夏目アラタの結婚

夏目アラタの結婚

『夏目アラタの結婚』とは乃木坂太郎によって『ビッグコミックスペリオール』(小学館)上に2019年14号から2024年4号にかけて連載されたサスペンス漫画、およびそれを原作とした実写映画作品。実写映画の主演は柳楽優弥、黒島結菜が務めた。連続殺人犯である品川ピエロと児童相談所職員である夏目アラタの結婚が描かれる。サスペンス的おもしろさに加え、緻密な心理描写も魅力。

夏目アラタの結婚のレビュー・評価・感想

夏目アラタの結婚
10

バラバラ連続殺人鬼の正体

児童相談所の職員である夏目アラタが、ある事情からバラバラ連続殺人鬼である品川ピエロと結婚するというお話しです。ちなみに殺人事件の被害者たちはみなアラタと同じ30代の男性です。
品川ピエロこと真珠と新の刑務所での面会を中心に物語は展開します。真珠とアラタの攻防はハイレベルで見ていてハラハラします。
学校にも通っておらず知能が低いとされている真珠は、医学や法律について高度な知識を有しており、心理操作にも長けていることが面会を続けるうちに明らかになります。殺人鬼、虐待を受けていた少女、ピエロの顔をした太った醜い姿、痩せた可憐な姿といった様々な顔をもつ真珠に興味を抱き始めた新は事件や真珠という人間について独自に調べ始めます。
真珠は幼少期に知能検査を受けておりかなり低い結果が出ていました。ところが逮捕後の検査では平均を大きく上回る知能を有することが確認されます。知能が低くいじめられていた少女がいかにして頭キレキレのヤバい連続殺人鬼になったのか。真珠の父親は誰なのか。被害者たちはどのように選ばれたのか。謎が謎を呼ぶ展開に目が離せません。
最初はサスペンスやミステリーの要素が強いですが、徐々に児童虐待や人生への絶望、人を愛するということといった普遍的な問題が語られ、最後は涙無くして読めないこと請け合いです。

夏目アラタの結婚
9

医龍の乃木坂太郎が描く"結婚"

医龍や幽麗塔、第三のギデオンなどを手がける乃木坂太郎氏の漫画。
結婚に焦点を置いた今作は一巻からかなりぶっとんでいる。まず主人公である夏目アラタは不良っぽい態度ながらも、児相で働く公務員だ。その結婚相手がなんと獄中で裁判を待つ殺人鬼の『品川ピエロ』こと品川真珠。何故主人公が殺人鬼と結婚するに至ったかはぜひ作品を読んでいただきたいが、真珠というヒロインは曲者である。ボロボロの歯に痩せっぽちな姿は一見すると可愛くないが、段々可愛く見えてくるし、気がついたら魅力的に思えてしまう。さながらじわじわと効く毒のような存在だ。
アラタと真珠、2人をメインに話が進んでいくのだが、結婚するきっかけも2人の熾烈なやり取りもすべて刑務所の面談室の中で繰り広げられる。
漫画といえばダイナミックなファンタジーやアクションものが人気なので、その中では地味な印象を持つかもしれない。
しかし面白い。この先どうなってしまうのか全く予想ができない手に汗握る展開に我々は主人公とともに翻弄される。
人物の心境や人間模様を描くことに定評のある乃木坂太郎氏が描くスリリングで奇妙な""結婚""。一度読み始めたらページを捲る手が止まらないだろう。

夏目アラタの結婚
9

殺人鬼に心動かされるとは…。

物語は、連続バラバラ殺人事件の容疑者の女『品川真珠』と、児童相談所職員で男気がある性格の男『夏目アラタ』が出会うところから始まります。
なぜ猟奇的殺人を犯したのか?どのような生い立ちなのか?そもそも人を殺したのか?
そういった色々な疑問の答えを知りたいと思い探る夏目アラタと、そんな思いを逆手に取り自分に有利な展開へと持ち込む品川真珠の心理戦が繰り広げられていきます。
設定から想像すると品川真珠の闇や過去を暴いていくだけのお話かと思うのですが、実際は違います!
想像とは裏腹に、品川真珠と接していくうちに『夏目アラタ』の心の奥底に眠っていた感情があらわになっていくんです。
夏目アラタが心を開いていくのに従って品川真珠も少しずつ夏目アラタに懐いていき、信頼関係が深まっていく様子は読んでいてドキドキします。

あとはやっぱり絵がとても綺麗です。
品川真珠はコロコロ表情が変わるキャラクターなので見ていて飽きなくて、たまにその変顔にクスッと笑わされることもあります。
そして、あらすじを読んだだけでは伝わらない猟奇的殺人鬼ならではの“凄み”のようなものが伝わってきます!
私はそんな調子で1巻を読んだ時点で気づいたら全巻買っていました(笑)。

夏目アラタの結婚
10

児童相談所の職員と殺人鬼の疑心暗鬼な獄中結婚

正義感が強く虐待親にはすぐ手が出るダメ男な児童相談所の問題児・夏目アラタと、凶悪な連続殺人鬼・品川真珠が、真珠が殺した遺族の首の行方を巡り計算高い駆け引きを繰り広げる獄中恋愛サスペンス。
まず児童相談所の職員と連続殺人鬼というキャラクター設定が斬新。
短気で喧嘩っ早いが肝が据わっており、虐待された子供が見せる引き攣った笑顔をほっとけないアラタには好感が持てる。真珠のミステリアスでサイコパスなキャラクターも魅力的で、美麗な絵柄と相俟って目の保養になる。
インパクト抜群の顔芸も見所だが、アラタと真珠の薄氷の上を渡るような虚実入り乱れた関係性にどんどん引き込まれていく。アラタは遺族の依頼で真珠に近付くのだが、時折覗かせる彼女の素顔(らしき言動)に心を掴まれ、真珠もアラタの包容力やストレートなアタックにだんだんとほだされていく。
しかしその全てが演技の可能性も捨てきれず、ドキドキハラハラが持続する。真珠は決して底を見せず大きな秘密を抱えており、アラタもまた彼女に嘘を吐いている。真実が暴露されて二人の関係が破綻するのか、それとも新たな局面に飛躍するのか、先の展開が全く予想できない。