役職ディストピアリ(役職物語)のネタバレ解説・考察まとめ

『役職ディストピアリ』とは、ヤングガンガンにおいて2014年16号から2016年18号まで連載された千賀史貴の漫画作品。元は原作者のサイトで掲載していたweb漫画「役職ディストピアリ」であったが、人気が出たことでプロットをリメイク、新たに作画者をつけてヤングガンガンにて連載された。連載終了後は「役職物語」と名を改め再び原作者のサイトで連載されるようになった。コンセプトは「夢も希望もないダークファンタジー」。
役職とレベルによって完璧に管理された社会で「討伐士」トルザは「魔王」討伐に挑む。

魔王という概念

第七観測所では、第23代目魔王の羽化に備えて準備が進められていた。
魔王の羽化に備えるため、第七観測所の所長イドカワは各レイヤーの「討伐士」に魔王討伐を通達し、魔王討伐を補佐する「観測士」の手配を行っていた。
トルザの担当となった「観測士」シズは、トルザのもとに派遣される前の準備として過去の魔王の情報を集積していた。
イドカワはシズにコーヒーをぶっかけたりと悪ふざけをして遊び、からかう。そんな中、第七観測所および全レイヤーの観測所に警報が出された。
第23代目魔王「サーカスの魔王」の羽化である。

同時刻。第3レイヤーを主な活動域とするサーカス団「シルク・ド・マーレボルジェ」に1通のメールが届く。
中央調律局から届いたメールの内容は、シルク・ド・マーレボルジェを第23代目魔王として認定するというものであり、魔王ライツ(魔王の構成要素)となるために必要なアイテムである「魔王のしっぽ」の配布であった。
この「魔王のしっぽ」を摂取することにより、サーカス団の団員たちは魔王ライツとして生まれ変わるのである。
「魔王になりたくない人もいるでしょう。この場を離れたければ立ち去りなさい」と言う座長に団員たちは「ここが僕らの居場所です」と魔王ライツとして生まれ変わることを望む。
「パペ」「パペ」「パペ!」「シルク・ド・マーレボルジェ!」とサーカス団の合言葉を口にする団員たち、団員たちの忠誠に感涙する座長を愕然とした目で見つめていたのは、サーカス団に下働きとして所属していたアルミであった。

まさか自分の所属しているサーカス団が憎い魔王になるなんて思わなかったし、魔王となった団員たちに剣を向けたくはないと悩み、苦悩するアルミに座長は決断する猶予を与える。
「魔王のしっぽ」を使って魔王ライツとなってもいいし、サーカス団を立ち去ってもよいと伝え、そして座長をはじめとしたシルク・ド・マーレボルジェの団員たちは「魔王のしっぽ」を起動する。
魔王ライツとなったシルク・ド・マーレボルジェ団員たちは、その日のサーカス公演の客を皆殺しにすることで第23代目魔王の誕生を高らかに宣言した。

報道と野薔薇姫

魔王の羽化を確認後、シズはトルザと合流を果たす。
シズから他の「討伐士」についての情報を聞くトルザは、他に47人の「討伐士」がいることや、各「討伐士」にそれぞれ「観測士」がついていることを教えられる。
その後シズは自身が担当「討伐士」と合流を果たしたことをイドカワや同僚の「観測士」たちに報告するが、その報告の中で「観測士」のひとりであるココが担当の「討伐士」に殺されたことを聞く。
どうやら「主人公補正」でモンスターを倒すのに3レベル足りず、そのためにココを殺してレベルの足しにしたようであった。その「討伐士」は観測所から厳重注意の上、新たな「観測士」が派遣されるとのことであった。

