アストリッドとラファエル 文書係の事件録(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』とは、フランス発の犯罪ミステリードラマである。日本では2021年にミステリーチャンネルで第1シーズンが放送され、2023年10月までに第4シーズンが放送されている。犯罪資料局文書係のアストリッド・ニールセンは几帳面で神経質、警視庁警視ラファエル・コストは大雑把で大胆。そんな両極端の2人が、互いを認め合い助け合いながら難事件に挑む。周りの理解を得づらい障害、母親や女性としての葛藤、それぞれの悩みを抱えながらも、友情を深め合う2人の姿が魅力のドラマである。

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』の概要

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』とは、フランス発の犯罪ミステリードラマである。アレクサンドル・ド・セガン、ローラン・ブルタン、ドゥニ・アラメルスリら3人の脚本家たちが制作した。全10話フランス発の犯罪ミステリードラマである。フランスのテレビチャンネル「フランス2」で放送されているテレビドラマであり、サラ・モーテンセンが自閉症のアストリッド・ニールセンを演じており、彼女の見事な演技力と話題を呼び、シリーズ4まで制作・放送されている。
2019年4月にパイロット版が放送されたのち、2020年3月〜4月に第1シーズン(全8話)・2021年5月〜6月に第2シーズン(全8話)・2022年8月〜9月に第3シーズン(全8話)・2023年5月〜6月に第4シーズン(全8話)がそれぞれ放送された。
日本では字幕版が、2021年5月に第1シーズンが初めてミステリーチャンネル(旧AXNミステリー)で放送され、2022年3月に第2シーズン・2022年10月に第3シーズン・2023年10月に第4シーズンと放送されている。
また、第1シーズンの吹替え版が、NHK総合で2022年7月24日〜10月2日毎週(日)午後11時に放送され、第2シーズンの吹替え版『アストリッドとラファエル2 文書係の事件録』のタイトルでNHK総合にて、2023年5月21日〜7月9日まで毎週(日)午後11時に放送されることが決まり、その放送前に第1シーズンの吹替え版が5月10日~5月21日に再放送された。
2024年1月に第4シーズンの放送が始まる。

パリの犯罪資料局に勤務する主人公アストリッド・ニールセン。幼少期に自閉症と診断され、人とのコミュニケーションなどが苦手だった。そんな幼いアストリッドの興味を惹いたのは「パズル」。警察官である父の影響で、犯罪捜査の調書に触れたアストリッドは、捜査というパズルに魅せられる。そしてアストリッドの才能に気づいた父の計らいで、犯罪資料局・文書係の仕事に就くことになる。犯罪捜査の資料で溢れるその場所で、アストリッドは人との関わりを避け静かに日々を過ごしていた。そこへ、もう1人の主人公であるパリ警視庁の警視ラファエルが、不可解な死を遂げた医師の事件捜査のため訪れる。
内向的なアストリッドと大胆かつ行動派のラファエル・コストが、協力しながら数々の難事件を解決していく。
アストリッドの周りには話数を重ねていく毎に、ユニークな自閉症仲間や尊敬できる監察医など、信頼できる人物が増えていく。自閉症という他者から理解されにくい苦悩や生きづらさを抱える一方で、誰もが抱き得る孤独や不安に向き合う登場人物たち。このドラマでは、アストリッドとラファエルが互いを認め合い尊重し合いながら、絆を深めていく姿が描かれる。

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』のあらすじ・ストーリー

主人公2人の出会いとなる医師の連続不審死

頼んでいない捜査資料を持ってきた経緯について(右)ラファエルが(左)アストリッドに聞いているシーン

リオネル・ルノワールという医師が、大金を引き出したのち、ガソリンをかぶり火をつける自殺事件が起こる。事件直前に8,000ユーロを引き出したことや、息子の結婚が決まっていたことなどから、自殺とは考えにくいと判断した、主人公の1人パリ警視庁警視ラファエル・コスト。
この自殺事件をきっかけに過去同様の自殺事件が起きていることを思い出す。
2年前、医師ドゥニ・ネドリーが、ダンケルクホテルの浴室で静脈を切り自殺した。当時、担当捜査官であった警部ニコラ・ペランは、自殺と判断し詳しく調べることはなかったというが、この事件でもネドリーは死ぬ前日に5,000ユーロを引き出しており、金の行方は分かっていない。
ラファエルは、ネドリーの事件資料を閲覧するため犯罪資料局へ。そこで、自閉スペクトラム症を持つもう1人の主人公アストリッド・ニールセンと出会う。
ラファエルが閲覧申請したのは、2年前の事件だけだったが、アストリッドはもうひとつの類似事件資料も持ってきた。児童精神科医アラン・グラントが診察室で自殺し、7,000ユーロが消失という内容で、今回の事件と合致していた。
必要な資料を的確に揃えたアストリッドに、興味を持ったラファエルは捜査協力を仰ぐ。しかし、「9つの点の問題が解けたからといってパズルの専門家にはなれない」と断った。断られた際の言葉の意味はラファエルには理解できなかった。
アストリッドは、自閉スペクトラム症がゆえに騒音や雑踏が苦手。日常を習慣化することで自分をコントロールしている。習慣化していることが予定通りに進まないとパニックに陥ってしまう。そのため、ラファエルの申し出を1度断ったアストリッドだったが、友人の助言もあり捜査に協力することを決める。

