無能の鷹(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『無能の鷹』とは講談社の女性漫画誌『Kiss』で連載されているお仕事コメディ漫画。作者ははんざき朝未。舞台はとあるITコンサル会社。主人公は見た目は「デキる人」だけど、無能な鷹野ツメ子。ひよわそうだけど有能な鶸田を始めとした個性豊かな同僚・営業先の人々が登場する。鷹野と彼らの掛け合いが誤解を招きながら、予想の斜め上に進んでいく。無能なのにどこまでもポジティブな鷹野の強烈なキャラクターがこの作品の魅力である。宝島社「このマンガがすごい!2021」オンナ編第11位にランクインした。

『無能の鷹』の概要

『無能の鷹』とは講談社の女性漫画誌『Kiss』で連載されている漫画。作者ははんざき朝未。2019年8月号から連載が開始された。舞台はとあるITコンサル会社。主人公は見た目は「デキる人」だけど、無能な鷹野ツメ子(たかのつめこ)。鷹野は姿勢、発声の仕方、落ち着きぶりから誰もが一見「デキる人」と思ってしまう。しかし、実は記憶力が悪く、エクセルでグラフ作成すらできない無能ぶりである。一方、同僚の鶸田(ひわだ)は自信がなく胃腸も弱い。ひよわそうに見えるが実は有能である。二人がタッグを組んで営業すると、営業先の社員たちは皆は良い意味での勘違いを重ね、鶸田や鷹野と一緒に仕事をしたいと心から思う。不思議な組み合わせで契約を取ることができるようになる。鶸田を始めとした個性豊かな同僚・営業先の人々と鷹野の掛け合いが誤解を招きながら、予想の斜め上に進んでいく。実際には起こり得ないが、上手く展開していくというシュールな世界観が表現されている。現実の会社にいる「ちょっと変わった人」が鷹野を始めとした様々な登場人物に誇張して描かれており、読者の笑いと共感を呼んでいる作品。1話完結型のコメディドラマ。宝島社「このマンガがすごい!2021」オンナ編第11位にランクインした。

『無能の鷹』のあらすじ・ストーリー

鷹野登場!

就活中に鷹野ツメ子(たかのつめこ)と鶸田(ひわだ)は出会った。株式会社ITコンサルティング・タロンの最終面接で鷹野を一目見て、鶸田は「デキる人」だと思う。鶸田は鷹野に触発されてこれまでの焦りや不安が消えた表情になり、面接へ望むことができた。鷹野と鶸田が出会った最終面接から1年半後、晴れて二人共同期として勤務していたが、鷹野はあまりに無能なため、「社内ニート」になっていた。鷹野の「デキる人」オーラは見掛け倒しだったのである。入社当時、教育係の鳩山(はとやま)がつきっきりで指導していたものの、記憶力、理解力共に乏しい鷹野は出来の悪い小学生のようで、ホチキス留めレベルの仕事しかしていない。しかも単純作業は眠くなると言い、パソコンでYouTubeを見ながらの作業である。それに対して、鶸田は教育係の雉谷(きじたに)に有能さを認められているものの、未だに初契約を取れていない。営業先では、相手の視線にどんどん弱気になってしまうからである。鷹野の無能さをどうにもできず、部長が最終的には解雇するしかないとぼやいている時、ドアの外に鷹野が通りがかった。そんな鷹野を鶸田が追いかけるが、鷹野は部長の言葉を全く気にしていない。鶸田はなぜそんなに鷹野のメンタルが強いのかと聞いてみたいと思った。向いてないのにこの会社を選んだ理由を質問すると、「丸の内のオフィス街をパリッとした服でカツカツ歩いて受付を社員証でピッとしたかった」という予想通り浅い回答が返ってくるが、就活中の自分を思い出し、少し共感もする。「コンサルなんて頭を使うだけでもダメで何よりも有能そうに見えないといけない」と鶸田が言いかけて、有能そうに見える鷹野と一緒に契約をとろうかと誘ってみる。鶸田は、見出しを読み上げるだけで話が通じるように「鷹野用」資料を作成した。営業先に向かう前に会社内で鷹野に資料を渡す。電車に乗ると、鶸田はお腹が痛くなる。薬が切れていて、仕方なく駅のトイレに向かい、鷹野だけが先に営業先へ向かうことになった。用を足した鶸田は再び自信をなくし、自分が必要ないのではと思い始める。そこへ鷹野から「漢字が読めない」「燃費ってもえひ?」というメッセージが届き、慌てて営業先へ向かう。営業先につくとそこは鷹野と営業先の人たちとで既にいい空気が出来上がっていた。そんな空気ではあったが、結局漢字が読めない鷹野の代わりに鶸田がプレゼンをする。営業先の人たちは鶸田が話すとなると途端に残念そうな表情を見せるが、鷹野が「彼は私などよりはるかに優秀です」と伝えたことで営業先の人たちの表情が変わった。鶸田も鷹野が話すことを想定して内容を絞って準備をしていたので、いつもよりも話しやすく自信を持ってプレゼンできた。実績がないことも正直に伝え、地味でも内容のある話をしたいという思いを熱心に話す鶸田。その姿勢が営業先に伝わり、その場で契約を取ることができた。帰り道、鷹野に「この仕事が向いてるんじゃない?」と言われる。鶸田は鷹野が漢字が読めないふりをして、鶸田にプレゼンするよう仕向けたのではと一瞬疑いを持つ。