数日後、「鐘の街」に魔王が出現した。
魔王ライツとして次々と人々を殺していく団員たちの様子を見、アルミはついに魔王ライツとして目覚めることの覚悟を決める。

数日後、「鐘の街」に現れた魔王とその被害の報道で湧く「報道都市」にトルザたちはいた。
自分の見た光景を映像として出力できる役職「取材士」ダーマツのインタビューをあしらいながら、トルザはシズを連れて「報道都市」の市長と会う。
市長は独自の自警団を作り、もしこの都市に魔王が現れた場合、魔王から人々を守るつもりであるとトルザに語る。
一見まともな事を言っているようだが、「討伐士」であるトルザには市長の真意がわかっていた。つまり、この都市に魔王が現れた場合、自警団を特攻させて殺し、彼らのレベルを「討伐士」に還元することで魔王を撃退するという意味であった。
中央調律局から派遣された秘書によって「討伐士」の能力を知っている市長はトルザを難儀な役職だと憐れむ。
清濁併せ呑んでこそ「討伐士」だと覚悟を語るトルザと市長のもとに知らせが入る。この都市に魔王が出現したというのだ。
出現した魔王は3人。自らの体の一部を担保にしてモンスターを使役する「担保召喚士」、回転の力を能力とする役職「旋回士」、そして「菌育士」であった。
トルザは、サーカス団で働いていた「菌育士」の少女というワードから今回の「サーカスの魔王」のひとりにアルミがいるということを理解する。

出現した魔王ライツの一人「菌育士」アルミに狙いを定め、「報道都市」自警団は戦いを仕掛ける。
しかし虚数レベルである魔王ライツに実数レベルの攻撃は届かない。それができるのは「ルートマイナスブレイカー(RMB)」を持つ「観測士」の支援を受けた「討伐士」のみである。その事実を知らないまま、自警団は一人、また一人と死んでいく。
魔王化したアルミのレベルはルートマイナス144。自警団の全員のレベルの総和は153。つまりこれは予定調和なのだと市長は語り、トルザに「主人公補正」を発動させることを指示する。
「1人を犠牲に10人を救え。1000人を犠牲に世界を救え。…やってみますよ」と市長に言い、トルザは「主人公補正」を発動させる。

自身のレベルと合わせてレベル154となったトルザは、シズから「ルートマイナスブレイカー」を得て、魔王ライツとなったアルミへと剣を振る。
一方、「討伐士」が現れたことを悟り、「担保召喚士」ミリアビーナと「旋回士」ギアグルーノも動き出す。こうして、3人の魔王とトルザとの死闘が始まった。
ミリアビーナは自らの右腕を担保としモンスターを呼び出し、ギアグルーノは自らをコマのように回転させることでトルザを摩擦によって轢き潰そうとする。
トルザは見えないものには襲いかからないというモンスターの特性を利用し、物陰から奇襲することでモンスターを撃破する。
モンスターが撃破されたことで担保である右腕を失ったミリアビーナを見、ギアグルーノもあとのことをアルミに任せて撤退した。
これでようやく1対1でアルミを倒せるようになった。

「アタシは何も悪くない!魔王は倒されるのが固定シナリオだとしても、正義とは程遠いあんた(トルザ)には殺されない!」と絶叫するアルミ。
アルミの悲痛な訴えを「話が長い」と一蹴したトルザは「俺は正義の味方じゃない。悪の敵になれればそれでいい」と言い、アルミを一太刀で叩き切る。
こうして、魔王のひとり「菌育士」アルミはこの世界から消滅した。

「討伐士」アゾット

一方、他の「討伐士」も魔王討伐のため動き出していた。
自分の担当である「観測士」ココを犠牲にしたという「討伐士」アゾットの元に新たな「観測士」ラキヤが送られる。
ラキヤはココの幼い頃からの親友であり、同僚として友人としてココの死に憤っていた。どうしてココを殺したのか、その理由によっては絶対に許さないとアゾットに詰め寄るラキヤだが、アゾットは目の前のモンスターを討伐するのが先だと言って手元のフラスコを操る。
アゾットは「フラスコの討伐士」と言われており、フラスコで人工的に作った人間(ホムンクルス)を殺すことで「主人公補正」を発動させるという「討伐士」であった。
できあがったホムンクルスを見て、ラキヤは驚愕する。それはなんと、死んだはずのココの姿であった。
アゾットはココ(のホムンクルス)を即座に殺害し、「主人公補正」を発動、モンスターを討伐する。

