XBLAZE(エクスブレイズ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『XBLAZE』とは、格闘ゲーム「BLAZBLUE」や「GUILTY GEAR」で有名なアークシステムワークスが開発したPS3、PSvita用のアドベンチャーゲームソフトで、主人公の篝橙八が謎の少女・Esと出会い、自分の中に隠された「魔導書」と呼ばれる強大な力を巡る大きな事件に挑んでいく物語を描いている。BLAZBLUEとリンクしたストーリーと世界観が大きな特徴となっており、2013年に第1作「CODE:EMBRYO」が、2015年に第2作「LOST:MEMORIES」がそれぞれ発売されている。

カフェで久音と橙八たちと対峙するアハト。その余裕綽々で落ち着いた雰囲気は、ゼクスと同じ十聖に名を連ねただけあって虚勢ではない。

その後、少し一人になりたいと言う久音をその場に残し、先に姫鶴家に戻った橙八とEsだが、家の前にフードを被った見慣れない一人の少女がいることに気づいた。その少女は橙八に気づくと「お見受けしたところ、あなたが篝橙八様でいらっしゃいますね」と、言ってフードを脱いだ。その少女の名はエルス=フォン=クラーゲン。久音と同じイシャナの出身で親友である彼女は、魔導協会の使者としてイシャナからやってきた。そして、久音がもしも任務を遂行できないのだとしたら、彼女をイシャナへ連れ戻すよう命じられているということだった。後から戻ってきた久音は、親友との思わぬ再会に驚くも、その使者としての任務を聞いて「なら全く問題はないわ」と、態度を変えてエルスを追い返そうとする。だが親友として久音を心配するエルスは、3人の十聖をひとりで相手にするのは危険だと言って引き下がろうとせず、自分も姫鶴家の居候にさせてくれとひなたに泣きつく。そして、橙八と久音が止めるのもきかずに「久音さんのそばにいたいなら仕方ないよね〜」と、ひなたはあっさりとエルスの同居を受け入れてしまった。
このままだと十聖の居場所を探すこともできないと判断した久音は、自分は心配ないとエルスに判断してもらうために橙八にも協力してくれと申し出る。それは次の日に、慣れない日本の地でも自分で買い物ぐらいできるよう橙八が審判をしてほしいということで、当然久音のほうに有利な結果を下すインチキものだった。気が進まない橙八だが、エルスを危険に巻き込んでもいいのかと久音に押し切られてしまい、その次の日、久音に結構な量の荷物持ちをさせられながら、彼女とエルスの買い物に同行させられることになった。と、その途中、別の用事で揃って一緒に買い物に外出していたひなたと晃と出会う橙八。この時、晃の態度がどこかよそよそしいことに不自然に思うが、久音とエルスはその理由が晃がひなたに気があり、ふたりでいる時間を邪魔しちゃっているからだと気づいて、橙八を引っ張っていく。