捜査資料を読み解き、3件全ての事件でスポコラミンとアトロピンという薬物が関係していると気づくアストリッド。ラファエルは他の事件聴取で、スポコラミンやアトロピンは専門知識を有するものが使えば、自我を奪い自白や自殺をさせることができる毒物だという情報を得る。

過去の事件含め3件の自殺者全員に、同時期にコロンビアへ渡航歴があることが判明。さらにもう1人、ノジカール研究所イアン・マルコムという人物が3人の渡航に関係していた。
自殺者3人の医師は、マルコムが主催し同行した売春ツアーに参加していたことが分かる。一連の殺人容疑でマルコを逮捕に向かったラファエルたちだったが、アパートのバルコニーから飛び降り意識不明となっていた。
鑑識作業中だった現場で、アストリッドは被害者がいた場所や毒物を浴びたとされる場所など次々と言い当て、被害者マルコムが無抵抗だったと推測。そして被害者が無抵抗でも納得できる家政婦が怪しいと結論づけた。
その後の捜査で、ネドリーの自殺現場であるダンケルクホテル清掃員にビオレッタ・フローレスという名前の女性がいて、マルコムの家政婦もしていたと分かる。女性はコロンビア人で、ネドリーの遺体の第一発見者だった。
ビオレッタは抵抗することなく連行され、取り調べで真相を語る。義母に売られ娼婦になった姉妹が16歳と18歳の時、フランス人男性4人に船で乱暴され、姉は妹を守ろうとして殺された。妹は告訴したが警察は取り合わず、自ら4人を探し当て復讐を果たしたという。

今回の事件で、正式に専門家として捜査協力を依頼されたアストリッドは、自閉症特有の様々な壁にぶち当たりながら、苦手な「予定外」を少し楽しめるようになっていた。好きなパズルの話をするアストリッドに、9つの点についてヒントをもらうラファエル。「時には枠をはみ出すことも必要です」。ヒントに閃いたラファエルは店のナプキンに9つの点を描き問題を解く。

崩落現場の屍蝋化死体と友情の証

若者が集まる洞窟内のパーティで、天井の一部が崩落し遺体が発見された。パーティの参加者ではなく洞窟の上の民家から天井と一緒に落下したようだった。
遺体はガブリエル・アンリという名が書かれた第二次世界大戦時の軍の認識票を身につけていたが、遺体はどう見ても20代の青年。本人の物とは考えにくい。

解剖の結果、遺体は屍蝋化しており、さらに「スピリトゥスフルカネリ」と刻印がある指輪を飲み込んでいた。指輪には暗号化された記号も記されていた。
そして遺体唯一の手がかりであるガブリエル・アンリという名前は、60年前に捜索願が出されており、捜索対象者の写真は崩落現場で見つかった青年そのものだった。現在も生きていれば90歳の老人。しかし、死後置かれていた環境により屍蝋化していたため、腐敗することなく20代のまま状態が保たれたと考えられる。

指輪の記号は錬金術のシンボルだとアストリッドが調べ当てた。さらに指輪には紋章のようなものがあり、解き明かせば何かの鍵になるかもしれないと、社会力向上クラブリーダーのウィリアムに解読を頼む。

ガブリエル・アンリの息子トマ・アンリに話を聞くと、父ガブリエルは「隠された宝を見つけ行方をくらませた」と生前より母親が言っていたという。
ラファエルは、ガブリエルが遺棄されていた地下室を有する家屋の持ち主であり、ガブリエルの従兄弟エチエンヌ・ラロッシュが入居する施設を訪ねた。しかし、エチエンヌは何者かに拘束され暴行の末、殺害されていた。殺されたエチエンヌは、ガブリエルの家族とは絶縁していると娘から聞かされる。

ガブリエルとエチエンヌを知る雑誌記者によると、2人は仲の良い従兄弟同士で、地下鉄拡張工事の現場で一緒に働いていた。ある時、地下での作業途中、誤って廃屋の壁を貫いてしまう。そこで2人は金塊と指輪を見つけ、それぞれに持ち帰った。金塊1つと指輪を持ち帰ったガブリエルは、この指輪は金塊よりも価値ある物だと信じ、大事にしていた様子。その姿を見ていたエチエンヌは、自分も指輪が欲しいと言っていたという。

ラファエルは、同僚からトマ・アンリにはカトリーヌ・ルベールという叔母がいることを知らされ写真を見た。その写真の女性は、エチエンヌが入居する施設の介護士であり、カトリーヌは、ガブリエルの年の離れた妹だったと分かる。

指輪の謎を解読したウィリアムによると、指輪は中世の暗号箱のようなものだという。
同じ頃、アストリッドから指輪の入ったリュックを引ったくったカトリーヌは、暗号箱が保管されている美術館へ行き暗号を解こうとしていた。しかし、ラファエルに取り押さえられ連行される。

取り調べでカトリーヌは、兄殺害を認めさせるためにエチエンヌを拘束したが、行き過ぎた追及によって殺してしまったと認める。
従兄弟同士の間で、殺人にまで発展した指輪が示す宝とは一体何なのか。
取り調べ中のカトリーヌの前に数式の書かれたメモが1枚置かれる。指輪が示した宝は、燐の製造方法が書かれたものだった。これが隠された当時なら貴重なものだったが、現在ではただの紙切れ同然。