ホムンクルスを用いる方法は「討伐士」として効率的だがあまりにも外道で、生命というものを侮辱していると嫌悪感を見せるラキヤにアゾットは語る。
本来ホムンクルスを作る役職ではないアゾットが作るホムンクルスは不完全で、指がなかったり耳が2つあったり、またできたとしても生きることができる時間が短いという欠点がある。どうせ一時的に生産されて消費される消耗品なのだから、ホムンクルスを生命ではなくモノとして見るべきであると言う。

アゾットとラキヤは「水枷の街」に到着する。
「水枷の街」で、「観測士」の調査権限を使い、ラキヤはホムンクルスについて調べることにした。
ホムンクルスとは、素体を元にして生まれる人工的な人間である。ホムンクルスを生み出すには、その元となる素体の細胞が一定量必要であり、指1本ほどの肉片があればホムンクルスを生成できる。ホムンクルスは素体となる人間の約半分のレベルで生まれるが、心臓部を素材として使った場合のみ、ほぼ同じレベルで生産することができる。
そして、素体の心臓を元にして等倍レベルのホムンクルスを複数生み出し、複数のホムンクルスの心臓を使ってさらに倍の数の等倍レベルのホムンクルスを生み出すという行為を続ければ、何十、何百ものホムンクルスが大量に確保できるのである。

これらのことを確認したラキヤは、とある疑問に行き当たった。その疑問を確かめるため、ラキヤはとあるホムンクルスの元へと向かった。それは、アゾットのそばにいる指のないホムンクルスであった。
そのホムンクルスの手を取り、ラキヤは長い袖に隠されていた手首を確認する。そこにあったのはホムンクルスには絶対にありえないはずのものである、「観測士」にしかないシュレディンガー基盤であった。
この彼女の指がないのは欠陥だからではなく、彼女の指を元にして他のホムンクルスを作ったからであった。
「観測士」ココとみられる死体の腕がなかったのは、シュレディンガー基盤の有無によってその死体が本物のココでないことを隠蔽するためであった。
つまりこの指のない彼女はホムンクルスではなく、本物のココ本人であった。

自らの死を偽装するのはれっきとした職務妨害であり、重罰がくだされるものである。
偽装する理由があったのならそれを観測所に報告するべきだと言うラキヤに、ココは首を振る。
それらを見、アゾットは「バレたのなら仕方ない」とその理由を説明する。
「観測士」がいなくなれば新たな「観測士」が派遣されてくる。レベル50のココが死亡すれば、ココよりも強いレベルの「観測士」が派遣されるはずであった。
それを殺害し、その心臓を元にホムンクルスを複数生み出せば魔王を倒す確実なレベルが確保できる。
それがアゾットのためになると判断し、ココは自らの死を偽装したのだ。
しかし観測所にはそんな目論見などお見通しで、親友が殺せないとわかっていてあえてラキヤを派遣したのだ。
「親友は殺せない」「目論見は尽きた」と諦めたココは覚悟を決める。それは、本来の目論見から立場を逆転したものであった。本来の目論見なら派遣されてくる「観測士」(ラキヤ)を殺害して素体とし、ココ自体はアゾットの「観測士」として付き従うというものであった。ココはその目論見を捨てて立場を逆転し、自分が素体となり、アゾットの担当「観測士」はラキヤに任せるという方法を取ることに決めた。

