『Dreams』の変化球は実際に投球可能か考察してみた

原作・七三太郎、作画・川三番地による野球漫画『Dreams』。超常的な魔球や、驚異的な身体能力を持つ人物・キャラクターが登場し、試合描写の詳細さが評価されている作品だ。ここでは、主人公久里武志の「バクボールシリーズ」と「爆ボール0」、神戸翼成の生田が投げる「魔球KOBE」、私徳館の名倉の「魔球1.7」など、多彩で個性的な変化球が実際に投げられるのかについて、変化球の原理と既存の変化球を照らし合わせ、考察していく。

上が生田庸平。

魔球1.7

神戸翼成の生田は、「魔球KOBE」を操る。この球は回転数が極端に少なく、空気抵抗を操り、左右に揺れる「ナックルボール」に近い。しかし、現実の野球のナックルボールは、100~120kmの球速だが、生田の魔球KOBEは140~150km台の球速がある。
このボールを投げるには、強靭な指の力が必要となるため、原作では高速回転しているバイクの後輪を指で止めるという、何ともイカれた練習を行っている描写があった。

どんなに速くても120~130km台ではあるが、実際に高速ナックルを投げる投手は存在する。有名な選手は、最多勝を獲得したトロント・ブルージェイズのR.A.ディッキーや、ボストンレッドソックスのスティーブン・ライトなど。日本球界にも元千葉ロッテマリーンズの小宮山悟が投げるシェイクや、中日ドラゴンズの岩田慎司のマジカルフォークなど、見た目や軌道が似た球を投げる投手はいるが、ナックルとはまた違う球である。
ナックルボールはまるで動物のように動く球で、制球が定まらない上にキャッチャーの捕球も難しいという難点がある。現実の野球では、「魔球KOBE」ほどの球速を出すことは難しい。

「魔球1.7」の「1.7」とは、打者が打つ際にボールを認識し、打つことが出来る限界の距離、1.7mを指している。この魔球は打者の1.7m手前から変化する球、つまり通常目で認識出来ないボールなのである。その上、変化は風を利用するため、予測もすることも難しい。更に、これを投げる私徳館のエース・名倉は、アンダースローで球速150kmも出せるといった化け物なのだ。
この変化球を投げれる投手は、存在しないだろう。元阪急ブレーブスの山田久志が唯一、アンダースローで150kmを超えるようなボールは投げていたが、本人曰く、純然たるアンダースローではないとのことだった。
「魔球1.7」を投げる条件は、まず風があること。そして、投げる球の回転数が少ないことが基本となる。端的には、アンダースローからのナックルボールといったところだろうか。しかし、この変化球の醍醐味は、打者の1.7m手前から変化するということである。理論上は不可能だ。
本作ではこのボールを打たれた名倉は、後に「ネオ魔球1.7」というボールも投げている。これはキャッチャーのハンコが、風を読むことが出来るため生まれた変化球であることが明かされた。つまり、風を読んで意図的に風が吹く時に投球させ、尚且つ、ストライクが入らないといけないという、実現不可能な変化球となっている。
本作独自の本物の魔球である。

ステルスボール

上が首里城きらり。

首里城きらりの投げる「ステルスボール」。
「ボールがそこにあって、そこにない」というのが変化球の名の由来だそう。プロ野球の世界では、投げるモーションや投手の癖が命取りになることがある。しかし、モーションが全て一緒で、癖もなければ、予測でしか打てない。しかも速球は150kmを超え、オーバースローとアンダースローを使い分けながらの投球になると、更に予測は困難になる。このボールは、変化球というより、投球術といった方が正しいのかもしれない。何よりも、女性ならではのしなやかな柔軟性をもっていなければ、投げることは出来ない球である。
プロ野球では、このような特技を「球持ちがいい」「ディレイドアーム」という。モーションが一緒で癖もない。そのうえ、球持ちがいいため、ボールを投げる際に、ボールが手から離れる瞬間である「リリースポイント」が遅いとなれば、どこのコースに投げてくるか、速球や球種、ストライクゾーンに入っているかをすべてを予測し、バットを振るしかない。

ただ、プロと言われる選手のほとんどが、こういった投球術を練習しているわけで、打者からすると対策を練られたうえで相手の癖を見つけたりするのだ。それを踏まえると、決して投げられない変化球ではない。野球におけるタイミングが、どれだけ重要かわかる変化球だ。

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