海獣の子供(漫画・劇場アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『海獣の子供』とは、海を巡る神話を題材にしたファンタジー物語であり、五十嵐大介による初の長編漫画作品、また漫画原作の同名アニメーション映画である。漫画は、小学館が発行する漫画雑誌『月刊IKKI』にて2006年2月号から2011年11月号まで連載された。映画は渡辺歩が監督し、主人公・安海琉花の声優を芦田愛菜が務め、2019年に公開された。主人公の中学生・琉花が、ジュゴンに育てられた子供・海と空と関わるうちに、自然界の海を巡る現実とは思えないような体験に巻き込まれていくひと夏の物語となっている。

『海獣の子供』の概要

『海獣の子供』とは、小学館が発行する漫画雑誌『月刊IKKI』にて2006年2月号から2011年11月号まで連載された、五十嵐大介による漫画作品である。コミックでは全5巻に及ぶ長編で、五十嵐にとっては初の長編作品となった。2009年度には、第38回日本漫画家協会賞において大賞の次席にあたる優秀賞を受賞する。また、同じく2009年度に第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて、大賞の次席にあたる優秀賞を受賞している。
2019年6月には漫画『海獣の子供』を基にした、劇場アニメーション映画が公開される。監督は、これまで多くのアニメ映画に関わって来た渡辺歩で、主人公・安海琉花の声優は芦田愛菜が務めた。164スクリーンにて上映され、興行収入は4億5000万円を記録した。公開されたばかりの2019年6月8、9日には映画週末興行成績、全国映画動員ランキングで5位を記録し、翌週2019年6月15日、16日には同ランキングにて8位となった。正式な全体の観客動員数は公表されていない。2019年に第74回毎日映画コンクールにてアニメーション映画賞を受賞した。また、同じく2019年に第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門において、最高賞となる大賞を受賞している。
中学生の安海琉花は、夏休み早々、楽しみにしていた部活の出入り禁止を先生に言い渡され、家にも学校にも居場所のなさを感じていた。夏休みの暇を持て余していた琉花に、父親である正明は、働いている水族館で保護している、ジュゴンに育てられたという少年・海の面倒を見るように頼む。海には一緒にジュゴンに育てられた少年・空という兄弟がいて、琉花は海と空の相手をするため、夏休みの間、水族館に通うことになった。海と空と関わるうちに、自然界の海を巡る現実とは思えないような体験に、琉花も巻き込まれていくひと夏の物語となっている。

『海獣の子供』のあらすじ・ストーリー

琉花と海の出会い

江ノ倉水族館で再会した海(左)と琉花(右)

ハンドボール部に所属する中学生の安藤琉花(あんどうるか)は、毎日ビールばかり飲んで小言が多い母親の加奈子や、加奈子や琉花から目を背けて別居している父親の正明に対して心を閉ざしていた。
夏休み前の部活中、わざとぶつかって足を怪我させてきた女子生徒に仕返しをした琉花だったが、琉花は一方的に先生に叱られて夏休み中の部活禁止を言い渡される。
納得がいかない琉花は、ふと思い立って訪れた夜の汐留で、色黒の不思議な少年・海と出会う。海は「東京の海は綺麗だけどオモチャみたい」という琉花の考えや、部活で痛めた足の怪我の事をなぜか知っていた。そして琉花は海の腕が一部光っていることに気付く。それは琉花が幼いころ、正明の働く水族館で見た「水族館の幽霊」と同じだった。泳いでいた魚が突然光に包まれて消えたのである。誰も信じてくれなかったが、琉花はその光景が忘れられず「水族館の幽霊」と名付けたのだった。
その夜 2〜3時間かけて自宅に戻った琉花だったが、翌朝何事もなかったかのように「部活に行ってくる」と嘘をついて家を出る。痛めた足を治療してもらった後こっそり部活の様子を見に行ってみたが、何事もなかったかのように過ごす部員たちの姿に、琉花は孤独感を募らせた。

その後水族館に行ってみると、正明から「もうすぐ閉館だから待っててくれ」と言われ、琉花は大水槽を眺めて待つことを決める。すると水槽の中で泳ぐ海と再会したのだった。
琉花がびっくりしていると、水族館職員で科学者のジム・キューザックが「海の子供」だと声を掛けてくる。ジムは海の保護者であり、10年前フィリピン沖でジュゴンに育てられていた双子の兄弟・海と空を引き取ったのだった。正明も「2~3歳の頃からずっと海の中で育ってきたので、極端に乾燥に弱い。いろいろ事情があって水族館で預かっているんだ」と言葉を続ける。

