SHY(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『SHY』(シャイ)とは、ヒーローたちの活躍と葛藤を描いた、実樹ぶきみによる漫画作品。実樹が「3誌合同新人まんが賞NEXT CHAMPION」に応募した同名の読み切り作品にしてデビュー作を連載用に再構成したもので、2023年にはアニメ化された。
ヒーローたちの活躍によって全ての戦争が無くなった世界。日本のヒーロー「SHY」として活動している中学生の紅葉山テルは、ある時スティグマを名乗る謎の少年と遭遇。スティグマが人の心を操る力を持つことを知ったテルは、仲間のヒーローたちと共に彼に立ち向かう。

『SHY』の概要

『SHY』(シャイ)とは、ヒーローたちの活躍と葛藤を描いた、実樹ぶきみによる漫画作品。2019年から『週刊少年チャンピオン』で連載が開始された。
実樹が「3誌合同新人まんが賞NEXT CHAMPION」に応募した同名の読み切り作品にしてデビュー作を連載用に再構成したもので、“ヒーロー物”の基本を丁寧に描いた物語で高く評価されている。2023年にはアニメ化され、これを応援するために『週刊少年チャンピオン』で活動している漫画家たちによる本作キャラクターのイラストが紹介された。

ヒーローたちの活躍によって全ての戦争が無くなった世界。日本のヒーロー「SHY」(シャイ)として活動している中学生の紅葉山テル(もみじやま テル)は、時に失敗して落ち込むことを繰り返しながらも、新米ヒーローとして奮闘していた。
そんなある日、テルはスティグマを名乗る謎の少年と遭遇。スティグマは人の心を操り暴走させる力を持ち、かつてテルのミスで障害を負うこととなった小石川惟子(こいしかわ いこ)といった人々を手駒として利用していく。スティグマの暗躍を食い止めるため、テルは仲間のヒーローたちと共に彼に立ち向かう。

『SHY』のあらすじ・ストーリー

新米ヒーローの奮闘

21世紀半ば、突如として世界中に現れた超人たちの活躍によって世界から戦争が消滅。その後彼らは「ヒーロー」と呼ばれるようになり、様々な事件や事故の現場で力を振るい、良き隣人として人々に受け入れられていった。
中学2年生の紅葉山テル(もみじやま テル)は、「SHY」(シャイ)という名で活躍する日本の新人ヒーロー。ある時、彼女は遊園地の事故現場で救助活動を行うが、最後の要救助者となった同年代の少女に重い怪我を負わせてしまう。これにショックを受けたテルはすっかり勇気と自信を失ってヒーローに変身することもできなくなり、相棒のえびおことエヌ=ヴィリオやヒーロー仲間のスピリッツから心配される。

しかし、地元の高層マンションで火災が起きた際、力弱くとも命懸けで逃げ遅れた者を助けようとする人々を見て一念発起。再びSHYへと変身して要救助者を運び出し、ヒーローとしての誇りと自信を取り戻す。これを見たスピリッツは、テルのヒーロー活動再開を喜び、彼女を世界中のヒーローを統括している天帝ことユニロードの下へと連れていく。ユニロードもまたテルの再起を称賛し、一方で「これから大きな試練がやってくる」との警告を彼女に伝える。
ユニロードの言う試練がどのようなものなのか悩みながらも日常の中へと戻ったテルは、ある時自分の通う学校にやってきた転校生を見て仰天する。小石川惟子(こいしかわ いこ)という名のその少女こそは、テルが遊園地で助け損ねて重傷を負わせてしまった人物だった。

心の暴走

惟子は心優しい少女で、足に障害を負ってしまったことすら誰を恨むでもなく受け入れようとする健全な精神の持ち主だった。「SHYは悪くない、弟や他の人たちを助けるためにベストを尽くしてくれた」と感謝の言葉さえ口にする彼女のことを、テルは罪悪感もあって率先して手助けするようになり、2人は親しくなっていく。
しかしある時、そんな惟子に謎の少年が接触。彼は惟子の心の奥底に眠る暗い感情を見抜くと、それを解き放つよう勧めて彼女の指に黒いリングを嵌める。これにより惟子は怪物めいた姿へと変貌して暴れ出し、テルは「自分が失敗したせいで惟子を苦しめ、怪物にまでさせてしまった」と絶句する。

だが惟子の心の奥底にあったのは、「自分が助かることだけ考えていたせいで救助が遅れて両親を死なせてしまった」というより深刻で根の深い絶望だった。「SHYは必死にみんなを助けてくれたのに、私の勝手な判断のせいで誹謗中傷の対象にさせてしまった」、「私は死んだ方がいい人間だ」と嘆き狂う惟子を見たテルは、ヒーローを名乗る者が今の彼女を見捨てるわけにはいかないと突撃。激情に突き動かされて暴れる惟子の攻撃を受け止めつつ必死で呼びかけ、彼女の感情に働きかけることで、黒いリングから解放する。
テルがSHYであること、命懸けで自分を救ってくれたことを知った惟子は、改めて彼女に感謝。一方、惟子に黒いリングを与えた謎の少年は、“ひたすら相手の激情を受け止める”という方法でこれを解除したテルに興味を覚えつつ姿を消す。