そんな中、「水枷の街」に魔王のひとり、「傀儡士」ゼペティーノが現れる。
土を媒体に人形を生み出し操る「傀儡士」ゼペティーノに「水枷の街」は破壊されていく。これは魔王の恐ろしさを人々に知らしめるために観測所が定めたシナリオであり、「水枷の街」は滅びる運命にあった。そのことを観測所から知らされたラキヤは、アゾットへ「水枷の街」を離れることを提案する。
これは観測所から提案された「直前まで水枷の街には討伐士がいたが、偶然にも討伐士が旅立った後で魔王が出現してしまった」という悲劇のシナリオを演出するためであった。
直前まで「討伐士」がいた街が襲われるというシナリオによって人々に後味の悪さと魔王への嫌悪感を与えるからである。

アゾットのことは個人的に好きになれないしココの目論見のことも理解できないが、仕事へのプライドとして「観測士」の仕事はやり遂げる。アゾットのことを死んでしまえと思うが私情で担当「討伐士」を殺すわけにはいかない。観測所の言う通りに逃げろと言うラキヤにアゾットは首を振る。
「あの街は俺にしか救えない」。そう言って、アゾットはラキヤの制止を振り切り、壊されていく「水枷の街」へと踵を返した。
アゾットについていったココはその場で自害し、アゾットへ心臓を提供する。心臓を素体にしたホムンクルスは素体と同じレベルで生産されるという仕組みを使い、アゾットはレベル50(ココのレベル)のホムンクルスを大量生産し、魔王ライツ「傀儡士」ゼペティーノに対峙した。

夜明けになり、ラキヤは観測所に報告を述べる。
「水枷の街」に出現した魔王ライツは討伐され、住民の被害はなし。しかし、それに立ち向かっていった「討伐士」も死亡したと。
ココについての報告書は後で提出すると言い、ラキヤは通信を切る。隣にはココから生み出したホムンクルスが立っていた。

「役職ディストピアリ」の結末

「報道都市」で、魔王ライツの「菌育士」アルミを討伐したトルザだが、その体には異変が起きていた。
「菌育士」が撒き散らしていた胞子を吸い込んだことで内臓がやられてしまい、徐々に弱っていってしまっていたのである。

そのトルザの容態を診たのは、「鐘の街」の医者である老人であった。
この老人はフョードルの妹の病気の治療も担当していた医者であり、助手としてフョードルの妹であるタチアナもついてきていた。
老人から「1日もたない」ということを知らされ、トルザは自らの死を悟る。魔王討伐ももはや不可能であり、トルザは、このことを観測所に話して自分の担当を降りて次の「討伐士」の担当につくようにとシズに伝える。
そして「死に場所くらい自分で決めたい」とトルザはベッドを抜け出し、ひとり森の中に佇む。
そのトルザを追ってきたのは、タチアナであった。
彼女は自分の兄フォードルがどのようにして死んだのかを知っており、「兄の仇」とトルザを罵り、そして銃で撃った。

こうしてトルザは死に、シズは新たな「討伐士」の担当につくことになった。
担当の「討伐士」カオルが魔王を討伐できるように裏で工作していたという「観測士」が処罰されたことで、ちょうど空きができてしまったのだと案内され、シズは「討伐士」カオルの担当へとつくことになる。

そして、カオルは魔王との最終決戦「キネマラグナ」を発動させ、魔王を討伐した。
こうして魔王は倒され、世界に平和が戻ってきたのである。

『役職物語』のあらすじ・ストーリー

「役職ディストピアリ」との違い

「役職物語」は、元々こちらのほうが先に掲載されたものであり、「役職ディストピアリ」になるにあたって読みやすいように伏線などが変更されている。
「役職ディストピアリ」の連載終了後は、「役職物語」として作者のサイトで連載が再開され、「水枷の街」でのアゾットの物語(「役職物語」第4章「虹ガ泣イタ空」)の後、第5章として「信仰ニ愛ヲ込メテ」が掲載されている。

「役職物語」は「役職ディストピアリ」の「水枷の街」でのアゾットの物語までは大筋が同じとなり、トルザが胞子によって体調を崩して以降の話がばっさりカットされている。
「役職ディストピアリ」で登場した「菌育士」アルミは、「役職物語」では「樹操士」ランディアとなっている。名前や役職が違うだけで、生い立ちやシナリオでの役割などは同じである。

