【オカルト】本当にあった怖い話「つきまとう女」「山の測量」「迷信」の内容を紹介!【閲覧注意】

本記事では「本当にあった怖い話」としてネットのオカルト掲示板などに掲載されている、「つきまとう女」「山の測量」「迷信」の内容をまとめて紹介している。「つきまとう女」は北海道に弾丸ツーリング旅行に出かけた主人公が、首を吊った女の幽霊につきまとわれるという恐怖体験談だ。読み応えのある内容となっているので、ぜひ最後まで記事を楽しんでほしい。

気が付くと俺は、あの若い男と出会った、駅前広場のベンチに座っていた。
最後の拠り所とでも思ったのかもしれない。俺はただ何も考えずにベンチに座っていた。
夏の暑さも終わり、街に冬の気配が漂う秋風の季節だった。
俺は彼を待っていた。

駅前広場のベンチに座り、虚空を眺めていた。
過酷な環境に耐えかねた俺は、もう考える事も放棄していた。
ひたすら俺は、一週間前に出会った若い男を待っていた。
タバコに火を点ける音がする。いつの間にか、彼が俺の隣に座っていた。
「前に会った時より酷くなってるね、お兄さん。もう限界でしょ?」
若い男は俯きながら、地面に向かって煙を吐いた。

「本当に助けてくれるのか?」
俺はすがる思いで尋ねた。
「まぁ、やれるだけのことはやりたいね。このままお兄さん放置してると、死んじまうのは眼に見えてるし。
それを分かってて死なしちまったら目覚めが悪い」
「何をする気だ?」
「まぁ、付いて来なよ」
そう言うと若い男は、駐車してあった車に俺を乗せた。

暫く車を走らせ、ビルの中に入る。その中に、若い男の事務所があるそうだ。
『○△×探偵事務所』と書かれたビルの一室。ここが若い男の事務所。
「探偵?」
俺がそう呟くと、若い男は「本業はね」と答えた。

事務所の扉を開けると、中には誰も居ない。
「あぁ、今はみんな出払ってるよ。多分、社長は居ると思うんだけどね」
「俺は金なんか持ってないぞ」
「ん~、うちの社長、金にはうるさいけど、根は良い人だし、多分大丈夫」
そう言うと若い男は、奥の『社長室』と書かれた扉の前に進む。
軽く2回ほどノックをすると、中から「どうぞ」と言う返事がした。
扉を開けるとそこには、如何にもキャリアウーマンといった風貌の女が居た。
この女が社長だ。

女社長は、俺の顔を見るなり舌打ちをした。
「また、ろくでもない奴を連れて来やがって…」
小声だったが確かにそう言った。あからさまに俺は歓迎されていない様子だった。
「社長、いや、その、あの、えとー、そのー」
若い男がしどろもどろになる。女社長は若い男を睨み付けると、書類を机に叩きつけた。

出典: fumibako.com

あんたねぇ!うちは慈善事業で商売やってんじゃないのよ!!
こんな金もない奴連れてきて、どうやっておまんま食ってくんだよ!!」
まさに男勝りな怒号だ。
「いや、でも社長わかるでしょ!?この人このままだと死んじゃいますよ!?」
「この馬鹿!!お人好しもいい加減にしろ!!」
うなだれる若い男。どうやらこいつは、本気で俺を助けたいと思ってくれているらしい。

有難い話だが、俺は人に迷惑をかけてまで助けを請うつもりは無かった。
踵を返し、俺は事務所を後にしようとした。
すると女社長が俺を呼び止めた。
「待ちなさいよ、若年性浮浪者モドキ。こいつの言うように、あんたはこのままだと死ぬよ。どうするつもりだい?」
「さっきから、何で俺が死ぬってはっきり言えるんですか?
なんか確信する様な事でもあるんですか?俺は確かに追い詰められています。
でも、あなたの言う様に金はありません。この若い人に迷惑かけるつもりもないし、俺は出て行きます」

女社長がタバコに火を点け、煙を吐き出す。
「人に迷惑をかけたくないってのは良い心得だ。
それならそれで、人の役に立ってみる気はないかい?」
「どういうことですか?」
「手は有るって言っているのさ」

「ま、まさか社長…」
若い男の顔が青ざめる。
「さっきあんたは私に、『なんの確証があって、自分が死ぬなんて言っているのか』と尋ねたわね」
俺は頷く。
「あんた、どうやら厄介なのに取り憑かれているのよ。
あんた、首吊っている、薄汚いワンピースの女に心当たりあるでしょ?」
俺は驚いた。その女の事を、今まで誰にも話したことは無い。

