心の機微を繊細に描いた作品
「高校生が主人公?ハイハイ、青春群像劇ね」などと読むのをパスしている方は早合点です!
この作品はただの青春ストーリーではないのです。
ヒロインの岩倉美津未(いわくら みつみ)は石川県の田舎育ち。彼女は官僚になるという大志を抱き、東京の高偏差値高校へ入学するために上京します。
入学式当日、迷子になり途方に暮れていた美津未に手を差し伸べてくれたのは、同じ高校の新入生である志摩聡介(しま そうすけ)でした。
見るからに都会の洗練された男子という風貌の彼は、寝坊を理由に入学式をサボる気でいたのですが、ローファーを脱ぎ必死の形相で学校を目指して走る美津未の姿に感化され、どこか楽しそうで嬉しそうな表情を浮かべながら学校に向かって一緒に走るのです。
このように、美津未の真っすぐさは無自覚のうちに周囲へ影響を与えます。
2人の今後の関係性も気になるところではありますが、この作品の魅力は登場人物それぞれの心の機微を繊細に描いている点です。
打算的に人付き合いをする世渡り上手な自分に対する嫌悪感、友人の悩みを心の底から理解してあげられないもどかしさ、自分の気持ちと向き合い認めることの怖さなど、青春時代に皆が多かれ少なかれ経験したであろう心の動きを細やかに描いています。
高偏差値の学校故に派手な大事件は起こらないのですが、読むとグワングワンに感情を揺さぶられる良作です。