二人の子供を保護するようジムに指示したのは、ジムの航海術の師匠であり呪術師のデデという女性だった。デデは「海と空は何か大きな渦の中心のような存在だ」と予見する。「海の子供」は海洋生物に育てられた子供たちの事で、海にかかわりが深い島などでは「触れてはならない神秘の存在」とされていた。

翌日居場所のない琉花は誰も居ない教室に行き、考え事をして過ごす。するとそこへ海が現れ、「人魂が来るから見に行こう」と琉花を海に誘ってきた。ひとまず海についていった琉花だが、「人魂って?」と尋ねても「光って空を飛ぶやつ」とだけ言われ、長い間防波堤に座って「人魂」を待つ。「もしかして騙されたのでは」と考えた琉花が帰ろうしたその時、海が「来たよ!」と声を上げ、とても大きな流れ星のようなものが空を飛び去って行った。
思わず興奮しながら琉花は「何で来るのが分かったの?」と海に尋ねると、海は「人魂が見つけてほしいって言ってたから」と答える。琉花はその言葉を聞いて「私は学校で海に見つけてもらって嬉しかったんだ。私は誰かに見つけてもらいたかったんだ」と心の中の気持ちに気が付いたのだった。
翌日の新聞には「小笠原に隕石落下か」というニュースが並んでいた。

海と空

隕石騒動の翌日、水族館では魚や動物の夜泣きがひどかったと話題になっていた。水族館に来ていた琉花は海を探していたが、水槽にはいなかったためスタッフルームへ向かう。部屋の中ではジムが録音したザトウクジラの「ソング」を流していた。すると琉花は突然昨夜海と一緒に見た隕石の映像が頭に浮かんでくる。
その時正明が琉花に気付き声をかけるが、琉花は正明との会話はそこそこに、「海を探しに行く」と言うジムにそそくさと付いて行ってしまった。

ジムと並んで歩きながらザトウクジラの「ソング」について話し合っていた琉花。「ソング」はクジラたちが仲間とコミュニケーションを取るためのもので、様々な情報と共に感情も発しているのではないかとされていた。
ロマンのあるクジラの歌の話を聞きながら、琉花はジムの体のあちこちに彫られている刺青が気になっていた。すると、ジムは「この刺青は、私が滞在したいろいろな土地の伝統的なタトゥーなんだ」と説明する。そして、ジムは「とある島で聞いた、星のうたの本当の意味が知りたくて、世界中を旅して回っているんだ」と続けた。

水族館の中では海を見つけられず、やがてジムは「海と共に保護した空の見舞いに行く」と言って病院へと向かう。空は海よりも乾燥に弱く、入院していた。
ジムを見送った後、正明に呼ばれた琉花は「部活の代わりに海たちの相手をしてやってくれ」と正明に頼まれる。海に関心のあった琉花は、素直に嬉しい感情を出すことが出来ず、ふてくされた顔で海たちの面倒を見ることを引き受けた。

帰り道、考え事をしていた琉花は空と海岸で出会う。空は人懐っこい海と比べると、生意気でぶっきらぼうだった。海との性格の差に戸惑ったまま別れた琉花だったが、空は内心「自分や海と同じニオイがする」と感じていたのだった。
琉花が帰った後、再会した海と空。沖合に出て、海中の様子を見てきた海は、魚たちが集まって来たことを空に伝える。海と空は、何かを調べている様子だった。
翌日の江ノ倉水族館では、世界中で水族館の魚が突然消える現象が起きていることが話題になっていた。何の前触れもなく、突然魚が消えてしまう原因は、全く分かっていなかった。

海の幽霊

正明との約束通り海、そして退院したばかりの空の相手をするために水族館に来ていた琉花は、職員が「加奈子さんが来た」と言っているのを聞いてその場を逃げ出す。口うるさい加奈子にあれこれ聞かれるのは嫌だったが、加奈子はもともと水族館の職員であったためすぐに居場所を突き止めてしまう。隠れ場所に困っていると、琉花についてきた海と空が「絶対に見つからない場所がある」と言って、水族館が所有する小さな船に琉花を案内してくれた。

