ブルーピリオド(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『ブルーピリオド』とは、2017年より山口つばさが『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載している「芸術」に向き合う若者を題材にした青年漫画である。特に熱中できるものもなく、日々の生活に虚しさを覚える高校2年生の主人公が、美術の授業をきっかけに絵の世界に惹き込まれ、日本で一番高い倍率を誇る「東京藝術大学」を受験することを決める。芸術の世界の厳しさに何度打ちのめされても、諦めきれずにもがき続ける主人公と仲間達の苦悩や葛藤が描かれた青春群像劇である。

『ブルーピリオド』の概要

『ブルーピリオド』とは、2017年より山口つばさが『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載している「芸術」に向き合う若者を題材にした青年漫画である。2018年に第2回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞のネクストブレイク部門で大賞を、2020年に第13回マンガ大賞、第44回講談社漫画賞総合部門を受賞している。9巻までの累計発行部数は180万部を突破、2021年にはテレビアニメ化決定。本作は東京藝術大学(藝大)を舞台として描かれているが、作者自身も藝大という経歴を持つ。
特に熱中できるのものもなく、虚しさを覚えながら日々を過ごしていた高校2年生の主人公・矢口八虎は、ある日美術室の巨大な絵に目を奪われる。そこから芸術に興味を持ち始める八虎は、将来性のない芸術という進路を選ぶことに悩みながらも、美術部顧問の佐伯先生の助言のもと日本で最も高い倍率を誇る藝大を受験することを決心する。非常にシビアな美大受験に立ち向かう主人公とその仲間たちの、葛藤や苦悩、そして成長を描く青春群像劇である。

『ブルーピリオド』のあらすじ・ストーリー

高校生活篇

絵との出会い

主人公の矢口八虎は、朝まで友人と遊び、付き合いで喫煙をするなどやんちゃな生活楽しむ高校2年生。一方で、不良でありながらコツコツと勉強して優秀な成績を残すなど、現実思考の側面も持っている。人付き合いも学校のテストも同じであり、ノルマをクリアする楽しさだと考えている彼はクリアのために陰で努力を惜しまない。しかし、努力ではなく結果だけを見て才能だと評価される生活に虚しさを覚える。

そんな中、学校にタバコを忘れたことを思い出し、慌てて学校へ戻る八虎。きっと美術の授業の時に忘れてしまったのだと駆け込んだ放課後の美術室で、美術部員である森先輩が描いた巨大な絵に魅せられる。それを見ていた美術部顧問の佐伯先生は、世間的に求められる価値ではなく、自分の中の価値を八虎に問う。現実的で堅実に生きようとする八虎は「自分に素直に生きられる人などいない」と自分の中の価値を大事にするという考えに反発するが、佐伯先生の言葉がどこか心に引っ掛かり突き放しきれない。それは八虎の感じていた日々の虚しさや焦りを鋭く突いた言葉だった。

友人と遊び明かしたある朝、八虎は自分の中の美しいという感情に気がつく。早朝の渋谷は静かで青いと感じた八虎は、それをふと森先輩に話してみる。友人にはポエミーだと馬鹿にされたこの価値観も、森先輩は「あなたが青く見えるなら、りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」と受け入れてくれる。それは、周りに合わせて生きてきた八虎にとって、自分を認めてもらえた数少ない経験だった。これをきっかけに、八虎は美術の授業で与えられた「私の好きな風景」を描くという課題に真剣に取り組む。自分が感じ取った渋谷の風景をなんとか表現しようとする過程で、自分の中の好きを表現することを怖がっていたこと気がつく。少し怖がりながらも描き終わり、クラスメートの作品を並べて行われた品評会。真剣に取り組んだことが恥ずかしく、適当に誤魔化す八虎だが、恋ヶ窪は八虎の描きたかったものを理解する。今まで空気を読んだ表面的な会話しかしてこなかった八虎は、初めて本心からの会話ができたように感じ、涙を流した。そして、八虎は美術の面白さに目覚めていく。