ユニロードの試練

怪物になりかけた際に強制的に肉体の改造が行われた上で正気を取り戻した結果、惟子は足の障害を克服。テルと彼女は友人となり、一緒に街へと遊びに出かける。そのタイミングでスピリッツから連絡が入り、テルは「ユニロードがあなたに会いたがっている」との話を聞かされる。惟子も一緒にいると聞くと、スピリッツはちょうどいいと彼女もユニロードの下へと連れていく。
ユニロードが言うには、惟子に黒いリングを与えた少年はスティグマと呼ばれる存在であり、ここしばらく世界中で同様の事件を起こしているという。テルが惟子を助けた際に得た黒いリングは、ヒーローたちが初めて完全な形での回収に成功したもので、彼らが変身する際に用いる「心の力の物理的変換」を応用したシステムになっていた。今後もスティグマとの戦いが続くことを予想したユニロードは、テルにそれを切り抜く力があるかどうかを試すため、現役最強のヒーロースターダストと模擬戦をするよう彼女に命じる。

スターダストはテルのことを「ヒーローを続けていくには優し過ぎる人間」だと考えており、自分に勝てなかったら引退するよう告げる。しかしテルは「スターダストが厳しいことを言うのも自分を心配してくれているからだ、彼の優しさを無駄にしたくない」と奮起。“炎を操る”という自身のヒーローとしての特性に目覚め、ほとんど引き分けのような形ながらも「体力が尽きて変身が解除される前に相手に一撃を加える」という条件を満たして勝利し、スターダストにも認められる。
模擬線の負傷をスイスのヒーローレディ・ブラックに癒してもらったテルは、数多くの先輩ヒーローがそれぞれに活躍していることを改めて学びつつ、惟子と共に日本へと帰還。折しも世界各国ではスティグマによって起こされた事件が増加しており、彼らとヒーローたちの激突の時は間近に迫っていた。

テルの特訓

日本に戻ったテルの下に、「怪我の経過観察」のためにレディ・ブラックことピルツがやってくる。先輩ヒーローとして上から目線で様々なアドバイスを語るピルツは、「ヒーローのなんたるか」をテルに言葉と行動で示しつつ去っていく。「ピルツは自分には想像もできない困難と苦境の中を必死に歩き続けて今の彼女になったのだ」と知ったテルは、自身もヒーローとしてのさらなる自覚と成長が必要だと感じ、スターダストとの戦いで身に着けた炎の力をうまく使えるようになろうと考える。
しかしテルの使った炎の力は、「あの時はひたすら必死だっただけで、そもそもどうやって使ったのかもよく分からない」という前途多難な状態にあり、どうやって訓練すれば使えるようになるのかも分からなかった。自分なりに試行錯誤を重ねたテルは、“自分の心を文字にして書き出す”という書道の精神に着想を得て、生身のまま炎を出すことに成功。制御に失敗してボヤを起こしてしまうも、彼女の特訓はようやく一歩目を踏み出す。

アマラリルクの暗躍

ある時、テルは北極圏でスピリッツや中国のヒーローミェンロンと共に救助活動をすることとなる。しかし現場で彼女たちを待ち構えていたのは要救助者ではなく、ツィベタという氷と冷気を自在に操る少女だった。彼女もまたスティグマに黒いリングを渡された人間かと身構えるテルだったが、スピリッツに「あの子は指輪をしていない」と指摘されて驚愕する。
ツィベタはスピリッツのことを個人的に知っているかのような言動を見せつつテルたちを翻弄。しかしテルは能力の相性を利用してなんとかツィベタの猛攻を耐え凌ぎ、ミェンロンとの連携で彼女を無力化する。これで事態は収拾したかと思われたその時、今度はその後に何人もの仲間を引き連れたスティグマが出現。彼はツィベタを回収しつつ、自分たちの組織の名は「アマラリルク」だと言って、テルたちに事実上の宣戦布告を行う。

この報告を受けたユニロードは、スティグマが世界中に配った謎のリングの解析結果についてテルたちに語り始める。これはスティグマが自らの心の一部を切り分けたもので、装着した者の心の奥底に眠る衝動を開放し、それに見合う異能を授ける力があるのだという。
かつてこれを装着し、五体満足の状態で生還した唯一の人物である惟子は、リングを通して感じたスティグマの人物像を「子供のように純粋」、「自らの思想の下に本気で世界平和を願っているかのようだった」と説明する。