秘められた宝が知識だったことにロマンを感じるアストリッド。

事件中、互いに誕生日を迎えたアストリッドとラファエル。アストリッドは、苦手な社会との摩擦から守ってくれるラファエルをイメージし、指抜きを送る。そしてラファエルは「友情」という名の本を送った。

テツオ・タナカとの出会い

浴槽に沈む男性の遺体。男性の片側の小指は無くなっている。殺害前に切断されたのだろう、これは日本のヤクザが行う筋を通す作法だと説明するアストリッド。アストリッドは幼い頃から、父親と一緒に日本食を扱うお店へ出入りしていたこともあり、日本文化への知識も豊富である。
被害者はタケシ・キムラという日本人。表向きは画廊を経営しているが、日本のヤマガキ会という暴力団のフランスでの窓口のような役割をしていた。護衛もついていたが、3人とも気を失っていたため気づかなかったという。長年キムラに仕えているケンと名乗る男性は頼まれごとをして護衛には付いていなかったと証言。ワイシャツから透けて見えるほど刺青が入っており、アストリッドはケンがヤクザだと気づく。

ヤクザ同士の抗争の線も考えたが、一先ず関係者への聞き込みへまわる主人公たち。
被害者の妻ヒトミからは有益な情報はなかったため、画廊の責任者ヒロ・モランにも話を聞くことに。ヒロはキムラを恩人と慕い、たまに2人で囲碁を打ったりしていたという。少し前にキムラとケンが言い争う様子を見たと証言している。

後日ラファエルは、画廊のヒロにもう1度話を聞きたいが、日本文化に不慣れな自分が聞くよりも、日本の作法を知るアストリッドの方が適任だと言われ、日本食料店のタナカにある茶室でならと承諾する。
タナカの店へ食料品を買いに行くのは、月曜日と決まっているが、この日は水曜日。いつも行かない水曜日にタナカの店を訪れると、店頭にはアピュ・タナカではなく、甥のテツオ・タナカが立っていた。アストリッドのことは、アピュから聞き知っているようで、茶室での聴取を快諾してくれる。

その頃ラファエルは、キムラとの口論の理由をケンに聞いていた。キムラは売上金を
使い、損失を出したことで上納金が減っていたようで、それについて少し言い合ったが日本から殺害の指示は出ていないと主張。

キムラには、愛人を住まわせる別宅があることをヒロから聞いたアストリッド。探しあてると、そこには隠しカメラが何台も設置されており、キムラの殺害現場である浴室にもついていた。犯人も映っていたがお面を被っていて顔はわからない。しかし、映像に映る刺青に見覚えがあったアストリッド。過去資料によると、25年前にすでに無くなっている身元不明のヤクザで、現場のDNAからその場にケンがいたことも判明する。刺青に詳しい人物によると、ケンと同じ彫り師が彫ったものだという。

再びケンに聴取をしようとしたが、何者かに日本刀で胸をひと突きされ、殺害されてしまう。使われた日本刀は、柄の模様がキムラ殺害のものと酷似していたことから、同一犯と考えられる。ケンの部屋から見つかった1枚の写真には、キムラ、25年前に亡くなった男性とケン、さらにキムラの妻ヒトミの姿も映っていた。
ヒトミの話によると、25年前に亡くなったのはアキラ・イチイという男性。ナタリー・ラフォンという女性と結婚するため、ヤクザを辞めようとしていた。しかし、ヤクザを辞めてすぐ何者かにアキラは殺された。ナタリーには、アキラとの間にヒロという息子がいるという。

そしてヒロの部屋からキムラの切断された小指が見つかる。
部屋には刀架があり、太刀・短刀・脇差と揃っているはずの脇差がないとアストリッドが気づく。ヒロは切腹を考えていると考え墓地へ急ぐ。アキラ・イチイの墓前でヒロが切腹をする寸前でラファエルが説得し逮捕に至る。
ヒロは、アキラ殺害の指示をしたキムラと実行したケンを殺害したと認める。
キムラを実の父同然に慕っていたヒロだが、キムラがヒロの母親とアキラが一緒になったことに対して侮辱する発言をしたため、犯行に及んだと自供した。

母マチルドとの再会

ポーリーヌ・フォヴェーユがパイプオルガン演奏中、特定の音に違和感を感じオルガン内部を調べたところ、ユーゴ・マルシャンという男性が死亡しているのを発見する。

その頃、アストリッドは再会した実母マチルド・ニールセンとタングラムの勝負をしていた。マチルドはタングラムが上手く、「ニールセンさんは強敵です」と言うアストリッドに、ママと呼んで欲しいと頼むが断られる。しかし、困ったことがあれば自分を頼るようアストリッドにお願いする。

事件が起きたのはフランスのラジオ局。巨大なパイプオルガン内部で、足場を踏み外した男性が転落死したという。監察医フルニエの検視結果は、落下時の頭部打撲による即死だとする。しかし、アストリッドは被害者の左指に血が付着していることから、落下前に耳から出血しそれに触れ、落下したのち死亡したと進言。
発見者のポーリーヌ・フォヴェーユは、バッハのトッカータとフーガニ短調を練習していたと、演奏助手のベネディクト・グレランが証言。

