九条の大罪(真鍋昌平)のネタバレ解説・考察まとめ

『九条の大罪』とは、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、 2020年46号から連載されている真鍋昌平による作品。主人公の弁護士九条は、半グレやヤクザなどの顧客から依頼される厄介な案件に対し、法律と道徳を分けどんな依頼人に対しても平等に弁護を行なってく。緻密な取材に基ずいて作られたストーリーは、フィクションでありながらノンフィクションのような描写となっている。どんな困難にあっても志を曲げない九条と、個性豊かな登場人物とのやり取りから目が離せない。ダークヒーロー好きにはたまらない一作である。

『九条の大罪』の概要

『九条の大罪』とは、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、 2020年46号から連載されている真鍋昌平による作品。弁護士の九条間人を主人公とした、法とモラルの極限社会派ドラマをコンセプトとしている。フィクションでありながらノンフィクションのようなストーリーは、作者の徹底的な現場取材により作り上げたものだ。そしてストーリーの緻密さももちろんの事、個性豊かな登場人物も魅力の一つだ。主人公である弁護士の九条はどんなに悪い人間からの依頼も断らない敏腕弁護士。この主人公は100人以上との弁護士と出会い、何人かの要素を加えて作成したキャラクターである。主要人物は、弁護士、警察、半グレ、ヤクザと多種多様な人物が入り混じりさらにストーリーに深みを増していく。時には胸糞悪い内容も、いつか自分にも起こるのではないかという身近さを感じる。読者からは「気分が悪い」「闇が深い」などの声もあるが、「病みそうになるがページを捲る手が止められない」「犯罪というものを再度考える場になる」「弁護士の実態が知れた」など、読めば読むほど引き込まれていく人が大多数だ。2022年1月「全書店定員が選んだおすすめコミック2022」にて第10位を獲得。

『九条の大罪』のあらすじ・ストーリー

九条間人の信念

「悪徳弁護士」と称されようが、依頼人の擁護の為に使命を全うする九条。

飲酒運転でひき逃げをした森田は、壬生憲剛(みぶけんご)の紹介で弁護士の九条間人(くじょうたいざ)に弁護を依頼する。九条の事務所で働く烏丸真司(からすましんじ)は森田を「中々のクズ」と批判するが、九条は依頼人を守るために最も軽い刑を目指すことを説明する。事故の被害者は父親が死亡し、息子は左足を切断する重傷を負ったが、九条の努力により裁判では実際の真実よりも軽い刑が言い渡される。九条は世間から「悪徳弁護士」と非難されるが、「道徳上許し難いことでも、依頼人を擁護するのが弁護士の使命だ」とその信念を再確認する。

罪の代償と守られた命

壬生の依頼で、九条は麻薬所持を疑われて職務質問を受けている曽我部聡太(そかべそうた)を助け出す。逃避行の最中、九条は曽我部に過去の懲役経験を疑うが、曽我部は否定する。しかし、彼の左腕には「うんこ人間」という刺青が彫られており、彼の過去を暗示していた。曽我部は壬生の後輩・金本から電話を受け、慌てて事務所を飛び出す。実は曽我部は5年前に烏丸に弁護された男で、金本の言いなりになって麻薬の運び人をしていた。その後、曽我部はコカインと大麻所持で逮捕され、金本も共犯として逮捕される。九条は曽我部に全ての罪を被るよう指示し、彼もそれに従うことを決める。結果、金本は不起訴釈放となる。出所後の曽我部を支援していたNPOの薬師前は、九条の行為を倫理的に非難する。曽我部の実刑が決まった後、九条と薬師前が面会に訪れるが、曽我部は運命に逆らえないと絶望する。薬師前は曽我部の父親の話をし、彼にも希望を持つよう伝えるが、曽我部は罪を被ることで九条に守られたと主張する。彼は、金本を供述すれば命が危険になると理解しており、法律は命までは守れないと悟っていた。最終的に、金本は口封じのために壬生によって殺される。

恩師・山城との対決

九条は、父・鞍馬行定(くらまゆきさだ)の命日に、恩人で弁護士の流木信輝(ながらぎのぶてる)と、その流木と犬猿の仲である山城祐蔵(やましろゆうぞう)から連絡を受ける。その後山城に菅原という介護施設の社長を紹介される。後日、家守華恵(いえもりはなえ)が九条に依頼に訪れた。菅原が経営する介護施設で、認知症の父を騙して遺産を寄付させる遺書を作成させられたと訴える。九条は山城との利益相反のためこの案件を断るが、流木の助言を受け、山城と対決することを決意する。
介護施設では虐待が日常的に行われており、家守の父も従業員に暴力を振るわれていた。九条は山城の壁を崩すため、壬生に内部事情がわかる動画データを入手してもらう。虐待のニュースが報道され、菅原は山城に施設の行政処分を避けるよう依頼するが、難しいと返答。従業員の久我はスパイとして疑われ拷問を受ける。入院した病院で久我は現状を壬生に連絡をしていた。久我は実際に壬生スパイとして菅原のもとに潜入していた。
九条は山城に遺産全額の払い戻しを提案するが、山城は怒り、九条との酒の飲み比べに挑む。酔いつぶれた山城に、九条は尊敬の念を伝えてその場を去る。法廷で、家守の訴訟が認められ、遺書は捏造と証明され、遺産は家族に支払われる。家守は九条に感謝し、涙を流すのだった。