空が見様見真似で運転してみると、船が動き出す。「このままクジラを見に行こう」と意気揚々と沖のほうへ向かうが、途中で船が壊れて動かなくなってしまった。皮膚が弱い空は長時間地上にいると体調が悪くなるため、海に飛び込む。空に続いた海は「何か来てる。琉花もおいでよ」と誘ってきた。琉花は船に結んであった紐を握りながら飛び込んだが、泳いでいたジンベエザメの勢いに押されて紐を話してしまい、空と海に助けられる。船に上がった三人がジンベエザメの様子を観察していると、ジンベエザメの模様の一部が光っていることに気付く。琉花は思わず「水族館の幽霊みたい」と呟くと、海と空も光に包まれて魚が消える現象を「海の幽霊と呼んでいた」という事を明かした。そして「ジムと僕たちはその現象を調べるために旅をしていた」と続ける。
再び海に潜ってみると、今度は模様がさらに光っているジンベエザメの群れが目に飛び込んできた。様々な種類の魚たちがジンベエザメの光の周りに集まっており、更に琉花はジンベエザメの後ろを泳いでいる空の足も同じように光っていることに気付く。空が光りめがけて魚に追われていることに気付いた海はどんどん深く、沖の方へ泳いで行ってしまい、琉花は救助船に拾われて無事だった。また空と海はその日の夜に半島を回り込んだ反対側の砂浜に倒れているのが見つかった。
衰弱していた空と海は入院となり、琉花も熱に浮かされ、自分がジンベエザメのヒカリを食べる夢を見ていた。熱が下がった琉花は口うるさく注意してくる加奈子にうんざりしながらも、「自転車を取りに行く」と言って家を飛び出す。
その頃空はジムに付き添われながら「足が発光した」と言う琉花と海の証言から検査を受けていた。空が検査している間、病室にいた海は看護師の隙を見て病院を抜け出す。海岸は込み合っており、その中には琉花の姿もあった。海岸では深海生物が打ち上げられており、騒ぎとなっていたのである。打ち上げられる生き物は日に日に増えていき、琉花は「空と海が食べられてしまうのではないか」と不安になる。そこへ「空が病院から姿を消した」という連絡が飛び込んできた

星のうた

海は毎日浜辺に行って空の行方を捜していたが、相変わらず行方はつかめない。そんな二人の事が心配でたまらない琉花の表情に気付いたジムは、「なぜ海の子供である空と海を研究しているのか」について話を始めた。

40年前ジムが住んでいたとある島に、「星の 星々の 海は産み親 人は乳房 天は遊び場」という、死者が道に迷わないための死者送りの歌「星のうた」が伝わっていた。捕鯨の技術を会得したかったジムは、5年間も島に住んで信頼を築き上げ、とうとう捕鯨のチャンスに恵まれる。いざジムがクジラに銛を刺す時、ジムはクジラと目が合ったような気がした。無事に捕鯨は終わり、クジラを島の浜辺に持って帰ってくると、ジムや島民は沖合で浜辺を見つめる1人の子供を発見する。子供を見た島民は口々に星のうたを歌い始めた。島民によればその子供は島をつくった伝説の存在とされており、クジラの王が死んだときにその最期を見守って姿を消すとの事だった。
ジムはその夜自分の家で1人で寝ていると、海にいた子供が枕元にいることに気付く。ジムは子供に「君はこの世のものではないのか」と尋ねると、子供は「私はお前に興味を持ったから銛を受け取った。目が合って、心が見えたぞ」と答えながらクジラに姿を変えた。翌朝、目覚めたジムは最初夢かと思ったが、子供が自分の家に居付いており、現実だったことを悟る。
島民は「この世ならざるものと交流を深めるべきではない」と警告するが、ジムは子供を可愛がった。ところがある日夜の漁に出かけた先で事故が起こり、子供はダツという魚に胸を貫かれてしまう。急いで浜辺へ戻ったが、子供の身体は溶けて消え失せてしまったのだった。

その日から島は不漁が続き、子供が死んだせいだと考える島民たちにジムは居心地が悪くなって、島を出ることになった。それ以降ジムは「海の子供」を探して世界を巡ったのである。