そして、引っ張っていった先のカフェで休憩にしようとした矢先、橙八たちは思わぬ人物との再会を果たす。その人物はなんとアハトだった。アハトの姿を見かけるや否や、エルスの制止も聞かずに飛び出していく久音。「あら、シュトルハイム家のお嬢様じゃない。こんなところでどうしたの?」と、親しげに話しかけてくるアハトに、ゼクスはどこにいると殺気立った様子で問い詰める久音。そんな中、アハトはエルスに気づき、エルスも自分たちを連れ戻しに来たのかと尋ねると、エルスは重苦しい表情でこう答えた。「……イシャナを去った十聖の皆様には、魔導協会より、正式な排除命令が下りました」魔導協会はドライ、アハト、ゼクスの3人をイシャナと脅かす危険因子として認定し、その排除命令を魔導協会専任の咎追いに下したのだという。それに驚く久音は、どうして黙っていたのかと矛先をエルスに向けるが、伝えたら久音がますます帰らなくなるとエルスは苦し紛れに言い訳をする。しかしアハトは「それがどうかしたの? 私はもう二度と、イシャナに戻るつもりはないわ」と、動じた様子を見せない。その直後、ディスカバーコールが響き渡り、橙八が耳を疑った次の瞬間、アハトは青い鱗を体に覆ったような姿に変貌した。なんとアハトもユニオンだったのだ。
久音は、アハトに向けてついに炎の魔術を放った。渾身の力を込めたその一撃を、アハトは軽々と相殺する。それに驚きを隠せない久音とエルス。そこへ駆けつけたEsが、どうやら体を覆う鱗が魔術による攻撃を無効化しており、それがアハトのユニオンとしての能力だと推測する。不敵な笑いを浮かべ、アハトは掌をかざし、魔術で氷の結晶を作り出して久音へ向けて放とうとする。するとそこに、先ほどの爆発音を聞いてひなたが晃と共に走ってきた。晃や橙八の制止を聞いても、橙八の元へ行こうとするひなた。その姿に胸を痛める晃を見て、さらに不敵な笑いを浮かべたアハトは「良いアイデアを思いついたわ。『解放』のためのね」と、氷の結晶を打ち消して元の姿に戻る。突然、反撃をやめたアハトに驚きを隠せない久音とエルス。先ほどの攻撃で損壊したカフェの弁償は久音にしてもらうと店員に言った後、アハトは呆然としたままの久音に「お嬢様だろうとお子様だろうと、自分のしでかした責任は自分でとるものよ。その覚悟がなければ、エルスと共にイシャナへ帰りなさい」と言い残し、姿を消してしまう。
その後、ひなたが自分よりも橙八を優先したことで、失意のままに夜の街をさまよっていた晃は、不良たちに絡まれて人気のない路地で袋叩きにされていた。失意になるあまり抵抗しない晃に飽きた不良たちは、適当に痛めつけた後で去って行き、晃も「……なんだよ、あいつら。もうおしまいかよ」と、吐き捨てる。するとその前に、アハトがいきなり現れた。驚く晃に、アハトは、ひなたが好きなんだろう、と言う。図星を突かれた晃が慌てて否定すると、「あら、諦めるの? アナタのような弱虫じゃ、さっきみたいに地面に這い蹲ってるのがお似合いよねぇ」と、アハトに傷に塩を刷り込まれる言葉を投げかけられる。それに自暴自棄になる晃。するとアハトはユニオンの姿になり、晃に近寄って囁きかけた。「あの子を守れる『力』を、アナタにあげるわ。私に着いてくれば、アナタは変われる」と。