「ふふ~ん。驚いているわねぇ。まぁ、私も本業は探偵なのだけど、副業で霊能関係の仕事もしているのよ。
それにしても、良い~顔で驚くわねぇ。ふふ~ん。好きよ、そういう顔」
俺は考えた。本業が探偵で副業が霊能力者?なんて怪しさなのだ。ここに居て良いのか俺は?
でも、あのキチガイ女の事を言い当てた。それも事実だ。
だが、あのキチガイ女は霊なのか?俺の錯覚ではないのか?
「さっき言っていた良い方法って…?」
女社長は苦笑いをする。

「誰も良い方法なんて言ってないでしょ?ただ手は有るって言ったのさ」
「じゃあ、その手というのは?」
「私に除霊を頼むのであれば、最低でも200万はかかる。あんたには、そんな金はない。
でも、そこの若いのがやるなら話は別よ。そいつは霊能者としてはペーペーもいい所。
だから、そいつの現場実習もかねて除霊をさせてもらうなら…お金はかからない。
逆にこちらから礼金を払う。ただし、身の保証の類は一切無いけどね」

そう言うと女社長は、微笑みながらタバコを揉み消した。
それを聞いた若い男は、頭を抱えて天を仰ぐと、「オーマイガー…」とだけ呟いた。

「いや、社長。俺どうすれば良いんすか?」
若い男の問いかけに女社長は、「はぁ!?」と言い、不機嫌な態度を示す。
「今からクライアントと問診!その後に除霊方法を検討し、
計画書を書き上げ、明日までに私に提出!!分かったか!?」
「は、はい!!いや、でも、あの、その…」
「いいからさっさと状況を開始しろ。ボケナス!!」

女社長に激高され、追い出されるように俺たちは事務所を飛び出た。
その後、俺たちは喫茶店の中に入る。
「良い店でしょ?ここ社長の店なんですよ」
若い男はそう言うと、慣れた態度で席に座る。
席は個室のようになっていて、周りに会話は届かない。

コーヒーを二人分注文し、若い男はノートPCを広げた。
「じゃあ、お兄さん。これから問診を始めます。用意は良いですか?」
「気になる事があるんだが…」
「なんです?」
「君はさっきまでタメ口だったのに、急に敬語で話すようになった。なんでだい?」
「お兄さんが、俺の正式なクライアントになったからです。
本当は社長にやってもらいたかったけど、仕方ありません。
俺が現場実習としてお兄さんの除霊をするなら、会社から人材育成費として予算が出ます。
お兄さんにも、礼金として2万円支払われます。ある意味、金銭的にはこれが最善の方法です。
ただ、俺も本当にペーペーなので、身の保証の類は一切出来ません。
でも全力でやります。下手に手を抜けば、俺も死にますから」

そう言うとジョンは、優しく微笑んだ。
「言いたいことはなんとなく分かった。ただ、俺は霊とかそんなことには疎い。
正直、今回のキチガイ女の事も、俺の精神疾患による幻か錯覚だと思っていたんだ。
だから急に霊とか、そんな事を言われても戸惑う」

「なるほど。じゃあ、少し霊に関して説明します。信じるも信じないも、お兄さんの自由です」
俺は小さく頷いた。と同時に、少し悲しい気分になった。
俺はほんの少し前まで、普通のサラリーマンだった。
それが今じゃ霊だのなんだのと、怪しいことに関わっている。

「先ず、俺たちがクライアントに霊の事を説明するとき、PCを例えに用います」
「PC?」
「そう、PCです。今のお兄さんの状態は、ウイルスに侵されたPCです。
PCとはお兄さん。ウイルスとは悪霊。つまり、お兄さんの言うキチガイ女の事です」
「また、新しい例えだな」
「悪霊が取り憑く。よく聞くフレーズだと思います。
では具体的に、人間のどこに取り憑くのか分かりますか?」

俺は黙ってコーヒーに口をつける。
「脳です。悪霊は人間の脳にハッキングすることで取り憑きます。
そして、脳の中に自分というウイルスを根付かせ、脳を支配することで、
その人間の内側から幻覚や錯覚を起こし、精神や肉体を破壊していきます。
個人の脳内での出来事なので、他人には認識する事が難しいです。
一般的な霊であるならば、人間が生まれつき持っているファイアーウォール=守護霊を突破することは出来ません。
しかし稀に、強力なハッキング能力を持った悪霊も居ます。
俺たち霊能者は、ウイルス=悪霊と同様に、人の脳内に侵入することが出来ます。
霊能力=ハッキング能力です。
俺たちの仕事は、悪霊=ウイルスに侵された人間の脳に侵入し、駆除=除霊することです」