ポーリーヌは、ユーゴを発見する少し前、パイプオルガン内部でジャック・ライプニッツとすれ違ったと証言。体調が優れない様子でその後帰宅したようだという。
その後の捜査で、ポーリーヌの演奏を録音した音源に、ユーゴとライプニッツの言い争う声が入っていた。事件との関連があると見てライプニッツに疑いの目を向けるラファエル。

アストリッドは、録音された演奏に違和感を感じるが、音響スタッフはわからないという。自閉スペクトラム症特有の聴覚過敏で他人には感じ取れない音域の音までも聞こえるのだ。時を同じくして、ラジオ局のホールに戻ったライプニッツは、パイプオルガン付近で、音楽が流れてきたと同時に苦しみ出し倒れてしまう。
ホールの清掃員が倒れているライプニッツを見つける。フルニエは心筋梗塞だと断定。手術痕から心臓に人工弁を入れていることも指摘する。
二日続けて同じ場所で病死が続くとは考えにくいと悩むラファエル。

ラファエルは、レッスンのためライプニッツ宅を訪れていたポーリーヌを伴って、家の中を捜索する。部屋にはライプニッツが指導してきた生徒たちの演奏音源がずらりと並んでいた。ポーリーヌによると、ライプニッツはトッカータとフーガニ短調という曲に強い思い入れがあるようで、この曲を演奏する時の指導は特別厳しく、完璧でなければ許されなかったという。ライプニッツが亡くなる直前に残したと思われる、フェルマータの記号。程よく伸ばすという意味合いがあるらしいが、トッカータとフーガニ短調にはよく使われている記号だという。

録音音源を調べ続けていたアストリッドは、音響スタッフの協力もあり違和感の正体に気づく。同じ頃、フルニエの解剖でライプニッツは、人工弁の停止による血栓発生で死亡したことが分かる。
アストリッドは、演奏録音の違和感について超低周波音が原因で、2人を殺害したのは音楽だと断言する。パイプオルガンの特定の鍵盤に低周波音発生装置が仕掛けられており、演奏中その鍵盤を弾くと低周波音が発生するように細工されていたと説明。普通の人には聞こえないが、低周波音は共振することで動脈瘤を発生させたり、人工弁を停止させることができるという。
ライプニッツの書き残したフェルマータは、その部分の演奏中に胸が苦しくなっていたからだと推測する。

社会力向上クラブで、今回の事件について話すアストリッド。主催者ウィリアムは、アストリッドの精神的ストレスについて心配する。10粒の豆を取り出し「日々の生活でストレスを感じた時には1粒減らし、気分転換できた時には1粒増やす。この方法で、無意識下の限界を迎えないようセルフコントロールするといい」とアストリッドへアドバイスする。

殺害方法の仕掛けがわかったラファエルたちは、誰が仕掛けたのかを探る。
厳しい指導者だったライプニッツは、過去に生徒から訴えられることもあったという。現在の生徒であるポーリーヌは、ライプニッツに叱責された数時間後、車での事故を起こしていることが分かり、モラハラ指導による自殺未遂かと思われた。しかし本人はこれを否定する。ポーリーヌは、昔サリクスという名で呼ばれていた人物が、ライプニッツに最も期待されていた生徒だという。
サリクスを探し出す過程で、アストリッドは普段以上のストレスを感じ、1粒、また1粒と豆の数を減らしていく。そして、サリクスの正体であるマリー・ルナールことポーリーヌの演奏助手であるベネディクト・グレランを見つけた。飛び降りようとするベネディクトを制しようとラファエルが発砲した瞬間、すでに10粒の豆を使い切ったアストリッドはストレスの限界を超えパニック状態になってしまう。

ベネディクトは連行され、取り調べで真相を語る。ライプニッツの元で、オルガニストとして練習に励んでいた頃、マリー・ルナールはライプニッツから特に期待されている愛弟子であった。ライプニッツは、マリーのことを、ネウマ音楽記号のサリクスと名付けて指導していた。ライプニッツは、高圧的かつ非常に厳しい人物で、モラハラ同然の指導を長年繰り返していたという。マリーは、渾身の演奏をも評価されず心身ともに限界を迎えた末、自殺を計りオルガニストとしての道を断たれた。結婚を機に、ベネディクト・グレランと名を変え、現在までポーリーヌの演奏助手をしている。
しかし、時が経ってもライプニッツの指導方針に変化はなく、過去の自分のように心身をすり減らすポーリーヌを見て、ライプニッツ殺害を決意。パイプオルガンの特定の一音を弾くと、低周波が出るように細工し、ライプニッツの体内にある人工弁を停止させ殺害した。
だが、ユーゴ・マルシャンについては意図せず巻き込んでしまい、死なせてしまったことを後悔しているという。

精神の限界を迎えパニックを起こしたアストリッドは、母マチルドを頼った。
指ぬきのような存在だと言ってくれたのに、アストリッドのストレスに気づけなかったとラファエルは自分を責めるのだった。

立てこもり事件で見せた仲間とのチームプレー

犯罪資料局で立てこもり事件が発生。
BRI(捜査介入部)も出動し、犯人との交渉役をマティアス・フォレスト検事が担う。アストリッドを心配し、警視正バシェールたちも捜査に参加する。だが、ラファエルとは連絡がつかない様子。
フォレスト検事が内部との交渉を開始したが、電話の相手はラファエルだった。