進路の決定

美術に興味を持った八虎だが、現実的な性格から美術を進路に選ぶ勇気を持てないでいた。そんな中、同級生で美術部員の鮎川龍二に半ば強引に美術部の手伝いをさせられる。鮎川龍二は女装男子であり、女子からユカの愛称で親しまれている。また、日本画で東京藝術大学(藝大)を目指している実力者でもある。そして、ユカに連れられて行った美術質で、美術部員や顧問の佐伯先生にに美大について教えられ、藝大の存在も知る。社会のレールに乗る方が安心だからと勉強を続けてきた八虎は、絵を描くことは趣味でもできると考えるようになる。しかし佐伯先生は、好きなことに人生の一番大事なウェイトを置くのは普通のことではないのかと八虎に問いかける。この一言で八虎は美大に進学することを決心する。そして同時に、高い学費が必要な私大ではなく、唯一の国立大である藝大を受験することを決める。

藝大受験を決めた八虎は早速美術部に入部する。初めて専門的な知識を教えられ、実践してみる八虎。他の部員との経験値の差を実感した悔しさから、夏休みも毎日課題に取り組む。圧倒的な努力量で夏休みの間に急成長し、少し自信をつけた八虎だが、美術部部長であり最も実力のある森先輩が、予備校の夏期講習で下から5番目だったことを知り衝撃を受ける。

森先輩の姿を見て、現時点での自分の実力を知りたいと考えるようになった八虎に、佐伯先生は予備校の冬季講習を進める。森先輩を尊敬していた八虎は、先輩と同じ油画科を選択することを決め、ユカと一緒に通い始める。そして、初めて訪れた予備校の授業で八虎は高橋世田介に出会う。初めてのデッサンにもかかわらず圧倒的な実力を見せつけた世田介を天才だと認めると同時に、ライバルとして一目置くようになる。しかし、油画の授業になると世田介の絵はデッサンの時ほど目立たなくなる。一方、油画で頭角を表したのは桑名マキだった。後に八虎は、この2人の差を自分の絵作りができているかどうかだと考えるようになる。冬季講習を終えた八虎は、両親に美大に進学したいことを告げる。最初は反対していた両親も八虎の熱量に負けて応援することを決心し、正式に進路を藝大に決めて3年生を迎える。

予備校篇

自分の絵と向き合う

両親の協力を得て、八虎は予備校の油画科の夜間部に通い始める。今まで、対象を正確に捉えるデッサン力を鍛えてきた八虎は、担任になった大葉先生に自分の絵を描くことの重要性を教えられる。そこで大葉先生から自分の好きを見つけるように提案され、ひょんなことからクラスメートの高橋世田介と橋田悠と一緒に美術展を見にいくことになる。

絵を見ることが好きな悠は、芸術の正しさよりも自分の感情を大事にする。美術館の堅苦しい雰囲気が苦手で絵を見てこなかった八虎には、悠の自由な鑑賞方法が新鮮に映り、これをきっかけに八虎の絵の見方が変化し始める。
美術館帰りに、八虎は公園で好きな人に振られているユカを見かける。ユカの性別は男だが、心は乙女であるため普段は女装男子である。そして、恋愛対象も男子だった。好きな人に振られ泣いているユカに、八虎は男子の格好をしていた方がモテるのではと助言するが、そこで自分の好きを曲げてまで生きていたくないというユカの強い信念を理解する。八虎は自分の好きをしっかりと持っている悠やユカを見て、自分の好きなものが定まらない現状に悩む。そんな悶々とした日々を送る中、夏期講習でコンクールがあり、油画科全員に順位がつけられることを知る。

夏期講習は、現役生と浪人生が一緒に受講するため、コンクールも合同になる。八虎は、尊敬していた森先輩ですら夏期講習のコンクールで下から5番目だったことを思い出し、怯んでしまう。それでも予備校で学んだ知識を作品になんとか落とし込もうとするが、思うようにはいかない。そんな八虎を傍目に、マキは人の目を惹きつける絵を描く。マキと自分の差に悩んでいるときに、世田介に八虎の作品は「芸の上澄みだけを掬ったような絵」と評価されてしまう。世田介の真意を汲み取れずに悩む八虎に、森先生はデッサンだけでなく構図の重要性を説く。

