【オカルト】本当にあった怖い話「つきまとう女」「山の測量」「迷信」の内容を紹介!【閲覧注意】
本記事では「本当にあった怖い話」としてネットのオカルト掲示板などに掲載されている、「つきまとう女」「山の測量」「迷信」の内容をまとめて紹介している。「つきまとう女」は北海道に弾丸ツーリング旅行に出かけた主人公が、首を吊った女の幽霊につきまとわれるという恐怖体験談だ。読み応えのある内容となっているので、ぜひ最後まで記事を楽しんでほしい。
「非常にマズイです、お兄さん。窓の外に居たお兄さんは、あの女、奈々子が作り出した、お兄さんの分身です。
あの分身に触れると、確実に死にます。俗に言う、ドッペルゲンガーって奴です。
これは、女がお兄さんを本気で殺しに来た証拠です。
ドッペルゲンガーの殺傷能力は異常に高いんです。
多分あの女は、お兄さんをゆっくり苦しめてから殺すつもりだった。
その方が、お兄さんは強い悪霊として育ち、女にとって役に立つからです。
でも、俺たちが現れた。だから、早急に殺すことにしたんだと思います。
実を言うとお兄さんの中に、社長特製のファイアーウォールを仕込んどいたんです。
普通の悪霊なら、身動き一つ取れなくなるはずです。
それをあの女は軽々と突破し、お兄さんの分身を作り上げた。
更に悪い事に、俺はお兄さんの分身を見ようと思って、見た訳ではありません。あの女に強制的に見せられた。
つまり俺も、いつの間にか女に侵入されていたんです。
俺にとって何よりもショックなのは、夢の中ではなく現実の中で、
女があそこまでリアルなお兄さんの分身を作り上げ、俺とお兄さんの中に、同時に具現化したことです。
俺はその前触れに全く気付かなかった。女が俺の遥か上の存在だという事を、心底思い知らされました」
呼吸を乱しながら、ジョンは悔しそうな表情でそう言った。
俺の体は、未だに震えが止まらなかった。ジョンの話が、更に俺の恐怖心を煽る。
俺はジョンに怒鳴った。
「じゃあ、どうするんだよ!?」
ジョンは俯いた。
「どうしよう…」
そう言うとジョンは、頭を抱えて塞ぎ込んだ。
地上20階に位置する豪華なホテルの一室。
キレイなインテリアが並ぶこの部屋に、似つかわしくない二人の男。
一人は恐怖で小刻みに震え、一人は頭を抱えて俯いている。
俺たちは、敵の強大さに打ちのめされていた。
俺の心は絶望感でいっぱいだった。逃げることだけを必死で考えていた。
「ジョン、サラ金でも闇金でも何でも良い…借金して200万揃える。だから、社長に俺の除霊を頼んでくれ…」
ジョンはタバコに火を点けると頭を横に振った。
「無理です、お兄さん。社長は、一度言ったことを絶対に曲げません。
俺に除霊をやらすと言ったからには、例え俺が死んでも、お兄さんが死んでも、社長は手を出しません」
俺はテーブルに拳を叩きつけた。
「ふざけるな!!俺の命が懸かっているんだぞ!!!」
「お兄さん」
「お前だって、あの女には勝てないって言ったじゃないか!!!」
「お兄さん」
「200万で足りないなら300万だって用意する!!だから俺を助けてくれ!!!」
「お兄さんっ!!!!」
ジョンは声を荒げて立ち上がった。
「俺を…信じてください」
「お前を…信じる…?」
ジョンは真剣な眼差しで俺を見つめる。その鋭い眼光に俺は戸惑った。
「俺はお兄さんを守ります。お兄さんは俺が絶対に助けます。
だから、俺を信じてください。俺はお兄さんを守る為に命を懸けます。
例え、俺が死んでも…絶対にお兄さんは俺が助けます」
俺は困惑した。こいつ、何でそこまで言えるんだ?
