GIANT KILLING(ジャイアント・キリング/ジャイキリ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『GIANT KILLING』とは、講談社の『モーニング』で2007年より連載されているサッカー漫画。原案・取材協力は綱本将也、作画はツジモト。2010年にテレビアニメ化された。元スター選手の達海猛が低迷した古巣チームの監督に就任し、強豪チームを相手に"GIANT KILLING"(番狂わせ)を起こしていく。試合だけではなく、サポーターやフロント、スポンサーや日本代表など、プロチームを多面的に扱う。読者からは「サッカー漫画というよりJリーグ漫画」と言われるほど、細部へのこだわりが魅力的な作品だ。

『GIANT KILLING』の概要

『GIANT KILLING』とは、ツジトモと綱本将也(当初は原作、途中から原案・取材協力)により講談社の『モーニング』で2007年より連載されているサッカー漫画、及びそのアニメ作品。連載当初からの反響も多く、2008年宝島社「このマンガがすごい!2008」オトコ編6位、「第2回とらのあなコミック&ノベル大賞」を受賞し、2009年「このマンガがすごい!2009」オトコ編3位作品となった。第34回(平成22年度)講談社漫画賞一般部門を受賞している。アニメは2010年にNHKでテレビ放映された。略称は『ジャイキリ』。
編集担当者の吉原伸一郎によると、当初網本が考えた完成済みの原作第1話がすでにあり、面白い原作に合う作家を探していたところ別の担当者から作家のツジを紹介され、彼が原作に興味を持ったことが『GIANT KILLING』誕生のきっかけだという。

日本のプロサッカーチームETU(East Tokyo United)の元スター選手である達海猛(たつみたけし)が、低迷したETUの監督に就任し、育成した選手たちと共に強豪チームを相手に番狂わせを起こしてリーグ優勝へと導いていく。後半からは達海猛の後継者として椿大介(つばきだいすけ)の成長にスポットライトを当てて、代表戦での活躍なども描いている。
従来のサッカーマンガと違い、選手と試合といったフィールド内の出来事だけでなく、チームを取り巻く出来事も積極的に描いている。経営に苦しむフロントとスポンサーとのやり取りや、弱小チームのフロントを批判するサポーター、さらにサポーター同士のいざこざまでも取り扱い、細かく描写しているところが魅力的な漫画である。
漫画内でETU以外のチームはJリーグのプロチームの名称をもじったものを使用している。その影響かJリーグの試合でも複数回コラボ企画が行われている。また、サラリーマンからも人気があり、『ジャイアント・キリングを起こす19の方法』というビジネス書も発行されている。

タイトルの「GIANT KILLING」とは、「番狂わせ」「大物食い」を意味する言葉であり、主にスポーツ競技において、実力差がある格上の相手に対し、格下が勝利を挙げた場合に使われる言葉である。

『GIANT KILLING』のあらすじ・ストーリー

ETUに戻ってきた達海猛

日本のプロサッカーチーム・リーグジャパンフットボール1部所属のプロサッカーチーム・イースト・トーキョー・ユナイテット(ETU)には、かつて日本代表のスター選手であった達海猛(たつみ たけし)が所属していた。達海はイギリスのプレミアリーグへ移籍するが、活躍前に怪我で引退していた。引退後はイングランド5部のアマチュアクラブの監督をしているという話を聞き、低迷しているETUの救世主として迎え入れるためにGM後藤恒生(ごとう こうせい)と、会長の娘で広報の永田有里(ながた ゆり)はイギリスへ向かう。達海はアマチュアチームを率いて、FAカップベスト32という好成績をおさめていた。後藤たちが達海をETUの監督に迎えたいことを知ったチームのオーナーは、はじめは100万ポンド(約2億円以上)という法外な違約金を提示する。しかし日本でGIANT KILLING(大番狂わせ)を成し遂げたい達海の思いを知り、ETUに返すことに同意した。