ラファエルは拘束され、国家警察監察総監であるウーリッツァーの取り調べで、犯罪資料局内に拳銃を所持した犯人を招き入れたのは自分だと証言する。

立てこもり事件の発端は、マリッサ・マルトゥノという人物がアストリッドを訪ねて犯罪資料局へ来たことだった。マリッサは自身に課せられた殺人罪が冤罪だと訴えはじめ、アストリッドとラファエルは話を聞くことにした。訴えの内容が真実かどうか知るには、犯罪資料局の資料を見てみないと判断できないというアストリッドの提案に乗り、ラファエルはマリッサを無許可で犯罪資料局へ入館させた。無関係のマリッサを正面から入館させることはできないため、過去に保守点検作業員をしていたウィリアムが教えてくれた、裏ルートを通って資料局内部へ入る3人。
そしてラファエルたちは、ここで初めてマリッサが脱獄犯で拳銃を所持していることを知り、立てこもり事件へと発展する。

ラファエルは、マリッサを説得しようと試みたが、マティアスによるBRI投入で説得できず、マリッサは再び逃走してしまう。

立てこもり事件から解放されたラファエルとアストリッドは、取り調べで身動きが取れない状況でも、マリッサが主張する冤罪事件の真相を解き明かそうとする。
犯罪資料局で調べた資料から、マリッサの殺人容疑は冤罪である可能性が高いと判断するアストリッドたち。しかし、これだけの資料があれば再捜査をして冤罪を晴らすこともできたはずなのに、マリッサが今も逃亡を続けている理由が分からない。何か別の目的があるかずだとラファエルは言う。
マリッサが籠城中、ラファエルに話したという亡き息子の話を聞いたアストリッドは、思い当たる資料があるようで、取り調べ中ではあるが権利を行使して電話をかける。
電話の相手はウィリアムだったが、繋がらず。続けてテツオ・タナカへ電話をかけ、ウィリアムへの伝言を頼む。

伝言を託されたテツオは、ウィリアムと2人で頼まれた資料を探し出す。その際、資料庫を見たテツオは、「アストリッドの頭の中を覗いたみたいだ」と言って少し感動する。その隣でウィリアムは、昔を思い出していた。かつてアストリッドが資料局内のデータベース復旧作業に、ウィリアムの名を挙げてくれたおかげで今の自分がある。その恩を返す時がきたのだと張り切る。

ウィリアムとテツオが持ってきた資料を受け取ったアストリッドは、さらに証拠を集めていく。鑑識データの照合、病院でのカルテ記録、真犯人が通っていた依存症の自助グループへの聞き込みなど、取調室から動けないアストリッドのために、仲間のみんなが動いてくれた。そのおかげで真相へと辿り着く。

脱獄し今も逃げ続けているマリッサは、自らの冤罪を晴らすためではなく、息子の死の原因である飲酒運転による轢き逃げ事件の犯人を、自分の手で始末するために逃げているのだと言うアストリッド。その犯人は、かつてマリッサも通っていた依存症患者が集う自助グループに参加していた人物で、冤罪事件の真犯人でもあった。

真相が分かったラファエルたちは、マリッサを探しだす。しかしマリッサは、逃亡を続けながら轢き逃げ犯を見つけだし、拳銃を突きつけ発砲寸前だった。それをラファエルが、身を挺して阻止しマリッサと轢き逃げ犯を捕らえた。マリッサの発砲した弾は、ラファエルに当たったが、急所は外れ命に別状はなかった。
お見舞いへ訪れたアストリッドは、自分のことを道標である方位磁石だと表現してくれたラファエルに、「方位磁石には指抜きが必要です」と言い、ラファエルも「指抜きには方位磁石が必要よ」と言う。2人にしか分からない会話をしていることに嬉しくなるアストリッド。「それが友情なのかも」とラファエルも微笑む。

ラファエルは退院し、脱獄の手助けをしたという疑いも晴れ、無事に職場復帰できた。そして、冤罪で収監されていたマリッサも釈放されることが分かる。
しかし、今回の事件をきっかけに、アストリッドの捜査への参加が越権行為だと指摘され、今後の捜査へ参加できなくなってしまう。

アストリッド最後の事件となる天文物理学者の落雷死

パリ警視庁。フォレスト検事の申し立てにより、アストリッドが今後の捜査に介入することが出来なくなると、警視正バシェールからラファエルたち部下に伝えられる。今現在追っている事件が、アストリッドが捜査する最後の事件となる。
アストリッドにとって捜査への参加が、生活の一部になっていることを知るラファエルは、バシェールに食い下がり説得するが、現状どうにもならない様子だと悟る。アストリッド本人には、ラファエルが折を見て話すからと、同僚たちに口止めをする。
しかしアストリッドは、自分が今後捜査へ参加出来なくなるかもしれないと感じていて、母マチルドにラファエルを案じる気持ちを吐露している。

天文台でミシェル・アルダンという天文物理学者の遺体が見つかる。遺体の男性は、メディアへの露出もある有名な天文学者である。天文台の2階にある研究室は、荒らされた形跡があり、スマートフォンやパソコンが無くなっていた。
監察医フルニエは、死因の特定に悩んでいた。検視所見を見ると、明らかに落雷による感電死だが、死亡推定時刻は晴天で雷は落ちていない。