「そこまでお前が、俺を守りたい理由はなんだ?お前だって危ないんだぞ?」
ジョンは黙り込むと深く溜息をついた。
「俺たちが除霊をする時、対象者の守護霊の力を借ります。
つまりお兄さんの親父さんです。お兄さんの親父さんと沢山話をしました。
ジョンって名前…、お兄さんの家で、昔飼っていた犬と同じ名前なんですね。
親父さん、笑っていました。俺は未熟だから、お兄さんの親父さんと話しているうちに、
親父さんに感化されてしまったのかもしれません。
今では…お兄さんが、俺の本当の兄貴のように思えるんです…」
「お前…」
「親父さんのお兄さんを守りたいという気持ちは本物です。
親父さんは死ぬ寸前に、お兄さんや娘さん、それに奥さんのことを思っていました。
『すまない』。そういう気持ちでいっぱいだったんです。
だからこそ今でも親父さんは、お兄さんたちを必死で守っているんです。俺はその気持ちに応えたい」
それを聞いた俺は足元から崩れ落ち、その場に跪いた。
ジョンが俺の肩を掴む。
「俺を…信じてください」
俺の肩を掴むジョンの手は、温かった。
深夜、俺は眠れずにいた。少しでも油断することが怖かった。
「ジョン、俺の親父は大丈夫なのか?あんな女と戦っているんだろ?」
ジョンはノートPCのキーボードを叩きながら答える。
「女はお兄さんだけでなく、お兄さんの家族にも侵入しようとしています。
だから、お兄さんの守護は俺に任せてもらって、親父さんにはそちらの守護に専念してもらっています」
俺は頭を抱えた。
「なんてこった…。あの女、俺の家族にまで…」
「大丈夫です。親父さんが守ってくれます」
俺はコップの水を飲んだ。
「なあ、ジョン。俺の守護霊が親父だってのは、なんとなく分かった。
でも、お前の守護霊は居ないのか?ほら…、お前、身内が居ないって言っていたし…」
「居ますよ。俺の守護霊は社長です」
「はあ?お前、社長は生きているだろ?」
「守護霊も悪霊も、生きているか死んでいるかは関係ありません。
一言に霊と言うと、死んだ人を想像するかもしれませんが、違います。
さっきも言いましたが、悪霊は自身の感情や意志に依存して存在し、守護霊は温かい記憶に依存して存在します。
俺の中で社長の温かい記憶がある。だから俺の中で社長が形成され、俺の守護霊として存在しています。
これは俺だけじゃなく、普通の人も同じです」
俺はコップの中の水を見つめた。
こいつに出会ってから、不可思議なことばかりを聞かされる。
不意にチャイムの音が部屋に鳴り響く。俺は驚いてソファから滑り落ちた。
「こんな時間に誰だろう?」
ジョンが立ち上がり、玄関口に向かう。
「おい、大丈夫なのか!?あの女じゃないのか!?」
ジョンは微笑みながら、「大丈夫ですよ」と答えた。
玄関を開けると、そこには社長が居た。
社長は部屋の中に入るとソファに座り、タバコに火を点ける。
「調子はどうかしら?若年性浮浪者モドキ君…」
じゃ…若年性浮浪者モドキ君…。なんだか、この人に勝てる気が全くしない。
ジョンがグラスにワインを注ぎ、社長に差し出す。
「こんな深夜に、どういった御用件ですか、社長?」
「ああ、あんたがメールで送ってきた計画書ね…、読んだわ。筋は悪くないわね」
「有難う御座います」
「でも、決定的な勘違いをしているわ」
「勘違い?」
ジョンの表情が曇る。
「まあ、仕方ないわ。私もそれに気付いたのは、ついさっき。お前が気付かないのも無理は無い」
「どういうことですか?社長?」
社長は灰皿にタバコの灰を落とす。
緊迫した雰囲気が部屋に充満していた。
社長はワインの入ったグラスに口をつける。
赤いワインの入ったグラスを、しなやかに扱う指の動きが印象的だった。
「先刻、この若年性浮浪者モドキ君の、ドッペルゲンガーが現れたわね」
「はい。俺も強制的に見せられました。俺も侵入されていたんです」