監督として帰ってきた達海は、スポンサーの撤退や観客数減など経営的な危機を聞かされる中、まず手始めに今のチームの現状を調べ始める。ETUのサッカースクールにいる子供たちから意見を聞き、それをもとに過去の試合のビデオを見返しながら問題点を洗い出していく。
一方、町の人間も達海の復帰には賛否両論だった。彼の海外移籍と共にスタジアムから遠ざかっていた田沼吾郎(たぬま ごろう)は、達海の復帰に大喜びだが、ETUの代表的なサポーターグループ・スカルズは自分中心のチームを作ってもらいながら、海外からのオファーが来るとETUを見捨て移籍をしてしまい、その後のチームが崩壊する要因となった達海に批判的だった。チームの練習場に達海の監督就任に反対するバナーを多数掲げる。
練習初日。過去の成績や経験に関係なく、参加している選手全員に30mダッシュを何度も走らせ、タイムからスタメン候補と控え候補を分けて紅白戦をする。本来スタメンであったメンバーはほとんど控え組にまわる中、低迷期のETUを支えスカルズも唯一信用を置いている選手、ミスターETUこと村越茂幸(むらこし しげゆき)も控え組へ回された。彼らは達海率いる若手中心のスタメン組と対戦。見事に弱点を浮き彫りにされ完敗し、更に村越は長年務めてきたキャプテンからも外されてしまう。
村越との面談の中で達海は彼が背負ってきたものは本来監督が背負うべきものであり、村瀬に対して「いい監督に恵まれなかっただけだ」と言葉をかけた。これからは監督である自分が命懸けで半分背負うことを約束し、村越には余計な責任から解放され一選手として自分の武器となるものを模索していくようにと話す。

しかし、次第に主力選手の意識の変化や椿ら若手の成長によって大きく実力を伸ばし、上位争いに食い込むようになる。選手、監督だけなくフロント陣やクラブスタッフ、サポーターなど、町がサッカークラブの成長と共に、大きく変わり始めていく。

プレシーズンマッチ開幕

達海率いるETUの初戦は、リーグのプレシーズンマッチであり、カップ戦の初戦。相手は2年連続リーグ優勝チームであり、同じ東京を本拠地とする東京ヴィクトリー。達海は、キャプテンを村越からジーノことルイジ吉田(るいじ よしだ)に変え、レギュラーも大きく入れ替えてきた。ETUはキャプテンマークを付けたジーノをオトリに使い、新戦力で達海と同じ背番号7を背負う椿大介(つばき だいすけ)を中央に走らせ先制点を取る。一方のヴィクトリーは、エース持田連(もちだ れん)が活躍。椿のファールからフリーキックで同点に追いつかれてしまう。
後半戦は両者一歩も譲らず同点のままだったが、終了5分前に椿のミスに持田が押し込み逆転。ここまで試合を引っ張ってきた椿がミスで落ち込んだところに、村越が奮起。終了間際に、意地の一発を決め同点に持ち込んだ。翌日、村越を呼び出した達海は、自分の考えを伝えて改めてキャプテンに指名する。

リーグ開幕前に全チームの監督が集まり、記者向けにアピールを行うリーグ・プレス・カンファレンス。達海は選手として有名だったため、いろんな人から挨拶され、サービスとばかりに壇上でビッグマウスをぶち上げた。その後の監督会議を寝て過ごした達海は、1人の外国人監督に誘われて会場を後にする。その監督とは、日本代表のジャン・ピエール・ブラン監督だった。達海は相手の立場を知らぬまま、一緒に子どもたちのサッカーを観戦する。

リーグ前半戦の戦い

いよいよリーグ戦が開幕。ETUの初戦は、ジャベリン磐田(いわた)。選手全員がこれからの変化を予感しながら望んだが、4失点して敗退。次のサンアロー広島にも負けて2連敗。達海がこの状況で始めたのは、2人1組で行うサッカーテニスだった。練習中に遊び始めた達海に、抗議したDFの黒田と杉江はこれを無視し、スタメンを外されてしまう。しかし、2人は外から試合を見たことで自分たちの欠点に気づいた。これで戦う集団になれたという達海だが、開幕から5連敗を喫することになる。