いよいよ夏期講習のコンクールに出す作品作りが始まる。デッサンに加えて構図にも意識しながら作品を作って行く八虎だが、カッターやテープ、自らの手などなんでも画材にしてしまう浪人生の自由さに驚愕する。そしてこの浪人生のぶっ飛んだ表現力は、八虎に良い影響を及ぼす。

自らもぶっ飛びたいと画材を工夫した八虎は、コンクールで世田介や悠よりも順位が高かった。しかし、2人の能力が自分よりも優っていることを理解しているがゆえに、美大入試の評価基準が分からなくなってしまう。予備校で教えているのは受験絵画だと一蹴し、予備校を辞めてしまう世田介を見て、八虎は目指すべき絵を見失う。そして、傾向と対策が不明瞭な美大受験に、今まで明確な答えのある勉強しかしてこなかった八虎は行き詰まってしまう。そんな八虎に佐伯先生は、藝大の文化祭に行くことを勧めたのだった。

恋ヶ窪や田島、純田と一緒に藝大の文化祭に来た八虎。そこで予備校を辞めた世田介にばったり遭遇し、一緒にまわることになる。世田介と藝大生の作品について話すうちに、作品を肯定的に捉える八虎と、肩透かしだったと否定的な世田介の価値観の差がどんどん開いて行く。

そして、ついに世田介は八虎に「美術じゃなくてもよかったくせに」と言う。世田介にとって八虎は、なんでもそつなくこなすことが出来る「なんでも持っている人」と見えていた。そんな世田介の一言に八虎は完全にキレてしまう。側から見たら、人当たりもよくなんでも持っているように見える八虎も、今は美術に全てを賭けている。八虎にとっても今は美術しか無いのだった。そして、この悔しさから八虎の思考が完全に吹っ切れる。そこに受験絵画について悶々と悩んでいた八虎の姿はなく、自分の絵で周りをひれ伏せさせるという強い意志を持つようになっていた。

自分の絵の発見

夏期講習も終わった11月、ここからクラスをして少人数制の指導に切り替わる。八虎と悠とマキは3人ともDクラスに振り分けられる。どこか個性的なメンバーが集められたDクラスの担任は、これまでと同じ大葉先生である。受験も佳境に差し掛かりつつある11月に、大葉先生が八虎たちに求めたのは対応力。今まで何かしらものを見て描いてきた八虎は、初めてモチーフがない課題を渡され困惑する。

試行錯誤を重ねるも、もともと真面目な八虎は悠のような自由は発想を得られないでいた。面白くしようとすればするほど、肩に力が入ってしまう八虎。そんな八虎にまたも佐伯先生が手を差し伸べる。それは、八虎が美大を目指すきっかけとなった森先輩のF100号の大作を八虎も作ってみないかと言う提案だった。
煮詰まった八虎に佐伯先生は「最近受験以外の絵を描いていないでしょう」と問いかける。そして、技術を身につけ上手くなることと、良い作品を作ることは別物だと言う。しかし、受験までの期間が短くなり焦りを覚える八虎は、受験対策以外のことをしている余裕はないとこの提案を断り、再び予備校の課題に向き合い始める。今まで身につけた技術で対応しようとする八虎の目に入ったのは、マキが描いた油画。人を飲み込むほどのエネルギーを持ったその絵を見て、技術力ではない根本的な問題なのだと八虎も気がつき、佐伯先生に再び会いに行く。

F100号の絵を描くことを決めた八虎は、失敗したくないと思ってしまう。それを見抜いた佐伯先生は、八虎が初めて描いた早朝の渋谷の話をする。そして、美術は文字じゃない言語であり、美術に失敗はないのだということを八虎に思い出させる。そして、自分の伝えたいことを具体するべく思考を深めていく。
いまいち思考を具現化しきれずに悩む八虎は、早朝の美術室でユカに会う。八虎は、どこか思い悩んでいる様子のユカに連れられ、武蔵野美術大学(ムサビ)の森先輩の元を訪れる事になる。ユカが途中で行かないと言い出し結局1人で訪れることになった八虎は、誰もいない作業部屋で森先輩の新たな作品を目にする。森先輩の高校生の時とは異なる作風に八虎は疑問を覚える。しかし、そこには高校生の時と変わらない、先輩が伝えたい「祈り」という思いが込められていた。ただ伝える手段が変わっていただけなのであった。