京極という男

伏見組若頭の京極清志(きょうごくきよし)は引ったくりに遭うが、ボディーガードにより犯人はすぐに捕まる。しかし、ボディーガードが犯人・佐久間に怪我を負わせたため、京極は逮捕される。佐久間は壬生の手下で、壬生はすぐに被害届を取り下げるよう指示する。九条は京極の弁護を引き受けるが、相棒の烏丸は生死に関わる危険性から依頼を断るよう忠告する。
京極が無事に出所し、壬生を出所祝いに招待するが、京極は九条を高く評価していた。一方で、京極は壬生がこの事件に関与しているのではないかと疑念を抱いている。壬生は過去に京極の島を荒らし、その代償として自身の愛犬を殺させたことがある。京極は壬生に、自分の選択を受け入れて罪を背負うよう伝える。壬生の背中には愛犬の刺青が彫られていた。

居場所の無い少女の殺人

留置所で「自分を取り戻すために殺しました」と語る少女、笠置雫(かさぎしずく)。彼女は家を嫌い、街中を転々としながら生活していた。仲間からは「地雷」や「メンヘラ」と呼ばれ、影の薄い存在だった。ある日、出会い系アプリで出会ったイケメンの修斗に心を奪われるが、彼は雫を利用するだけの存在だった。
修斗の誘いでAV女優になる決意をした雫は、可愛い見た目で注目を浴びるが、幸せな日々は長続きしなかった。母の彼氏外畠がAV出演を知り訴訟を起こす。雫は業界から追放され、修斗に風俗嬢になるよう勧められるが心は荒んでいく。最終的に修斗に見放され、精神的に追い詰められた雫は、修斗を殺害する。
九条は雫の弁護を引き受けるが、彼女は死刑を望んでいた。雫の裁判では心神耗弱が認められ、懲役3年の判決が下される。九条は彼女の未来を案じ、居場所がないと絶望する雫に出所後の居場所を提供することを約束し、雫は涙を流す。彼女の問題は解決していないが、九条は寄り添うことを誓う。

嵐山の過去と壬生との因縁

刑事の嵐山は、10年前に娘・愛美を殺害された過去を抱えており、主犯の犬飼勇人(いぬかいゆうと)との因縁から壬生周辺の人物や事件を執拗に追い回していた。外畠は壬生からの制裁を受け、自身の人生の不運を壬生のせいだと思い込み、デリヘルオーナーの久我の車に放火する。しかしその防犯はカメラに映り逮捕される。嵐山は外畠に情報提供を持ちかけ、壬生一派を一網打尽にしようとする。
九条と烏丸は久我の謁見に訪れ、嵐山が取り調べを担当していることを知る。嵐山は愛美の遺留品のスマホのパスワードを解読し、愛美の友人の衣笠から愛美のSNSアカウントを教えてもらう。そこで愛美からのSOSを見逃していたことに気が付き悔いるのであった。
事件から10年後、犬飼が出所し壬生に対して3億の金を要求する。後日、小山(愛美が入れ込んでいた男)が詐欺罪で逮捕され、嵐山は彼に愛美の死について問い詰めるが、小山は「あなたの娘は売春婦です」と言い放つ。九条は小山との面会で、嵐山の娘が昔の女だったことを聞き、あまりにクズな小山の発言に憤りを覚えるが、仕事をきっちりすることを告げる。外畠からの電話で拉致された時のことを思い出たと詳細を聞き、嵐山が自動車整備工場に向かう。そこで、嵐山は壬生の周りで起きた一連の事件との関与を問いただすが、九条は弁護士としての立場を守ると応じる。議論は平行線のまま終わり、嵐山は九条に警告を残して立ち去るのであった。