魔導書編(第7〜9話)

ひなたを人質に取り、橙八を攻撃するアハト。さらに嘲りと憐れみを綯い交ぜにした表情と言葉で、じわじわと精神的な甚振りをかける。

そして橙八へ追い討ちをかけるかのようにして現れる、ユニオンと化した晃。憎悪と狂気に支配された彼は、橙八やEsに容赦なく牙を剥く。

それから次の日から、晃は行方不明になった。学校はおろか、自宅にも戻っていない。そんな中、冥から新たなユニオンによる事件が起きたという知らせが届き、しかもその現場で晃によく似た男が目撃されたという。気をもむ橙八。そんなある日の夜、アベンジが由貴の前に現れた。アベンジの声と雰囲気から、自分の両親の親友で、小さい頃自分の遊び相手になってくれた「虎徹」という男性だと気がつき、顔を輝かせる由貴。だがアベンジは再会を喜ぶ暇はないとばかりに「この街は危険な状態にある。出来るならば離れろ……『家族』と共に」とだけ警告するような言葉を投げかけ、その場を去ってしまう。
同じ頃、橙八の耳に突然ディスカバーコールが聞こえてきた。その方向は姫鶴家で、驚いてEsと共に駆けつけると、アハトが三たび現れた。しかもユニオンの姿となった彼女の腕には、人質のようにひなたが囚われている。また居ても立っても居られなくなり、ひなたを助けようと無謀にもアハトに向かおうとする橙八。だがEsはそれを「任務遂行を優先し、この場からの『撤退』を強く推奨します」と、制止をかけた。それはまさに、ひなたを見捨てて逃げろと言っているようなもの。血相を変える橙八に、この状況では仕方がないとEsは表情を変えない。そんなEsについに感情を爆発させた橙八は、Esをはねのけてアハトへ向かっていく。そんなひなたの為の捨て身に敬意を評しながらも、アハトは容赦ない攻撃を橙八に浴びせる。そして諦めずに向かってくる橙八に、アハトは憐れみと嘲りの笑みを浮かべ、冷酷な一言をこう浴びせた。「アナタのそれ、ただ『死にたい』だけでしょ? 正直言って、見苦しいだけよ」その言葉に再び耳を疑う橙八。それにアハトは、橙八はこうして自分に向かってきてる割には、何の力も望んでいない。本当に大切な人を守りたいなら、例え自分がどうなってもどんな力でも欲しいと願うものだと根拠を語る。アハトから見れば「死にたい」というそんな自分の異常さを冷たく容赦なく弾劾され、愕然となる橙八。そして、橙八にとどめを刺そうとするアハトを見て、ついにEsが動いた。「このままでは橙八が……任務遂行を優先します」という一言とともに、ひなたを巻き込むことを辞さずにアハトへの攻撃を試みるEs。「それでいいのよ。お人形さんはこちらへいらっしゃい」と煽るようにして言いながら、攻撃の矛先をEsへと切り替えるアハト。そして、「やめろぉおおオオッ!!!」と、絶叫した橙八の目が、赤く輝いたかのように見えた次の瞬間、どこからともなく赤く輝く糸がEsめがけて襲いかかり、アハトの攻撃も阻止した。さらに再び聞こえてくるディスカバーコール。「お前、何やってんだ……? こいつは……エスは……ひなたを殺そうとしやがったんだぞっ!!!」その憎悪に満ちた言葉と共に現れたのは、なんと晃だった。
ユニオンとなった晃の姿を見て、さらに愕然となる橙八。それを見て、自分の役目は終わったと満足げに微笑み、ひなたを解放してアハトは姿を消した。どうして晃がユニオンに、と混乱する橙八に、晃はEsに容赦ない攻撃を浴びせて致命傷を負わせた後、さらに橙八に憎悪の言葉をこうぶつける。「これは、全部お前のせいだっ!!!」その憎しみの言葉と共に繰り出され赤く輝く糸の攻撃を受け、橙八は訳がわからないまま、ただ晃に制止を求めて気を失った。その時、冥がその場に割り込み、晃に攻撃を仕掛ける。さらに久音とエルスも駆けつけてきて、この場の有様を見て言葉を失う。「お前をユニオンと認定する! 篝には悪いが、今ここで拘束させてもらうぞ!」その冥の言葉を聞いて、晃は我に返ったのか、辺りを見回して困惑に表情を歪めた。「俺は……俺は、一体何を……!? 橙八!? ひなたっ!? うわあああああああああ!!!」晃は絶叫を残し、遁走していった。