何がなんだか訳が分からない。
もしかして俺は、関わっちゃいけない世界に足を踏み入れたのか?
そんな気持ちでいっぱいだった。

「ここまでで何か質問はありますか?」
若い男はそう言いながら、ノートPCに何かを打ち込んでいた。
「何故その悪霊と言うのは、俺に取り憑いたんだ?俺には何の因縁もない女のはずだ」
若い男はひたすらノートPCのキーボードを叩きながら、質問に答える。
「取り憑いたのは、たまたま、という表現が適切かもしれません」
「たまたま?偶然ということか?」
「はい。たまたま侵入しやすかった。多分それだけです。
本当の目的は、誰でも良いから自分の中に取り込むことだと思います。
悪霊は生きた人間を殺して、取り込むことで勢力を拡大させます。
お兄さんをベースに、更なるグレードアップを狙っているのでしょう」

「何のために?」
「恐らく、孤独の穴埋め。もしくは、恨みの穴埋め。或いは両方。といったところでしょうか。
そんな事をしても無意味なんですけどね。むしろ逆効果です。彼女の穴埋めは、永遠に叶わないです」
「随分自分勝手な、テロリストのような理由だな…。もう一つ疑問がある。君は…」
「ジョンでいいです」
「ジョン?」
「仲間内ではそう呼ばれています。本名が言い辛い名前なので」
ジョンか…。昔、うちで飼っていた犬と同じ名前だ。

「じゃあ、ジョン。さっき君は、社長に俺の除霊を言い渡された時に、頭を抱えて『オーマイガー』と呟いたな。
それと、『下手に手を抜けば自分も死ぬ』と言った。それについて説明が欲しい」

「あ、聞こえていたんですか?まぁ、なんと言いますか。正直に言うと、俺の手に負える相手じゃないと思ったんです」
「手に負えない?」
「お兄さん、心当たりがありませんか?医者、警察官、看護師の3人の男」
俺は驚いた。こいつら何故そんな事が分かるんだ。
「心当たりは…ある」
「そいつらは、お兄さんの言うキチガイ女が、今まで殺してきた人間です。
今は完全に彼女に取り込まれて、彼らが彼女のファイアーウォールになっているんです」
「殺してきた?」
「そうです。今のお兄さんと同様に取り憑き、苦しめた挙句に殺しました。
中でも医者との繋がりが強い。恐らく最初の被害者であり、親子だったのかもしれません」

俺は北海道での出来事を思い出していた。
「俺には手に負えないというのは、その3人が理由です。
社長はお兄さんを見た瞬間に、キチガイ女の姿が見える所まで侵入しました。
でも俺には、未だに女の姿が見えない。ファイアーウォールである3人を見る所までしか侵入できません」

北海道で見た幻。あの病院内で出会ったあの3人も、あの女に殺されているだと?
「仮に強引に彼らを突破しようとしても、彼ら3人に足止めを食らうでしょう。
その隙に女が俺の中に逆侵入し、今のお兄さん同様、俺にも取り憑くでしょう。恐らくそうなれば、俺の命も危ない」

じゃああの時、医者が言った言葉の意味は?奈々子?あの女の名前か?
「方法は考えます。俺もこの商売に命懸けていますから」
社会的に抹殺?私には無理なんだ?孤独を共有?
俺はいっぺんに不可思議な情報を得てしまった為か、頭が混乱していた。

「お兄さん?どうかしましたか?」
ジョンの言葉に我に返る。頭が混乱していた。
「なあ、ジョン。仮にこのまま何もせずに放置していたら、俺はどうなる?」

ジョンのノートPCを打つ手が止まる。
「死にますね。事故死、病死、自殺…。俺は預言者じゃないので、その先の死因までは分かりませんが。
キチガイ女は、今まで3人も殺めている。非常に危険な女です。殺される可能性は極めて高い…」
俺は頭を抱えた。気が狂いそうだ。
「ジョン…俺が今までにあの女を見たのは2回だ。その時の話をする」

