イカロスの娘(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『イカロスの娘』とは、1981年から1982年に小学館『ビッグコミックスピリッツ』に連載された全2巻のまんがで著者は御厨さと美(みく さとみ)。飛行機を操縦する魅力に取りつかれた15歳の天才少女が操縦免許を取得するため米国と日本を舞台に活躍する。飛行学校や飛行場での操縦の様子、アラスカ大地震での活躍、父との絆、初恋が描かれている。当作品はフィクションであるが、作品中に航空専門用語が多く使われ、実在の人物も登場する。また、1960年代の米国と日本を1980年当時の視点で描いている貴重な作品である。

『イカロスの娘』の概要

『イカロスの娘』とは、1981年から1982年に小学館『ビッグコミックスピリッツ』に連載された御厨さと美(みく さとみ)による全2巻のまんが。飛行機を操縦する魅力に取りつかれた15歳の天才少女が操縦免許を取得するため米国と日本を舞台に活躍する。作品の中で人種差別・性別による差別などを受けながらも、持ち前の頭の良さや父からの資金を上手く利用しながら飛行学校やローカル飛行場での操縦訓練や航空関係者との交流の様子が描かれる。この作品はフィクションではあるが、現実でも起きたアラスカ大地震が発生したり、ドン・シェルドンやボブ・リーブなど実在の人物が登場したりする。更に実際の航空用語が多用され、実践さながらの緊張感を生み出している。この作品は80年代に出版され、当時の視点で60年台の米国と日本の様子を描いた作品である。当時の日本の高度成長期と航空機需要の急増による国内国外線への航空機の投入で航空業界の航空機の充実する様子は、主人公の日野さやかが米国で航空機免許取得するために前向きに取り組む姿と重なり、充実しつつある航空産業の様子を振り返る事の出来る資料として大きな価値がある。このような背景から本書は航空博物館で航空産業の様子を知ることが出来る資料として紹介された。また本書を読んだ学生が主人公の頑張りに触発され、進路を決めるきっかけとなるなど、人々の心に影響を与え続けた。

『イカロスの娘』のあらすじ・ストーリー

ブライトエンジェル空港編

主人公日野さやかは15才の女の子。米国を単身オートバイで旅行していた。グランドキャニオンを走行中に空から1機の飛行機が急接近する。日野はその衝撃で転倒する。その飛行機のパイロットは、ジェスター・リンドン機長。彼は併設する空港ホテルのレストランの食品を積んでブライト・エンジェル空港へ向かっていた。日野は悔しい思いをしながらも倒れたバイクを起こし、再びまたがり出発する。彼女はブライト・エンジェル空港へ到着する。そして空港にいたジェスター機長に、自分を転倒させた飛行機を操縦していた本人であることを確認し、彼にパンチをくらわす。彼女は空港のホテルに滞在手続きをする。ホテルでは、彼女は気前よくお金を使った。ジェスター機長は日野を金持ちの小娘と蔑み、更に日野が乗るオートバイもバカにする。そこで日野はジェスターにオートバイを運転してみるように言う。オートバイを馬鹿にしていたジェスターだが、実際にまたがってみても上手く運転できない。それを見た日野は次は自分の番とばかりにジェスター機長の飛行機に乗り込む。エンジン付きの乗り物はオートバイと似たようなものだと判断して、カンでエンジンを始動し、前進させる。そしてグランドキャニオンの地形を利用して離陸する。飛行機を操縦する事は彼女にとって素晴らしい経験だった。ただ着陸は離陸よりも上手い事はいかず、危うく墜落しそうになり、飛行機を地面にめり込ませてしまう。この時の飛行体験はその後の日野の一生を決める事になった。ジェスター機長と日野は友人同士となり、そして操縦を教えてもらうようになる。

マイアミ・エア・アカデミー(タミアミ飛行場)編

フロリダ州マイアミ市のマイアミ・エア・アカデミー(タミアミ飛行場)で日野はセスナの教習を受ける。この学校の生徒の多くは、米国のお金持ちの奥様である。米国においても当時は、空の世界は男の世界だという認識があった。学校はお金の為に女性も生徒として受け入れ、教官たちは上達の見込みがない奥様にうんざりしている。その中で日野は初めての単独飛行で難しい飛行を楽々やってのける。着陸した後、彼女は教官に怒鳴られ、航空機の操縦は、子供や女が手を出せる世界じゃないと言われる。勝気な彼女はその後の単独飛行でも難しい飛行を続けた。彼女は座学・飛行訓練共にトップの成績であった。ある日校長室に呼び出される。そこで好調に急に移民局の指導が厳しくなり、所持していた滞在ビザの無効になる。それによりこれまでのアカデミーでの成績も無効となる。更に自主的に国外退去しなければ、二度と査証は下りなくなると言い渡される。外国人だという理由で入学金を他の米国人生徒よりも3倍も多く支払ったのにもかかわらず、入学が取り消されたことになる。法律に逆らうことが出来ない。彼女は猛烈に腹が立ち、校長室を出た後そのドアをけり上げる。その様子を教官が見ていた。教官は、最初彼女を女子供とバカにしてたが、彼女の勝気な態度をたびたび目することで彼女に好感を抱く。教官は、彼女が退学し、帰国する時に自家用機でワシントンに送る。日野が「あたし、必ず戻ってくるわ。」というと、教官は「ようし約束だ。きっと戻ってこい。」と励ます。