鷹野の提案

イベント設営会社からIT化で営業力を強くしたいという相談があり、鶸田と鷹野で向かうことになった。開発部のプロジェクトマネージャーからは無理・無駄のないスマートな企画を心がけてほしいと言われる。移動中に鷹野に営業先で提案するCRM(顧客管理ツール)について一通り説明をするが、鷹野はCRMの単語すら頭に入らなかった。そうは言っても営業先の相馬(そうま)と榮倉(えいくら)はいい人そうで、既存のシステムを提案するだけだから大丈夫だと鶸田は油断していた。営業先に到着すると当初予定していた社員(相馬)の上司である強面の剛院(ごういん)部長と榮倉が登場する。剛院が「相馬じゃ頼りなくてね!私が代わりました」と話す横で、榮倉はもはやどうにでもなれという表情だった。予想外の展開に鶸田は焦るが、鷹野は鶸田が焦っているのは部長のズボンのチャックが開いているからだと思うズレっぷり。ちゃんとした話し合いができればスムーズに進む、と気を取り直した鶸田のプレゼンが始まるが、空気は重い。部長も鶸田よりも鷹野のほうが上司と勘違いして、鷹野にアイディアを求める。鷹野は大真面目にCRMより必要なのはBGMだと主張し、その場にいた全員が固まってしまった。鷹野の無能さがバレないように鶸田が必死にフォローしたので、話がよけいややこしい方向へ。鶸田自身も「ゆるキャラを作る」というもはやITではないアイディアを出してしまう。無理も無駄もある企画が進みそうになってしまい、鶸田が頭を抱えているとこれまであまり意見を言わずにいた榮倉が「屋外設営の見積もり&シミュレーションシステム」というアイディアを出す。無理なく無駄なくスマートなアイディアで鶸田が感心する。ITがわからないくせにという部長に対し、鷹野は「わかってなきゃダメなんですか?」「私もITのことなんにもわかりませんよ」と言う。部長はここで、鷹野が発言のハードルを下げ榮倉からアイディアを引き出したこと、ITは専門外だと開示して部長に客観的な判断を促しているのだと勘違いする。良い意味での誤解で、部長は榮倉のアイディアを認め、双方いい形で話がまとまる。

テストユーザー鷹野

タロンの社員、鵙尾(もずお)はほどよくめんどくさがりなエンジニアで、いい意味での手抜きの発想がうまい。彼女はクラウドサービスの経費精算システムの改良版を作ろうとしていた。ITを全然使いこなせない人でも使いやすいものにするために、鷹野がテストユーザーに選ばれる。鷹野は社内で経費精算システムを使っていなくて、「ITは私のことが苦手みたいです。」と言うレベルなので、テストユーザーにぴったりだった。数週間後できたアプリは、領収書をスマホのカメラで撮影すると金額などを読み取ってくれたり、音声入力やAIによる自動音声案内をしてくれたりする便利なものだった。鷹野は順調に経費の精算を進めていく。鵙尾は高校生の時に、黒板をノートに写すことが面倒でデジカメで撮影したことがあった。ところがクラスメイトに見つかり、「ずるい」と言われたのである。そこで鵙尾は、パスワードをつけて撮った画像をネットにアップし、クラスメイトにも見られるようにした。しかし、教師にバレてしまい、「ノート取りがなくなると授業全体を変えなきゃいけない」と叱られる。鵙尾は教師の面倒を増やす可能性があったことを反省した。大学生になると鵙尾は統計学の授業で分析手順の自動化に熱心に取り組む。そんな鵙尾を見て教授は「鵙尾さんは”楽するための努力”が得意なんだね」と言ってくれたので、鵙尾は腑に落ちたことを思い出した。回想が終わり、鷹野の様子を見に行くと、なんと入力が終わってないのに寝ている。楽で最初は楽しかったが飽きたというのが、その理由だった。楽で楽しい仕事しかできないなんてただのクズじゃんと鵙尾は絶句する。そばにいた鳩山は、鵙尾でも鷹野を活かせなかったことを少し喜んでしまった。鵙尾はそれでも諦めず、楽で楽しくないと仕事ができない人にも使えるものを、とさらに頭を捻る。そしてついに、ゲーミフィケーションの概念を取り入れれば良いのではないかというアイディアがひらめいた。楽なだけじゃダメと知ったときはかなりのショックを受けた鵙尾だが、さらに良い考えがひらめいたのは、他ならぬ鷹野のおかげと言うべきなのだろうか。

