エースをねらえ!(山本鈴美香)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

「エースをねらえ!」は山本鈴美香による日本の少女漫画。集英社「週刊マーガレット」に連載された。少年少女を中心にテニスブームを巻き起こしたスポ根漫画として知られている。アニメ化、映画化の他に、上戸彩主演でテレビドラマ化もされている。テニスの才能を見出されたひろみが厳しい練習に耐えながら一流選手目指して練習に励む、恋と青春の物語。

『エースをねらえ!』の概要

「エースをねらえ!」は山本鈴美香による日本の少女漫画。集英社「週刊マーガレット」に1973年2・3合併号より連載が開始され、1975年5号まで掲載され一旦完結した。その後、アニメ版第1作の再放送による人気上昇を受け、1978年4・5合併号から1980年8号まで第2部として連載された。
福田雅之助の名言「この一球、絶対無二の一球なり」という言葉が作品中によく使われており、この漫画により福田の名言がより広く知られるようになった。
また、実在の選手たちのエピソードも作品内に多く取り入れられており、実在の選手と主人公ひろみが試合を繰り広げる話も入っている。
単行本は全18巻。中公コミックスーリ愛蔵版(中央公論新社)として全4巻。その後、中央公論新社よりコミック文庫化全14巻。ホーム社(発売:集英社)からコミック文庫全10巻として刊行されている。

竜崎麗華(通称:お蝶夫人)に憧れ、名門・県立西高校テニス部に入部した岡ひろみは、新しくコーチに就任した宗方仁にその才能を見出され、1年の新入部員であるにも関わらず選手に抜擢された。宗方による厳しい特訓と部内で先輩たちからいじめを受け、苦しい日々を送る。しかしこれらの苦難を乗り越えテニスの素晴らしさを知り、一流テニス選手へと成長していく物語。宗方コーチとの子弟の絆、藤堂貴之との恋愛なども描かれている。

『エースをねらえ!』のあらすじ・ストーリー

お蝶夫人とのダブルス優勝

岡ひろみはテニスの名門・西高等学校の1年生。テニス王国と呼ばれている西校では、ひろみが憧れてやまない竜崎麗華(りゅうざき れいか 通称:お蝶夫人)や藤堂貴之(とうどう たかゆき)、尾崎勇(おざき ゆう)など名選手が数多く活躍している。慕っているお蝶夫人からテニス部に誘われ入部してみたものの、ひろみのテニスの腕はあまり上がらない。それでもお蝶夫人に手取り足取り一からテニスを教わり、いつしかプレイまで似るようになった。ひろみはお蝶夫人から妹のように可愛がられ、毎日を楽しく過ごしていた。

新人のコーチである宗方仁(むなかた じん)は、強豪揃いの西校テニス部の中であまりに下手なひろみにかえって注目するようになる。宗方はひろみの無垢な才能に将来性とスケールの大きさを感じ、あえてレギュラーに抜擢した。レギュラーになれるほどの実力が足りないひろみは嫉妬を受け、部内で孤立していった。お蝶夫人でさえも宗方に目をかけられるひろみが許せず、選手を辞退するように言う。ひろみは宗方に辞退を願い出るが、それは認められなかった。そして、ひろみは宗方と厳しい特訓の日々を過ごした。

ひろみは部内でのいじめと宗方の厳しい特訓に耐えられず、コートで一人泣いていた。そんなひろみを、男子テニス部副キャプテンの藤堂は優しく励ます。藤堂を密かに想っていたお蝶夫人は、ひろみと藤堂が近づくことを苦々しく思い、ひろみに自分かテニスかどちらかを選べと宣告した。ひろみはテニスを辞めれば辛い毎日から解放されると思い、とうとう宗方に退部届を提出した。

テニス三昧だった毎日から解放され、お蝶夫人とも元の姉妹のような関係に戻れたものの、ひろみの気持ちは晴れない。心に穴があいたようで日々の暮らしを楽しめなくなっていた。退部して4日目、どうしてもテニスが恋しくなり「なぜテニスを辞めてしまったのか」とひろみは後悔していた。練習後の誰もいないコートに入り、今更遅いと思いながらもサーブを打ってみた。そこへ宗方が現れ、ひろみのサーブの指導を始めた。「いいかげんお蝶から離れたらどうだ。お蝶夫人のプレイを真似していてもそれ以上のプレイはできない」と宗方はひろみを諭し、ひろみが部に戻ることを許可した。