森先輩の作品を見て、技術はただの手段であり言いたいことは別物なのだと理解した八虎はさっそく自分の作品に向き合い始め、ついにF100号の大作を完成させる。そして、佐伯先生に感動すると言わせたのだった。

過去の絵に縛られる

自分の作品に対する向き合いかたを掴み始めた八虎は、どんどん調子をあげていく。そして、受験前最後となる予備校内のコンクールが開かれる。自分でも調子が良いことがわかっている八虎は、その結果を楽しみにしていた。しかし、結果は下から3番目。大葉先生からはF100号の作品の焼き回しだと言われ、このままじゃ受からないと宣言されてしまう。

調子を上げている自覚があったからこそ、評価の低さに衝撃を受ける八虎。悩んで、努力して、試行錯誤して、そうしてやっと見つけた1つの答えですらすぐに鮮度が落ちてしまう。常に新しいものを求められるその厳しさに八虎は打ちひしがれる。それと同時に、過去のアイデアを無意識のうちにコピーしようとしていた自分の甘さに気づく。そんな、自己否定の真っ只中にいる八虎に、父親は無条件の信頼をおく。お前は大丈夫だというその言葉で、八虎は再び前を向き始める。
1月になり迎えたセンター試験。学科が終わり、絵に専念し始める八虎たちには重苦しい空気が漂っていた。そんな中、1次試験へ向けた対策が本格化して行く。1日中絵を描き、否が応でも順位を意識させられるその雰囲気に追い詰められる人が出始める。そんな中で、過去の合格者の作品をライバルとして比較し始める八虎に、大葉先生は比較のしすぎは危険だと言う。一位の絵ではなく、自分にとって最高の絵を目指す必要を説かれた八虎はさらに作業時間を増やしていく。

一方マキは、現役で藝大に主席として合格した姉と自分を比較し続け苦しんでいた。自分よりも追い込まれている人を見ることで、自分の正気を保とうとするマキ。しかし、その本当のライバルは姉ではなく自分だということを大葉先生は見抜いていた。追い込まれ、一人また一人と脱落して行くなか、1次試験は1週間後に迫る。
1次試験まで残り数日となったある日、八虎は高校の友人である恋ヶ窪に悩みを打ち明ける。そこで、真面目で自由な発想が足りないと言われ続けていた八虎は、それが恐怖心からきていることに気が付く。そして、恋ヶ窪は恐怖への対処法を助言する。これにより、八虎は課題に迎合していた今までの考えから、課題を自分のものにすると言う思考へ変化させることが出来る。

藝大受験

いよいよ1次試験当日。八虎と同じ藝大の1次試験を受験していたユカは、試験開始のチャイムと同時に席を立って出て行ってしまう。いっぽう八虎は、自画像という課題に向き合っていた。自分をどのように捉えているのかを問われ、八虎は不良と優等生という自身の二面性について描こうとする。しかし、これを目立つ構図に落とし込む作業に苦戦する。そんな時、八虎の前で作業していた受験生(三木きねみ)の不注意により、八虎は自画像を描くための鏡を壊されてしまう。

想定外の出来事に動揺する八虎だが、割れた鏡から二面性ではなく、多面性というさらに複雑な自分の性格を見出す。この発想から構成を決めることができた八虎は、ここから今まで習得した全ての技術を持ってこの絵を仕上げていく。そして、絵を描き始めた頃の藝大に受かりたいという感情と、その後苦悩の末に浮かび上がってきた全員を力でねじ伏せたいという感情、そして最後の最後に友人の助言により手に入れた描くことを楽しむという感情。これらの、これまで築いてきた全ての感情を同時に解き放つことができた八虎は、1次試験の課題を描き切ることができたのだった。
1次試験の3日後に行われた合格発表で、油画の現役生は八虎、悠、マキの3人が1次試験を通過する。2次試験を5日後に控え、休む間もなく2次試験へ向けた対策が始まる。そして、色の使い方を上達させようと努力する八虎の前に、1次試験に落ちたユカが現れ美大に行くことは辞めたと告げられる。