自分の歪さを痛いほど実感した上で、仲間同士の殺し合いを止めさせるべく今一度覚悟を決めて、橙八は捨て身になる。

その橙八の捨て身の覚悟を目の当たりにし、正気を取り戻した晃。彼も決死の覚悟を決め、クリスタルを引き剥がしにかかる。

そしてまた、晃は行方不明になった。冥の話によると、晃は浸食の速度が思った以上に早く、しかもこの発症は人為的なもので、十聖が絡んでいる可能性があるという。さらに十聖は、こうして晃とひなたを利用してまで、橙八を精神的に追い詰めることが目的だと考えていると語った。そこまでして一体なぜ橙八に、と不可解になる久音とエルスに、冥は「篝は……異常なディスカバーコールを発したのだ」と、言った。ひなたやEs共々治療をする際、冥は橙八の体を調べたが、異常は確認されなかった。それでも何らかの力が橙八にはあると考えていると冥は述べ、晃の探索に姫鶴家を後にした。そしてエルスも姫鶴家に魔術の結界を張った後、十聖の件も含めた今回の異変に大きく関わっているワダツミについて調べるべく、イシャナに戻ると言い残して姫鶴家を去ることを決意した。
しばらくしてから、橙八は目を覚ました。アハトと晃の言葉に胸をえぐられ、自分の無力さを痛感し、暗い気持ちになる橙八。自分の部屋を出た彼の前に、先に目を覚ましていたEsが現れる。そしてEsを見て、ひなた共々アハトを攻撃したことを思い出した橙八は、本当にひなたも殺そうとしたのか、と問い質す。だがEsは、困惑の色を表情に浮かべて何も答えようとしない。それに「どうして何も答えてくれないんだっ!!」と、また感情を爆発させた橙八は、今、キミの顔は見たくないと吐き捨てるように言ってその場を後にする。Esはその姿を黙って見送ることしかできなかった。
橙八が居間へと向かうと、由貴が帰ってきていた。由貴に何があったのかと尋ねられたので、橙八はこれまでのことを打ち明けていた。その途中、意識を取り戻してきたらしいひなたがEsを連れてやってきたが、わだかまりを感じている橙八はまた逃げるようにしてその場を去る。Esも、気まずさを感じているのか、ひなたと由貴に何があったのか尋ねられても口を重く閉ざすばかりだった。それからエルスの見送りから戻ってきた久音が、橙八に晃の状況を話した。症状が急速に進行している晃は非常に危険な状態で、このまま症状がさらに進むと凶暴化して民間人を見境なしに攻撃するようになり、やがて肉体が限界に達し、この世から消滅してしまうという。消滅する前はもちろん、晃が無関係な人間を襲う前になんとか止めなければならないが、それは殺すしか他に方法はない。途方にくれる橙八だが、今までユニオンになって助かった人間はひとりもいなく、できることがあるなら心の準備しかない、と久音は心を鬼にして言い、晃を探すために再び家を出て行った。その夜、何もできないのか、と再びひとり思い悩む橙八。そんな時、橙八の携帯が着信を知らせる。電話の相手は、なんと晃だった。「学校……一人で……来てくれ……」苦しげにそれだけ言うと、晃は電話を切ってしまう。そして、晃の説得を試みるため、その障害となるEsに「晃が廃工場にいる」と苦し紛れの出任せを言って向かわせた後、自分も家を抜け出した橙八は、学校へと走っていく。
晃は学校の屋上で待っていた。今からでも遅くないから一緒に来てくれと訴える橙八だが、晃はまた橙八に牙をむき、輝く糸で襲いかかる。「お前が……敵かぁぁッ……!? この……敵がぁァアアアアアッ!!!」と、まるで何かに取り憑かれたように橙八に激しい敵意を露わにする晃に、橙八はまた追い詰められる。と、そこへ、Esがまた現れて割り込んできた。橙八が嘘をついてまで学校へ向かおうとしていることに気づいたEsは、彼の後をつけてきたのだ。Esに攻撃の矛先を切り替える晃。症状が進行していることで能力が急激に増長しているため、Esも窮地に追いやられていく。そんな中、橙八はまた体が勝手に動き出しそうになるが、それを阻むようにアハトの言葉がまたフラッシュバックし、容赦なく責め立ててくる。何の力もないまま敵に立ち向かっても、誰かを守ろうとしても、ただ自分が傷つくだけ。アハトの言うように、それこそ「死にたい」だけに見えても仕方がない。そんな自分の異常さと直面させられ、そうかもしれないと認めた橙八だが、次の瞬間にはまたもEsと晃の戦いに割って入った。
「嫌なんだ……!! キミと晃が殺し合うなんて!! 嫌なものは嫌だ……! とにかく嫌だっ!!!」痛みに顔を歪めながらそう叫ぶ橙八。自分でもムチャクチャでどうかしてると理解していても、これが自分の生き方だと割り切っているからこそ、変えることなどできない。そんな橙八の叫びと思いを目の当たりにし、Esが胸を打たれる何かを感じた瞬間、橙八の両目が再び赤く輝いた。そして目を赤く輝かせたまま、正気に戻れと叫ぶ橙八。その瞬間、また晃の表情が困惑に歪んだ。そして橙八に、すまない、と詫びた後、晃は制服の右袖を捲って、右の二の腕に浮き出ているクリスタルをつかんだ。「クソォォッ!! 俺にっ……『命令』するんじゃねぇぇえええっ!!!」絶叫し、渾身の力でクリスタルを引き剥がした晃。その瞬間、晃は完全に正気を取り戻したが、駆け寄った橙八の腕の中でそのまま気を失ってしまった。