北海道編

日野さやかの父親は土木会社社長、現在北海道で観光道路の工事をしている。彼女はルックスよし、性格明朗、スポーツ得意、学業抜群、英語ペラペラ、加えて大会社の一人娘であるため、周りの同級生や先生にさえも嫉妬される。大学に行くつもりはないのに、成績が良いのだから東大に行った方がいい、それは学校の名誉になる言われ、理不尽な思いもする。主人公はパイロットになるつもりなのである。彼女は、父の弱みを使って渡米の資金を調達する。一人で渡米するつもりだったが、父と源三の反対にあう。源三は父の会社で一番の古株の社員の一人で、公私ともに父からの信頼が厚い人物である。源三は米国で日野さやかを命に代えても守る事を約束する。父は源三が一緒に付き添う条件でむすめの渡米を納得したのだった。先ずは、国内線飛行機で千歳空港へ、千歳空港から羽田空港へと乗り換える予定で出発する。ところが、最初の千歳空港へ向かうところでつまずく。パイロットが心臓発作で操縦中に死亡するのである。後ろの席にいた日野さやかが何とか飛行機を千歳空港に着陸させる。札幌に戻るとすぐに気持ちを入れ替え、再び主人公と源三は渡米するのである。

アラスカ・フライング・スクール(アラスカ州飛行場)編

渡米先はアラスカ州にある飛行場アラスカ・フライング・スクールである。沼地や氷河が広がる場所にあるこの学校はブッシュパイロットを育てるために開校された。入校式でしごきに耐えられるものだけが卒業できると言われる。そして、入学式そうそう人種差別を受ける。日野さやかは座学でも実技でも優秀な成績を取る。同期生のなかで最初に単独初飛行を成功させる。二人の日本人の同級生は、英語でつまづいていた。
飛行場で知り合ったボブ・リーブの伝で、アラスカ一の天才パイロットと呼ばれるドン・シェルドンと知り合う。依頼されてドン・シェルドンは氷河の近くで遭難したボートを救出する。そのテクニックは素晴らしく、海から氷河に向けて流れる気流の回廊に乗り、尾翼から氷河に後ずさりしていったのである。やがて飛行機はボートをロープでけん引して遭難者を救助する。
飛行訓練中の日野さやかは無線装置が故障したジェット戦闘機に出くわし、エンジンが止まるトラブルに見舞われる。偶然近くを飛行していたドン・シェルドンの無線によるアドバイスによりエンジンを始動する事が出来、助かる。その後飲み屋で主人公とドン・シェルドンはその戦闘機パイロットと殴り合いになる。
日野はFAAの学科試験の合格通知を貰う。全て満点でトップ合格だった。

日野は単独飛行訓練でタルキナト飛行場経由でアンカレッジに向かう。タルキナト飛行場近くにはドンが住んでいる。その時分、ドンの住まいにはドンだけでなくコニー・サーカスがいた。コニー・サーカスはエアレースの若い女性選手である。ドンに好意を寄せるコニーだが、彼が自分に興味の無い事、日本人日野に好意がある事を感じ、日野に対して意地悪をする。コニーはレーサー仕様の飛行機(フライティ)に乗り、古いガラクタ機に乗る日野に急接近を仕掛ける。その際、日野の飛行機は方向を見失う。地形を頼りにタルキナト飛行場を探す。そこに黒いオイルが流れる川を見つける。日野はそれを見て飛行場がこの川の上流にある事を理解する。そのオイルを川に流したのはドンだった。それは、日野が到着時間になっても現れない事を心配して方向を教えるテレパシーのつもりだった。ドンの意図を理解した日野は無事にタルキナト飛行場に戻る事が出来た。手を振るドンに日野は低空飛行で答えた。