ジョンは悔しそうな表情を浮かべる。
「私はお前の現場実習開始当初に、安全装置として、若年性浮浪者モドキ君に予め防壁を仕込んどいた。
万が一を考慮してだ。だが、それは突破され、あまつさえ奴はドッペルゲンガー作り出した。
私の見立てでは、あの薄汚い女にそんな力は無かったはず。違和感を覚えないか、ジョン?」
「確かに俺も驚きました。まさか社長のファイアーウォールが破られるなんて…
でも、違和感と言うのはなんですか?何かあるんですか?」
社長は深くタバコを吸い込んだ。
「あの薄汚い女は、中心ではあるが本丸ではない。ということだ。
私ですらさっきまで気付かなかったほどに、本丸は深いところに居る。
恐らくそいつは、死人ではなく生き人の可能性が高い。
しかも、かなりの腕前の持ち主だ。こいつは予想以上に根の深い問題だな」
俺は黙って話を聞いていた。なんだか、話がとんでもない方向に向かっている。
「そっちの本丸の方は私に任せろ。
こいつは、若年性浮浪者モドキ君の依頼の範疇を越えている。
タダ働きでやるのは嫌だが、仕方あるまい。放置するにしては危険すぎる。
ただし、薄汚い女並びに3人の男は、ジョン、お前が責任をもって除霊しろ。
いいか?浄霊しようとしなくていい。除霊することに専念しろ。分かったか、ジョン?」
社長はそう言うと、グラスの中のワインをしなやかな手つきで飲み干した。
社長が部屋から退室し、再び俺とジョンの二人きりになる。
去り際に社長がこんなことを言った。
「この件が終わったら、父親の墓参りに行けよ。寂しがっているぞ。あと、寝ろ。眼の下のクマが酷いぞ」
そういえばここ最近、あまりにも色んなことが起きて、ろくに親父の墓参りにも行ってなかった。
この騒動から無事に生きて帰れたら、親父の墓参りに行こう。俺はそう思った。
俺はソファに座り、惚けていた。なんだか、とても疲れた。
眠ることが怖かったが、睡魔には勝てなかった。
俺はいつしか眠りに落ちていた。
気が付くと俺は、どこかのビルの屋上に立っていた。
「ここは?」
深夜のビルの屋上に冷たい風が吹く。
「ジョン!?おい、ジョン!?」
大声でジョンに問いかけるも、返事は返ってこなかった。
俺は辺りを見渡すと、視界の端に何か居ることに気付いた。
その瞬間、頭に殴られたような強い衝撃が走る。俺は力なく、その場に崩れ落ちた。
地面に倒れた俺を、見たことの無い巨躯の男が見下ろしていた。
「なんだ…お前…?」
男はしゃがみこむと、俺の髪を掴んだ。
「悪足掻きするなよ。どうして素直に死なない?」
男の後方にキチガイ女と医者、警察官、看護師の姿が見える。
俺の全身の血が沸騰した。
『私ですらさっきまで気付かなかったほどに、本丸は深いところに居る』
俺は社長の言葉を思い出していた。
こいつがそうだ。俺は直感的にそう思った。
「テメェかぁ!!!テメェが俺を!!」
男が俺の頭を地面に叩きつける。俺は頭に生温いものを感じた。
それでも俺は男を睨みつける。
許せなかった。どうしても俺をこの騒動に巻き込んだ、この男が許せなかった。
「テメェだけは…テメェだけは絶対に許さねぇ!」
男の表情が暗く曇る。
「お前が俺を許す、許さないじゃない。俺がお前を殺すか、殺さないかだ。
厄介なオカマも引き込んでくれたし、いい加減、俺も頭にきた。切れそうだよ。
お前の家族もくれなきゃ、妹も納得しないそうだ。
素直に死んどけば良かったのに、困ったことしてくれたな」
男は歯軋りしながら、そう言った。俺は男の胸倉を掴んだ。
「家族に手を出すことだけは絶対に許さねぇ!!」
男は俺の腕を払いのける。
「お前の父親も同じことを言っていたな。親子揃ってしぶといにも程がある。もういい。俺も本気でお前が殺したい」
俺の後方から足音が聞こえる。
振り返るとそこには俺が居た。ドッペルゲンガーだ。
『お兄さん、あいつに絶対に触れないで下さい!!