再び橙八の前に現れるゼクス。またも意味ありげで不穏な言葉を橙八に残していき、姿を消す。

晃はその後由貴が働いている新横崎市立大学付属病院に担ぎ込まれ、由貴もその治療に携わることになった。そして、由貴もユニオンについての知識を持っていたことに驚かされた後、彼女からユニオンのクリスタルについて橙八はこう聞かされる。クリスタルはユニオンの能力の源であると共に、これがないと生命を維持できなくなることからもう一つの心臓のようなものであり、それを破壊されたり消失したりするとユニオンは死亡するという。ところが晃は強引にそれを引き剥がしてしまい、その時点で死んでいてもおかしくない状況だったが、幸いにも一命を取り留めた。意識が戻ったらかなりのリハビリが必要となり、あとは晃の気力次第となるが、回復の見込みは十分にある、と由貴は語った。まだ安心はできないが、由貴も手を尽くしてくれると言った今、晃ならきっと戻ってくると橙八は信じて待つことにするのだった。
その後、病院の外に出た橙八は、久音からEsについてこのような話を聞かされた。Esは人間ではなく鵜丸が作り出した人工生命体(ホムンクルス)であり、ユニオンに対抗できるほどの強大な力を持っている反面、2日に一度は鵜丸に延命措置を受けないと死んでしまうという肉体的な欠陥を抱えていた。その話に愕然となる橙八。するとそこへ鵜丸がふらりと現れ、久音は、先に晃に病室に戻ってる、と、鵜丸の顔を見たくないとばかりにその場を去っていった。橙八は戸惑いながらも鵜丸にEsの話を聞いてみたが、鵜丸は「新型」と呼ぶものの開発で忙しくてその暇がなく、死んだらどうするのかと言われてもアレは人間じゃないから大丈夫だと嘯いた。そんなEsをモノのようにしか扱わない物言いに橙八がさらに愕然とさせられていると、鵜丸の背後にいつの間にかゼクスたちが現れた。驚きながらも、晃をなぜユニオンにしたんだと感情を露わにする橙八だが、「彼が望んだことですよ」とドライは一蹴するように言い、そこへ「また死ねなくて残念だったわね?」と、アハトも煽るように言う。そしてゼクスは橙八に「お前が望む世界は何だ?」と尋ねるが、橙八はまだ感情が収まらないのか「そんなの決まってる!! 僕はみんなを守りたい!! あなたたちのように、大切な人たちを傷つけるものから!!」と、叫ぶ形で答える。するとゼクスは「お前自身が傷つける存在だとしたら?」と、意味ありげな問いに変えた。それに橙八が動揺させられながらも、そんなはずはない、と否定しようとするが、「問え。お前が、存在する理由を」と言い残し、ゼクスはアハト、ドライと共に姿を消してしまった。