部に戻ったひろみに先輩たちは相変わらず厳しく当たるが、テニスができない辛さに比べたら何でもないと、ひろみは前向きに変わっていった。宗方の特訓も厳しさを増すが、ひろみは懸命に食らいつき、凄まじい速さで上達していく。

県大会団体決勝、ひろみの相手は名の知れた選手・日向綾。重いサーブに苦戦し、途中ボールが目に当たるというアクシデントに見舞われながら、ひろみは最後まで諦めずに日向に食い下がった。朦朧としたまま試合を続け、ひろみは勝利した。試合終了直後、ひろみは倒れてしまった。お蝶夫人や藤堂、尾崎はひろみの成長の速さに驚愕した。

個人戦決勝ではお蝶夫人と加賀高校の緑川蘭子(みどりかわ らんこ)が当たる。蘭子の長身から打たれるサーブの強さは計り知れず、お蝶夫人は苦戦を強いられた。しかし、お蝶夫人の打った低いボールを打ち返そうとして蘭子はコートに手を打ちつけ、大怪我を負ってしまった。そのため蘭子は棄権し、優勝はお蝶夫人となった。

西高テニス部は関東大会に進み、新たにダブルスのメンバーが発表された。宗方はお蝶夫人とひろみをペアに指名した。お蝶夫人は抵抗するが、宗方は「お蝶になら岡が理解できる、岡ならお蝶に応えられる」といい、ペア解消を認めない。ダブルスの練習を始めても2人の息が合わず、ひろみはミスを連発する。お蝶は苛立ち、部内でもひろみへの批判が日に日に増していく。

落ち込むひろみの前に蘭子が現れ、ひろみが嫌がらせを受けていると知ると、「ひろみには人を追い抜く力があるのだから、抜かれる側との摩擦があるのは当然だ」とアドバイスを送った。怪我で2か月もテニスができない蘭子の苦しみに比べたら、人からの批判などなんでもない事だと励まされ、ひろみは練習を続ける決意をした。ひたむきに練習を続けるひろみの姿にお蝶も態度を軟化させ、コート外でひろみの悪口を言う部員をたしなめるようになっていた。

関東大会1回戦、初めてのダブルスの試合でひろみは緊張し、ミスを連発。第1セットを落としてしまった。外野はひろみに野次を飛ばし、ひろみはさらに動揺してしまう。するとお蝶が外野を叱責しひろみを庇った。お蝶は「自分はひろみの味方である」とひろみを諭し、落ち着かせた。ひろみはお蝶の言葉を受けて落ち着きを取り戻し、粘り強いプレーを続けて勝利をもぎ取った。

ひろみとお蝶のダブルスは準決勝に進んだ。1回戦でひろみは膝を負傷しており、棄権を危ぶまれた。しかし続行を決め、辛くも準決勝に勝利した。決勝戦はシーソーゲームが続いた。それでも最後はお蝶の気迫に相手チームがのまれ、ひろみ達は大接戦の末に勝利を勝ち取った。ひろみとお蝶のダブルスは関東大会優勝となった。しかし、お蝶の貢献が大きい中での優勝だったので、ひろみへの風当たりは相変わらず強いままであった。ひろみは来年こそは実力差を縮めて、自分の力で優勝しようと決意を固めた。

全日本ジュニアメンバー選抜

ひろみは進級し2年生になった。関東大会のダブルスで優勝したことにより、ひろみに注目が集まるようになっていた。しかし、テニス部の人間は「ひろみの優勝はお蝶夫人の力である」といい、ひろみが騒がれることに憤慨していた。ひろみ自身も自分の実力不足を痛感し、さらにひたむきに練習に励むようになっていた。

そんな中、西高応接室に藤堂・尾崎・竜崎・緑川・岡の5人は呼び出された。彼らは日本庭球協会から、全日本ジュニアチームの1次メンバーとする旨の通達を受けた。
空前のテニスブームが来ており、世界に通用する選手を育てるために庭球協会は動き出した。1次メンバーは各県より4名ずつ選出され、段階的な選抜を経て最終メンバーが決定される。全日本ジュニアメンバーには専属コーチが付くことに加え、海外遠征などの英才教育も受けられる。ひろみは宗方が強力に推薦し、例外として5人目のメンバーとなった。