翌日も水族館にやって来た琉花は、海水に浸かって倒れている海を浜辺で発見する。海が息をしていないことに驚いた琉花は急いで海を陸へ上げ、海の心臓が動いているか確認する。海はかすかに小さな心臓の音を響かせていた。唐突に目を開け「空くんの気配がしないんだ」と言いだした海は、「一緒に探して」と琉花の腕を引っ張り、海の沖合へと進む。海は赤ちゃんのうなり声のような音を出しながら、空を必死に探していた。
台風が近づいているため、海はだんだん荒れ模様になってきて、雨もどしゃ降りとなってきた。琉花と海に、通りかかったジムの研究の相棒であるジャン・ルイが2人に陸にあがるように声をかける。最近の魚にまつわる怪現象解明の為、海外から日本にやって来たのだ。海は空の応答がないことにショックを受け、陸に上がっても狂ったように空をよび続ける。
危険な為自宅に戻された琉花はふてくされて自室にこもっていたが、やはり海と空のことが気になって居ても立っても居られず、大雨と暴風の中家を飛び出して行った。崖下の海沿いで見かけた海と合流した琉花は、安全な場所に避難すると並んで腰を下ろした。空からは台風に巻き上げられた魚が次々振って来たが、海は「僕が生まれた海の魚だ。空君を連れ戻しに来てくれたのかもしれない」と嬉しそうにはしゃぐ。

ちょうどその時空が入院していたベッドの上に、びしょぬれの空と大量の魚が降ってきた。物音に気付いた看護士が人手を呼ぼうと焦っていると、「ジムの知り合いで頼まれた」というアングラ―ドという青年が現れる。看護師がその場を離れたすきに、アングラードは空を連れて姿を消した。

アングラード

プロフェッサー・アングラードは、ジムの元相棒で若き天才学者だった。今はジムと離れて別の方面から「海の子供」を調査している。
空を連れ出したアングラ―ドは「病院から逃げ出してどこに行っていたのか」と尋ねた。何もしゃべらない空の態度に、アングラードは「小笠原に、隕石を取りに行ったんだろう」と指摘する。ようやく認めた空は、たくさんの「海の子供」が隕石めがけて移動していたが、隕石を手にできなかった他の子供たちは全員死んだと説明した。

翌日アングラードは「空を預かっている」とジムに連絡する。「海の子供」を死なせた経験から空と海が消滅しないよう研究を続けていたジムは、二人に残された時間が少ないことを悟り、空を救うため海の研究を急いで進めた。

海は空がいなくなったショックから声も出なくなってしまい、水族館で大人しく過ごしていた。海を心配した琉花は、「空くんを連れ戻しに行こうよ」と海を励ます。琉花は、海を連れて空を探しに出かけることになった。海が感じるままに、空を探しに出かけると、とある浜辺でアングラードと一緒にいる空を発見することが出来た。海は一目散に海中にいる空の元へ泳いで行ってしまった。

その日の夜アングラードが借りていた別荘で寝ることになった琉花は、目が覚めると、隣に寝ている海がうなされていることに気付く。家の中は二人だけだったため、琉花は海の急変を知らせようと急いで外に出る。浜辺には空だけがおり、琉花が空に、海がうなされていることを伝えた。空は「体が変化しているんだ。俺もそうだった。そっとしておくのがいいんだ」と言う。浜辺ではウミガメが産卵していた。

二人でウミガメを観察していると、不意に空は「この亀知ってる。昔一緒に泳いでた」と呟く。それを聞いた琉花は「本当は別の場所に行きたかったけど、今その浜辺が無くなっちゃって、ここに辿りついたんじゃないかな」と返した。
なぜそんなことがわかるのかと驚く空に、「そんな気がしただけだ」と琉花が言うと、空は突然、琉花に何かを口移しする。びっくりして口移しされたものを飲み込んでしまった琉花に、「隕石。あんたに預けることにした」と空は言う。そして、「もし、海のためにその隕石が必要になったら、腹を割いて渡してやって」と言い、海中へ向かって歩き出した。空は体のあちこちが光っており、その後を大量の魚やカニなどがついていく。慌てて追いかけようとした琉花は突然視界が変わり、空がみている風景が写る。海底から大きな音がはじけたと同時に、空はサメや魚に食いつくされてしまった。