触れたら俺でも社長でも、お兄さんの命を助けられない!!』
俺は全力で走った。
俺は全力で走った。
致死率100%と言われるドッペルゲンガーから逃げる為に。
頼みの綱のジョンは居ない。周りに居るのは敵ばかりだ。
狭いビルの屋上、逃げ場など無かった。
俺は出入り口のノブを回した。鍵がかけられている。ビクともしない。
後方には俺が居る。俺に触れたら俺は死ぬ。
「おいおい、もういいだろう!?手間取らせんじゃねぇよ!!」
巨躯の男が、苛立つ感情を剥き出しにして怒鳴る。
俺が迫ってくる。俺はこの時、必死に考えた。逃げる方法を。助かる方法を。
俺は屋上のフェンスを乗り越えた。
「これは夢だ。夢なんだ。現実じゃない」
俺は自分に言い聞かせた。目前には奈落の光景が見える。思ったより高い。
後方を振り返ると、俺がゆっくりと歩いてくる。
その時、不意にキチガイ女と眼が合った。
女は笑ってやがった。俺の中に怒りがこみ上げて来る。
生きるんだ。俺は絶対に死なない。絶対に生きるんだ。
俺は雄叫びを上げた。飛び降りてやる。ここから飛び降りてやる。
「ヘイ!!確かにここは現実じゃねぇけどよ!!落ちればそれなりに痛いぜ!?お前、それに耐えられるのか!?」
巨躯の男が俺に問いかける。
「絶対にお前だけは許さないからな」
俺は、そう言い捨てると、ビルの屋上から飛び降りた。
激痛。それを表現するのに、この言葉以外に思いつかない。
ビルから飛び降りた俺は脚から落下し、地面に頭を叩きつけられた。
まるで蛙のように惨めに地面にへばりつく。俺の周囲に赤い血が広がる。
意識がなくならない。今まで体験したことの無いような激痛がはっきりと認識できる。
死にかけの蛙が、ひくつきながら痙攣するのと同様に、俺の体は小刻みに揺れた。
俺の視界の先に、ビルの出入り口から出てくる俺が見えた。
「来る…な…」
消え入りそうな蝋燭の如く俺は呟いた。これが精一杯の抵抗だった。
容赦なく俺は俺に近づき、俺の目前までやってきた。
俺は俺を見下ろしていた。体は痛みに支配され、もう逃げることもできない。
俺はもう一人の俺を、力の限り睨んだ。俺は俺に、負けたと思われたくなかった。
もう一人の俺はしゃがみこむと、俺の背中に手を置き、「見いつけた」と言った。
溶け込むように、俺が俺の体内に入ってきた。
完全な同化。奴の心と俺の心が一つになる感覚。
俺は俺に溶け込み、俺の心を支配した。
この瞬間、ジョンが「ドッペルゲンガーに触れられると確実に死ぬ」と言った意味が分かった。
暗闇が全身に拡がる。俺は終わった。終わったんだ。
心が引き裂かれるような、とてつもない暗闇に俺は放り出された。
負の感情が俺の中に溢れ出す。
俺は朦朧とした。生きることに希望なんて何一つとしてない。
この世に居たってどうしようもない。死んだほうが良い。
ただ死にたい。本当にそれだけだった。
なんでも良い。死ねるならロープでもガソリンでも俺にくれ。
自殺がしたい。自殺をさせてくれ。なんでもする。だから俺を自殺させてくれ。
俺はドッペルゲンガーに完全に支配されていた。
「お兄さん」
朝、ジョンに呼ばれて俺は眼が覚めた。全身が汗で濡れている。
俺は周囲を見渡した。ホテルの一室。ここは俺が居たホテルの一室だ。
俺は全身を弄った。どこにも異常はない。
ジョンがコーヒーを差し出す。
「大丈夫ですか、お兄さん?」
