クローン人間は神の意志に反した産物なのか? 映画「エリザベス 神なき遺伝子」
クローンがこの世に誕生すればどうなるかを描いたホラー作品ですが、どちらかといえば問題提起の色合いが強いように感じます。ホラー描写はあるものの、どちらかという抑え気味で、主題はあくまでクローン。あなたはクローン人間の誕生を許容できますか。映画「エリザベス 神なき遺伝子」をご紹介致します。
あらすじ・ストーリー
遺伝子科学者のヴィクター・リード博士(ジェレミー・チャイルズ)は、人間のクローンを創り出し、誕生した女の子にエリザベスと名付ける。博士はエリザベスにさまざまなテストを行っていたが、ある時エリザベスの額に謎の受容体があることがわかる写真が世間に拡散されてしまう。家の外では研究に抗議する人々が声を上げ、やがてエリザベス誕生に至るまでの秘密が明るみに出る。
小道具に頼らず、雰囲気で恐怖を演出する点が秀逸
画面は終始暗い色調に覆われています。明るい雰囲気やクスリと笑えるようなシーンは皆無で、薄暗い道を仄かな明かりを頼りに進んでいくような印象を受けました。ホラー映画に必要な雰囲気作りは完璧。登場人物の紹介やキャラの掘り下げに無駄な時間を割くことなく、ほぼ最短距離でストーリーを進めていきます。あえて情報を曖昧にしたりして、後に何かが起こることを視聴者に示しているのも見事。
クローンの誕生による世論の移ろいは予想通りといえば予想通り。賛成よりも反対の声が大きく上がるのは致し方ないことでしょう。今作はそんな世論と戦いながら進んでいくわけですが、途中から少し物語の色が変わってしまったような気がしました。クローンの問題から焦点が離れていってしまい、段々とホラー方向に重点を置くようになってしまったのです。この映画はホラーなのですから、それはそれで正しいのでしょうが、なんだか逃げたような感想を抱いてしまいます。問題提起はするものの、それ以上は踏み込まない。リアリティ志向なのかと思っていたので、その点は少し残念でした。
ラストのメッセージは良かったが、その他は中途半端に終わってしまった印象
ラスト、主人公の学者がエリザベスの死体を民衆に見せつけるシーンはなかなかでした。神の意志に反するのかどうかを、抽象的な議論ではなく、現実の問題として突きつけた瞬間でしたね。それを見せられ、黙りこくった人々の反応もまたリアルだったのではないでしょうか。実際の場面に遭遇しなければ分かりませんが、クローンといえども生まれたからには1つの生命、その亡骸を見せられたら、返す言葉もないでしょう。ラストに強烈なメッセージが刻まれ、それが一番印象に残りました。
しかし、全体を俯瞰すればどっちつかずの印象は拭えません。クローンを描きたいのならばもっと踏み込むべきだったし、ホラーを作りたいのだったらもっとクローンという未知の要素を最大限に活用するべきだったと思います。リアリティとホラーを両立させようとして、どうにも上手くいかずに失敗してしまったパターン。雰囲気が抜群だっただけに、非常に残念です。個人的にはよりホラー寄りにしてもらった方が、もっと面白くなったかなと思いましたね。
まとめ
より現実に根ざしたホラー映画でした。現実性を考慮し過ぎてやや失敗した感がありますが、面白いとは思います。特に後半はかなりホラー色が強く、クローンはほぼ関係なくなっているものの、そこだけを切り取れば上質ホラーと位置付けることもできるでしょう。カメラワークや間の取り方は絶妙で、小細工を弄さない、本格的な恐怖を味わえます。ぜひ、ご覧になってみてください。