることができたと訴えるが、彰子は「私の選んだ道を誤りだと思わせないでおくれ」と笑った。

侍従仲間の手を借りて中に入り込む公頼。だが廊下に入る直前、部屋の隅で震える東宮を見つけてしまう。
あの震災がトラウマになっていた東宮は、しばしば1人で狭いところに潜り込んで震えるようになっていた。廊下を歩く彰子の足音と、目の前で頭を抱えて怯える東宮。ここで彰子を追わなければ、もう二度と話す機会が無いかもしれない。しかし震える子供を放っておくことはできない。公頼は東宮を慰める道を選んだ。

彰子はひとり宴の間に出る。その裾はあまりに重いが、足に纏わりつくその重さを1人で背負うと決めたのだ。だが退出時、扉に裾が引っ掛かってしまう。その時さっと裾を持ち上げたのは、人目につかぬよう隠れていた公頼であった。姿が人目に触れる前に、裾を持ったまま公頼は彰子と共に退出する。

「私の決意は変わらぬ!」と叫ぶ彰子に、公頼は「愛しい男と仰せになられた言葉も 変わってはおられぬのですね」と返す。「私の想いも変わりございません」と告げる公頼の声は、決意に満ちた穏やかなものだった。
東宮が元気な姿を見せるようになった。新しく東宮の侍従になった公頼がその心を和らげたのだ。籠の鳥として生きるならば広き籠になると誓ったかつての約束を果たすため、公頼は再び宮殿に仕え始めたのだった。

変えるでも、捨てるでも、壊すでもなく

震災から一年が過ぎ、東宮の立太子礼が行われることになった。公頼は剣の捧持役に選ばれる。
練習中、彰子が東宮に「公頼はうまくやっているか」と問うと、東宮は頷き2人だけの大切な約束もしたと笑う。公頼は既に東宮の臣下なのだと寂しさを覚える彰子。
一方、公頼は威彦から声を掛けられていた。威彦は彰子が退位したらもう一度求婚するつもりだ、と一方的に宣言する。

立太子礼の日、彰子は寂しさを押し隠し東宮に「臣下を信頼せよ。公頼達はきっと、お前の力になってくれる」と告げる。だがそれを否定したのは東宮の方だった。
公頼は東宮が即位したら、一緒に約束した人と世界を巡るために侍従をやめると東宮に告げていた。それが公頼と東宮が交わした秘密の約束だったのだ。うっかり喋ってしまったと焦る東宮を置いて、彰子は走る。

幸いすぐに公頼は見つかった。丁度儀式に使った剣を、東宮御所に戻しに行くところだったのだ。すぐに戻ってくると告げる公頼に、戻ったら話があると彰子は伝える。しかしこの約束は叶うことがなかった。
公頼は威彦と共に馬車で東宮御所に向かう途中、次の天子となる東宮を討たねばまた災害が起きると思い込んだ暴漢に襲われたのだ。

公頼は銃で撃たれて手当てを受けるが、その際落とした指輪が威彦の手に渡ったことには気付かなかった。自分のせいなのに見舞いにも行かせてもらえないと泣きじゃくる東宮を彰子は慰める。高貴な者は臣下を見舞うことが許されない。見舞いが許されるのは、臣下が死ぬときだけと決まっている。「自分たちが見舞いに行けないのは、公頼が無事な証拠なのだ」と言われ、東宮はようやく泣き止むのだった。

公頼が指輪を無くしたことに気付いた頃、ちょうど威彦が彰子に何故公頼がこの指輪を持っているのだと詰め寄っていた。
寵愛が過ぎると怒る威彦に、彰子は「寵愛ではないから、何度も封じ込めようとしたが、想いは膨らみ止めることができなくなった」と真っ直ぐ伝える。その言葉に激昂する威彦。
公頼はただの寵臣で、指輪は気まぐれにくれてやったと嘘でも言ってくれれば良かったのに、何故公頼がいいのかと彰子に詰め寄る。「ぶつかり迷いつつも、諦めず道を探し続けることを御園は私に教えてくれた」と迷いなく告げる彰子に、威彦は彼女の想いを変えることはできないと痛感する。

眠っていた公頼が目覚めると、何故か目の前には彰子がいた。公頼は知る由もないが、威彦が自邸でお忍びの宴を開き、主賓として彰子を招いたのだ。彰子は遅刻ということにして、公頼と会う時間を設けさせた。
帝が臣下を見舞うのは臣下が死ぬときだけだと知っていた公頼は、半分寝ぼけたまま「私は死ぬのですか?」と彰子に問う。「戻ったら話がある、と言うたのに、いつまでたっても戻らぬから来たのだ」と答える彰子は泣いていた。
何故泣いているのかと尋ねる公頼に抱き着き、「愛しい男が目の前にいるからだ」と彰子は笑う。公頼も「私の目の前にも愛しい方がいます」と彼女を抱きしめる。

エピローグ

十年後、東宮のヨーロッパ外遊が決まる。東宮侍従を続けている公頼も、東宮に付いて渡欧することになった。
準備の合間を縫って公頼と彰子は言葉を交わす。帝となれば早々外には出られないので今のうちに経験させておきたい、という彰子の想いから実現した外遊だ。自分には叶わなかったが、東宮には経験させておきたかった。

「しかと世界を見て、いつの日か陛下をお連れいたします!」と言い切る公頼に、「下見なら餞別はいらないな」と彰子は笑う。だが別れ際、公頼はやはり餞別が欲しいとねだった。「貴方のぬくもりが欲しい」と、彰子の身体を抱きしめる公頼。

外遊先、東宮たちからの手紙が届く。その中に同封されていた公頼からの手紙は手記だった。最近公頼は記者に、侍従職出仕としての日々を書き連ねた本を出したいと迫られ続けているのだ。
書く気がないとぼやく公頼に、読んでみたいと言ったことは覚えている。自分と彼が出会ってからの日々を書いた、懐かしく愛しい日々の記憶を綴った手記を、彰子は一人ゆっくりと読み進めていく。

『パレス・メイヂ』の登場人物・キャラクター

宮殿の人々

御園公頼(みその きみより)

本作品の主人公。十四歳で宮中に侍従職出仕として上がり、数年の月日をかけて少女帝・彰子と惹かれあうようになる。実直で人が良く、頭の回転も速いが、学校の成績はあまりよくない。彰子を籠に閉じ込めたいと独占欲を見せることもあったが、世界に出たいと願う彼女のまっすぐな姿勢を見て、彼女を閉じ込めるでもその籠から連れ出すでもなく、籠をどこまでも広げることで彼女の夢を支えていくことを望むようになる。

彰子(あきこ)

本作品のヒロイン。美しく聡明な現在の帝。登場時は十六歳。先代が急死したことで、幼い異母弟の成長までの中継ぎとして即位した。帝としてあらねばならぬという意識が非常に強く、常に軍服に身を包んでいる。だが同時に好きな相手の傍にいられる女性に嫉妬したり、非常時に公頼のことを案じて眠れなくなってしまうような普通の少女の面も持ち合わせている。自分が籠の鳥であり、そうあらねばならぬ者であると自覚していた。帝としての面、少女としての面を両方持つからこそ、籠を壊すでもなく、籠から連れ出すでもなく、籠を広げるという形で支えてくれる公頼に惹かれ、深い信頼を寄せるようになっていった。

鹿王院宮威彦(ろくおういんのみや たけひこ)

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