それぞれの選んだ道

俳優志望の門脇数馬(かどわきかずま)と歌手志望の音羽千歌(おとはちか)は、将来を誓い合った恋人同士だった。小山が主催する食事会で再会した二人だが、千歌は小山と愛人契約を結んでおり、数馬は彼女を思い嘆く。壬生が数馬に100万円を貯めるよう助言し、数馬は必死に働いて目標を達成する。一方、千歌はギャラ飲み女子を斡旋しながら生計を立てていた。そして小山の愛人をしているが、数馬が好きだと告げる。なぜ愛人をしているのかと詰められ、お金のために小山と一緒にいると答える。小山は千歌の住居を監視し、他の男が出入りしていることを知ると、愛人契約を解消すると告げる。
京極が逮捕された後、九条は京極から伏見組の組長に会うよう依頼され、烏丸の警告を無視して謁見を決める。犬飼は出所後、壬生に3億円を要求し、壬生の右腕・久我を囚えさせる。一方、数馬は100万円を元にネット広告会社を立ち上げるが、詐欺に遭って全財産を失う。数馬は九条に相談し、私立探偵の片桐の助けを借りて犯人を突き止め、壬生の手を借りて財産を取り戻す。しかし、回収費用として壬生に半額を取られ、不満を抱く。菅原に相談すると、恐喝の可能性を指摘され、数馬は壬生と菅原のどちらに従うべきか悩む。数馬は壬生の元を訪れ、新しいビジネスの話を持ちかけられたが、詐欺にあった時の回収費用についての不満を伝え、回答をしぶる。壬生は菅原からの入れ知恵があった事に気が付き、自分で決めるよう数馬に言い放つ。
数馬と千歌は同棲を続けるが、関係は悪化。千歌は数馬の元を去り、その後の噂を聞いて数馬は彼女を愛していたことを再確認する。その後数馬は壬生から提案された新しいビジネスについて、利益が壬生にしかないと気づき断る。壬生は数馬の見識を褒め、これからの道を自分で切り開くようアドバイスする。数馬は自分の道を歩む決意を固めるのだった。

京極の息子の殺害

九条の元を去った烏丸は、流木の元で働き始め、九条が起訴される可能性について話す。飲酒運転の森田が再逮捕された件で、嵐山は九条が関与していると疑い、烏丸を呼び出して問い詰めるが、烏丸は冷静に九条の職務を弁護する。
犬飼は壬生に面倒を起こした輩を制裁したので今後どうしたらいいかと相談をする。適当に捨てろと指示した後、京極の息子が行方不明だと聞かされ居場所を知らないか京極に問われる。犬飼が制裁した輩は京極の息子だということに気が付き、総動員で犬飼を探す。犬飼は息子を殺すことを決意するが、息子の猛が京極の息子だと言う事を名乗り出て犬飼の決意を揺らがせる。最終的に、犬飼らは猛を山に生き埋めにする。
その頃、九条は烏丸と偶然出会い、弁護士としての職務について議論する。烏丸は父を殺された事件がきっかけで法律に関わることを決心したと語る。心配する烏丸に「未来を見失わないよう自分はすっかり変わった」にと告げる。
京極が九条の事務所に押しかけ、壬生の居場所を尋ねる。彼は机に息子の足の一部を投げ捨て、壬生の居場所を知らないかと捲し立てる。九条はこの事態の深刻さを感じ取るのであった。

京極と壬生の対決

京極の息子・猛が殺害されたことで、伏見組は壬生と犬飼への制裁を決定する。京極の補佐である雁金から二人の殺害を命じられるが、手下たちは猛の死を喜んでいる。そんな中、京極の手下が壬生の自動車整備工場にトラックで突っ込む事件が発生し、壬生は反撃を決意する。壬生は菅原に連絡し、部下を待機させる。逃亡中の犬飼が合流し、九条と共に京極に出頭する計画を立てる。犬飼と共に猛を殺害した仲間は京極に捕まり、拷問を受ていた。壬生は京極の元に向かう前に、1時間戻らなければ京極の武器を持って出頭するよう久我に依頼する。京極と対峙した壬生は射殺しトランクに詰めた犬飼を京極に差し出す。京極は壬生に道理を問い、自分の飼い犬にすると言い放つのであった。九条の計画通り、壬生は京極の武器を持って警察に出頭する。後日、壬生が全てを話したということで、九条は犯人隠避の容疑で逮捕される。流木と烏丸が逮捕された壬生を訪れ、事件の全貌を聞き、烏丸は九条を助けるために独立を決意する。釈放された九条は壬生に自分を売った理由を尋ね、壬生は九条を守るためだと答える。壬生の裏切りにより京極は逮捕され伏見組から絶縁状をだされていた。宇治という男が京極のポジションとして入ることが決まっていた。宇治と壬生は過去に同じ思想を学んだ同士であり、裏で繋がっていた。

兄・鞍馬との対峙

名門の白栖総合医院は不正受給の問題で医院長・白栖雅之(しらすまさゆき)が謝罪会見を開くが、後任に息子・正孝を指名したことで事態はさらに悪化する。正孝は病院の経営方針に疑問を持っていたため、院長になる事を望んでいなかった。そこからさらに追い打ちをかけるように、SNSで雅之のSMプレイが晒されて炎上する。弁護士の神楽はこの件で多額の報酬を見込んでいた。雅之の次男・幸孝は平川医院の婿養子となっていたため、正孝に綺麗事は言わず院長になる様説得する。そこから程なくして、雅之が架空債権を作成したとして逮捕された。九条の兄・鞍馬蔵人(くらまくらと)が担当検事となる。
白栖病院では、借金の返済を迫る事件屋・有馬が登場し、病院の権利を売るよう要求する。九条と烏丸が有馬に対処し、捜索差し押さえが行われる。九条は鞍馬に悪態をつかれながらも依頼人を守ると決意する。
重要参考人として逮捕された池田は、神楽から全ての罪を被るよう提案され戸惑うが、九条の助けを受けて彼について行くことを決める。

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