俺は確かにドッペルゲンガーに触れられた。でも、今は死にたいとは思わない。
俺は助かったのか?現実を俺は把握出来ずにいた。
「混乱しているみたいですね、お兄さん。もう大丈夫です。
ようやく俺にも見えました。あいつがお兄さんの敵なんですね」
ジョンの言葉に俺は驚いた。
「どういう…ことだ、ジョン?」
「お兄さんには申し訳ないと思ったのですが、お兄さんのファイアーウォールを一時的に弱めました。
案の定、敵の本丸はお兄さんに侵入してきた。狙い通りです」
俺はジョンの言葉の意味を理解し切れなかった。
「じゃあ、わざとアイツを誘き寄せたのか?」
「そうです。お兄さんには囮になってもらいました。
勿論、お兄さんの安全が第一です。その為の対策をした上で実行しました」
なにがなんだか、俺にはさっぱり理解出来なかった。
俺はコーヒーを一気に飲み干した。
「冷静になろう、ジョン。俺に何をしたって言うんだ?説明してくれ。何をしたんだ?」
ジョンはタバコに火を点けた。
「敵はお兄さんに対して分身、ドッペルゲンガーを使ってきました。
これは高度な技術を要します。敵は相当な腕の持ち主です。
でも、社長はこう推理しました。
『敵は、自分と同等の力の持ち主と出会ったことが無い』
お兄さんに対する敵の陰湿で強引なアプローチから、敵は力こそA級でも、経験は浅い人間だと推理したんです。
そこで罠を仕掛けました。
敵がお兄さんのドッペルゲンガーを使うなら、こちらもお兄さんのドッペルゲンガーを使う。
敵も、自分以外にドッペルゲンガーが作れる人間が居るとは思わなかったのでしょう。
完全に疑うことも無かったですね」
ジョンは微笑みながらそう言った。
「ドッペルゲンガー?どこが?どこら辺が?何がドッペルゲンガーなんだ?」
俺は尚もジョンに問いかける。訳が判らない。
「お兄さんが敵の作ったビルの屋上に立った時点から、お兄さんは社長の作ったドッペルゲンガーです。
流石に意識のない人形だと疑われるので、半分ほどお兄さんの意識を入れました。
お兄さんには、怖い思いをさせてしまいましたけど、
おかげで、俺と社長が見ていることに、全く気付かれませんでした。
いけますよ。社長が本丸の男の捜索に乗り出しました。ここからが探偵の腕の見せ所です」
俺は唖然とした。そうならそうと、前もって言ってくれ。
昼、俺は一枚の食パンを前に困惑していた。
ここ暫くろくな物を食っていないのに、食欲が全く湧かない。
一枚の食パンですら今の俺には重い。
「なあ、ジョン。さっき、『社長が本丸の男の捜索に乗り出した』って言ったよな?」
スパゲティを頬張りながらジョンは答える。
「ええ。社長は朝の便で北海道に向かいました」
「北海道?」
「社長があの男に侵入して、居場所を特定したんです。
恐らくあの男も、今頃は泡食っているでしょうね。絶対に社長からは逃げられませんよ」
「なあ、ジョン。アイツはやっぱり生きた人間なのか?あんなことが人間に出来るものなのか?」
ジョンはスパゲティを平らげると、カレーライスに手をつけた。
「俺も驚きました。社長以外にあんなことが出来る人間は初めて見ましたよ。
あれほどの力の持ち主が、野に放たれていたなんて恐ろしい限りです」
ジョンはカレーライスを平らげると、次はカツ丼に手をつけた。
異様に次から次へとジョンは食いまくる。
