愛を知ってしまった「悪人」のゆく先
李相日監督作品「悪人」は、サスペンスの顔をしたラブストーリーだ。
舞台は九州、漁港に住む青年・祐一(妻夫木聡)は自分を邪険に扱った女性(満島ひかり)を殺害してしまう。祐一は出会い系サイトで出会った光代(深津絵里)を強引に車に乗せ、一緒に警察から逃げる。
祐一は親に捨てられた過去から、人を愛することがなんなのかわからない。そんな彼が、光代と共に過ごすうち、人を愛することを知っていく。するとどうなるか。人を愛する気持ちを理解すればするほど、自分の罪の重さを知っていくのだ。自分が殺した女性にも、大切な人がいたのではないか。彼女を殺したことで誰かが苦しんでいるのではないか。そんなことが想像できるように変化していく。それは確かに成長なのだが、彼にとっては苦しみでもあった。
愛を知った彼が、最後に下した決断は涙なしでは観られない。一見、殺人犯の逃亡劇というサスペンスでありながら、人を愛することで主人公が成長していくという美しいラブストーリーでもある。
祐一を演じた妻夫木聡は、完璧に田舎の冴えない青年に変身している。光代役の深津絵里も、あれほどの美しさでありながら恋愛に縁のない寂しい女性に見える。何もかもが恐ろしくリアルで、作品への没入感が高い作品である。
誰かを愛した経験のある人、誰からも愛されなかった人、両方の心にぐさりと刺さる作品だ。