ひなたを人質に取ったリッパー。この様子を見て血相を変える橙八を見て楽しみながら、リッパーはさらに挑発をかける。

そして、ひなたを突き落とされたことが引き金となり、ついに橙八は自分の中にある魔導書の力を暴走させてしまう。

さらにこの一幕を見て、鵜丸もついに残酷で狂気に満ちた本性を現していくようになる。

その直後、ディスカバーコールが鳴り響いたので、橙八が反射的に晃の病室へと向かおうとすると、橙八の携帯が着信を知らせる。電話の相手は、なんとリッパーだった。買い物に出かけたひなたを襲って人質にしたリッパーは、橙八に興味があるから会いたいと言い、日が暮れるまでに自分を見つけないとひなたを転落死させると脅しをかけて電話を切った。そして、リッパーが放つディスカバーコールを頼りに、久音の協力を得て彼の居場所をなんとか探りだした。
とある廃墟の屋上で、縄で縛り上げたひなたと共に橙八を待っていたリッパー。自分が狙いなら好きにしてもいいからひなただけは解放してくれと懇願する橙八だが、リッパーは「そんなセリフ、よく真顔で吐けるよなぁ……お前、どっかおかしーんじゃねーのって」と、バカにするように言い捨てた。それに橙八が気色ばむと、リッパーは橙八から漂ってくる気配が普通の人間じゃないと言い、それもゼクス以上のものだと言った。それに困惑させられながらも人を襲いたいなんて思ったことはないと必死に否定する橙八に、リッパーはこう切り出した。「トウヤちゃんってさぁ、キレーな姉ちゃんと住んでるよな?」その一言から由貴のことを言っていると橙八が感づいたと、リッパーは大胆不敵にもこう告白した。「ユキちゃんのオヤジとオフクロを殺したのがオ〜レェ! リッパーさんだっからだよ〜ん!!」その告白に橙八は頭の中が真っ白になり、久音は橙八の様子が変わったことに気づいた。それを見てさらに橙八を煽るように、リッパーは何とひなたを突き落としてしまう。久音が助けに向かおうとしたが、ひなたは声もなくその場から転落していった。
その時、橙八の表情が苦悶に歪みだした。それに気づいて、ようやく自分と戦う気になったのかとリッパーが目をこらし、久音が振り返って呼びかけた次の瞬間、橙八が耳をつんざく叫び声を張り上げた。すると、彼の体からどす黒いエネルギーが溢れ出した。それにリッパーも驚き、思わず飛び退いたが、橙八は叫び声を挙げながらエネルギーを放出し続ける。そして、そのエネルギーにリッパーの体が触れた瞬間、リッパーは急激に力を吸い取られるのを感じた。恐怖と驚きに表情を歪めたリッパーは「ヤメロォォオオっ!! それは面白くねぇぇぇぇっ!!!」と、叫びながらその場を逃げ出した。後を追おうとした久音だが、橙八はさらに叫びながらエネルギーを吐き出し続ける。そして久音も、エネルギーに触れた瞬間、リッパーと同じように力を吸い取られるのを感じ、その場に倒れこんでしまう。
「久音!! しっかりしろ!!」という覚えのある呼び声で目を覚ますと、そこに冥がいた。冥も橙八の異変に気付いたが、Esをここへ呼んでから駆けつけてきたため来るのが遅れてしまったのだ。そしてひなたは、Esによって無事助けられていて、Esは暴走する橙八に向かってひなたの姿を見せ、久音や冥と共に呼びかける。すると、ひなたの姿が見えたのか、最後にまた耳をつんざく叫び声を張り上げた後、橙八は暴走を止め、その場に倒れこんだのだった。その一方、鵜丸は自分の部屋にあるモニターからこの様子を見ていたらしく、「やっと『魔導書』が確認できましたねぇ」と、満足げに頷いたが、すぐに別の何かに気づいたらしく表情を変えた。そして、その何かを見て近くのコンピュータで調べてから、狂ったように高笑いした後、モニターを睨みながら鵜丸はこう叫んだ。「見つけたぞ……『コード:エンブリオ』!!」

冥から魔導書とワダツミの地下にある門の話を聞く橙八と久音。この話の後、それにまつわる鵜丸の企みと、彼が所属し、冥も協力している御剣機関に久音は不信感を募らせ、家を飛び出してしまう。