マウンティングされる鷹野

鶸田は、鵜飼(うかい)に受注まであと一歩の案件を引き継がれる。鶸田は自分の印象が良くないと思っていて自信なさそうだが、鵜飼はそういう鶸田だからこそ相手は信用できると言う。逆に鷹野の影響でいかにも仕事ができそうな人がダメな人と思えてくるのだとも言っていた。鵜飼が話が終わる前にいなくなってしまい、鶸田は質問すらできなかった。その後現れた雉谷によると、鶸田に鵜飼が引き継いだ案件は、相手が競合会社の存在を匂わせてきたそうで、鵜飼は面倒になったと言っていたそうだ。鶸田は当て馬にされたのかと落ち込んでいた。案件の会社に着くと、競合会社の人と思われる人とロビーで隣の席になる。競合会社の人は打ち合わせが終わったところだが、ゲリラ豪雨のため帰れないのだ。成り行きで会話が始まったが、鷹野の態度が何故か競合会社にはマウンティングバトルをしようとしていると捉えられてしまった。鷹野はただ会話をしているだけなのだが、競合会社の人は、その言葉の裏を読んでマウンティングを繰り返す。ただ、聞いている鶸田からしてみれば、なんだかくだらない内容になっていた。見た目で仕事ができそうな人でも、そんなにすごい人ではないのかもしれないと思った。またその逆もしかりで、自分は見た目はなかなか良い印象を与えられないが、自分なりの良さがあるのかもしれないと思った。そこで鶸田は、実際にはインターネットの接続の不具合を直して、Google検索のページが出てくるようにしたことを「Googleを立て直した」という言葉を使って大げさに話す。すると競合会社にはハッタリではなく本当にGoogleを立て直したと信じてしまい、マウンティングバトルに負けたことを認める。ちなみにマウンティングバトルには勝利した鶸田と鷹野であったが、案件は失注したのであった。

鷹野と雑談

鶸田は雑談が上手くできないことで悩んでいた。社内チャットの雑談ルームに鶸田が書き込むと雑談が止まるのだ。知らぬ間に誰かの地雷を踏んでいるのかもしれないと鶸田は思う。そんな鶸田の隣で鷹野は古典的なパズルゲームであるマインスイーパをやっていた。全くルールを理解していない鷹野に鶸田が説明をしていくうちに、雑談とマインスイーパに関連があることに気づく。地雷を避けてマスを開けていくことと、地雷となる話題を避けて会話をしていくことが似ているのだ。後日、とある契約先の定期面談が喫茶店で行われ、鶸田と鷹野が先に喫茶店に着いていた。そこへ契約先の社員、荒川(あらかわ)があとからやってくる。もう一人の社員が遅れてくるので、雑談タイムが始まった。鶸田は、マインスイーパのように地雷となる話題を予測し、回避しながら慎重に雑談をしていった。荒川は「転職」というワードを出すと明らかに動揺していたので、鶸田は地雷ワードと察知し、転職についての話題は避けるようにする。それに対して、地雷ワードと思われる「転職」を直球で会話に盛り込んでいく鷹野。鶸田はさらに話題を変えていくが、不思議なことにどうしても転職に話題が戻ってしまう。実は荒川は前職で、雑談中の失言が元で気まずくなったことが理由で転職したのだった。鷹野はストレートに転職した理由を尋ねるので、荒川は青ざめた表情をしてトイレに席を立ってしまった。地雷を踏んでしまい、ゲームオーバーになってしまったのである。荒川が戻ってくると、再び鷹野が転職理由を深堀りしてくる。鷹野があまりにデリカシーがないので、失言に罪悪感を覚える自分はまだマシだと、荒川は元気が出てきた。人は失言したりされたりしながら生きていると感じた荒川の表情は穏やかだった。その後はとても和やかな空気の中で雑談が進む。鶸田は今回の雑談はなんだかんだ上手く言ったように思え、地雷を踏んだからと言って、雑談はゲームオーバーにはならないのだと思う。「雑談はほどよく雑でいい」と思うのであった。ちなみに社内チャットの雑談ルームには、鷹野が「ひわだくんが雑談の返事がなくて悩んでます」と書き込んでいて、返事が賑わっていた。