アストリッドとラファエルは、犯罪資料局で捜査資料を探す。アストリッドの机には、テツオからの贈り物だというボールソリティアが置かれていたが、パズルではないから解き方が分からないと言うアストリッド。そして、「自分が捜査へ参加出来なくなっても友達のままですか」とラファエルに問いかける。「仕事と友情は関係ない。捜査に参加出来なくなっても親友だよ」と答えるラファエル。

社会力向上クラブのウィリアムから、アストリッドが今後の捜査へ参加出来なくなったらしいと聞いたテツオは、アストリッドを心配し「捜査に参加出来なくなっても、以前の生活に戻るだけだから大丈夫」と声をかけたが、アストリッドは「以前とは何もかもが変わりました。ガイヤールさんは亡くなり、ラファエルという親友ができ、職場でも話しかけてくれる仲間ができた。買い物は水曜日に変わりテツオとも出会えた。もう元には戻れません。」と言い、最後の捜査に集中する。

被害者アルダンは少し前から、大発見をしたと周囲に触れ回っていたようで、発表を阻止したい人物の犯行かと考え、アルダンの部屋を調べるラファエルたち。部屋には忍び込んだ先客がおり、手帳のようなものを盗み逃走を図る。しかし、警部ペランの追走により階段を踏み外し負傷、盗んだ手帳も落としてしまいそのまま逃走した。逃げた人物は女性と思われる。
女性が落としたアルダンの手帳には、アストリッドには解読できない内容が書かれていたので、社会力向上クラブのアリスに頼むことに。すると未登録の静止衛星を発見したらしい内容が書かれていた。
そしてアルダンの死後、その手帳について重要機密が書かれていると仄めかすような動画が拡散されていて、口封じに殺されたのではという噂がネット上で流れ始めた。
動画の出所である、情報サイト「イレメディア」のオリヴィエ・サンクレールに話を聞くが、アルダンの死は国家による陰謀だと言い張り協力的ではなかった。
その他にも、元ジャーナリストのエレナ・カンベル監督の『グローバルプラン』というドキュメンタリー映画の一部を抜き取った、アルダンのインタビューと思われる動画もSNSに投稿されていた。この動画には、国家の陰謀だと主張するコメントが散見され、視聴者の気持ちを誘導するような意図が感じられた。

遺体の解剖を終えたフルニエは、アルダンの表皮から炭酸ソーダが検出されたとアストリッドへ連絡を入れる。それ自体は人体に無害である。しかし、伝導性に優れた炭酸ソーダが検出されたとすると、アルダンの死は雷ではない別の感電死だと確信するアストリッド。

ドキュメンタリー映画『グローバルプラン』の制作会社が開く、パーティのライブ配信映像で、サンクレールが出席しているのを見つける。会場に着くと、サンクレールとエレナは親密そうに身体を寄せ合っていて恋人同士だと分かる。ラファエルは、足を引きずり歩くエレナの手首に包帯を見つけ、アルダンの部屋に手帳を盗みに入ったのは、エレナだと確信し逮捕する。
しかし、これをきっかけにエレナの逮捕は不当逮捕だと主張するデモが起こり、釈放を余儀なくされた。釈放後のエレナは世間に対し、「自分は不当に逮捕された。そして妊婦であるにも関わらず、手荒に扱われ手首に怪我を負った」という虚偽内容を動画で訴えた。この内容はあっという間に拡散された。

国家陰謀論という虚偽を覆すため、編集される前のインタビュー動画を手に入れ確認すると、人工衛星は民間企業のものであり国による陰謀などではないとアルダンは言っていた。これをエレナが編集し、陰謀説を唱えたかのように見せたのだった。さらに、編集された映像には空白の時間が存在し、その間にエレナとアルダンが男女の関係をもったことが窺い知れた。
この事実から、エレナの恋人であるサンクレールへの疑惑が浮上する。サンクレールは、数年前にパイプカットをしていることが分かり、エレナのお腹の子どもの父親でないということになる。

再び取り調べを受けるエレナに、パイプカットの事実、不妊治療に否定的だったことを挙げ、お腹の子どもはサンクレールとの子ではないと伝えるラファエル。最初は否定していたエレナだったが、徐々に反発する声も小さくなっていった。
サンクレールは、エレナの妊娠を知り、浮気の相手は誰かと探していたとき、あのインタビュー動画で、アルダンが浮気相手だと勘づいた。アルダンに追加でインタビューをしたいと誘い出し、炭酸ソーダを浴びせ掛けスタンガンを押し当てて感電死させたのだった。

アルダンの事件が解決し、エレナによる警察への陰謀論や抗議デモも収まった。これに敬意を表し、警視総監がアストリッドへの特例措置として、年内中に司法警察員試験に合格することを条件に捜査を続けることを許可する。
この決定に、ラファエルはとても喜んだが、アストリッドはストレス試験に耐えられないだろうと言い、試験突破は難しいと断言する。

警察学校教官アンヌ・ラングレとの出会い

アストリッドは今後も続けて捜査に参加するため、警視総監からの条件である司法警察員を目指し警察学校へ入学する。
10代の学生時代は、学校生活で友人ができたこともなく、上手くいく気がしないアストリッド。不安な気持ちを抱えたまま教室へ赴く。そして、定刻に授業が開始されないことや、周りの雑音によって少しずつストレスが溜まっていく。授業を開始した教官は、アンヌ・ラングレという女性だ。
終了時刻になるも定刻には終わらず、さらにストレスが溜まるアストリッド。最終的には、ラングレ教官の授業内容に引っかかる点を見つけ、指摘する。アストリッドは、初日から嫌な目立ち方をした。
ラングレ教官は、アストリッド・ニールセンという名前に覚えがあるようだった。