ショックを受けた琉花は高熱で入院することになり、自宅に戻ってからも熱は続いて安静にしていたが、空が消えてから一週間後加奈子に黙って姿を消した。
琉花はアングラードの元を訪れ、「海君と空君のことをもっと知らなきゃいけない」と言って、声の戻った海と共にアングラードの船に乗る。

原初信仰

一方琉花がいなくなったのは「ただの家出だ」と思っていた正明だったが、その日のうちに帰ってこなかったことで、加奈子と共に琉花の行方を心配していた。ジムもいなくなってしまった海の行方を探していると、どうやらアングラードが琉花と海を連れて、船を出したことが分かった。
ジムは、話をするため加奈子を連れて江ノ倉水族館にやって来る。ジムは、正明と加奈子に琉花はアングラードと一緒にいることを伝え、「なぜ琉花まで連れて行ったのか調べた」と話す。そして、ジムは「加奈子は九浦の海女の家系だね」と加奈子に尋ねた。実際加奈子は高校生のころまで海女として海に潜っていたが、海の中で「加奈子」と呼ぶ声をいつも聞いていた。その後正明と共に東京で駆け落ちをすることを決めてからは聞こえなくなったが、一度だけ「るか」と呼ぶ声を聞く。加奈子は「琉花が自分の身代わりになったのでは」と心配していた。

ジムは世界各地の創世神話に必ず出てくる「原人」の絵を取り出し、海から来た子供である海や空も「もしかすると原人である可能性がある」と考えていたのだった。正明は懐疑的だったが、ジムはアングラードや海・空と共に行ったとある調査を思い返していた。
南極での調査は、空の身体的な実験データをとるためにスケジュールされたものだった。調査初日、空と共にアングラードも南極の海に潜ることになった。まずはアングラードが海中へ潜ると、どこかからクジラのソングが聴こえていた。聞いたことのないソングに耳をすませていると、アングラードは2億5千年前に絶滅したとされるヘリコプリオンが海中を泳いでいるのを発見する。アングラードは近づいて様子をうかがっていると、興奮状態のオルカの群れもヘリコプリオンの周りに集まってきた。しかし事故を懸念したジムによって実験は中止され引き上げられてしまう。アングラードは「もう少しでいろいろなことを知れるチャンスだったのに」と悔やんでいた。
その夜アングラードは海が「クジラのソング」をうなされながら歌っていることに気付く。空は「あなたは知っているでしょう。海は『星のうた』を歌っている。やがてあいつの歌は海の中を満たしていく」とアングラードに話しかけた。
不思議そうにするアングラードに空は、「あなたは海の身体に飲み込まれて既に知っている」とだけ答える。アングラードは海と共に潜った時のことを思い返していた。海の身体は突然どんどんと大きくなり、アングラードは海に飲み込まれる。
しかし誰にもそのことを話したことが無かったアングラードは、以降「彼らは原人なのではないか」と思うようになった。

デデと加奈子

胎内記憶を持つ子ども

琉花たちがいなくなって1週間が経ったころ、日本各地の水族館で白斑模様の魚が続々と消える現象が起きていた。江ノ倉水族館でも職員は白斑模様の魚の模様が光になって消える様子を録画するなどして、原因を追究していた。原因が分かるまで、各地の水族館は休館に追い込まれていた。
ある職員が海外の記事を見て、胎内記憶を持つ子供たちに集まってもらう。その時、ちょうど1匹の魚が光に包まれて消える瞬間を目撃すると、子供たちは口々に「あそこをくぐったんだよ」「まぶしかった、あの光をくぐったの、そしたらお母さんに会えたんだよ」と言っていた。