1次メンバー招集の前に、2県合同の練習を行うことになった。お蝶と蘭子はかつて蘭子の怪我でうやむやになった試合の続きとばかりに試合をし、その実力を周囲に知らしめた。ひろみはお蝶や蘭子のプレーを見て自分との差を痛感し、宗方に自ら教えを請う。宗方とひろみが目指すテニスはパワーテニス。女子が男子並みの体力と技を得るためには凄まじい努力が必要となる。選手本人の努力はもちろん、育てる側も大変な苦労を強いられる。それでも宗方はひろみにパワーテニスを身につけさせようと精神を支え、身体を鍛え、情熱的にひろみを育てた。

西高の軽井沢合宿が始まった。アクシデントで川に落ちてしまったひろみは藤堂から着替えを借りることになり、藤堂を異性として意識してしまう。藤堂を意識するあまりひろみは練習に身が入らなくなってしまった。ひろみの異変に気づいた宗方はひろみを部屋に呼び、「恋をしてもおぼれるな」と忠告する。宗方は藤堂も呼び出し、「男なら女の成長を妨げるような愛し方はするな」と告げた。ひろみに思いを告げようと考えていた藤堂は宗方の一言で思い止まり、ひろみの成長のために今は黙って見守ろうと決意した。

全日本ジュニアメンバー選抜試合が行われることになった。4試合をして勝ち数の多いものから選抜される。結果的にひろみの戦績は2勝2敗。メンバーに選ばれる確率は限りなく低い。しかし庭球協会の理事たちは単なる勝ち抜き戦としてではなく、より伸びる人間をメンバーにしたいと考え、ひろみは最終メンバーに選ばれることになった。

ジュニアメンバー冬季合宿

3年生が引退したあとは、2年生が部の中心となっていた。ひろみはお蝶に部を託され、後輩指導に熱が入るようになっていた。

選抜メンバーの宝力がオーストラリアのジュニア選手を連れて西高にやってきた。練習試合をすることになり、ひろみはアンジー・レイノルズという選手と対戦することになった。テニスの本場の選手は、男子並みに腕力が強くひろみは苦戦を強いられる。しかし、アンジーの体調不良で試合は途中で終わり、後に体調を整えて再試合をすることになった。

試合後、皆で宗方の家に行ったひろみは、宗方が祖父母と3人暮らしであることを知った。ひろみは蘭子との帰宅途中に宗方の話になり、宗方がかつて名プレイヤーであったことや、怪我のために選手生命を絶たれてしまったことなどを知った。

ある日の練習中、草むらで宗方が横になっているのを見たひろみは、宗方の身に何か起こったのではと駆け寄った。今までにないひろみの様子に、ひろみが自分の体の事を知ったのだと察知した。宗方は選手生命が絶たれる前に、悔いがないように精一杯プレイをするようにひろみに話した。ひろみは、宗方がいつも自分の体調にどれほど気をつけてくれていたのかを改めて気づき、宗方に対する信頼が増した。

ある日の練習中、マラソンをしていてひろみはこむら返りになった。藤堂に介抱され付き添われて帰る途中に激しい雨が降り、雨宿りをすることになった。冬の雨は冷たく濡れた体は冷えて凍えている。藤堂はひろみを引き寄せ温めた。宗方が迎えに行き、2人は合宿所に戻り、藤堂はすぐに部屋へ行った。ひろみは迎えに来た宗方に、「藤堂への思いが強く、このままやっていけるのか」と不安を口にする。そんなひろみに宗方は「全国女子ジュニアに選抜されたことへの義務をまずは果たせ」とひろみを諭した。

全国大会優勝

ひろみは3年生になった。地区予選が始まり、テニス王国と呼ばれる西高は順調に勝ち進んでいく。
全日本ジュニアメンバーは地区大会には出場できず、関東大会からの出場が決められている。ひろみが出場できない中、西高は団体戦決勝で加賀高と当たることになった。

緑川蘭子が育てた樋口と西高の2年・英玲(はなぶさ れい)が対戦する。試合は樋口優勢で進み、英は敗退してしまった。結果は3-2で西高が優勝したのだが、ひろみは泣き崩れる英を見て、自分のことで精一杯で英の練習を見てやらなかったことを後悔した。お蝶に西高を託されたにも関わらず、後輩と上手く関われなかったひろみは指導の難しさを痛感した。

西高は関東大会に進み、ダブルスではひろみと英がペアを組むことになった。
ひろみたちのダブルスは勝ち進み、決勝で宝力冴子(ほうりき さえこ)のペアと対戦することになった。試合が始まると、宝力の調子が悪いのか、西高、岡・英ペアの圧勝で終わった。宝力は大学生と交際を始め、恋に溺れるあまりテニスが疎かになっていたのだ。ひろみは恋をすることで陥る落とし穴の恐ろしさを知り、藤堂との恋を宗方に止められている理由を実感した。

