大切なことは言葉にならない。映画『海獣の子供』の“語られない”面白さ”
米津玄師が担当した主題歌『海の幽霊』で話題になった、2019年夏公開の映画『海獣の子供』。五十嵐大介の漫画を原作に、渡辺歩が監督を手掛けたアニメ映画です。
物語は、主人公の琉花が、ジュゴンに育てられたという少年、海に出会うところから始まります。
人と話すことが苦手な琉花は、夏休みの初日から部活のチームメイトと揉めたのが原因で、部活に行けなくなってしまいます。しかし少年との出会いをきっかけに、琉花は不思議な出来事を次々と目の当たりにし、海と宇宙の秘密、星の誕生の物語を知っていくことになるのです。
この作品の一つ目の良さは、何と言ってもビジュアルです。
アニメーション制作を担当したのは、『鉄コン筋クリート』や『ハーモニー』を手掛けたSTUDIO4℃。海や雨など水の描写が特に美麗で、自然のダイナミズムを感じさせる圧倒的なアニメーションでした。それだけでなく、凪いだ海や静かな星空など、時折差し挟まれる絵画のようなワンシーンも非常に魅力的です。
そして二つ目の良さは、“多くを語らない”ということ。
「無口でコミュニケーションが苦手な登場人物が、人との出会いや交流を通して社会性を育んでいく」という物語は多いですが、この作品は違います。人は言葉で気持ちを伝え合ったり物事を説明しようとする生物ですが、宇宙ははるかに広く、未だ言葉では説明しきれない神秘に満ち溢れています。言葉ではなく、魂のもっと深いところで、他者だけでなく宇宙や世界とつながる。ここに本作のテーマがあるといえます。
そしてその壮大なテーマを表現可能にしているのは、先述した圧倒的なビジュアルのレベルの高さ。言葉では詳細に説明されず、感覚的な表現で描写された世界観が、ファンタジー好きや考察好きの人にもオススメな映画作品です。