ガンニバル

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『ガンニバル』とは二宮正明による漫画作品、およびそれを原作としたドラマ。『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)にて2018年から2021年まで連載され、後に「Disney+」にて連続ドラマ化された。舞台は山間にある小さな村「供花村」。その地に駐在として赴任した主人公・阿川大悟が、供花村の「食人文化」の秘密に迫っていく。ホラーサスペンスの枠に収まらない、それぞれの思惑と葛藤がせめぎ合うヒューマンドラマだ。

ガンニバルのレビュー・評価・感想

ガンニバル
8

ガンニバルの感想 「この村の人間は人を喰ってる」

「ガンニバル」は、山間にある村”供花村”を舞台に、東京から赴任してきた駐在警官・阿川大悟とその一家が奇怪な事件に巻き込まれるサスペンスホラーマンガ。
赴任当初は大悟一家を暖かく迎え入れていた”供花村(くげむら)”の人々であったが、駐在前任者の謎の失踪、また山間では老婆の死体が発見され、次第に”供花村”の不気味な実像と虚像に疑念を抱き始める大悟。
その時、まことしやかに囁かれる”供花村”のとある噂が大悟の頭をよぎる。

「この村の人間は人を喰ってる」

”供花村”の真実を暴こうと、村の住民に悟られぬよう一人暗躍し奮闘する大悟。
しかし、その先には”供花村”で生きていく上では、絶対に避けては通れない最大の敵”後藤家”の存在が行く手を阻んでいた。
”供花村”の掟、「後藤家には関わるな」。

ー果たして、大悟は”供花村”の真実を暴く事は出来るのか。そして、本当に「食人」は行われているのか。

「食人」・「後藤家」という2つのテーマに沿って物語が進行していく本作。
日本の村社会のまさに象徴ともいうべき”後藤家”とその他村住民の関係性、閉鎖的な”供花村”の存在が、
「食人」というテーマに更に輪を掛けて、読み手にある意味心地よい不快感と不気味さを与えている。
それとは裏腹に、主人公の大悟は活発・思い切りの良いキャラクターで、徐々に真実に近づくにつれ、大胆且つ豪快にその”陰湿性”に突っ込んで行く。
その姿は、まるでピンチの時に主人公が颯爽と現れ、敵キャラに一発パンチをお見舞いするような王道少年マンガのような痛快さがある。
ほぼ毎話毎話に急展開があり、次の話では誰が敵で誰が味方になっている状況なのか全く予測不能な所もまたこのマンガの魅力の一つ。

超意外な黒幕の存在。
「この村の人間は人を喰ってる」のか。
その真実は、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。

ガンニバル
9

深い山間の村で人間の恐ろしさを垣間見る

東京から〇〇県の深い山間にある供花村に、赴任してくるこことなった阿川刑事の一家。
供花村の前任の駐在員は行方不明になったとの事で、その穴を埋める為に、この小さな集落に妻とまだ幼い娘を連れて3人で引っ越してくる事から、この物語は始まる。
都会から来た阿川一家は、やや緊張しながらも村民に迎え入れられ、ほのぼのと暮らせるかもしれないと新しい生活のスタートに笑顔が隠せなかった様子だった。
都会と違い、景色は美しく空気も美味しい。娘にも良い環境かもしれないと、阿川夫婦は胸を撫で下ろした。
昨年、阿川刑事はとある事件で犯人を射殺してしまう。娘の目の前で……そんなこともあって、娘は言葉を失い、笑顔を失い、これを機に自然の中で生活しようと、心機一転供花村に引っ越してきたのだった。
そうして、大自然に、村人の暖かさに救われるように、供花村にやってきた3人は徐々に平穏な日々を取り戻していくようだった。
引っ越しも終わり村人に挨拶をし、ようやく腰を下ろして、この村の駐在員として職務についたところ、阿川の頭の端に引っ掛かる程度の気になる点が、じわじわと線で繋がっていく。
「前の駐在員は、頭がおかしくなって、いなくなった」
「この村は常に監視されている」
「村のやつらは、人を食っている」
「逃ゲロ」
程なくして、この異様さに刑事の勘が働く阿川。山の方で何かがあったようだ。駆けつけると、森の中でこの供花村の当主が熊に襲われて遺体となって発見された。
現場では村の若い衆が合掌している。阿川は現場を保全しようと前に出るが、突き返される。
村の若い衆は阿川に猟銃を向けると、
「お前に出来ることはない コイツは熊に襲われた それだけや」
呆気に取られたが、その黒ずんだ銃口からいつ鋭い弾丸が発射されてもおかしくない雰囲気だった。しかし阿川刑事は、仏さんになった老婆の腕に、人型の歯形がくっきりある事に気付いた。
この村には、何かがある。阿川は、一人胸に決心したように、家族の元へと足を進める。

ガンニバル
9

閉鎖的な村に伝わる人肉食の因習に戦慄

とある事件がきっかけで田舎の駐在として村に越してきた男とその妻子が、人肉食の噂がある一族と関わって運命を狂わされていく戦慄のホラー。人間関係のいやらしさが非常によく描かれていて、主人公一家が徐々に追い詰められていく過程がリアル。田舎に越してきたばかりのよそ者への陰湿な嫌がらせや、些細な事で豹変する村人の態度など、表面上は牧歌的でもおぞましい秘密が隠されているに違いないと深読みさせる。
人体損壊などグロテスクな描写もそこそこあるが、それよりただの人間の精神構造の狂気が怖い。保身の為なら子供を見捨て他人を犠牲にし、それを村ぐるみで隠蔽する狡賢さには背筋が寒くなる。
主人公が単純な正義の味方じゃないのも良い。どちらかというとアンチヒーローで、自らの暴力性と戦いながら信念を貫こうとする姿がハードボイルドでかっこいい。元々は失語症になった娘の療養を兼ねて田舎に越してきたのだが、そのせいで娘を危険にさらしてしまったジレンマがひしひし迫る。食われる為に存在する子供、というショッキングなテーマにエンターテイメントを盛って極上のホラーに仕上げた傑作。画力は高く、喜怒哀楽の特に怒を強調した生々しい感情が迫ってくる。個人的には実写映画化してほしい。