ある日、タルキナト飛行場にボブ・リーブが娘同伴で来た。上院議員に白熊狩りを手配するために来たのだ。ドンは白熊が減ってきていることを懸念して、白熊狩り反対を主張する。ボブは、自分の娘ロバータがドンと結婚する事を望んでおり、ドンに日本人日野さやかをどう思っているかを尋ねる。
日野さやかはドン・シェルドンに恋をした。アンカレッジにいた日野さやかは、飛行練習中に急接近してきた飛行機を操縦していたのがコニーである事をしり、同時に彼女が恋敵である事をその時理解した。日野のドンを恋する気持ちは源三にも伝わり、心配した源三は直接ドンに会い、彼女に手を出すなと忠告する。恋する日野は止まらない、単身でドンの部屋に行く。しかし日野はドンに君は私のタイプではないと言われてしまう。失意の日野さやかは父に手紙を書く、父は日野建工の社長である。日頃社長として会社と社員を大きな目標に導く役割をこなしているが、娘には非常に弱い。手紙を読んで泣く。日野は失恋を乗り越えようといつもの活発な自分に戻ろうとする。そこへ父から手紙と雪まつりの写真が来る。その写真を見て、父に愛されていることを感じ、日野さやかは声を出して泣く。飛行学校入学し3か月半、いよいよ日野は操縦士の試験を受ける。そして、無事合格する。源三が貧血で倒れるトラブルはあったが、飛行学校のみんなが日野の合格を祝った。

タルキトナ編

3月27日5時28分。アラスカ大地震が発生である。マグニチュード8.3、関東大震災に匹敵する揺れがアンカレッジを直撃した。電話は不通、市街は壊滅状態で、航空管制が途絶えていた。アンカレッジにある日野の家も倒壊し、日野自身は無傷だったが源三は足を骨折した。源三は自分の足の具合よりも、災害後に起きやすい人種問題がここアンカレッジでも発生する事を心配した。夜が明けて明るくなるとドンはタルキナト飛行場からアラスカの被害状況を確認するためセスナ機で飛び立つ。ドンは倒壊した日野さやか住む住宅地付近上空を偵察、日野の崩壊した家と近くにたたずむ彼女と源三を発見する。ドンはすぐさまその付近に着陸し、日野の家に向かう。日野を見つけると抱きしめそして愛していると告げる。しかし日野はこの状況で告白されたことに困惑する。既に日野は自分の能力を使ってアンカレッジの人々を救援することしか考えていない。ドンに、アンカレッジの救援活動の為にブッシュパイロットの力が必要であることを訴えた。そしてもしこんな状況下でなければ自分も告白を喜んだろうが、今は自分にはもっと優先することがあると話す。今はデシジョン・ハイトと呼ばれる飛行を続けるか着陸するかを判断する瞬間であり、自分はその判断をしたのである。ドンからの告白を受けられない。それでも日野の気持ちを理解することが出来ないドンは日野に対する愛を叫ぶ。日野はドンをしり目に、彼のセスナに乗り込むが、出発の直前にけが人を抱える白人が日野にけが人を病院まで乗せて行くように頼む。

しかし、今はどの病院が崩壊していないすらわからない。それを把握するためには上空から調査する必要があり、いまはそのときであり、けが人を輸送する時ではないと断る。するとその白人は日野をイエローと罵倒する。それでも日野はそこから飛び立ち、地上からアンカレッジの被害状況を把握し、ブッシュパイロットへ着陸可能な場所を指示する。指示を終え、日野はドンがいる場所に着陸する。既にドンは冷静さを取り戻していた。彼は源三が治療を受けいる病院を伝え、日野と握手して別れる。地震の状況が徐々に改善し、人々が落ち着いた後、ドンはロバータとデートする。アンカレッジのマスコミは数多くのブッシュ・パイロットの活躍を称賛した。各地から感謝状、大統領補佐官からは電報で感謝の言葉がドン宛に届く。記者会見では、記者たちは、災害現場では銀色のセスナ機が大活躍し、その操縦をしていたドン・シェルドンの行いは後世に語り継がれる言う。ドンは記者たちに何度もその救援を行ったのは日野さやかという女の子である訴える。マスコミに対してドンはその功績は17歳の女の子がやったものだと訴え続けた。記者の一人は、ドンを含めた関係者に、緊急管制は空軍からの許可が必要だ、もし本当に17歳の女の子が上空で緊急管制をしたとしたら、それは重大な航空法違反行為である、ドンのセスナに乗っていたのがドン出なかった場合、空軍の関係者は責任を問われる事になると言った。日野はこの場合罪に問われる場合もあるため、結局、ドンが緊急管制をしたことになる。
地震の後、飛行学校は2-3か月先まで閉鎖された。そんな時日野の父がバンクーバー経由で娘に会いに来た。父は日野の顔を見るなり日本で心配をしていた気持ちが爆発し顔を何度も叩き、そして泣く。病院での源三の見舞いでは日野の父は泣きながら源三を叩いた。日野は父に営業免許も取得するので飛行学校を続ける事を伝えるが、反対される。1964年4月にFAA(合衆国民間航空局)の発行する飛行士免許を携え帰国する。
ドンは1964年5月にボブ・リーブの娘ロバータと結婚した。