ランダム鷹野とチャットAI

鳩山は日々合理的な生活を送っている。朝食は基本鮭定食で、2駅前からウォーキングしながらの出勤。余裕を持って出社し、10分間のマインドフルネスを行う。しかしその生活パターンはAIが予測できるほどわかりやすいということを、鵜飼や雉谷に指摘される。鳩山はまるで自分がつまらない人間かのように思えてきた。そこで、自分の思いも寄らない行動パターンで殻を破ってみようと決心する。鳩山はチャットAIの提案のままに、ギャルカフェに行ってみたり、特撮映画のエキストラに参加したり、競馬に百万円以上掛けてパーにしたりした。予想外な行動だと鵜飼と雉谷も一旦は認め、鳩山は達成感に満ちた表情となる。しかし、そのあとは再び鳩山の行動はパターン化してしまった。雉谷に行動を読まれ、鳩山は再び悩み始める。そんな鳩山のそばで、鷹野は無意識に自動販売機で「サイダーのたらこ味」を買っていた。鷹野はもはや考えることを放棄しているので、鷹野こそが予想外な行動を導くメンターにふさわしいと鳩山はひらめく。鳩山は鷹野についていくことを決心する。鷹野は風向きやボールが転がる向きなどで自分が進む方向を決め、ランチの店を決めていた。そうやって決めたランチの店はネットに情報が載っていないのに、とても美味しかった。鳩山は鷹野に感心する。ランダムな生活を1週間続け、鳩山は仕事も何もかもランダムになっていた。鵜飼や雉谷は、鳩山が会社を辞めるのではないかと心配している。次の月曜日、鷹野はランダムに方向を決めてきたはずなのに、先週ランチをした店にたどり着いてしまった。ただし違うルートと違う入口から入ったので、鷹野は同じ店だとは気づいていない。先週と同じ店だと気付いた鳩山は、ランダムな生活をしていても、結局予測可能な人生なのだと落胆する。鳩山は前回と同じメニューを頼み、食べ始める。すると、前回と違う味がしたのだ。そこでたとえ予測可能な人生でも、味わい方で変わってくるのだと鳩山は気づく。どんな風に味わうかは自分次第であり、これまで鵜飼や雉谷に振り回されていた自分を反省した。そして鳩山は元の生活パターンに戻るが、月1でランダムな生活をすることも楽しんでいる。ちなみに鷹野はまたいつもの店に来ていたが、前回はハーブを切らしていたから味が違ったと店員さんが教えてくれた。鷹野は記憶力がないので初めて来たと答えていた。

『無能の鷹』の登場人物・キャラクター

主要人物

鷹野ツメ子(たかのつめこ)

IT会社に入社して1年目の会社員である。一目で「デキる人」と思われがち。「スマートな身のこなし、公共放送のアナウンサーのようなきれいな発声、その場しのぎではなく板についた落ち着き」がそう思わせる。しかし、実際は記憶力が悪く、エクセルでグラフを作成することすらできない。ミスプリにも気付かず、オシャレにはみ出させているのだとそのまま印刷を続ける。「うっかり頼んだオレが悪かった」と言う上司・鳩山に「気にしないでください」と慰めていて、空気の読めない性格である。できることといえばホチキス留めだけである。鳩山の熱心な指導にもかかわらず、仕事の能力は向上せず「社内ニート」になっている。ただ、本人はそのような状況でも決して悲観していない。頼まれた仕事を一旦は引き受け、できないと感じたところで諦める。諦めたあとは、堂々とYouTubeを見て過ごす。昔から仕事ドラマが好きだったため、「デキる人」の姿勢が身についた。ちなみにドラマの内容はわかっていなかった。

鶸田(ひわだ)

鷹野と同期。胃腸が弱い。ひよわそうな見た目だが、有能。分析センスがあり、提案内容も良いと同僚には認められている。しかし、自信のなさが影響して、営業に出ても契約を取ることができないでいた。しかし、鷹野とコンビを組むとひらめきや自信が生まれ、契約に有利な方向へ誤解を招き、契約を取ることができるようになった。

株式会社ITコンサルティング・タロンの社員

madrok9
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