5連敗後の次節は、名古屋グランパレス戦。名古屋の監督は、かつてETUの監督を務めて、2部へ降格させた不破(ふわ)。彼は名古屋の潤沢な資金でぺぺ、カルロス、ゼウベルトという3人のブラジル人を集め、自分の思い通りのチームを作り上げていた。
一方ETUでは、開幕からレギュラーになりながらも、活躍できていない椿が悩んでいた。椿はキャプテンの村越に相談に行き「チームのためより、自分のできることを頑張れ」と励まされて吹っ切れる。
ゲームが始まると、前半は予想通り名古屋のブラジルトリオが攻勢に出て攻め込まれるも、ETUの黒田と杉江の活躍で無失点に抑える。後半も同じ状態が続いていたが、名古屋は攻め手に欠ける。さらに前掛かりになったところで、ETUのカウンター。この試合走りまくって、調子が出てきていた椿が初ゴールを決める。試合に慣れてきた椿は、いよいよ本領発揮し、2点目のアシストも決めた。2‐0で、ETUは今季の初勝利となった。

ETUが札幌相手に、本拠地初勝利と2連勝を決めた頃、チーム1の点取り屋・夏木陽太郎(なつき ようたろう)が怪我から復帰してきた。今季ここまでレギュラーながらも、1得点のFWの世良恭平(せら きょうへい)は危機感を持つ。清水戦では、決定機にシュートを打とうとしたところで足を負傷し、退場。しばらく休場することになった。落ち込む世良だが、同じFWの堺良則(さかい よしのり)にアドバイスされて再起を誓う。次節の浦和戦では堺が出場するが、試合は後半まで0-0で拮抗したまま。達海はFWを堺から夏木にスイッチ。その直後にETUは失点するものの、即座に夏木が同点弾。華々しい復活を果たす。

清水戦から、4戦連続引き分けのETUは、次節の新潟戦で負けを喫する。同じ頃、次節の相手である首位の大阪ガンナーズは、8-0と豪快な勝利を収めていた。強い相手に燃える達海は、大阪のダルファー監督が得意とする、FW4人の超攻撃的布陣に対抗する方策を選手たちに伝える。ゲームが始まると予想通り攻め続ける大阪と、守るETUの形になる。大阪はFWの中で1番目立たない窪田晴彦(くぼた はるひこ)が攻撃の鍵を握っており、前半に2点を奪われてしまう。後半に入ると、達海の仕掛けが効いてきてETUも反撃に出る。しかしFWの夏木が絶不調。色々吹っ切れた夏木のシュートを、赤崎が押し込み1点差。ダルファーは自分の哲学を曲げて選手の交代を行うが、ETUの勢いに押し負け、さらに2失点したところで試合終了。ETUにとって数年ぶりとなる逆転勝利となった。
フリーのサッカーライター・藤澤圭(ふじさわ かつら)は、大阪との試合直後に椿と接触。単独インタビューに成功する。しかし人見知りで会話が苦手な椿の話に要領を得ず、椿からもらった情報を元に、これまでの足跡を辿ることにした。最初に訪ねた椿の実家で、彼の原点である小学校が廃校となっていることを知る。何とか教師を突き止めると、小学校でサッカーを教えたのは椿であり、彼を中心に学校全体がサッカーに夢中になったという経緯を知る。その後中学、高校とサッカー部に取材した藤澤が聞いたのは、目立たない椿のいい人エピソードと、運に恵まれた話だけだった。しかも、最後を締めくくるはずのETUのスカウト笠野(かさの)には出会えずに、取材は中断することになった。

ETUのMFである赤崎が五輪代表に選出。これを皮切りに、チームでは疲労やイエローカードの累積で、出場選手の入れ替わりが激しくなった。そんな中、次節の川崎戦で村越とジーノの欠場が確定する。
達海は川崎戦前にカレーパーティーを計画する。選手とフロントを巻き込んで、地元住民たちとの交流会。この様子を見せて、全員が一体となってチームとして戦うのが大事だと後藤に伝える。
ネルソン監督率いる川崎は、八谷渡(はちや わたる)を中心に、FWのロドリゴと姜昌洙(カン・チャンス)、日本代表のGK(ゴールキーパー)でもある星野克弘(ほしの かつひろ)と若いメンバーを揃えていた。対抗するETUは、1日キャプテンを任された椿こそ20歳だが、それ以外は30代のベテランメンバーをずらりと並べた。
川崎が先に先制。キャプテンのプレッシャーもあり不調の椿は八谷に抑え込まれるが、途中から吹っ切れて、本来の力を見せ始める。結果的に2-1と敗戦したETUだが、手応えを感じる一同。次節から調子を上げて連勝する。