ツィベタの正体

スピリッツは、北極で交戦したツィベタという少女が自分によく似た姿をしていたことを気にかけていた。何か手掛かりはないかと考えた彼女は、自分が子供の頃に過ごした養護施設に向かうことを決め、「スティグマ対策の一環」としてテルもこれに同行する。
養護施設で保管されていた自分の子供時代のアルバムを調べていたスピリッツは、かつて自分の母もこの施設で育ったこと、当時の母が“南極で出会ったツィベタ”そっくりの姿をしていることを知る。どういうことだとテルとスピリッツが困惑する中、そのツィベタとクフフ=ケケラケラというスティグマの新手が養護施設を急襲。迎え撃とうとしたスピリッツに対し、ツィベタは「南極で目覚める前の記憶はないが、あなたとこの施設のことは良く知っているような気がする」と冷笑を向ける。

ツィベタは施設の職員や子供たちを傀儡として操り、スピリッツを攻撃。これに激怒したスピリッツが飛び掛かると、ツィベタは「これを待っていた」とばかりに笑む。彼女たちがこの養護施設を攻撃したのは、「ツィベタの失われた過去を回復させる」ためで、そのためにはスピリッツの怒りが必要だったのだ。クフフに組み付かれてテルが動けない中、スピリッツはツィベタが「自分の母親の成れの果てである」ことを知り、愕然とする。「シングルマザーであることに疲れ果てながらも娘のために全てを捧げた末に、暴漢に襲われて息絶える」というのが、スピリッツの母としてのツィベタが歩んだ人生だった。
「実の母とは戦えない」とスピリッツが戦意を喪失する中、ツィベタは「私が残酷な世界からあなたを守る」と言って彼女を氷塊の中に閉じ込めようとする。しかしテルがここに割って入り、「スピリッツはあなたを愛しているし、あなたもスピリッツを愛しているはずだ。あなたたちの世界がただ残酷だったとは思えない」と訴える。“自分は母に愛されていた”との確かな記憶を思い出したスピリッツは、ツィベタを止めるために「初めての親子喧嘩」に挑む。

互いに遠慮なく思いをぶつけ合った末に、ツィベタは「誰よりも何よりも娘を愛していること」、「その娘を守れない自分に少しずつ絶望していったこと」を思い出し、「娘が今生きていてくれるだけでも自分の人生には意味があった」と気付く。テルの奮戦でクフフが撤退する中、スピリッツとツィベタは和解するが、それは彼女たちの2度目の別離をも意味していた。曰く、今のツィベタはスティグマの「誰かの夢を叶える」力で存在を保っており、娘との和解を果たして“夢を叶えた”以上は消滅は免れないのだという。
「大人になった娘と一緒に酒を飲む」という親子の約束を果たすと、「スティグマの目的がどんなものかは分からないが、彼らを止めてほしい」と言い残し、ツィベタは消滅。その際、彼女は雪のようなマークの施された指輪を残していくのだった。

それぞれの第一歩

テルたちがツィベタと戦っていた頃、ユニロードは各国政府と交渉し、アマラリルクの動きに応じてどこの国に対しても他国のヒーローを応援に送り込める体勢を整えていた。さらにツィベタが遺した指輪もユニロードの下で解析されることとなり、ヒーローたちはアマラリルクとの対決に備えて入念に準備を進めていく。
ロシアでの戦いを追えて日本に帰還したテルは、疲労や心労に加えて体を冷やしたことが仇となったか、数年ぶりに風邪をひいてしまう。熱で朦朧としながら自分の部屋で休んでいたテルは、今と同じように風邪で倒れていた自分を姉が看病してくれた記憶を思い出し、ここまで運んでくれた惟子を思わず「お姉ちゃん」と呼んでしまう。

惟子は「頼ってくれて嬉しい、ヒーローにだって急用は必要」として恥ずかしがるテルの世話を焼き、これからは対等な友達として名前で呼んでほしいと言い出す。引っ込み思案なテルは戸惑うも、「自分もこの人と友達になりたい」との思いから、勇気を出して惟子を名前で呼び始める。
一方、ツィベタを失ったアマラリルクは、それぞれに新たな動きを見せ始めていた。スティグマが「姿は消えても心は残る」とツィベタの消滅を意に介さない一方、クフフは友人を奪ったヒーローたちへの憎悪を狂気に変えていく。他のメンバーたちも、世界に混沌をもたらさんと各々が心のままに行動を開始。彼らとテルたちとの次なる対決の時は、間近に迫っていた。

『SHY』の登場人物・キャラクター

主要人物

SHY(シャイ)/紅葉山テル(もみじやま テル)

CV:下地紫野

日本のヒーローで、中学2年生の少女。炎を操る力を持つ。「SHY」はヒーロー名で、「紅葉山テル」が本名。
その名の通り極度の恥ずかしがり屋で、人目にさらされることが大の苦手。ヒーローとしての活動期間はまだ短いが心優しく責任感が強く、自分のミスで惟子を助けられなかった時は1月もの間引きずっていた。

小石川惟子(こいしかわ いこ)

CV:東山奈央

テルと同い年の少女。新体操の有力選手だったが、彼女のミスで足に障害を負ってしまい、この道を断念。転校した先は偶然にもテルの通う中学校で、時にぶつかりながらも彼女と友情を築いていく。

えびお/エヌ=ヴィリオ

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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