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閉鎖的な村に伝わる人肉食の因習に戦慄
とある事件がきっかけで田舎の駐在として村に越してきた男とその妻子が、人肉食の噂がある一族と関わって運命を狂わされていく戦慄のホラー。人間関係のいやらしさが非常によく描かれていて、主人公一家が徐々に追い詰められていく過程がリアル。田舎に越してきたばかりのよそ者への陰湿な嫌がらせや、些細な事で豹変する村人の態度など、表面上は牧歌的でもおぞましい秘密が隠されているに違いないと深読みさせる。
人体損壊などグロテスクな描写もそこそこあるが、それよりただの人間の精神構造の狂気が怖い。保身の為なら子供を見捨て他人を犠牲にし、それを村ぐるみで隠蔽する狡賢さには背筋が寒くなる。
主人公が単純な正義の味方じゃないのも良い。どちらかというとアンチヒーローで、自らの暴力性と戦いながら信念を貫こうとする姿がハードボイルドでかっこいい。元々は失語症になった娘の療養を兼ねて田舎に越してきたのだが、そのせいで娘を危険にさらしてしまったジレンマがひしひし迫る。食われる為に存在する子供、というショッキングなテーマにエンターテイメントを盛って極上のホラーに仕上げた傑作。画力は高く、喜怒哀楽の特に怒を強調した生々しい感情が迫ってくる。個人的には実写映画化してほしい。