夏場の中断期間前、前半最後の相手はヴィクトリー。同じ東京同士のこの戦いは「東京ダービー」と呼ばれているが、この10年間ETUは1勝もしていない。今季は連勝で波に乗るETUに対して、ヴィクトリーは持田の怪我による欠場もあり、ここ数試合不調が続いている。
試合が始まると、前半の早い時間帯に椿が先制ゴールを決める。そこからは、膠着状態が続く。試合が動いたのは後半20分、ベンチスタートだったエース持田が戦線復帰してからだった。ヴィクトリーが持田を中心に勢いを取り戻し、結果同点に追いつく。その後も両者譲らず結果はドロー。
終了直後、サポーター同士の揉め事が発生。達海の監督就任で、サポーター活動に復帰した田沼吾郎(たぬま ごろう)たちが、ETUの巨大サポーター「スカルズ」と一触即発の状態になる。それを見ていた田沼の息子の幸太(こうた)が呆れ、以降吾郎と一緒に応援するのを止めてしまう。

夏の中断期間のチームの動向

リーグ戦中断期間に入り、オールスターゲームが開催される。対戦するのは、日本人選抜チーム対外国人選抜チーム。日本の監督はヴィクトリーの平泉(ひらいずみ)で、外国人の監督はガンナーズのダルファー監督。達海は日本人選抜のコーチとして出場となる。
始めはお祭りだと気楽に構えていた達海は、自分より年上で未だに現役のケンケンこと古内健(ふるうち けん)や、同じくコーチで参加していたモンテビア山形のサックラーこと佐倉ひとし(さくら ひとし)と交友を深めていた。だが外国人選抜が先制し、ダルファーから挑発されて火が点く。平泉の提案もあり、ハーフタイムの指示を出すことにした。後半、ダルファーの作戦は達海の読みどおりで、達海が指示した日本人選抜が圧倒する。
オールスター明けのETU練習日。右SBの石浜修(いしはま おさむ)は、ヴァンガード甲府からの移籍オファーがきたことを選手たちへ伝える。同期で仲のいい清川和巳(きよかわ かずみ)も、初耳でショックを受ける。翌日、石浜から移籍の意思がないことを知り安心する一同。しかし石浜は達海に呼び出された。達海は甲府の戦術、石浜に足りないもの、自分が石浜をどう育てようとしているかなどを話した後、プロとしての考えを伝える。石浜は自分を厳しい環境におくことでレベルアップする可能性にかけ、甲府にレンタル移籍を決める。

新聞に横浜マリナーズ監督の元木(もとき)解任の報道が流れる。これをきっかけに、達海はETUの永田(ながた)会長と今後について話し合う。翌日、達海はETUの旅人こと、元GMで現スカウトの笠野(かさの)に会っていた。
10年前、達海はETUのエースとしてチームを率いながら、日本代表でも存在感を強めていた。しかし存在が大きくなりすぎて、ETUに悪影響が出始めていた。その状態を見た笠野は、達海にイングランドのプレミアリーグへ移籍を勧め、ETUは自分が守ると請け負った。しかし2人の約束は守られることなく、達海はプレミアデビュー戦が現役最後となり、笠野はGMを退いた。
笠野は過去のことを謝罪するが、達海は未来について話し合いに来たという。もっとフロントに積極的に関わって欲しいという達海に、遠慮する笠野。しかし最後は達海の説得が実り、笠野は達海と共に会長たちの元へ向かった。

夏のキャンプ練習が始まった。達海は港経済大学チームの監督として登場。ETUと練習試合を始めるが、選手たちに普段のポジションにつくことを禁止した。そんな中達海は、新戦力のガブリエルと殿山充(とのやま みつる)を、港経大のチームに混ぜてテストをしていた。無事合格した2人は、翌日からETUの新メンバーとしてチームに参加する。
その頃、キャンプに取材で来ていた藤澤は、積極的に顔を見せるようになった笠野を紹介してもらう。自分がまとめた椿大介の記事を読んでもらい、笠野の感想を聞いて取材を行う。こうして完成した椿の特集記事。藤澤は発表するために、椿の活躍を待ち望むことになる。