八虎を美術の世界に導いたユカの辞めるという発言に動揺しながらも、八虎は本人の選択を尊重しようとする。しかし、ユカが1次試験で教室を出て行ったことを知り、八虎はユカに電話をかける。そして、正しい場所にいる人に話せることはないと一蹴されてしまう。予備校での2次試験対策中も悶々としている八虎に、悠は溺れた時の苦しさは溺れた人にしか分からない、その人と話すためには八虎も飛び込まなければならないと助言する。そんな中行われたのは、互いのスケッチブックを評価し合うという授業。そこで、マキと八虎は自分にとって普通だと思っていたことが自身の個性になっていることを知る。他人に評価してもらうことで客観視の重要性を知った八虎は、ユカがこれまでに描いた作品を見る。日本画専攻のはずなのに、日本画ではなく他の作品にユカの個性を感じた八虎は、ユカが日本画を選択したことに疑問を持つ。そして、ユカと同じところへ飛び込む決心をする。

八虎は、家に帰りたくないというユカに付き合い夜の海を訪れ、そこで宿を探し泊まることになった。翌朝、ユカの提案で自分の裸を書くことになった2人は、初めて面と向かって話し合う。女装をして自分の好きを貫くユカを、八虎は他人の目を気にしない人だと思っていた。しかし、その実ユカは他人の目ばかり気にしていたのだ。祖母が日本画を好きだからというそれだけの理由で本当は書きたくない日本画を選び、男子を好いていた方がわかりやすいという理由で「女装はしているが実は女子が好き」という複雑な感情を隠して生きていた。そして、自分で勝手にキャラ作りしてしまう気持ちが八虎には分かるのだった。

自分の裸を描き終えた2人は、海旅行から帰り駅で別れる。その後すぐに予備校へ向かい絵を描き始める八虎だが、その心は軽やかだった。ユカと向き合い、裸の自分と向き合ったことでどこか吹っ切れた八虎は、いよいよ2次試験に臨む。
2次試験当日、八虎の体は悲鳴をあげていた。受験教室へ行く階段で蕁麻疹と眼精疲労で動けなくなってしまう八虎。通りがかった世田介のこともすぐには識別できないほどである。そんな危機的な状態で始まった2次試験、その課題はヌードモデルだった。直前に自身の裸体を描いていた八虎は、ヌードモデルの課題にすでに向き合っていたことを幸運に思う。そして万全でない体調の中でもなんとか1日目の作業を終える。その日の夜に八虎に電話をかけた大葉先生は、体力的な限界を感じて今年の受験を諦めることを提案しようとするが、全く諦める気のない八虎に感心する。そして、薬で何とか症状を抑えて受験を続行出来るようにサポートする。

満身創痍で迎えた2次試験2日目。1日目の遅れを取り戻そうと思考する八虎だが、テーマがまとまらないまま昼休みに突入する。そんな時、八虎はふと森本先輩の言葉を思い出す。それは、八虎が初めて絵を描こうとしたときに言われた「あなたが青く見えるなら、りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」という言葉だった。この言葉を思い出し、自分から見える裸で良いと考えた八虎は、八虎にとっての裸をテーマにまとめて2日目を終了する。

