猫と、犬と、生首。 コミカルサイコスリラー映画「ハッピーボイス・キラー」
猫と犬がしゃべる。この設定だけを見れば、ああこれはどんなハートフルムービーなのだろうと思うでしょうが、ではそこに生首が加わったら? 猫が囁き、犬が吠え、生首が微笑みかける。本来聞こえるはずのない声が聞こえてしまったら……。映画「ハッピーボイス・キラー」をご紹介致します。
あらすじ・ストーリー
青年ジェリー(ライアン・レイノルズ)は、バスタブ工場で働いているだけの代わり映えのない日々を過ごしていたが、とある女性(ジェマ・アータートン)に心を奪われる。何とかアプローチを重ねて、彼女との距離を縮めることに成功したジェリー。しかしデートの約束をすっぽかされ、殺人事件を引き起こしてしまう。さらに、慌てふためくジェリーをペットである邪悪な猫と慈悲の心にあふれた犬が振り回し、狂気のふちに追いやる。
コミカルな雰囲気ではあるものの、グロが苦手な人はちょっと注意
パッと観た時は「ダンサーインザダーク」みたいな映画かなと思いましたが、あの映画よりももっと明るい色調です。シーンに登場する小道具なども比較的明るい色のものが使われていて、コミカルを演出しようという意図が見えます。コミカルとサイコスリラーが絶妙なバランスで進んでいくのですが、ラスト付近でちょっと転び、エンドロールでそれを挽回しようと頑張ったように見えました。最後は登場人物たち(ほぼ死んだ人)が踊りだします。ドラマ「ナースのお仕事」を彷彿とさせるエンディングでしたね。
サイコスリラーということもあって、ところどころにグロ演出が出てきます。多少耐性がある人は大丈夫でしょうが、苦手な人はちょっと顔をしかめてしまうかなというくらい。直接的な表現は画面に出てこないので、血だけなら大丈夫という方はオッケーでしょう。
妄想と現実の落差がお見事
ちょっと分かり難いかもしれませんが、ゲーム「沙耶の唄」みたいなイメージです。主人公は他の人とは違うものが見えてしまっているのです。いわば、妄想の世界にいるようなものです。自分だけの現実を創り上げて、だからそこでは猫がしゃべるし、犬も慰めてくれるし、生首も主人公を肯定してくれます。この点は道尾秀介の小説「向日葵の咲かない夏」を彷彿とさせます。
主人公が薬を服用すると、たちまち妄想は掻き消え、無惨な有り様になっている現実に思考は戻ります。そのシーンはなかなかショッキングです。視聴者が観ていたのはあくまで主人公が観ていた世界だったのだと、現実はこんなに汚いのだと、真実を突きつけられた気分になりました。妄想というのは、元来怖いものなのでしょう。現実をしっかりと認識できないのですから。
まとめ
サイコスリラーな内容でしたが、雰囲気がコミカルだったので、そのチグハグ加減を楽しむことができました。欲を言えば、もっとスリリングな展開にしてほしかったところですが。しかし、今までになかったような映画でした。ところどころ既視感はありましたが、それも「こんなのがあったなあ」という程度ですので、様々な要素を組み合わせた結果できた映画と言えるはずです。興味のある方はどうぞご観賞ください。