そして後日、アストリッドはラングレ教官に謝罪し、自閉症であることを告げるが、それがどうしたのだと言われ、特別扱いされないのが嫌なら辞めてもいいぞと突き放される。アストリッドは教官の冷たい態度に戸惑いを感じていた。
そんな教官とは一転して、生徒たちの間ではアストリッドが少し有名人となっていた。過去にアストリッドが捜査協力した事件を知っていたり、初日の教官へ指摘した姿などが話題となっている。

アストリッドが去った教室で、ラングレは1人スマホを眺めている。画面には、アストリッドの父アンギュス・ニールセンの姿が映されている。

アストリッド人生初めてのキス

有名フォトグラファージョナタン・フィッシャーの遺体が発見される。ジョナタンは、胸に大きな杭のようなものが刺さり、首には2箇所の穴、さらに手首には縛り後のような痣があった。オカルトのような推測も出たが、調べが進むとジョナタンは大量に出血していることが分かる。現場には血痕がないことから、殺害現場は別の場所だと考えられる。
遺体発見現場は、暗室のようになっており壁にはキスをしている口元ばかりが貼られている。遺体発見者は、ジョナタンのエージェントであるミナという女性で、男女の関係もあるという。マフィアに借金をしていたジョナタンは、滞納していることへの強引な取り立てを恐れていたという。

アストリッドは、テツオからバイオリンの演奏を聴こうと誘われる。アストリッドの特性を理解しているテツオは、静かな場所で有名なバイオリニストが、2人だけのために弾いてくれるよう手配していた。しかし、アストリッドは返事をしないまま、仕事へ戻っていく。今回の事件現場に貼られている、口元ばかりの写真がアストリッドの心を乱し、自分の中で処理できない感情に悩む。

フルニエの調べで、ジョナタンはRHナル型という世界的に希少な血液型だと分かる。RHナルの血液は、血液の売買市場では高値がつくという。
ジョナタンは、スクーター事故にあった時、自分が希少血液の持ち主だと知り、自ら希少血液銀行へ売り込みに行った様子。しかし、献血はボランティアだと断られた。

アストリッドは警視庁で清掃員が椅子を逆さまにする動作をヒントに、大きな杭を刺したのではなく、被害者が杭に刺さったのだと気付く。
ジョナタンの殺害現場はアパートの屋上。手首にあった痣と一致するケーブルもある。

その夜アストリッドはラファエルに、なぜ人はキスをするのかと相談する。アストリッド自身がキスをしたいと思っていると打ち明けると、ラファエルは嬉しそうに身を乗り出したが、仕事の連絡が入る。

国内にRHナル型がもう1人存在することが判明。骨髄移植手術を受けた5歳の少女クロエ・ブラム。移植手術を受けるためには、相当の輸血が必要だったはず。希少血液のためRHナル型の血液が確保できずに、見送りも考えられたという。
血液銀行からジョナタンを紹介された少女の父親は、ジョナタンから数回血液を買った。強請られる形で高額な支払いを続け、貯金も底をついていた。
希少血液銀行の責任者であるオドレイ・ロンパルは、ジョナタンが無償で血液を寄付しないことやクロエの父親を強請っていること、さらには輸血が足りないことについて苛立っていた。そこへジョナタンから連絡が入ったので、血液提供の申し出かと思い採血道具を持って彼の家に向かったが、到着した時には玄関に杭が刺さったジョナタンが倒れていたという。ロンパルは、クロエを助けるためにジョナタンから血液を抜き取ったという。しかし、殺害は否定している。

ジョナタンが撮影した口元の写真を見ていたアストリッドは、数枚の写真がミナの写真だと気づく。
ミナはジョナタンに対して、単なる男女の関係以上の感情を抱いていた。それゆえに、ジョナタンの借金返済もミナが行っていたのではないかとアストリッドたちは考える。だが、ジョナタンがスクーター事故に遭い、自分の血液が希少であると知ったことで、ミナとの関係を解消しようとしたのではないか。仮にそうだとすれば、ジョナタンの借金はまだ完済されていない。本人が亡くなった今、連帯保証人のミナが危ないと判断し、ミナを捜索する。
推測通り、ミナはマフィアに拘束されていたが、無事救出し真相を聞く。
ミナはアパートの屋上で、ジョナタンから男女の関係を終わらせたいと切り出され、エージェント契約も解消すると言われた。なんとか気持ちを引き留めたかったが、嘲笑うような顔をされ、一気に怒りが湧いてきた。ジョナタンを屋上から突き落とし、手首が引っかかっていたケーブルも、躊躇うことなく切り落としたと証言。その後、現場に自分へつながる証拠が残っていないか心配になり引き返したが、落下したはずの死体が地面にはなく、ジョナタンの部屋にあったため発見時のような悲鳴を上げるに至ったという。