再び帰国編

日野は昭和39年にふたたび帰国した。帰国後の日野は父から監視され続ける。父は娘が結婚して落ち着いてくれるのを望んでいた。日野は再び渡米する事を諦めない。隠されてた自分の預金通帳を見つけ出し、それを自分は源三だけには秘密を持たない証拠として源三に渡す。北海道の道路整備の仕事で同業者滝多羅組瑞鳳興産の弘兼社長と日野との結婚話が持ち上がっていた。父は娘が嫌がる事をしたくないが、娘に落ち着いて欲しいという気持ちと今後仕事をスムーズに進める都合から見合いを望んだ。日野さやかは文句を言いながらも父の薦める相手と見合いをする。見合いはホテルのレストランで行われた。日野ははじめから真面目に見合いする気はなくお見合いの席で生意気な口の利き方をした。心のなかでは見合い相手をケチで不細工なダメ男と見下す。二人きりになると、見合い相手の弘兼社長は本性を出した。彼は大変な暴力的な人で、金と権力を傘にかけ、日野さやかに暴力を奮う。その時もう一つのライバル会社梅川組の従業員久慈が現れ日野を連れ去ろうとする。見合いの席はテーブルがひっくり返る大混乱になるが、日野は梅川組の手下たちを打ち負かし逃げ出す。そして見合いの席は大混乱なか失敗に終わる。この事件により父は娘の行動力を評価し、彼女が望む世界に飛び出すことを許す。そして同じ年に日野は再び渡米する。

ホノルル編

今度の渡米先はホノルルである。空港内のパーラーで働く。パーラーでお金を稼ぐことは大変な労力がいる事を味わう。しかし、ここで航空関係者との会話が出来る事を楽しんだ。日野は働くだけではなく勉強にも力を注いだ。その勉強は何の為にしているのか、源三にも話さない。そんな日野の姿を見て源三は日野さやかの成長を感じていた。日野の長所は勉強やスポーツだけではない。誰とでも友人になれることである。パーラーでの仕事がきっかけになり日野はニコル機長と知り合いになる。彼は気難しいがいいパイロットと評判の男である。彼からベトナム戦争時の話を聞く。彼のベトナム戦争時代の話というのは、戦闘機のパイロットはスクリーンにマークがでると爆弾投下のボタンを押し、それで仕事は終了するといったものだ。
彼はパイロットは地上の惨劇を見ることなしに人々を殺傷する事が出来る立場にいるし、戦場ではそうしてきたと言う。ホノルルいながらベトナムから避難してきた金持ちベトナム人を見るし、ベトナムから帰ってきた戦闘機乗りを見つける。戦場にいなくとも罪の意識をいまでも持ち続けていると白状する。彼は退役後民間航空で働くことを望んだが、結局会社が軍に徴用されたため今度はベトナムに飛ぶことになったという。地上にいると無力感に襲われるという。彼は空を飛ぶ者は自分がずば抜けて豊かで大きいと考え、偉そうになり気難しくなるので気を付けるようにアドバイスする。
そして別の日パーラーで、他の航空関係者からニコル機長が最近行ったベトナムで行った難民救出劇を聞く。彼は激戦のさなか難民の高官や商人を乗せてサイゴン空港に強行着陸したのだ。この時はひどい乱雲の嵐の中の着陸で、飛行機はブレーキ故障でオーバーランし、ニコル機長は2本の足を失ったという。
日野と源三と浜辺にきてニコル機長からの手紙を読む。彼の手紙には自分がサーフィンの名手であったことと日野を乗せてバイプラインを決めて見せたと思っていたことが書いてあった。日野はその日サーファーにパイプラインを一緒にするように頼んでいた。源三は、日野がニコル機長が書いていたパイプラインをするのを見ながら、たぶん彼女がサーフィンをしながら考えているのは、次の大波を潜り抜けることを考えてるのだろうと思った。

『イカロスの娘』の登場人物・キャラクター

主要人物

日野さやか(ひのさやか)

飛行機を操縦する魅力に取りつかれた15歳の女の子。ルックスよし、性格明朗、スポーツ得意、学業抜群、英語堪能加えて大会社社長の一人娘。持ち前の実行力と父の資金を使って米国で操縦免許取得を目指す。

ドン・シェルドン

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