シングルス決勝で、ひろみと宝力は再度対戦するが、宝力の調子は戻らずひろみが圧勝。優勝を果たした。その後、インターハイでも優勝を果たし、ひろみは高校チャンピオンになった。

全世界招待試合

ひろみたちが海外遠征をしていた時、ひろみを見かけたプロプレーヤーのジャッキー・ビントが、ひろみとダブルスを組みたいと申し出てきた。
ジャッキーは何度か日本に足を運び、ひろみと練習試合もしてひろみの実力をはかってきた。その上でひろみをペアに選んだのだ。お蝶とペアを組んだ時の経験から、ひろみは実力が違いすぎる2人がペアを組むことの難しさを実感していた。

しかし、多くの仲間がひろみを励まし、ひろみはその期待に応えるためジャッキーとペアを組むことを承諾した。宗方はテニス界の重鎮・レイノルズ氏にひろみのコーチを依頼し、快諾をもらった。ひろみは宗方がコーチを辞めるのかと動揺するが、「これからの成長に必要だからコーチを頼んだのであって、ひろみのコーチを辞めるわけではない」と宗方は言い、ひろみは胸をなでおろした。

日本庭球協会は、各国の有望な高校生を日本に招待し、招待試合を開催する旨を発表した。この企画は日本のジュニア選手に世界のプレイヤーの強さを実感させるために、宗方が提案したものであった。

第1回高校生招待試合が始まった。
大試合に慣れていない日本メンバーは、緊張と気後れで自分たちの実力を出し切ることができないでいた。世界のトップジュニアはそんな舞台にも慣れていて、落ち着いてプレーしている。次々と敗れていく日本勢を目にしてひろみは自信が無くなっていった。

練習中、ひろみは藤堂の球を受けそこねてコートで倒れこんだ。翌日の試合に出たくないという気持ちで中々立ち上がれずいたひろみに、宗方から厳しい叱責の声が飛んだ。それでも立ち上がらないひろみに「テニスに対する愛情よりも観客に対する恐怖のほうが強いのか!」と宗方は言った。
練習を続けるうちに、藤堂のフォームがひろみの対戦相手ジョージィとそっくりであることにひろみは気づいた。短時間の間にジョージィのプレイを真似して練習に協力してくれる藤堂の想いと、ひろみを引き上げてくれる宗方の力強さに気づいたひろみは、観客への恐怖を克服し試合に臨むことができた。

ジョージィとの試合は大接戦の末、ひろみが勝利した。次の試合はアメリカで最も将来を期待されているマリア・ヤング。この対戦でひろみは見事なプレーを見せた。しかし惜しくも敗退し、優勝はマリア・ヤングが勝ち取った。その後の親睦パーティーで日本の次はアメリカが招待試合を開催し、夏には欧州、次はアジア、その次は豪州が招待試合を開催すると発表した。世界のテニス協会が手を取りあい、ジュニア世代の育成に力を注ぎ始めた。

宗方の死

ひろみはアメリカでの試合に招待された。しかし、宗方が一緒に渡米しないと聞き、ひろみは大きく動揺する。宗方の「後から向かう」という言葉を信じるが戸惑いは隠せない。宗方はひろみと藤堂に「おまえたちのことはおまえたちの自覚にまかせる」と言い、2人の仲を初めて認めた。

正月、藤堂や尾崎、お蝶などのOBも含めた西高テニス部は、新年の挨拶で宗方の家を訪問した。皆がお祝いムードに沸く中、宗方も優しい眼差しで皆を見ている。その表情を見て、ひろみは自分がなにか大切なことを見落としているのではないかと動揺した。
宗方と出会って2年、何度もテニスから逃げようとしたがその都度ひろみを支えてくれた宗方に対し、「自分は何も恩返しをしていない。藤堂との仲を認めてもらえたのは嬉しいけれど、そんな資格が自分にあるのか」とひろみは迷う。

練習中、沈んだ様子のひろみを気遣った藤堂に、ひろみは自分の悩みを打ち明けた。藤堂は「宗方から受けた無償の愛は大きくてとても返せないけれど、授けられた技や心を後輩に伝えることで恩を返せる」と言った。藤東の言葉にひろみは救われる思いだった。

ひろみたちが渡米に向けて練習を積む中、自宅にいた宗方が倒れた。
宗方は悪性の貧血を患っており、かつてプレイの最中にその症状が出て転倒。倒れ方が悪かったため、二度と走れない体になって選手を引退していたのだ。