「役職ディストピアリ」での「鼻魔導士」フョードルと彼の病気の妹のくだりなども変更されており、「役職物語」では「腋魔導士」(腋の悪臭によって相手の体調を崩させる役職)の壮年の男性となっている。
そのストーリーの中で、脇が臭い「腋魔導士」の子である自分もまた「腋魔導士」なのではないかと不安になる息子のために、「腋魔導士」の男性がトルザに協力し、そして(フョードルと同じく)トルザによって殺害されるという展開が描かれる。

このように、キャラクターの細かな立ち位置などは違うが、「役職ディストピアリ」とストーリーの大筋は変わっていない。

第5章 信仰ニ愛ヲ込メテ

宗教法人「アベパージ」は、魔王を討伐する「討伐士」を聖人とみなして信仰するという教義の宗教団体である。
その宗教団体の聖女として崇められている「聖女の討伐士」ピサは「死とは救いである」ということを説き、「討伐士」のために命を捨てることは尊ぶべき行為であると信者たちに論ずる。信者たちは満場一致で「はい、聖女様!」とピサのために命を捨てることを誓っていた。

これは「討伐士」として効率のいい方法である。
「討伐士」のために死ぬことが救いであるという教義によって信者たちは「討伐士」のために命を捨てるし、それによって「主人公補正」のためのレベルを集めやすくなる。
この宗教団体「アベパージ」はその仕組みを利用し、昔から存在してきた宗教団体である。聖人として扱われる「討伐士」は世襲制ではなく、子供のうちに各地から集められた「討伐士」である。そのためピサも、先代聖女も、次代の聖女候補である赤ん坊も血縁はない。

一方、「サーカスの魔王」たちも動き出していた。
第3レイヤーの富豪のもとに保管されている超重量型大砲を奪い取りに来たのだ。
それは「明日の大事なイベント」に必要なものであり、それがなければ「明日の大事なイベント」が地味になってしまうものであった。
あらゆるものを倉庫に保存できる「解錠士」の富豪の男性を脅し、魔王たちは超重量型大砲を手に入れた。

信者たちを犠牲にし、ピサはついに「主人公補正」を発動する

ピサの担当となった「観測士」カルヴァドに「アベパージ」の幹部たちは問いかける。
それは、魔王討伐の最終決戦「キネマラグナ」を起こしたところで我々は確実に勝利できるのかということであった。
カルヴァドは「数値の上では、こちらのレベルが魔王を上回っているからほぼ勝機がある」と答え、討伐できるかどうかはピサ次第であると言い残す。

こうして、最終決戦「キネマラグナ」の準備が整った。
決戦の場に現れたイドカワによって、魔王側に改めて敗北条件が説明される。
今回の「サーカスの魔王」の魔王ライツであるサーカス団全員が全滅するか、魔王を魔王たらしめている「マオーコア」の破壊によって魔王は敗北する。
イドカワ曰く、歴代の「討伐士」のほとんどは後者を選んでおり、今回の「討伐士」もまた後者の手段を取るであろうとのことであった。
そしてイドカワは、「マオーコア」を専用の台座に据え置くことを指示する。「キネマラグナ」が終わるまで「マオーコア」はこの場から動かせなくなる。これは戦況が不利になったからといって「マオーコア」を持って逃走するという手段を封じ、「やられるべきものである魔王が、やられるべき時にやられるように」するための措置である。

「アベパージ」の専用空中艦船「ウイーッス・ホイッス」も揃い、魔王ライツたちも超重量型大砲「ィィヨッコイショーノ・ショーット」を取り出し、ついに「キネマラグナ」が開始された。
ピサの作戦は信者たち全員を犠牲にして「主人公補正」を発動、一万レベルを超える巨大な剣を生成して「マオーコア」を一刀両断するというものであった。
魔王ライツの作戦は超重量型大砲による「めぎゃ粒子砲」によって「討伐士」もろともあたりを吹き飛ばすというものであり、その充填は静かに開始されていた。