事件は解決し、テツオと2人でバイオリンを聴くアストリッド。初めて聴く生演奏に感動している。バイオリニストにお礼を伝えると、この演奏会を実現させるために尽力したテツオに感謝するべきと言われる。引き受けてくれるバイオリニストや響きの良い会場探しなど、アストリッドのために頑張って探したという。
会場で2人きりになったアストリッドとテツオ。アストリッドは自らについて、神経過敏により他者との肉体接触は出来ないと説明するも、自分から触れるなら大丈夫かもしれないと言い、テツオにキスをする。初めての刺激に目を見開き衝撃を受けるが、嫌ではなかったのか改めてテツオの顔に触れるのだった。

ホームレスの不自然な遺体と父アンギュスの死の真相

キレイな装いで死んでいるホームレスのロラン・ビュルガンスが発見される。
他のホームレスは、今回の被害者以外にも同じように死んだホームレスがいると言う。さらに怪しい車も目撃している。ホームレスがいくら死んでもまともに捜査してもらえないと思い、服を着せ替えたりして捜査されるように細工したと証言。

ホームレスが証言した、他の被害者である3人はアストリッドの父アンギュス・ニールセンと関連があると分かる。
アンギュスが殉職した捜査には、北欧神話に準えた名の情報屋バルドル、ブロック、ヘズ、トールの4人を使っていた。今回の事件以前に亡くなった3人は、身体的特徴からバルドル、ブロック、トールだとし、今回の被害者ビュルギャンスは目に障害を持っていたことから、盲目の神ヘズで間違いない。つまり、4人ともアンギュスの情報提供者が殺害されたのだった。
アンギュスは、当時アロエベラ社という小さな会社の社長バンサン・ベルジョという男を調べており、麻薬の密売をしているという情報を得ていたと警視正バシェールが話す。しかし、いくら捜査しても証拠を押さえることができなかった。妄想に駆られ、単独で乗り込んだ挙句射殺されたと語る。

アンギュスの事件について、関わった内部の人間に詳しく話を聞くと、バシェールの話とは少し違った。本来、30人近い捜査員が投入される事案だったが、途中から組織犯罪部の単独事案になり、人員も明らかに不足していたという。ベルジョーには、疑わしい点がいくつもあり、犯罪への関与は濃厚だった。そのため、単独でも証拠を掴めると踏んで乗り込んだアンギュスだったが、敵の罠にハマり殉職した。当時は、警察内部に内通者がいるのではと囁かれたという。

手がかり求め、死後初めて父の部屋へ入ったアストリッドは、狼(フェンリル)を追えば真実がわかると書かれた父のメモを発見し、ラファエルと共に狼を追う。
アストリッドは、アンギュスが調べた当時の捜査資料で、抜かれている箇所を見つける。ベルジョーの供述調書の一部分が全て機密文書として閲覧禁止となっている。
さらにアンギュスには、汚職の疑いがあり内部調査が行われていた。そして、その内部調査の責任者はアンヌ・ラングレだった。汚職を示す証拠はなかったが、無実を証明する手段もなく、ずるずると調査を続ける中でアンギュスと恋に落ちてしまったとラングレは言う。

ラファエルとアストリッドは、アンギュスの殉職した現場を訪れ、フェンリルを見つける。貿易会社のようで、植物油を取るための農園を所有しているが、麻薬に使われる植物を栽培している疑惑もある。

アストリッドは口頭試験会場で、ラングレとベルジョーが一緒にいるところを目撃する。ラファエルへ連絡し、「パパを裏切ったのは、アンヌ・ラングレです」と伝える。そして試験を受けずに捜査へ向かう。
ラングレに話を聞くと、子供を人質にされアンギュスの情報提供者について話してしまったという。自分のせいでアンギュスは罠に嵌められ殺されてしまったことを、ずっと後悔していると話す。

ベルジョーは取り調べで、アストリッドに揺さぶりをかけ大口を叩くが、アストリッドは動揺することなく冷静に対峙する。取り調べを終え、部屋の外に出ると、別室での取り調べを終えたラングレがいた。双方が気づくと当時に、ラングレは側にいたい警部補アルチュールの拳銃を抜きベルジョーに向け発砲。

バシェールが、アストリッドを交えてラファエルと3人で話している。ベルジョーの麻薬密輸に関しては関与が明らかになり、これからしっかり捜査されるという。これを聞いたアストリッドは、口頭試験を放棄したのは無駄ではなかったとし、最後の捜査となったが後悔はないと晴れやかに言った。
するとバシェールが、アストリッドの試験について合格したと伝える。試験よりも捜査を優先したことが、合格に値すると評価され、正式に司法警察員となった。

試験合格を、ラングレに報告したアストリッドは、これからも父アンギュスの話を聞かせてほしいと伝える。これに頷くラングレは、アンギュスとの間に息子がいると言う。アストリッドの弟である。

ラファエルはニコラに対して、もう友達だと思っていないと言う。突然の言葉に、何か怒らせたかと困惑するニコラ。誤解させたと焦るラファエルは、好きになったのだと告白した。ニコラは、やっと彼女ができたのに今更言われても困ると声を荒げ、それに対してラファエルも言い返す。言い合いながらキスを交わし、ニコラは誰にともなく暴言を吐き去っていく。

弟の存在を知ったアストリッドは、困惑しながらも関係を築こうと試みる。
そして、やっとニコラに想いを伝えたラファエルだったが、勘違いからすれ違いが起き、なかなか上手くいかないのだった。

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』の登場人物

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