入院した宗方のもとにひろみは駆けつけ、泣きながら宗方にすがりついた。「一日も離れていたくない、早く治して渡米して欲しい」と泣くひろみをしっかりと抱きしめ、「すぐ行くさ」と宗方はひろみを安心させる。一緒に見舞いに行った藤堂は、宗方からひろみへの愛を実感した。それと同時に、自分とひろみの交際を認めて、ひろみから離れようとしていることに疑問を持った。

ある夜、宗方は藤堂を病院に呼び出し、自分の寿命がもう残されていないことを話した。そして、「ひろみを支えてくれ」と頼んだ。藤堂は宗方の気持ちを察し、ひろみを全力で支えると約束した。渡米当日、渡米メンバーで宗方のもとへ挨拶へ行き、宗方は皆を笑顔で見送った。

ひろみが皆の見送りを受け飛行機に乗り込む直前、宗方の声が聞こえたような気がして振り向いた。藤堂は宗方の異変を察知したが、ひろみを動揺させまいと笑顔を作り「コーチはいつだってきみの中にいるよ!」と安心させた。宗方は日記に「岡、エースをねらえ!」と書き残し、息絶えるのであった。

アメリカ招待試合

招待試合を通してひろみの調子は良く、宗方から言われた通りのプレーが出来ていた。かつて敗れたマリア・ヤングとの対戦も制し、決勝まで駒を進めた。
一方、藤堂やお蝶、尾崎、千葉は宗方の訃報に打ちひしがれていた。宗方の死をひろみに知られるわけには行かず、どうしたらいいのかと動揺していた。そんな折り、宗方の親友である桂大悟(かつら だいご)が現れて、動揺している藤堂らを落ち着かせた。

宗方の選手生命が絶たれた際に、一緒にプレイをしていたのは桂だった。その時から宗方の寿命はわかっており、宗方の全てを受け継ぐ相手が現れたら、桂がその選手を引き受けるという約束を交わしていた。桂は宗方から託された約束の重さを受け止めるため、戒律の厳しい永平寺に入り修行していたのだ。

ひろみは決勝でも素晴らしいプレイを見せる。対戦相手のベル・ブラウンはひろみのプレイに恐れを抱き、胃が痛くなるほどだったという。しかし力及ばず、ひろみは準優勝となった。負けはしたもののメダルを貰い「宗方が喜んでくれる」と、ひろみは帰国を待ち遠しく感じていた。レイノルズは帰国前のひろみに「冬が厳しいのは春が近づいているから、何があっても頑張るように」と言い、ひろみを見送った。

帰国したひろみは、すぐにでも宗方に会いに行きたかった。しかし、もう遅い時間だと両親に窘められ家に帰った。眠る直前、父から一冊の本を渡された。それは宗方の日記であった。嫌な予感がして途中で読むことを辞めるものの、先が気になり読み続ける。1月15日、ひろみが渡米した日で日記は終わっており、ひろみは宗方の死を知った。

再起に向けて

宗方の死を知って抜け殻のようになってしまったひろみ。周囲の人間はどうすることもできず見守るしかできない。
しかし、宗方が心血を注ぎ世界に通用する選手となったひろみを潰してはならないと、桂やレイノルズが動き出した。

桂からひろみを寺に預かりたいと言われたひろみの父は、迷いながらも承諾した。寺に連れてこられたひろみは、桂からいきなり水を浴びせかけられ滝行をした。その翌日からひろみは桂とともに朝4時に起きて掃除、座禅と寺の生活をこなしていく。

ある日桂はひろみを身障児の施設に連れて行き、その訓練の様子を見せた。
足の不自由な子供が苦しみながらリハビリをする姿に自分を重ねるひろみ。体が不自由でありながら精一杯生き、努力する子供たちの姿にひろみは涙する。自分はただ泣いて何もしなかったことを恥じた。

この様子を見ていた桂は宗方のラケットをひろみに渡し、「宗方仁を忘れるな」と言った。「なにもしなくても時は過ぎてゆく。あれほどの男とかかわり、それほどの思いを味わっても、これからのお前の心ひとつで全ては軽い“思い出”になってしまう!そんなことはこのおれがゆるさん!!仁の人生から逃げるな!あいつの教えを無にするな!周囲の期待を裏切るな!すべてをしょってコートを走れ!」。

