ドライブ・マイ・カー / Drive My Car

ドライブ・マイ・カー / Drive My Carのレビュー・評価・感想

ドライブ・マイ・カー / Drive My Car
8

『ドライブ・マイ・カー』:静寂が語る人間の真実

監督・濱口竜介が紡ぎだす『ドライブ・マイ・カー』は、言葉と沈黙の狭間に潜む人間の真実を探る珠玉の作品だ。村上春樹の短編小説を原作としながらも、濱口監督独自の視点で大胆に拡張され、観る者の心に深く刻まれる3時間の旅路となっている。

物語は、舞台演出家の家福(西島秀俊)が突然妻を亡くしたことから始まる。広島での演劇フェスティバルに向かう彼を待っていたのは、指定ドライバーのみさき(三浦透子)だった。赤いサーブ900は、この物語のもう一人の主役と言っても過言ではない。車内という閉ざされた空間が、逆説的に心を開く場となっていく。

西島秀俊は、喪失の痛みを内に秘めた家福を、抑制の効いた演技で見事に表現する。特に、妻の遺した録音テープを聴きながら車を運転するシーンでは、無言のまま複雑な感情の機微を表す彼の演技力が光る。三浦透子演じるみさきも、当初の無愛想さから徐々に内面を覗かせていく繊細な変化を、説得力ある演技で描き出す。

本作の魅力は、登場人物たちの繊細な心の動きだけでなく、視覚的な美しさにもある。瀬戸内海の穏やかな風景から、雪に覆われた北海道の山々まで、日本の多様な景観が、登場人物の心象風景と見事に重なり合う。

劇中劇として上演される「ワーニャ伯父さん」も、本編のテーマと巧みに呼応する。多言語での上演という設定は、言語の壁を超えた理解の可能性を探る試みだ。特に、韓国人俳優パク・ユリムが演じるソニアの日本語での独白シーンは、言語を超えた感情の普遍性を強調し、観客の心を揺さぶる。

本作における時間の流れは緩やかだが、決して冗長ではない。むしろ、その「間」の中に豊かな感情や思考が詰まっており、観客を物語の中に深く引き込む。長回しのショットや、車窓から見える風景の移ろいは、まるで人生そのものの比喩のようだ。

『ドライブ・マイ・カー』は、喪失、赦し、そして人生の再生という普遍的なテーマを、静謐な映像美と卓越した演技で描き出した秀作である。濱口監督の繊細な演出と、俳優陣の圧倒的な存在感が見事に調和し、観る者の心に長く残る深い余韻を生み出している。

この作品は、派手なアクションや劇的な展開ではなく、日常の中に潜む人間の機微を丁寧に掬い取ることで、私たちの人生や関係性について静かに、しかし力強く問いかけてくる。それは、映画という芸術が持つ力を改めて感じさせる、珠玉の3時間である。

ドライブ・マイ・カー / Drive My Car
9

それぞれの抱える闇が交錯して変化していくその後の人生

ロードムービーと思いきや、一箇所に集まった登場人物たちの様々な思いを描いた人間ドラマだった。人種も世代も様々で、言語も日本語だけではなく英語や手話もある。そんな別々の人間同士の距離がそっと縮まっていく様子や一気に離れてしまう瞬間などが、とても丁寧に描かれていたと思う。
映像もとても美しく、瀬戸内の景色や車窓を流れる都心の夜の風景など、主人公と同じ景色を見ている気分に浸れると思う。象徴的なあの赤い車と寡黙なドライバー。あの若い女性がなぜ運転がうまくなったのかのエピソードと、そこからラストに向かう長い長いドライブは物語が一気に進んでとても見ごたえがあった。
大きな喪失感を抱えた者同士の悲しみと、そこから再生しようとする姿が、決して急がずじっと見つめて寄り添うような演出が情感あふれ見事だった。西島秀俊さん演じる主人公はとても我慢強く安定した精神の持ち主だが、この場面にはぐっときてしまった。反面、岡田将生さんが演じた男性と霧島れいかさん演じる主人公の妻は、破綻していく自分を持て余しどうすることもできずにもがく姿が描かれている。でもそれさえも許せるような優しい想像力を見る人に喚起することで、窮屈なものの見方が変わり、これからの自分が少し穏やかになれる気がする映画だった。

ドライブ・マイ・カー / Drive My Car
7

パク・ユリム演じるイ・ユナの最後の台詞が印象に残ります

西島秀俊演じる舞台の俳優で演出家の男性と三浦透子演じる送迎するドライバーの女性を中心としたヒューマンドラマといえる作品です。妻を亡くした主人公をドライバーの女性が慰めてくれるのですが、それは恋愛の関係では書かれません。スムーズでゆっくりと時間が流れるような運転シーンは、それだけで価値があるように思えます。
主人公が演出する舞台では、主人公が俳優を選んで、チェーホフのワーニャ伯父さんの戯曲を演出するのですが、日本人、中国人、韓国人、ろう者といった一見交わらない俳優を同じ舞台に出演させます。韓国の女優であるパク・ユリム演じるイ・ユナが映画の最後に舞台上で手話を使って台詞を言うのですが、それはそれは神々しい光景でした。
「夢で幸せな生活を見た」
人それぞれ、想像する幸せな夢があるのではないでしょうか。

ちなみに日本の若手人気俳優である岡田将生も出演しています。亡くなった主人公の妻の浮気相手の一人のような描写があり、その前にもスキャンダルを起こしていたり、そして最後にはとんでもないことをするのでそれも見どころです。映画「告白」のウェルテル役でも思いましたが、岡田将生はこのようなインパクトのある役が上手いですね!

ドライブ・マイ・カー / Drive My Car
9

ドライブマイカー

西島秀俊さんがやっぱり西島秀俊さんらしい!
魅力がびしばし伝わってきます。本当大好き。

岡田将生さんも素晴らしい。浅いのか深いのかよくわからんけどなんか深い?いややっぱり浅いか…。
っていう役を演じたら右に出る人はちょっとしか居ないと思います。
そして圧倒的にかわいい。。。

三浦透子さんもうまい!
ラストシーンがはてな??でしたが、エンドロールで原作村上春樹とあって、ああそうか、とそれで納得。
ラストシーンの三浦透子さんの表情にしびれました。

霧島れいかさんも素敵。
西島さんを本当に愛してるんだろうなあって伝わってきたのがすごい。
あんな事してるのに。。
ちょっと、嘘っぽいというか、そんな人も居るのかもしれないけど、なんかお話っぽさは否めず。

あと、広島のロケーションが素敵。
ゴミ焼却場もそれ自体がドラマチック。
三浦透子さんが西島秀俊さんを連れて行った場所として、最高でした。

北海道に向かう道のりもよかった。
決して楽しい道のりではなかったはずですが、車で遠出ってやっぱりなんだかウキウキしてしまいました。
私は、三浦透子さんの、地滑りがあって埋もれた家の中にまだそのまま、救出されなかったままの母親がいるんだと思いました。