俺はジョンに、北海道での出来事。それと、初めてジョンと出会った日の、夜の出来事を話した。
ジョンは真剣な眼差しで俺の話を聞いていた。
話し終わった後のジョンの第一声は、「予想以上に厄介です」だった。
「そんなに厄介なのか?」
「厄介です…。お兄さん、その病院の中で『これは現実じゃない』という違和感は覚えませんでしたか?」
「違和感は無かった。今でもあれは現実のように感じる」

それを聞いたジョンの顔は、更に深刻な表情に変わる。
「そこまでリアルな病院を、お兄さんの脳に作り上げた。しかも、同時に3人をその場に出している。
これは女…奈々子ですか?そいつが、お兄さんの脳をかなり深い部分まで侵食していることと、
完全に3人を掌握していることを示しています相当ですよ、これは」

俺は言葉を失った。不意に底なし沼の深みに陥った気がした。
「お兄さん、正直な俺の感想を言います」
「なんだ?」
「今まで良く生きていましたね」

夜、俺とジョンはホテルの一室に居た。
「良い部屋でしょ?ここ、社長の従兄弟が経営するホテルなんですよ」
確かに良い部屋だった。地上20階に位置するこの部屋からは、キレイな夜景が見える。
「お兄さん、家族への連絡は済みました?」
「ああ。何て説明したらいいか分からなかったけど、なんとか納得して貰ったよ」
「事が済むまで申し訳ないですけど、お兄さんをここに監禁させてもらいます。
下手をすると、ご家族にも迷惑がかかりますので…」

俺の家族は、母と姉の二人。父は3年前の秋に、心筋梗塞で死んだ。
父が死んだ時、そばには誰も居なかった。気付いた時には、自宅で孤独死していた。
俺にとって良い父親だった。俺は生涯で最も本気で泣いた。
残された体の弱い母を、俺が守らなくてはいけないのに、今の俺はこの様だ。
本当に情けない。

「なぁ、ジョン。お前にも家族が居るんだろ?」
俺の質問に、ジョンは少し困った顔をした。
「血の繋がった家族は居ません。俺、施設の出なんです。だから…」
「そうなのか。なんか悪いこと聞いちまったかな」
「いえ、俺には家族が居ます。社長や社員のみんなです。俺は社長に拾われていなかったら、
本当にろくでなしで人生を終えるところでした」

そう言うとジョンは優しく微笑んだ。
「あの女社長、ヒステリックで怖そうな人だったけど、お前の言ったとおり根は良い人なんだな」
「まあ、そうですね。普段はおっかないですけどね。あと…お兄さん」
「ん?」
「あの人、女じゃないですよ」
「え?」
「改造済みです」

暫く俺は夜景を眺めていた。こんなに落ち着いた環境は久しぶりだ。
ジョンはひたすら、ノートPCで計画書を作成していた。
「なあ、ジョン」
「なんですか?」
「俺のような人間は他にも居るのか?こんな風に、訳も分からず取り憑かれてしまう人間が、俺の他にも…」

ジョンは静かに溜息をつく。
「多いですね。でも、お兄さんは運が良い部類に入ります。俺たちと出会いましたから。
多くの人は、何も出来ずにただ死ぬだけです。最初にお兄さんが言ったように、
自分がおかしいのだと思い込んで、大概の人は死にます」

ジョンはタバコに火を点け、煙を深く吸い込んだ。
「近年の自殺者数は、年間3万人以上になります。一日に100人は自殺しているのです。
死因不明や行方不明を含めると、もっと居るのかもしれません。
社長は言っていました。『日本人の守護霊が年々弱くなっている』と。
その為、本当に小さな悪霊にも、簡単に取り憑かれてしまう人間が増えた。
勿論、全部が全部悪霊の仕業とは言えませんが、『これは本当に悲しいことなのだ』。そう言っていました」
「守護霊…か。さっきも言ったが、俺は霊とかには疎い。守護霊ってのは、なんなんだ?」

ジョンはノートPCから手を放し、こちらに振り向いた。
「守護霊と悪霊…同じ霊という字で表現しますが、根本的には全く異なる存在です。
悪霊は、自分自身の感情と意志に依存し存在します。
逆に守護霊は、人間の温かい記憶に依存して存在します。
悪霊の強さは、自身の念の強さに左右され、守護霊の強さは、人の温かい記憶よって左右されます」

「温かい記憶?それはなんだ?」
「優しさですね。人は誰かに守ってもらったり、助けてもらって、優しさを身につけます。
助け合いの精神です。その精神が、守護霊の力になるのです」
やっぱり俺にはよく分からない。ただ、ジョンが真剣なのは分かる。