リーグ後半戦のETUの戦い

リーグの後半戦が開幕。ETUは初戦、現在2勝1敗のFC札幌とアウェーで対戦する。達海は、レギュラーメンバーを大幅に入れ替えた。そのことにETU番記者の山井(やまい)は不安を語る。前半の開幕戦でも、アンラッキーな失点からズルズルと崩れて負けたETUを思い出し、達海への批判を強める山井。
一方、フリーの藤澤はスタンドで観戦するベンチ外の選手が、メッセージを掲げている姿を発見した。選手たちが自主的にメッセージを伝えていることを知り、達海を中心にチーム一丸となっていることを実感する。
結局試合は3-1で危なげなく勝利。しかし何年も裏切られてきた山井は、まだ信用するのは早いと首を振る。

札幌での結果を知り喜ぶ、ETUサポーターの吾朗。息子の幸太は、吾郎との観戦は二度と行かないと拒絶し、子供だけのサポーターを結成していた。
ホームでの神戸戦、子供たちだけで観戦に行っていた。五郎の前に、久しぶりに観戦に行くという仲間のタケ坊が現れる。2人は一緒にスタジアムに行き、着いたときはまだ0-0の状況だった。
ピッチの状況は雨まじりで、ファウルも多く審判の判定もおかしい荒れ模様だった。苦手な雰囲気に油断した椿は、一瞬のスキをつかれる。敵がゴール前までボールを運びシュート。しかも接触したGKの緑川(みどりかわ)が負傷退場する。責任を感じてますます動きが悪くなる椿だが、村越に活を入れられ復活する。走り出した椿にサポーターの声が届く。
試合は清川のゴールで追いつき1-1の引き分け。だが試合後、椿がサポーターたちの元に来て、感謝の言葉をかけた。
緑川は、全治3ヶ月で今季は絶望的となった。おまけに次節は、椿が累積による出場停止となる。相手の山形の監督は、オールスターで一緒にコーチをした佐倉。達海は佐倉が漏らした「サッカー観が似ている」という言葉と、椿から聞いた印象をもとに、山形の戦術を解き明かす。
前半、固い守りの山形を必死で攻め続け、膠着状態のまま前半が終わるかに思われたが、FWの世良が先取点を奪う。ハーフタイムになり、佐倉はMFの小森(こもり)を軸として攻撃を組み立てるアイデアを実行に移した。
後半、佐倉の策を達海は読んでいた。小森が自由に動けないようにケアして、望む形になかなか移行させない。だが疲労で動きが鈍ったMFの堀田(ほった)が交代前にレッドカードで退場。そこからETUの隙を突き、山形は同点に追いつく。ピンチのETUは、新戦力の殿山とガブリエルを投入。ロスタイム終了直前にPKをもぎ取り、これをジーノがゴールして勝利した。

ETUのメインスポンサーである大江戸通運の副社長は、以前達海に「チームの価値は自分でスタジアムに来て、肌で感じるものだ」と言われていた。その言葉を確かめるためか、ホームでの対川崎戦に1人で観戦に行くと連絡する。
約束通り副社長が来場した川崎戦は、4-2で川崎に勝利した。関係者席で観戦した副社長は、試合を見ながらいくつも厳しい質問を投げかけた。しかし笠野が対応していくと、やがて態度を軟化し、笑顔でスタジアムを去っていった。
観戦席では、1人応援に来ていた吾郎が仲間と再会。10年前一緒に応援していた、じーさん達にも出会う。しかも彼らは10年間ETUを応援し続けていた。自分より応援熱が高い、じーさん達に吾郎は圧倒される。