2次試験最終日、八虎のテーマは完全に決まっていた。そして、描きながらもその過程で八虎はさらに自分を理解していく。自信はないけど傲慢で、この世界の誰よりも自分に期待している。そんな情けない、自分にとっての裸を八虎は描き切った。
何とか自分の答えを見出し、2次試験を終えた八虎に合格発表の日が近づく。そんなある日美術部顧問の佐伯先生に試験の出来を聞かれ、後悔はないと言い切った八虎を見て佐伯先生は安心する。そして、八虎は藝大合格を勝ち取った。一緒に受けたマキと悠は落ちたが、世田介は現役で合格する。マキはもう1年頑張ることを決意し、悠は多摩美術大学に進学する。こうして、予備校で共に過ごした仲間たちはそれぞれの道を歩み始める。

大学生活篇

新たな出会いと受験絵画の否定

無事藝大に合格した八虎と世田介は、入学式当日の昼間から酒を飲んでいる1年の花陰真里亞と出会う。八虎たちと同じ1年油画だという彼女に、大学でしかできない経験から何を感じ取るかが大事であるという助言を受け八虎のモチベーションが高まる。そして、入学式直後の油画科1年のオリエンテーションで、同じ1年でも花陰は博士1年の大先輩だったことを知る。そして早速、自己紹介を兼ねた作品紹介を行うことを告げられる。

絵で上位に入る自信のない八虎は、得意な人前での発表でいかに面白く自己紹介をするかを考え当日を迎える。しかし、他の人の発表を聞いて自分が見当違いだったことを知る。そこでは、自分が何を表現したいのか、どのような作品を作りたいのかを問われていた。何を表現したいのかが伝わらないという槻木教授の言葉に打ちのめされた八虎は、その気持ちを引きずったまま1つ目の課題である自画像に取り組み始める。
それでも何とか形にするべく大学で作業する八虎のもとに槻木教授が訪れる。その時、八虎は自分の自己紹介が教授の記憶に残っていないことを知る。入学早々他の学生や教授陣に圧倒され、押し潰されそうになる八虎だが、他の同期の表現方法を取り入れることで何とか自画像を形にする。しかし、付け焼き刃の技術で作ったため、作品が講評している最中に壊れてしまう。そして、教授陣からは評価すらしてもらえずに1つ目の課題を終えた。

自己紹介と1つ目の課題で完全に戦意喪失してしまった八虎に、2つ目の課題が出される。しかし、どこか気持ちを入れることができない八虎は、藝大生に会うことを避けるべく上野動物園に足を運ぶ。そこでばったり浪人した桑名マキに遭遇する。たまたま会ったマキに落ち込んでいることを見抜かれた八虎は、その理由をマキに尋ねる。そして、現役かつ首席で合格したマキの姉も入学後に苦しんでいたことを知る。教授陣が言った「受験絵画を捨てろ」という発言に苦しむ八虎の悩みは、マキの姉も経験していた。そして、そう簡単に捨てられるはずがないというマキの言葉に八虎は救われる。

さらに八虎は、受験中にずっとマキが戦っていた恐怖についても理解する。一度評価されると、「その期待を裏切りたくない」と変化をすることを恐れてしまう。一家全員が藝大出身という肩書きを持つマキだからこそ知っていた恐怖を、藝大現役合格という肩書きを持った八虎は理解できた。そして、そんなマキと話すことで八虎は自分の人生なのだからなんだってやっていいと思えるようになる。周りとの差ばかり気にして焦っていた八虎は、一度立ち止まることを決める。そして、まずは自分の好きを見つけようと少しずつ歩き始める。

2つ目の課題を進めるために油画科全員で江戸東京博物館を見学することになる。伝統芸能の敷居が高いと感じ、いまいち歴史に興味を持てないでいた八虎は、ガイドさんの知識によりそのイメージをガラッと変えられる。歴史の面白さに魅せられた八虎は意気揚々と課題制作に取り掛かるが、思いのほか進まない。猫屋敷教授は、かなり高い難易度の課題を八虎たちに課していたのだ。難しい課題に対し納得のいく進捗を産めなかった八虎は、そのまま中間講評に突入する。八虎は、これまで2回の講評で教授陣に相手にすらされなかったため一瞬怯むが、開き直って講評に臨む。しかし、そこで猫屋敷教授は八虎がどうしたら良いのか分からなくなっているところを言語化してくれたのだった。

文化祭と神輿制作

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