悪人

悪人

『悪人』とは、吉田修一の長編小説『悪人』を原作としたヒューマンミステリー映画。監督を李相日、主演を妻夫木聡と深津絵里が務めた。
清水祐一と馬込光代は出会い系で知り合い、佐賀県で会う約束をする。最初は上手くいかなかった2人だが、お互いの気持ちを打ち明けたことで少しずつ仲を深めていった。そんなある日、祐一の自宅に警察が来たことをきっかけに光代は祐一が殺人犯であることを知る。自首しようとする祐一を光代が引き止めたことで、2人の逃亡生活が始まった。

elのレビュー・評価・感想

悪人
10

タイトルなし

私の大好きな作品、『怒り』の李相日監督の過去作。

ずっとずっと観たくて、でも観るのを躊躇してしまっていた作品。何故か分からないけど、とんでもなく凄い作品のような気がして怖いと感じていた自分がいたから。

李監督の演出に関しては何度か観たり聴いたり読んだりしていて、本物のお芝居を、芝居じゃなく本物をというかその一本の芯みたいなものが凄く好みでそして憧れでもありました。
簡潔に表すなら名作、いや迷作といえば伝わるかな。終始胸が苦しくて叫んでた。
内容や空気感、湿度が自分好みであったのはもちろん、キャストの熱量、技量、語彙が無くなる感覚でした…。
こんな映画があって良いのか、こんなお芝居をする人がいて良いのか。
どちらも良い意味で、です。

全員が全員、想像をはるかに超える芝居をしていて、分からなくて、震えた。
どの瞬間を切り取っても隙がない。表情や表現の変化が突然で、それはもう、追いつけないくらいでしたけど、私の記憶としてずっと残ってくれるだろうなと、いった感じです。

題名の、悪人。
この言葉だけを聞くと、とっても軽く聞こえてしまうけれど、この物語はそう簡単に扱えるものではないと私は感じました。
もっと深くてもっと苦しくてもっと痛い。

何故、こんな苦しい物語を作ってしまったのか作ってしまう観てしまう移入してしまう。
結局は客観視しかできないそれでも踏み込みたい気持ちがあるからきっとどこまでもはまってしまうんだろうと思います。
嗚咽になる程愛おしくて残虐で代わりなんて見つかるはずが無くて。大切な人がいない人間が多すぎる。
失うものがないから、強くなった気になる。いつだって傍観者でそれを突きつけてくるから悔しかった。誰が本当の悪人?

罪を犯した人、その人を生んだ両親、それとも、その人を愛した人、世間、マスコミ、横目で知らないふりをした人、嘲笑った人、一緒に苦しんだ人。
罪を犯した人が本当に悪人なの?誰の立場に立てば正解で、誰の味方をして誰のせいにすれば正解だったのか。
愛してしまったら悪人、共感してしまったら悪人、じゃあ知らないふりをしている人は、悪人じゃないの?
責任を押し付けて吐き出す場所にして、暴力、ナイフ、刺さる言葉にしかならないし真意なんて誰にもわからない、謝れば良いの、悔やめば良いの自分を壊して、誰かの苦しみを笑えば楽になりますか。
傷つくのが怖くて自分は強い人間だって思い込むために踏み込まずに外から暴言を吐いて守ってそんな世界は嫌だな。だからこそ二人の、二人しかいない透明で冷淡な世界を救ってあげて欲しかった。