超重量型大砲の充填が始まる中、「討伐士」の注意をひくために「炎纏士」デプチーノと「抜刀士」アルルジャーノが「ウイーッス・ホイッス」へと乗り込んだ。
炎を纏って操る「炎纏士」と、斬撃の軌道を操る「抜刀士」の能力により、4号艦、7号艦が撃墜される。
しかしまだ「主人公補正」を発動するには死者の数が足らない。このままではピサの身が危ないと判断した幹部たちの手により、全艦が自爆する。
これにより死者の合計レベルは1万を越え、ピサは「主人公補正」を発動する。

予定通り、ピサは巨大な剣を生成する。全長何キロメートルもの剣を頭上に掲げ、あとは振り下ろすだけというところで、ピサの体に異変が発生する。
体の一部が破裂し、出血するピサを冷たく見やったカルヴァドは「ほら、耐えられん」と嘲笑のように言った。

「主人公補正」によるレベルの移譲を経験しておらず「主人公補正」によるレベルの急上昇に慣れていないピサが、いきなり1万という膨大なレベルになったところで体が耐えられるわけがなかったのだ。
カルヴァドはそれを知っていていたくせに、あえてこのことを伏せていたのである。前日、幹部たちに返答した「ピサ次第」という言葉もこのことを指している。ピサは「主人公補正」によって急激に膨大なレベルになったことで自己崩壊を起こすことになるが、魔王討伐のためには、自己崩壊によって完全に死ぬまでに剣を振り下ろせればいいのである。完全に死ぬまでに剣を振り下ろせられるかどうかは「ピサ次第」である。
「やたらレベルを集めやすいやつが必ず勝つようじゃ、そりゃつまらんと思わんかい?」とピサや「アベパージ」のこれまでの努力を笑うカルヴァド。
「自分に信頼を寄せている相手を裏切るのは、本当に、本当に、本当に気持ちがいいから」と笑うカルヴァドの言葉を最後に、ピサはついに内臓をぶちまけてその場に崩れ落ちる。生成した剣も形が崩れ、消えていく。

それと同時に「めぎゃ粒子砲」の充填が完了する。
絶望し、狂ったように笑うピサへと向けて、超重量型大砲から放たれた光線はあたりの大地を焼き払い、魔王の強さを世に知らしめた。

『役職ディストピアリ』『役職物語』の登場人物・キャラクター

トルザ

「十字架の討伐士」と呼ばれる「討伐士」。レベルは1。
「十字架の討伐士」と呼ばれるようになった由来は、トルザが「主人公補正」によって生成する剣が十字架の形状をしていることと、「討伐士」として魔王討伐を引き受ける前はカメラマンとして戦場の死者を被写体にした写真を撮り続けていたため。
現在でもカメラは持ち歩いており、「主人公補正」のために死ぬことになった仲間たちの最期を写真に収めている。

無表情で物事を冷めた目で見ており、自分の役職や世界のシステムなども合理的だとして理解している。

「役職ディストピアリ」のラストでは体内の胞子による死を悟り、タチアナに銃殺された。
自分が切り捨てた命が原因で殺されるが、それもまた仕方のないことだと受け入れ、抵抗することなくタチアナの銃弾に眉間を貫かれた。

武器は大剣であるが、「目立ってかっこいいから」という理由。
「主人公補正」発動時以外は使いこなせるほどの身体能力はないため、引きずったりと乱暴な扱いになっている。

シズ

「観測士」。レベルは20前後。
第七観測所に所属する「観測士」でトルザの担当となり同行する。

元々は第1レイヤーで娼婦をしていたが、体に出現したシュレディンガー基盤によって役職が「観測士」であることが判明し、観測所に引き取られ、育てられた。
貧血気味、かつ生理不順の不健康女子であり、作中でよく倒れている。それでも職務に対しては真面目であり、「観測士」としてトルザを的確にサポートする。

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