「それって何かの宗教か?」
「いえ、社長の受け売りです。俺たちは宗教団体ではないです」
ジョンの言うとおり、日本人の守護霊とやらが全体的に弱くなっているなら、
それは助け合いの精神の欠如が原因か…。

確かに悲しいことではある。
なら俺も、その助け合いの精神が無いが故に、こんなことになってしまったのか。
「お兄さんの守護霊は強いですよ」
「なに?」
「さっきも言いましたけど、お兄さんは本来、死んでいてもおかしくなかった。
それくらい強烈な奴に憑かれたんです。でも、お兄さんは死んでいない。守護霊が守ってくれているんですよ」
「俺の守護霊って…?」
「お父さんですよ。お兄さんのお父さんが、お兄さんを守ってくれています。
ギリギリの勝負ですけどね。本当に良く頑張ってくれています。
お兄さんは、良い人に育ててもらったんですね」

それを聞くと、俺は黙って窓の外に広がるキレイな夜景を眺めた。
キレイな夜景が、うっすらとぼやけて見えた。

夕飯にジョンがスパゲティを差し出した。
「食って下さい。これから先、体力勝負になりますから」
ジョンには申し訳ないが、今の俺に食欲はなかった。
半分ほど手をつけて限界だった。
それを見てジョンは溜息をつく。

俺はこの先の不安で心を締め付けられていた。
訳も分からないままに騒動に巻き込まれ、こうしている。
納得がいかなかった。どうしてこんなことに俺は巻き込まれたのか。
自問自答してもジョンに聞いても、俺の心は納得しなかった。
窓の向こうに見える景色の中では、今も人々が移ろうように流れていく。
かつては俺もあの流れの中に居た。
あの日々に戻りたかった。

思いふけっていた俺の耳に、窓の縁から何かが張り付くような音がした。
音の方向に眼をやると、俺の瞳孔は一気に開いた。
人の手が窓の向こう側に張り付いている。
ここは地上20階。ベランダも無い。人が立てるような場所ではなかった。

そんな場所に人の手がある。俺はジョンの名を叫んだ。
その瞬間、ジョンは俺の前に立ちふさがり、「窓から離れてください!!」と叫んだ。
ジョンは携帯を取ると、どこかに電話し始めた。

俺は窓の手から視線を外せずにいた。
「大丈夫です。俺が居ます。この部屋の中には入って来られません」
震える俺にジョンはそう言った。
その時、ゆっくりと手の主が這いずるように動き出す。
俺は手の主の顔を見た瞬間に、頭を打ち抜かれるような衝撃を食らい絶句した。
手の主は俺だった。

窓の向こう側に俺がいた。どう見ても俺だった。
俺の頭は完全に真っ白になった。
どうして俺が窓の向こう側に張り付いているんだ。
俺はここに居るのに、窓の向こう側にも俺は居る。俺の頭は完全に混乱した。

「社長、俺です!ジョンです!マズイことになりました!
ドッペルゲンガーです!お兄さんのドッペルゲンガーが出ました!俺の眼にも見えます!!
今は窓の外に居ます!!はい!!御願いします!」
ジョンの電話先は社長だった。何かを社長に御願いし、ジョンは携帯を切る。

「お兄さん、あいつに絶対に触れないで下さい!!
触れたら、俺でも社長でも、お兄さんの命を助けられない!!」
窓の向こう側のもう一人の俺は、激しく狂ったように窓を叩き始めた。
その衝撃音が連鎖するように、部屋中から鳴り響く。
「開けろぉおお!!開けろぉぉおおおお!!」
俺が窓の外でそう叫んでいた。
俺は縮こまりながら、心の中で『止めてくれ、もう止めてくれ!』と何度も叫んだ。

ジョンは「速くしてくれ、速くしてくれ」と呟く。
次の瞬間、ジョンの携帯が鳴り響く。
携帯の着信音に、窓の向こう側の俺は驚いた表情を浮かべると、溶けるように消えていった。
「なんだ!?あれはなんなんだ!?ジョン!?俺が居た!!俺が居たぞ!!!」
怒鳴る俺を無視して、ジョンは携帯で話をしている。
「はい、消えました。有難う御座います。はい…はい…分かりました」
俺はもう何がなんだか訳が分からなかった。

ジョンはソファに腰掛けると今起きた事態を説明しだした。

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