副会長の所に、羽田(はた)率いるスカルズがやってくる。「一度ETUを見捨てた、達海や笠野に頼るやり方が気に入らない」と、副会長と言い合いになる。そこに達海がやってきて、ケンカを丸く収める。次節、千葉に向かう直前、羽田から連絡がある。内容は羽田を含むスカルズ上層部の当分の活動自粛の申し出だった。その頃吾郎は、じーさん達に呼ばれてETUの応援に行っていた。スタンドでの仕切りを任され、またスカルズと揉め事になるかもしれないと吾郎は不安になる。
試合後半、吾郎の仲間と留守を任されていたスカルズのメンバーが揉め始める。吾郎は逃げ出そうとしたが、別に応援に来ていた幸太が目に入る。そして揉め事を止め、自分がスタンドを仕切ると名乗り出る。吾郎の仕切るスタンドの大声援に押され、ETUの選手たちも躍動し始める。試合は2-1でETUが勝利した。

五輪代表に選出された椿

千葉戦を終えた後、フロントはスカルズと歩み寄ることを決め、浅草の花火大会に羽田を誘う。当日、花火の前にU-22の五輪代表合宿のメンバー発表があった。ETUからは、赤崎と椿が選ばれた。そのニュースを話し合いながら、羽田と笠野、永田会長は花火を楽しむ。

椿は初めての日本代表に、他の選手たちの仲のよい雰囲気や、日本代表の心得を話す剛田(ごうだ)監督の言葉にプレッシャーを感じる。しかし、大阪ガンナーズの窪田との出会いで一変する。椿は波長があった窪田と仲良くなり、練習でも息のあったコンビを見せる。

オリンピック出場をかけた最終予選第1戦。日本はホームでウズベキスタンを迎え撃つ。日本代表は10番の細見(ほそみ)を中心に、前半から1点を奪う。しかし後半に1点を奪われ追いつかれる。剛田はここでボランチに椿を投入する。椿は自慢の足と運動量で攻守に走り回り、試合のペースを日本に引き寄せる。
オランダでプレーしている細見は、この試合で初めて椿の本番での強さを見せられ、周りを巻き込む存在感を知る。五輪代表チームの中心が、自分から椿に変わろうとしていると予感を覚える。試合は椿が相手のファウルでPKをもぎ取り、細見がそのPKを決めて2-1でウズベキスタンに勝利した。

第2試合は、アウェーでカタールと対戦。試合は、椿の1ゴール1アシストの活躍もあり圧勝。逆に赤崎は、試合がほぼ決まった後半に出場するも、決定機を外し落ち込む。もう一度ETUで活躍し、五輪代表に戻ってくると誓う。

ETUに訪れた第2の変革期

ETUに戻ってきた赤崎と椿が見たのは、ジャパンカップの鹿島戦で4-0という敗退シーンだった。これでジャパンカップは敗退したETUは、リーグ戦に集中することになる。
翌日の練習で、達海から次節の浦和戦までに切り替えろと言われる選手たち。練習後の選手同士の話し合いも険悪なムードが漂っていた。言い合いの中で丹波(たんば)と村越は、チームをまとめようとする。
その頃、吾郎も落ち込んでいた。スカルズの代理としてサポーターのコールリーダーを勤めていたが、カップ戦の大敗に心が折れたことを気にしていた。そんな吾郎の元へ、スカルズの羽田が訪ねてくる。羽田は吾郎のサポーターのまとめ方を見て、一緒に手を組もうと考えたのだ。その場面を目にして興奮する幸太。男3人で盛り上がる様子に、吾郎の妻も今シーズンだけと許可する。
浦和戦。ETUは達海の懸念通り、浦和に押され続ける。結局試合は1-0で浦和に敗北する。試合後、達海はサポーターの前に現れ、不甲斐ない敗北の責任を謝り「必ず借りは返す」と宣言して立ち去った。

翌日の練習で、選手たちが目にしたのは、グラウンドでボールを蹴る達海の姿だった。後藤は「達海の現役復帰が本気なのか」と驚く。村越が理由を聞くと「使える選手が少ないから」だと挑発する。達海のテストを5対5のミニゲームで行うことになった。
公表しないと約束して見ていた記者やフロント、参加しない選手たちは、達海の現役さながらの動きに興奮を隠せない。しかし終盤残り3分、達海の羽が生えたようなプレーは消え失せ、立っているだけでもふらつくようになる。終了後、グラウンドに仰向けになった達海は、正式に引退を表明。同時に自分の思いを語って聞かせる。
松原(まつばら)コーチに背負われて達海がグラウンドを去った後、杉江がみんなの前で自分の思いを語る。「これからチームとして次のステップへ進もう」というその言葉に、村越は自分が足を引っ張っていることを自覚する。村越は達海にキャプテンマークを返上し、次に託したいと申し出る。