その後、意識を取り戻し、Esたちと共に姫鶴家に戻った橙八は冥から自分の力の正体についてこう聞いた。橙八の中にあるのは、十聖が探している「原初の魔導書」と呼ばれるものの力で、その「原初の魔導書」は、無限に魔素が溢れる「境界」と呼ばれる異空間に通じる門を開け、境界の中に潜むとされる、全てを食らい尽くす邪悪なる存在「黒き獣」の力を使うことができるという。そしてその境界に通じる門は、あのワダツミの研究所の地下奥深くにあり、当初の研究所の人間、そして御剣機関と鵜丸もこの門の向こうにある魔素に目をつけ、保全・管理という名目でこの門を抑え続けているという。また、橙八が気を失っていた後、ゼクスとドライが現れて、橙八がついに原初の魔導書の力を解放できたと言い、その原初の魔導書とエンブリオの力を「世界中の人間を意のままに操る」という野望のために鵜丸も狙っていると久音と冥に示唆してきた。そして、自分たちは自分たちの理想の世界を創るため、その障害となるエンブリオを破壊するために原初の魔導書が必要だといい、これ以上自分たちの邪魔をすれば容赦はしないとも言い残し、姿を消したそうだった。
ゼクスとドライの言葉、そして冥の門の話を聞いた久音は、鵜丸に不信感を芽生えさせ、二度とここには戻らない覚悟で兄にもう一度会いに行くと言い残して姫鶴家を飛び出して行ってしまう。その後を慌てて追う橙八だったが、そこへEsが現れ、鵜丸の命令で橙八を捕らえに来たと言った。Esの話だと、橙八は鵜丸によって危険なユニオンだと認定させられ、御剣機関では見つけ次第拘束せよという扱いになり、橙八が後を追った直後、冥も橙八の捜索部隊を指揮する身となったという。一瞬にして孤立無援の身になってしまったことに当惑させられながらも、久音を見つけるまで待ってくれとEsに懇願する橙八。するとEsは、「私に、あなたの護衛をさせてください」と、言ってきた。さらに当惑する橙八に、Esはこうも言った。たとえ自分がどんなに傷ついても、周りの人たちが傷つくのを厭う橙八の姿を見て、自分が橙八のため、そして橙八が望むこととして何ができるのかをずっと考えていた。その答えとして機関の一員ではなく、Es個人として橙八を守り、もしも橙八の魔導書の力が暴走して周りを傷つけるようなことがあったら、どんな方法があっても自分が橙八を止めるとEsは決意したのだ。こうして橙八はEsを仲間として迎え入れ、さらに橙八とEsの覚悟を目の当たりにした冥も極秘裏に協力することを決意したことで、御剣機関の包囲網から逃れることができた。
その頃、久音は街の一角にあるビルの屋上で、ついにゼクスの姿を見つけた。橙八に何をさせるつもりだと聞く久音に、ゼクスは魔導書を使ってもらうとだけ言った。「どうして!? 魔導書を使えば大変なことになるわ!! 沢山の人が死んでしまうかもしれないのよ!! 鵜丸を止めたいなら直接止めればいいじゃない!!」と、気色ばみ、さらに人の死をなんだと思っていると悲痛に訴える久音。しかしゼクスは「肉体が土へと還るように、魂は器を離れ根源へと至る。全ては循環している。死など存在しない……こうした無意味な対話は、時間の無駄だ」と冷淡に答えた。その言葉に愕然となりながらも、ゼクスはもう自分が尊敬した兄じゃないとついに割り切った久音は、「あなたがもうお兄様ではないのなら、私はもう迷わない!!」と、宣戦布告する。だが、ゼクスは「お前の相手をしている時間はない」と言い捨て、またも姿をくらました。その後を追おうとする久音だが、どこへ消えたのか痕跡を辿ることができず、途方に暮れてしまう。そして、ゼクスを追うのに躍起になっていたことであまり食事を取っていないことを腹の音で思い出した久音は、ひなたの食事が恋しくなると共に恥ずかしくなってしまう。このまま戻ったら飛び出して行った格好がつかないのと、なんでもう二度と帰らないと言ってしまったのかという後悔。その二つの板挟みになり、久音はしばらくその場で立ち往生していた。

橙八たちの前に再び現れるアベンジ。ここで彼は、10年前の事件と橙八の母の真実を橙八に教える。

その頃、地下道を逃げていた橙八とEsは、アベンジと出会って彼に隠れ場所を教えてもらっていた。そしてアベンジは、橙八に涼子のことを知っていると言った後、橙八にこう語り出した。10年前、涼子はワダツミ研究所を拠点とした「タカマガハラ」という研究組織の研究員として働いていたが、彼女に任されていたのは、人間の感情や行動パターンなどの情報を収集・解析し、将来人間が起こす問題を予測する「T-システム」の開発だった。エンブリオはT-システムを完成させるための「コア」として必要とされており、完成すれば予測によって人間を思うがままに操れる、とんでもない代物だという。
さらにEsは、エンブリオとは現実にあるすべての物事に干渉し、自分の思うがままに物事を改竄し、作り替える「事象干渉」と呼ばれる力を持ったものだと語った。そのエンブリオがあればT-システムによる人間のコントロールで犯罪や戦争などをなくすこともできなくはないが、T-システムを運用するには膨大なエネルギーが常に必要になるという。こうした事実から、冥から教えてもらったワダツミ研究所の地下にある「境界」への門にそのエネルギーがあると橙八が推理した時、御剣機関の追っ手が現れた。橙八とEsはアベンジが食い止めている間に出口を目指すが、今度はドライが現れ、ゼクスの命令で橙八を魔導書ごと奪うべくEsへと攻撃をしかけてきた。鵜丸と同じようにEsを人間ではなくモノ呼ばわりするドライに気色ばむ橙八だが、ドライは相手にすることなく、ゼクスにとっては必要のない存在とみなして躊躇いなしにEsへ攻撃をしかけてきた。