「おい、ジョン。食いすぎじゃないか?」
食欲の無い俺からすると、ジョンの食う姿が異常に見える。
「これからの作業は体力要りますから、食っておかないと。
夕方までに、社長が本丸の男を押さえます、つまり…、クライマックスですよ、お兄さん」
そう言ってジョンは優しく微笑んだ。
それを聞いた俺は、食パンにバターを塗り平らげた。
『クライマックス』。ジョンはそう言った。
社長が本丸の男を押さえ、ジョンが俺の除霊をする。
ついにあの女との戦いに、終止符が打たれようとしていた。
俺は吐きそうになりながらも、無理やり胃の中にメシを詰め込んだ。
生きるか死ぬかを超越して、俺は奴らにだけは負けたくなかった。
夕方、ジョンは俺をベッドの上に寝かせた。
「これから何が起こっても、絶対に気持ちだけは負けないで下さい。お兄さん」
ジョンの言葉に俺は強く頷いた。
気持ちだけなら、俺は絶対にあんな奴らに負けない。
ジョンは時計を見ながら深呼吸をすると、「そろそろですね」と言った。
「お兄さん、次に俺の携帯が鳴った時が合図です。
俺は一気にお兄さんに侵入します。恐らく後ろ盾を失った女は、激しく暴れるはずです。
俺がお兄さんの所に辿り着くまで、持ち堪えて下さい」
俺はジョンの手を握った。
「信じているからな」
ジョンは真っ直ぐに俺を見つめながら頷いた。
その瞬間、ジョンの携帯の着信音が部屋中に響き渡った。
気が付くと俺は、見覚えの無い洋館らしき建物の中で、木製の椅子に座らされ、縛り付けられていた。
目の前には下った階段が見える。
俺は建物の中を見渡した。どこも古びた感じがする。
洋館の内部には、夢の中のような違和感が在った。確かに以前より弱い。
俺はゆっくりと眼を閉じた。ジョンが俺を助けてくれる。そう信じていた。
俺の後方に人の気配を感じた。
「キチガイ女か?」
俺は問いかけた。
すると後方の人の気配は、這うように俺の首に腕を巻きつけてきた。
俺は確信した。キチガイ女だ。
「お前が何故こんなことをするのか、今はもうどうでもいい。
俺はお前から逃げることばかりを考えてきた。本当に怖かった。
でも、俺はもう一人じゃない。親友が出来た。もう、お前は怖くない」
キチガイ女は、強く俺を抱きしめた。
「一緒に居たい…」
俺は頭を横に振った。
「俺は生きている。お前は死んでいる。この差は絶対に埋まらない。
お前にはお前の欲望があるのかもしれない。俺はそれに応える訳にはいかない。俺は生きたいんだ」
俺とキチガイ女の間に静寂が流れる。
キチガイ女は俺に抱きついたまま、静かに泣いていた。
泣いているキチガイ女に、以前のような気味の悪さは無かった。
キチガイ女の声は、前に聞いた声と変わらない。
確かにキチガイ女だった。
それでも不思議なくらいに、以前とは印象が違う。
俺は不思議だった。後ろ盾を失って暴れるかと思いきや、キチガイ女は俺に抱きつき、静かに泣いている。
「お前…もしかして…」
俺はそこまで言って言葉を呑んだ。俺にはその先の言葉が言えなかった。
その時、洋館の玄関が静かに開く。
そこにはジョンが居た。
「お兄さん、迎えに来ました」
ジョンはそう言うと階段を昇り、キチガイ女を睨む。
キチガイ女は何もすることなく、俺からゆっくり離れると、ジョンを素通りして階段を静かに降りていった。
階段の下で立ち止ったキチガイ女は、ゆっくりと振り返り俺を見つめた。