名古屋戦の試合前ミーティングで、杉江がキャプテン、丹波と赤崎を副キャプテンに据えることも決まった。
不破は希望通りの選手をクラブから獲得してもらうが、成績が芳しくない。そのため徹底的に守りを固め、攻撃をブラジルトリオに任せるという、完全な攻守分業制で戦う。それでもETUは攻撃に人数をかけ1点先制。だが、この試合ブラジルトリオのぺぺが絶好調で、一気に2点を奪って逆転される。好調なぺぺを止められず、黒田がファウルでPKを献上。さらにレッドカード退場となり、2点差に引き離された。さらに守りを固める名古屋だったが、夏木、ジーノの活躍で同点に追いつく。最後にバテバテだと思っていたガブリエルが来日初ゴールを決めて逆転。1点差を守りきりETUは勝利をつかんだ。

名古屋戦終了後、達海は選手たちに「タイトル獲りに行くぞ」と伝える。そしてそれを記者たちの前にも公表した。それは現在首位の大阪に、勝つことを目指す言葉でもある。アウェー大阪の地で、日本代表両監督ブランと剛田が見守る中、試合が始まる。
前半、ETUがパスを繋いで前線の夏木に回してゴールを奪う。後半まで1-0のままだった試合は、太もも裏を押さえて倒れたガブリエルと世良が交代。それをきっかけに大阪は流れを掴み同点にする。達海は清川、ジーノと続けて投入して攻撃の流れを作り、椿が後半30分にシュートを決める。残り15分、ここで窪田にエンジンがかかり、残り6分で大阪に追いつかれてドローで終了。達海にも選手たちにも、悔しさが残る試合だった。

日本代表として世界に挑む椿

大阪戦終了後、国際親善試合のための日本代表選出が行われた。監督のブランは、いつもの日本代表メンバーに加え、椿、窪田、小室など、U-22の代表メンバーも選出した。
代表合宿では、日本代表の中心メンバーである海外組が登場。ブランは、ゲーム形式の練習を指示する。Bチームのボランチについた椿は、代表のレギュラーに食い込むために全力で挑む。しかしマッチアップの相手である10番花森(はなもり)は、椿のプレッシャーなど気にもとめず、逆に格の違いを見せつける。

国際親善試合の第1戦となるスコットランド戦、椿はベンチスタートだった。活躍する花森たちや、スタジアムの雰囲気に圧倒され自信を失う。出場機会が訪れなかったことに、椿は悔しい気持ちで一杯だった。結局試合は、3-1で日本代表が勝利した。
試合後、椿は窪田の部屋を訪れ、代表初出場を祝う。しかし窪田から、椿が試合後苛ついていたことを指摘された。窪田は「椿は口では自信ないと言うが、本能では自分がやれると思っている」と教えられ、椿の中で新たなスイッチが入る。次戦のウルグアイ戦に向けた練習に対して、自分の全力を出し切る。

親善試合の第2試合の相手はウルグアイ。敵監督のペーニャとブランは因縁があり、全力で日本代表を叩き潰すという。日本は序盤ウルグアイから先制されるが、早い時間に同点に追いつく。しかしすぐさまウルグアイの10番アルバロがシュートを決めて突き放す。
後半、海外組の桐生(きりゅう)とアレックに変わり、椿と窪田が出場した。レベルの高い世界のピッチに面白さを感じる椿。ついに日本は同点に追いつき、椿は感覚が研ぎ澄まされていくが、試合は同点のまま終了する。終了後、椿と窪田にアルバロが近づいてきて、ユニフォーム交換を申し出る。アルバロはオリンピックで会おうと告げて去っていく。