決戦編(第10〜12話)

Esに猛攻をかけるドライ。魔術で強化されたその屈強な肉体と、敬愛するゼクスの望むものを傷つけようとしたEsへの憤りで、その勢いは誰にも止めることはできないものとなっている。

そんな現実でのドライと、さらに精神世界でリッパーに甚振られるEsを見ても、橙八は絶叫することしかできない。だが、この後のリッパーの問いに出した答えが、絶体絶命の窮地を切り開く一端となる。

ドライの猛攻を前に、みるみる劣勢に立たされるEs。橙八は無謀にもまたEsをかばおうとするが、ハエでも追い払うかのようにドライに吹っ飛ばされる。「篝橙八。そこで大人しく見ているが良い、この人形の崩れゆく様を!」と、冷酷にそう言い放った後、ドライはEsへの攻撃を開始する。ついに急所に強烈な一撃を受けて吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられて身動きが取れなくなるEs。その瞬間、橙八の恐怖と焦燥の感情に反応してか、橙八の中の魔導書がまた動き始める。暴走しようとしていると察した橙八は、約束通り自分を止めてくれとEsに懇願。Esは橙八ごと魔導書を破壊しようとするが、それを見て、ドライがついに逆上する。「この人形……! 何と罪深き存在! 許されざる愚行だぞッ!?」と、ドライはEsにさらに強烈な攻撃をたたき込み、その上でとどめを刺そうと迫る。再び絶叫する橙八。すると魔導書がまた暴走したのか、橙八の視界は暗くなった。
そして気がつくと、橙八は見知らぬ空間の中にいた。ここはどこだと辺りを見回す橙八に、「魔導書(オマエ)の中だ」と聞き覚えのある男の声が聞こえた。振り返ると、そこにリッパーがいた。ここにいる自分は魔導書が生んだ幻影だとうそぶきながら、リッパーは橙八をいたぶってくる。そして幻影のEsまでもを目の前でバラバラにされるのを見せられ、もうやめてくれと泣きじゃくる橙八に、リッパーは追い打ちをかけるように「これ全部オマエのせいだからなぁ? 全部だぜ? オマエが弱いからなんだよ! カガリトウヤ!!」と、大声で嘲った。その言葉を聞いて、橙八はいつかユニオンとなった晃に、自分が弱いからひなたやEsが傷ついたと言われたことを思い出す。そんな何もできない自分の無力さを痛感する橙八だが、リッパーにこのまま喰われて全部失ってもいいのか、と問いかけられたことで、困惑しながらも「喰われるのは……嫌だ……でも……殺したくなんてないっ!!」と、決断するように言った。それを聞いたリッパーがまた嘲るように笑いながら、こう叫んだ。「じゃあ、『傷つける』ならOKだよなぁ!? いいぜ、“少しだけ”使わせてやるよ。コード:ソウルイーター、制限解除(リミテーションペナンス)だぁ!!」その瞬間、橙八の視界が赤黒い嵐に包まれ、また何も見えなくなった。
そして気がついた時には、橙八は絶叫しながら目を赤く輝かせ、体からまた赤黒いエネルギーの奔流をドライに向けて放ち、Esの窮地を救う。意外な展開に驚くドライ。だが、覚悟を決めてEsを守るようにして立つ橙八を見て、不敵に笑った。「魔導書さえ使える状態ならば、他はむしろ不要。邪魔をするのであれば、そうさせていただこう」そう言って、橙八を殺して彼の中の魔導書を奪い取ろうとするドライ。橙八はもう一度魔導書を使おうとするが、思うように使えず、そしてまた窮地に立たされてしまう。するとそこへ、アベンジが乱入してきてドライに攻撃を仕掛けてきた。「お前はそのちびっ子と先へ進め……出口で世話焼きの巫女が待っているはずだ」それだけ言って橙八たちを逃がすべく、ドライへと挑みかかるアベンジ。そうしてアベンジとドライの壮絶な一騎討ちが始まる中、橙八はEsと共に地下道を必死で駆け抜け、ついに出口で待っていた冥と合流した。

アハトと激闘を繰り広げる久音。そこへ冥も久音に加勢し、さらにアハトもユニオンの能力を解放し、戦いは熾烈を極めていく。

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