インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜(Imprint)のネタバレ解説・考察まとめ
2006年に公開されたホラー映画。原作は岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』。アメリカ人新聞記者のクリスが、全体が遊郭となった島へ結婚の約束をしていた女性を探しに訪れ、そこで女性の死を知る。その死の真相を、女郎から語られる。「日本だけど日本じゃない」異国を思わせる色彩と演出、そして登場人物全員が英語を話しているのが特徴。三池崇史監督のアメリカ資本での映画制作デビュー作品。
『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜』のあらすじ・ストーリー
アメリカ人の新聞記者であるクリストファーは、「女郎と馬しかいない」という島を訪れる。
そこで小桃という女郎に出会い、彼女と結婚の約束をして別れる。
小桃はけなげに体を売りながら、クリスが迎えに来てくれるのを待っていた。
だが再度身辺の整理をつけた後、小桃を迎えに島を訪れたクリストファーは、「小桃という女郎を探している」と遣り手婆に尋ねても「そんな女郎は知らない」と言われてしまう。
いくつかの廓を訪れ、疲れ切ったクリストファーは、とある遊郭で別の女郎と一夜を共にする。その女郎は顔の半分が引き攣れ、醜い外見をしていた。
抱かないのかと聞く女郎に、「今晩はそのつもりはない、寝物語にお前の話を聞かせてくれ」と頼むクリストファー。女郎は「ぼっけえ、きょうてえ(岡山弁で“とってもこわい”)」話をし始める。
それは女郎自身の生い立ちと、小桃は内儀の指輪を盗み、拷問にかけられた末に自殺したという内容だった。
その話にクリスは納得できず、女郎に「小桃が自殺するはずがない」と言う。
「真実をしりたいというのはよくないことだ」と言う女郎の話は変わり、生い立ちも小桃の死の真相も変化する。小桃を殺したのは自分だという女郎。
クリストファーが「小桃をなぜ殺した」「まだ隠している話がある、全部話せ」と詰め寄ると、女郎は本当の“真実”を語り出す。
それは、女郎の両親は実の兄妹だったということ、自分は奇形児で産まれた後すぐ捨てられたが2日も川で生き延びていたこと、小桃の拷問の原因になった指輪は自分に寄生している「姉」が命令したこと。でも小桃を殺したのは「天国へいかせるため」自分の意思で行ったこと、という理解しがたい内容だった。
主な登場人物・キャラクター
女郎
工藤夕貴が演じている。
貧しい物乞いの夫婦の間に生まれ、母は助産婦の仕事をしていた。
自分たちの食べるぶんにも苦労していたのに女郎を生み、育ててくれたと言う。
島に来てからは、顔の左半分が引き攣れている見た目のせいか、他の女郎達と馴染めなかった。
客も満足に取れず、食事も抜かれていたところに小桃が優しく接してくれた。
クリストファーには「私が小桃を殺した」と告白し、何転もする過去の話と小桃の死の真相を話す。
左側の顔がつり上がっているのは、双子の姉がそこに寄生しているからだということが最後に明かされる。
他の女郎と区別するため、黒い髪をしている。
クリストファー
ビリー・ドラゴが演じている。
小桃と結婚を約束するも、本国にやむなく一時帰国する。
島に戻って来たのは何年も経ったあとで、小桃を迎えに来たが彼女を見つけることはできなかった。
女郎からその生い立ちと小桃の死の真相を聞かされ、あまりの内容に恐怖する。
真実を求めて女郎に「隠していることを話せ」と詰め寄るが、その「本当の真相」には全く救いがなく、クリストファーの理解できる範疇になかった。
女郎を恐怖のあまり殺害し、正気を失って犬小屋以下の刑務所に収監される。
小桃
美知枝が演じている。
遊郭の中でも一番性格がよく優しい女性で、女郎にもただ一人親切にしていた。
「自分は世が世ならお姫様で、結婚の約束をした男性を待っている」と語るが、他の女郎たちには売れっ子だったために嫌味を言われ、目の敵にされていた。
盗んだ覚えのない指輪のありかを吐け、と拷問にかけられ、その辛さに盗んだことは認めたもののありかを言えなかった。そのためしばらく拷問は続き、その目を盗んで女郎に殺される。
他の女郎と同じく赤い髪をしている。
内儀
根岸季衣が演じている。
指に大きな石のついた豪勢な指輪をしていて、自慢に思っている。
意地の悪い性格で、客が取れない女郎には食事を与えず、盗人には容赦なく専門の拷問師を呼んで折檻する。
見どころ
異界のような「日本だけど日本じゃない場所」
冒頭から始まる古き良き時代のゴシック・ホラーのような雰囲気を漂わせるアートワークが素晴らしい。
遊郭がある島は「異界」扱いで、クリストファーが舟でそこへ向かうシーンが導入部として観客を引き込む。
通常の遊郭ものと違う、和製ゴシック・ホラーとも言える雰囲気を作り出しているのは、ヘアメイクや衣装。「どこか違和感を感じる」その色彩やメイクに、一瞬にして目を奪われる。
女郎と客との会話
原作では一人語りの女郎の語りのみで話が進むが、映画では一人語りの他に所々でクリストファーとの会話(女郎への質問、詰問)を挟むことによりテンポよく仕上がっている。
拷問シーン
小桃の拷問シーンは日本の映倫に引っかかったといわれるほどの凄惨さとリアルさ。
拷問師である「針を刺す女」役に、原作の岩井志麻子が登場している。その岩井の演技も身震いするほどリアルで必見だ。
「顔には傷をつけるな」という言葉通り、線香で脇の下をあぶったり、縄で締め上げたり、歯茎や爪に針をさしたりと見ているだけで痛みを感じる。
原作では数行のみの描写、それも軽いものだったため、落差が激しい。