その言葉にひろみは震えながらもボールを拾い、サーブを打ち始めた。一気にバケツ5杯ほどもサーブをして周囲を見回してみると、藤堂やお蝶、尾崎や千葉、ひろみを心配する人々がひろみを見守っていた。それを見て、自分がどれほど周りに心配されていたのかを知り、ひろみは皆に一礼した。ひろみの再起の瞬間だった。

世界への挑戦

日本で国際試合が開催され、ひろみは日本代表に選ばれた。
各国の有名選手との間でトーナメントが行われる。ひろみの1回戦の相手は伝説的なテニスプレーヤーであるキング夫人。世界の強豪はやはり強く、ひろみでは歯が立たなかった。しかし、試合終了後キング夫人からエールを貰い、まだ自分に足りない物を補わなければと奮起した。

ダブルスではジャッキー・ビントと初めて公式戦でペアを組んで試合に出場した。ヘルドマン・エバート組と戦い大金星を上げると勢いづき、ついにひろみ・ジャッキー組は優勝を手に入れた。

ひろみはある宴会で、桂がお酒を口にしていないことに気づいた。理由を知っていそうな宗方の祖父母に尋ねると、ひろみを受け継いだ桂の決意によるものであることを知った。
桂は宗方が亡くなる1週間前、宗方の家を訪れていた。そこで宗方と桂は、宗方の死後のひろみとの向き合い方について、綿密な打ち合わせをした。桂は手紙でのやり取りで宗方の選んだ選手・岡ひろみが女子であると理解はしていたが、実際にひろみに会った時の衝撃は大きかった。桂はこの日を境に、宗方を失ったひろみが再起するまで一滴の酒も口にすまいと固く誓ったのだ。

ひろみとしては精一杯頑張っているつもりなのだが、桂が断酒を解かない事が気にかかる。
次の国際試合に向けて、エディがひろみに各選手のデータを持ってきた。エディはひろみにデータを渡しただけで帰っていいものかを考えた。そして、桂の許可を取り、ひろみと試合をしてデータを取った。

そのデータをもとにエディは妹・アンジーやジョージィを鍛え上げた。今までひろみが国際試合に勝てていたのは、ひろみがダークホースだったからだ。これからも国際試合で戦うのならば、当然ひろみのデータも取られて対策されてしまう。データを取られても勝てるように練習を重ねなければいけない。この試練に打ち勝つことが桂の目標だった。

国際トーナメントが始まり、ひろみはベル・ブラウンと対戦した。かつて負けた相手であるベルはやはり強い。さらにはひろみを研究しているようで、ひろみは苦戦した。しかし途中打点を変えてベルを翻弄し、勝利を得た。その後アンジー、ジョージィとひろみを研究し尽くしてきた相手と対戦し、大熱戦の末にひろみが勝利した。ひろみは国際大会で初めての優勝を飾った。

6月から行われるウインブルドンに照準を合わせ、若手の海外武者修行を庭球協会が支援することになった。選ばれるのは女子1名。竜崎・緑川・岡の3名で総当り戦をして選出される。ひろみの先輩として、楽に勝たせるわけには行かないとお蝶と蘭子は桂から指導を受けひろみとの対戦に備えていた。

しかし練習の最中にお蝶が肉離れを起こし入院することになってしまった。今までずっと自分の先を走っていた蘭子と対戦することは気が進まないひろみだったが、蘭子から「宗方が見ていると思ってベストを尽くそう」と言われた。結局ひろみが勝利し、代表に決定した。ひろみは自分が先頭に立って世界に向かっていかなければいけないことに不安を感じていた。しかし、自分のために周囲がどれほど気を配ってくれていたのかを知り、ひろみは気を引き締めた。

どん底にいたひろみのために永平寺で修行をし、国際試合で結果を残せるほどに鍛え上げ、立ち直るまで断酒をしてくれた桂に、日本を発つ前にお礼を伝えたいとひろみは考えた。壮行会の日、気持ちを伝えようとするひろみに桂は盃を差し出し、ひろみが注いだ酒を飲み干した。断酒を解き、ひろみが真に立ち直ったと認めたのだ。ひろみは泣き出し桂に感謝を伝えた。

ひろみが日本を発つ日、ひろみが飛行機のタラップを登ろうとした時に宗方の声が聞こえたような気がして振り向くと、そこには桂がいた。桂は「岡!エースをねらえ!」と叫び、ひろみを世界に送り出した。

『エースをねらえ!』の登場人物・キャラクター

岡 ひろみ(おか ひろみ)

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