かがみの孤城

かがみの孤城のレビュー・評価・感想

New Review
かがみの孤城
9

人付き合いで苦しい思いをしている、又は苦しい思いをしたことのある人達に見て欲しい作品

「ある日突然、鏡の世界に入り込んだ7人の中学生の子供達が、願いを叶える為に孤城内で秘密の鍵を見つける」というのが、ネタバレ抜きでの表向きのストーリーだ。

しかし、この作品においてメインで伝えたいことは「どの時代にも人間関係で苦しい思いをしている人はいる」「どうしても辛い時は逃げてもいい」という点だろう。
SF要素もあり、そういった作品を好きな方にとっても楽しめるが、やはり人間関係で苦しい思いをしている方に刺さる作品だろうと感じられた。
そういった人達が見るのであれば、自信を持って10点満点をつけたい。

主人公の心理描写は非常にリアリティがあり、大人しく優しい彼女が当初願おうとしていた「いじめっ子を消したい」というのもこの作品ならではであろう。

そして、この作品において注目するべき点は、主人公が幸せになることでハッピーエンドとなる点だ。
こういった作品であれば、いじめた方が罰を受け、ひどい目にあうというのがよくあるパターンだ。
しかし、この作品はその点を描写していない。これはあえてそうしているのだと、私は考えている。

この作品においては、1人1人、多種多様な悩みを抱えた中学生達が登場する。
いじめっ子がどうなったかを描写しなかったのは、視点を変えればそういった子達も、親の教育の被害者だと考えられるからだろうか?
ただ単に描写する必要がなかったと言われればそうだろう。その分、いじめられた側が幸せになるシーンを多く描写していただいたのならば、ありがたい。

まとめると、子供から大人まで、人間関係で悩んでいる人には見て欲しいということだ。
そして、いじめる方の立場には絶対ならないでいただきたい。

かがみの孤城
8

生き辛さを感じる人へ

累計発行部数100万部を超える辻村深月先生の同名小説をアニメ映画にした本作。生きることに対する辛さを感じている人にはぜひ見てほしい一作です。
まずは簡単にあらすじを紹介します。
いじめにより不登校となっていた主人公のこころを始め、様々な理由で学校に行けていない7人の子どもたちが、鏡を通して突如謎の城に迷い込むところから始まります。狼様と名乗る謎の少女は「この城の中にある秘密の鍵を探し出せればどんな願いも叶う」と話しました。ただし、鍵を見つけたら城での記憶はすべてなくなるというストーリーです。

今作を見て感じたことは、「希望を捨ててはいけない」ということです。
こころたちは現実に苦悩しながらも、互いの交流の中で居場所を見つけていきます。けれど城に居られる時間には限りがあり、城から戻ったらまた辛い現実に向き合わなくてはいけません。そんな中でも必死に生きようとする子どもたちの苦悩がすごくリアルで、決して他人事ではないと感じました。
作中ではいじめに対して、「ああいう人(いじめっ子)はどこにでもいる。くだらない人を相手にしてはいけない」と評しています。また一方で、コミュニケーションが苦手でいじめられていたウレシノという男の子を、主人公のこころも含めた子どもたちは悪意なく邪険に扱います。それに対しこころは、「私も知らないうちにウレシノくんだからいいやって思っていた」と思い直します。いじめは特別なものではなく、自分がその加害者になることさえあるものだと描いています。
つまり、問題の根本的な解決はできないかもしれないと描いているのです。それでも支えてくれる人がいる、フリースクール等の他の生き方もある、自分が絶望さえしなければ、必ず未来はある。そんなメッセージを感じ、子供だけでなくあらゆる人に見てほしいと感じました。

少しだけ残念なことを挙げるなら、尺不足と伏線の単純さです。希望に向かっていく展開は見事なのですが、人間関係の深掘りを映画の尺で描くことが難しかったのか、最後はかなり駆け足気味だと感じます。
また、7人の子どもたちに共通する秘密や狼様の正体等、随所に伏線は散りばめられているのですが、先の展開がかなり容易に予想できてしまうものが殆どですので、謎解きをメインにしたい方には少し合わないかもしれないと感じました。

以上のような気になる点はあれど、見ていて心が暖かくなること間違いなしの映画です。生き辛さを感じている方には是非とも見ていただきたい作品です。

かがみの孤城
8

原作へのリスペクトが感じられる良作

辻村深月の原作が気になっていたため、観に行った。時間がなくじっくり原作を読み込む前に映画を見たが、概ね原作の通りだった。
映画である以上、ストーリーの削除は覚悟していたが、よく原作が織り込まれていたと思う。こころ以外の子のストーリーももっと観たかったが、時間の制限がある以上仕方がない。城に持ち込まれていたのがテレビゲームからボードゲームになっていた所が少し気になった。
ストーリーを知って観た身としては、最初のこころの教室に行くシーンから伏線があって面白かった。主人公のこころの過去のいじめのシーンでは、自分の昔の学校生活と重ねてしまうくらいリアルな描写だった。学校に馴染めない経験を持つ人には、多かれ少なかれ何処か共感するところがある作品だと思う。

声優についてはあまり詳しくないが、マサムネの声が某少年探偵の声のまんまで、決め台詞を言った時は少し笑った。これには賛否両論あるが、個人的には話の流れから外れてなかったし、この位のネタは許されていいのではと思った(それほど声がコ○ンだった)。公開してだいぶ時間が経ってから観に行ったので、上映期間延長記念として、最初の入場特典で配っていた後日談のイラストが最後に流れた。説明文は少ないが、妄想が掻き立てられるいい絵だった。