【悪人】サスペンス&ミステリーの邦画オススメ作品集!【相棒III】
ハリウッドに比べると規模こそ小さいが、邦画の中にもスタッフの創意工夫による珠玉の名作が数多く存在する。オリジナルの作品もあれば原作つきのもの、テレビドラマシリーズの劇場版など多種多様な傑作の内、「サスペンス」と「ミステリー」を題材とした作品について紹介する。日本の映画界の実力を改めて確かめてほしい。
Read Article
『悪人』とは、吉田修一の長編小説『悪人』を原作としたヒューマンミステリー映画。監督を李相日、主演を妻夫木聡と深津絵里が務めた。
清水祐一と馬込光代は出会い系で知り合い、佐賀県で会う約束をする。最初は上手くいかなかった2人だが、お互いの気持ちを打ち明けたことで少しずつ仲を深めていった。そんなある日、祐一の自宅に警察が来たことをきっかけに光代は祐一が殺人犯であることを知る。自首しようとする祐一を光代が引き止めたことで、2人の逃亡生活が始まった。
※ネタバレ有※このレビューには具体的なネタバレが含まれています。
「悪人」は、一見単純な殺人事件から始まる物語ですが、その本質は人間の複雑さと愛の深さを問いかける衝撃作です。李相日監督が吉田修一の小説を見事に映像化し、観る者の心に鮮烈な印象を残しまています。
物語の中心となる人物は、殺人事件の容疑者・祐一(妻夫木聡)と彼の恋人・光代(深津絵里)です。2人の関係性を軸に、事件に関わる様々な人物の人生が交錯していきます。表面的には「悪人」と思われる祐一ですが、彼の行動の裏には複雑な動機が隠されています。一方、光代は祐一の罪を受け入れながらも、彼への愛を貫こうとします。
妻夫木聡と深津絵里の演技は圧巻です。特に、物語のクライマックスである灯台でのシーンは忘れられません。祐一が光代を突き放すように見えるこのシーンは、実は自分を悪者に徹することで光代に負い目を感じさせないという、深い愛情の表れだったのです。
そして、「お互い足りないものを補える人と出会えた。ただそれだけでよかった」という光代の最後のセリフが胸を打ちます。このシンプルな言葉が、作品全体のテーマを見事に集約しています。2人の愛が本物であることが、痛いほど伝わってきます。
この最後のシーンは、切なさと美しさが同居する不思議な魅力を持っています。人を殺めた男と、それを受け入れる女という設定にもかかわらず、2人の愛に共感してしまう自分に戸惑いを覚えるかもしれません。しかし、それこそがこの映画の真髄なのです。
「悪人」は、私たちに「善悪とは何か」「愛とは何か」を鋭く問いかけます。単純に割り切れない人間の複雑さ、そして予想外の場所に芽生える愛の強さを、この映画は鮮やかに描き出しています。
この作品を観終わった後、あなたは今までとは違う目で世界を見ることになるでしょう。ニュースで報道される事件も、周りの人々との関係も、そして自分自身でさえも、新たな視点で見つめ直すきっかけになるはずです。
「悪人」は、単なるエンターテインメントを超えた、魂を揺さぶる経験を提供してくれます。この衝撃的な人間ドラマを、ぜひ自分の目で確かめてください。きっと、あなたの中に何かが変わるはずです。
李相日監督作品「悪人」は、サスペンスの顔をしたラブストーリーだ。
舞台は九州、漁港に住む青年・祐一(妻夫木聡)は自分を邪険に扱った女性(満島ひかり)を殺害してしまう。祐一は出会い系サイトで出会った光代(深津絵里)を強引に車に乗せ、一緒に警察から逃げる。
祐一は親に捨てられた過去から、人を愛することがなんなのかわからない。そんな彼が、光代と共に過ごすうち、人を愛することを知っていく。するとどうなるか。人を愛する気持ちを理解すればするほど、自分の罪の重さを知っていくのだ。自分が殺した女性にも、大切な人がいたのではないか。彼女を殺したことで誰かが苦しんでいるのではないか。そんなことが想像できるように変化していく。それは確かに成長なのだが、彼にとっては苦しみでもあった。
愛を知った彼が、最後に下した決断は涙なしでは観られない。一見、殺人犯の逃亡劇というサスペンスでありながら、人を愛することで主人公が成長していくという美しいラブストーリーでもある。
祐一を演じた妻夫木聡は、完璧に田舎の冴えない青年に変身している。光代役の深津絵里も、あれほどの美しさでありながら恋愛に縁のない寂しい女性に見える。何もかもが恐ろしくリアルで、作品への没入感が高い作品である。
誰かを愛した経験のある人、誰からも愛されなかった人、両方の心にぐさりと刺さる作品だ。
私の大好きな作品、『怒り』の李相日監督の過去作。
ずっとずっと観たくて、でも観るのを躊躇してしまっていた作品。何故か分からないけど、とんでもなく凄い作品のような気がして怖いと感じていた自分がいたから。
李監督の演出に関しては何度か観たり聴いたり読んだりしていて、本物のお芝居を、芝居じゃなく本物をというかその一本の芯みたいなものが凄く好みでそして憧れでもありました。
簡潔に表すなら名作、いや迷作といえば伝わるかな。終始胸が苦しくて叫んでた。
内容や空気感、湿度が自分好みであったのはもちろん、キャストの熱量、技量、語彙が無くなる感覚でした…。
こんな映画があって良いのか、こんなお芝居をする人がいて良いのか。
どちらも良い意味で、です。
全員が全員、想像をはるかに超える芝居をしていて、分からなくて、震えた。
どの瞬間を切り取っても隙がない。表情や表現の変化が突然で、それはもう、追いつけないくらいでしたけど、私の記憶としてずっと残ってくれるだろうなと、いった感じです。
題名の、悪人。
この言葉だけを聞くと、とっても軽く聞こえてしまうけれど、この物語はそう簡単に扱えるものではないと私は感じました。
もっと深くてもっと苦しくてもっと痛い。
何故、こんな苦しい物語を作ってしまったのか作ってしまう観てしまう移入してしまう。
結局は客観視しかできないそれでも踏み込みたい気持ちがあるからきっとどこまでもはまってしまうんだろうと思います。
嗚咽になる程愛おしくて残虐で代わりなんて見つかるはずが無くて。大切な人がいない人間が多すぎる。
失うものがないから、強くなった気になる。いつだって傍観者でそれを突きつけてくるから悔しかった。誰が本当の悪人?
罪を犯した人、その人を生んだ両親、それとも、その人を愛した人、世間、マスコミ、横目で知らないふりをした人、嘲笑った人、一緒に苦しんだ人。
罪を犯した人が本当に悪人なの?誰の立場に立てば正解で、誰の味方をして誰のせいにすれば正解だったのか。
愛してしまったら悪人、共感してしまったら悪人、じゃあ知らないふりをしている人は、悪人じゃないの?
責任を押し付けて吐き出す場所にして、暴力、ナイフ、刺さる言葉にしかならないし真意なんて誰にもわからない、謝れば良いの、悔やめば良いの自分を壊して、誰かの苦しみを笑えば楽になりますか。
傷つくのが怖くて自分は強い人間だって思い込むために踏み込まずに外から暴言を吐いて守ってそんな世界は嫌だな。だからこそ二人の、二人しかいない透明で冷淡な世界を救ってあげて欲しかった。