椿の代表明け、今季残り8試合の相手は横浜マリナーズ。圧勝の展開と思われたが、試合は後半3-1から終了間際に横浜に点を入れられ僅差の勝利となる。だらしない選手たちを引き締めようとした達海だが、翌日は椿と赤崎が五輪代表選出で離れ、さらにFWの夏木が日本代表に選出される。藤澤の温めていた椿の特集記事が雑誌に掲載されたりと、クラブにとって嬉しい出来事が続き、チーム全体が浮足立っていた。

次節の相手、甲府ヴァンガードは石浜が移籍したチーム。同期の清川は試合前に石浜と連絡をとっていた。石浜は「ETUは、恵まれた環境で甘い」と清川に厳しい言葉を伝える。清川はその言葉に1人発奮する。
しかしETUはチーム全体が緩んでいた。前半、守りを固める甲府を攻めあぐね、逆にカウンターを食らって1失点。そのまま前半終了してしまう。清川はチームの不甲斐なさに、悔しさをぶちまける。達海の言葉もあって、気合を入れ直したETUは後半に4得点を上げ、4-1で甲府に快勝する。
その頃、五輪代表に選出された椿と赤崎は、最終予選のベトナム相手に2連戦を戦っていた。ホームでは2-0で勝った日本だが、アウェーでチームの中心の細見と大谷が負傷退場。椿も慣れない過密日程で動きが鈍っていた。1点ビハインドの状態が続いていたが、何とか1-1の同点のまま引き分けた。これでまた五輪代表は一旦解散となり、2人はETUに合流することになる。

アジアカップ前の最後の親善試合。ブランが代表に集めたのは、日本で元気のある選手だった。持田は「自分が圧倒的に活躍しなければ、二度とブランから呼ばれない」というと、ピッチで文句のつけようがない活躍を見せる。反対に夏木は日本代表のピッチで、大チョンボとなるバックパスを見せてしまう。これがフリーキックとなり、持田が直接決めたことで日本代表は3-0の勝利。ブランも持田に文句なしのコメントを残し、次の日の新聞も持田一色となる。

『GIANT KILLING』の登場人物・キャラクター

主要人物

達海 猛(たつみ たけし)

CV:関智一
本作の主人公でETUの監督。35歳。身長175cm、体重60kg。通称は「タッツミー」や「タッツ」。飄々としており、一見いい加減で常識はずれ。寝坊や遅刻の常習犯で、人の話を聞かないなど多数の欠点を持つ。また、「何を考えているかわからない」と言われることが多い。「弱いチームが強い奴らをやっつける」ことと、「サッカーは騙しあいのスポーツ」を信条としている。

イギリス5部のアマチュアチーム「FCイーストハム」の監督として、FAカップでベスト32にまで導いている。ETUの監督就任直後に日本代表のブランと対等に戦術を語り合っており、能力の高さがわかる。
現役時代からフィールドを上から見ているような俯瞰能力があり、監督としての才能があった。プレイヤーとしても一流で、田沼吾郎いわく「王子と椿を足して2で割ったような選手」
高い分析能力を持ち、相手の弱点を見つけて、そこを攻撃することに長けているため、敵の監督からはしばしばリアクションサッカーと捉えられている。しかしその分析能力で味方選手の育成も成功しており、勝利と育成の両方で成功している。
弱いチームで強い相手を倒すことに喜びを見出すタイプで、チーム選びの根幹になっている。そのことに一部気がついている人から、長くETUの監督を務めることはないと思われている。

ETUでの現役時の背番号は7(新人時代は24)。好きな食べ物はドクターペッパーと卵サンド。また、コアラのマーチ、スティック菓子、リーグジャパンチップスなど、菓子類もよく食べている。

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監督視点でサッカーを描く漫画『GIANT KILLING(ジャイアント・キリング)』の名言まとめ

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スポーツ漫画といえば選手を主人公として作品が多いが、サッカー漫画『GIANT KILLING(ジャイアント・キリング)』は監督が主人公という異色作だ。試合展開だけでなく、サポーターやフロント、スポンサ、日本代表など、多面的にサッカー界を描く。ここでは『GIANT KILLING』の名言・名セリフ/名シーン・名場面をまとめた。

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