ジムと正明、加奈子が水族館で話をしていると、ちょうどそこへデデがやって来た。世界各地で起こっている不思議な現象に「何かが起こっている」と察し、「海と空が何かの渦の中心だ」と考えていたデデは、2人を保護するジムの元へやって来たのだ。デデは「急いでアングラードの後を追って海に出る」と言う。「他に誰か一緒に行くか」と言うと、加奈子は「琉花を探しに行く」と答える。デデに付いて行こうとする加奈子を正明は止めるが、加奈子は強引についていってしまった。
デデと加奈子は、アングラードが乗っていた船と双生船にあたる船で、同じ手順を踏んで海に出た。デデは加奈子に「なぜ一緒に来たんだい?」と尋ねる。加奈子は「あなたとは初対面だったのに、なぜだかあなたは私のことを知っているって思ったから」と答える。デデは「あんたは海の世界が私たちの世界とは違う事を知っているね。すぐ隣にありながら、互いに呼吸すらできないものが棲む別の世界。海は『彼岸』なんだよ。そして、女の身体は彼岸と繋がっている。あんたは知ってるはずだ。女の身体は、彼岸からこっち岸へ生命を引っ張りだす通路なんだから。本当は海のことは女が専門家なのさ。だから必ず琉花のところに辿り着ける」と言うと、加奈子は初めて笑うのだった。
加奈子が「私の目に見えるほとんどは、人間じゃない。世界の大部分は『人間じゃないもの』で出来ているでしょう?だから私は人間じゃないもののほうを多く見る。でもどうやらそれはダメらしい…世界を割合の通りに見てるだけなのに、どうやら他の人は違うらしい…琉花は私と似てるんだって。琉花は私と同じなのかな」と言うと、デデは「私もさ。アングラードもね。私たちは似た者同士ってわけさ」と答える。
話しながら沖へと進むうちに、船の下にはたくさんの魚たちが集まっていた。そして、集まる魚たちを見て、自身が15歳だった頃妊娠していた時に魚が付いて来たことを話し、加奈子に「ねえあんた。お腹に子どもがいるんじゃないのかい」と言う。加奈子自身もまだ気付いていなかったが、加奈子のお腹には新しい命が宿っていたのだった。

海の中で

一方、琉花はアングラードが目を離したすきに突然飛び込んだ海を追いかけて、空の声に導かれるまま泳いでいた。途中、空ではなく、その声が「お腹の中の隕石の声なのではないか」と気づく。
すると、琉花は近くにいた巨大なクジラに飲み込まれてしまう。気が付くと、どうやらクジラのお腹の中にいるようだった。琉花は気を失ってしまい、気が付いた時には、海が琉花を背負って歩いていた。水だまりに着くと、海は水の中に琉花を落とす。海と琉花は、どんどん深く深く潜っていった。気が付くと海は他の魚に襲われており、何とか助け出した途端、琉花の口から水があふれだしてきた。
そして何者かが「役目は終わりだ」と話しかけてくる。しかし隕石がどうなるか知りたかった琉花が「最後まで見たい」と願うと、声の主は了承した。全身光に包まれた海が現れ、海は琉花の口にあった隕石を飲み込む。そして琉花を背負って洞窟を抜けると、その先にあった大海に飛び込んだ。
海の中は様々な海の生き物たちで満ちており、一様に興奮状態だった。魚たちの渦の中心、深い場所に泳いでいった光に包まれた海の身体は黒く変化していく。周囲にいたクジラやいるかなど一部の生き物たちも、身体が黒くなっていた。海が琉花に向かって「さよなら」と呟いたと感じた瞬間、海やクジラの身体は光となって消え失せる。暫くすると光の束が地上に向かって立ち上り、魚たちはその光の粒を食べていた。光に変わった者たちは、新しい命に生まれ変わったのである。琉花は、気付くと海に浮いていて、加奈子とデデに助けられていた。

その後の琉花たち

出産した子どもを抱く加奈子

アングラードは、海と琉花が海中へ潜ってしまった後、陸に戻ってきて恋人と過ごして「本番」が来る時を待っていた。しかし、何者かに滞在していた家に火を付けられて、全身に重いやけどを負ってしまい「本番」を見ることは叶わなかった。実は、その火事を仕組んだのはジムだったのだ。ジムは、自分が知りたいことを感覚で分かってしまい、自分が辿り着けない境地まで行ってしまうアングラードを知らぬ間に妬むようになっていた。しばらくして、加奈子のお腹の子の出産の日になった。不在の正明の代わりに付き添って病院に来た琉花は、加奈子にへその緒を切るように言われる。切るとき、琉花は「命を断つ感触」がした。加奈子は、赤ちゃんが生まれてくるときの仕組みについて琉花に説明し「お腹の中では羊水の中で息をしていて、生まれてきたとたん、肺呼吸になるんだから、海の生き物が陸の生き物に生まれ変わるみたいなものよ」と言う。琉花は「死ぬことは別の世界で生まれること?」と聞く。加奈子は「同じものの表と、裏みたいなもの?」と答える。
数十年後年老いた琉花は船に乗りながら、少年たちにその時の出来事を少年たちに語り聞かせていた。

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