「笑ってはいけない」わけではないが、笑っていいのか悩む名作映画5選

名作と語られる作品は、大変な情報量が盛り込まれ内容が濃密であるから「面白い」もの。しかし中には、どのように受け取ればいいか分からない情報がフック的に仕掛けられていることも。面白いは面白いけれど、「interesting」なの?「funny」なの?と悩む作品を集めてみました。

森田芳光監督「家族ゲーム」

本間洋平さん原作、松田優作さん主演の映画作品。
長渕剛さん主演で連続テレビドラマ化もしました。2013年には、アイドルグループ嵐の櫻井翔さん主演で28年ぶりにドラマ化されたことも記憶に新しいのではないでしょうか。

森田監督作品においては家族+松田さん扮する家庭教師が横一列で食事をするシーンがもっとも有名ですが、ギャグとするにはシリアスすぎ、しかしぐっと息を殺して観るには「うそだろ!?」と言いたくなってしまいます。

「食べ物をムダにするなんて!」「女性に手をあげるなんて!」等、ヒステリックに不快だと主張できるポイントはたくさんあるはずなのに、なぜかケラケラ笑えてしまう作品です。

アベル・フェラーラ監督「バッド・ルーテナント -刑事とドラッグとキリスト-」

ハーヴェイ・カイテルが演じる警部補は、そのタイトルの通りドラッグや宗教やギャンブルや恐喝といった、ありとあらゆるタブーにずんずん踏み込んでいきます。

「警官」と言えば社会のヒーローであり、「信仰心」と言えばあらゆる悪事を食い止める正義感……というイメージが一般的にあるかもしれませんが、この作品の主人公にそんな一般常識は通用しません。

ドラッグやアルコールによって意識もはっきりとしない、典型的な『クズ』の主人公は、その非道徳さがあまりに振り切れているため観ている人間の笑いを誘ってしまうのです。

「クズ=面白い」わけではないのですが、彼の突き抜けたクズっぷり&ぶっ飛んだ言動のあれこれには「なんだそれ!?」と笑いたくなってしまいます。

園子温監督「愛のむきだし」

同じく「タブー犯しがち映画」の中でも、代表的な邦画が2009年公開の今作。

237分という長い上映時間の中には様々なタブーが盛り込まれながら、第59回ベルリン映画祭にてカリガリ賞&国際批評家連盟賞の受賞、第83回キネマ旬報ベスト・テンで新人男優賞、助演女優賞、日本映画ベスト・テン4位など数々の賞を総なめにしました。

話の主軸となる「罪の意識」と、その象徴としての「盗撮」は、エロティック青春コメディ感の漂うライトな扱われ方をしているように感じられるかもしれません。
しかし面白いのは、その若さと勢いで4時間という長丁場を突っ走りきってしまう点。エネルギーという武器だけで押し切るようなラストシーンと、その後に流れるテーマソング・ゆらゆら帝国「空洞です」には、観ている側も唖然とした空洞状態になりかねません。

ヴィンセント・ギャロ監督「バッファロー'66」

アーティストとしても有名なヴィンセント・ギャロが監督・脚本・音楽、さらには主演まで努めた話題作。

一人の男が刑務所から釈放されるシーンからはじまり、さらにひとりの少女と出会い距離を縮めながら不思議な逃避行に走るストーリー。
ヴィンセント・ギャロのクレイジーな演技と、当時若干18歳だったクリスティーナ・リッチの母性的な役柄がアンバランスすぎてツッコみたくなってしまうはず。

また、作中にはYES「Heart Of The Sunrise」やKing Crimson「Moon child」など、世代を超えて愛されるプログレッシブロックの名曲が使用されています。
そしてこれらの名曲が使われるシーンは軒並み、「なんだなんだ!?」とにやにやしてしまうほど他のシーンとは違った質感を持っています。

きれいな映像や、熱と粗さの残るシーンもありながら、どういうわけか笑ってしまう一種の脱力感も今作の魅力と言えるでしょう。

芝山努・須田裕美子 「ちびまる子ちゃん 私の好きな歌」

さくらももこさんによる人気マンガ「ちびまる子ちゃん」の映画作品は、原作・アニメ版と同様まる子と周囲の人のやりとりから生まれるギャグ展開が主流となっています。

しかし92年公開の「私の好きな歌」は、例えるなら「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」の劇場版が泣かせにきているように、やはりアニメ版とは少し違った雰囲気が残り、まさに「しみじみ」できる作品。

「音楽」が主題になっていることもあり、劇中にいくつもの楽曲と連動した劇中劇が流れます。
中でもまる子の嫉妬心と切なさを反映させ、ロックバンドたまの「星を食べる」をBGMにしたシーンは圧巻。

美しい、面白い、という印象はもとより「狂ってる」「イカれてる」とも語られる傑作です。

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