G戦場ヘヴンズドア(日本橋ヨヲコ)のネタバレ解説・考察まとめ

日本橋ヨヲコが『月刊IKKI』にて2000年11月から2003年6月に連載した作品。単行本は全3巻。漫画家の父を持つ堺田町蔵と、編集者の父を持つ長谷川鉄男の、漫画を通した友情と成長を描いたストーリー。2005年3月にNHK-FMの『青春アドベンチャー』という番組でラジオドラマ化された。

久美子の存在でネーム用のストーリーのイメージが湧いてそれを書き留めるのに苦労する町蔵。
これは単純な好意などではなく、なにか別の衝動に突き動かされていると確信しながら、トイレで吐きつつ必死にネームを描く。
創作者として必要なのは心に焼き付けられる強力な存在なのだ、ということがわかるシーン。

坂井大蔵が授賞式で鉄男を抱きしめるシーン

第35回少年ファイト新人マンガ大賞の選考に携わった大蔵は、鉄男が佳作を獲り表彰台に登った時、あの時川で原稿を捨てていた少年だと気づく。
隣の町蔵には目もくれず鉄男を抱きしめるが、そのことによって町蔵は父である大蔵だけではなく、鉄男にも憎しみを向けるようになる。
町蔵の憎しみの対象が父親だけでなく、タッグを組んでいた鉄男にも向けられるきっかけになるターニングポイント。

「多少絵が変わったところで、私のマンガは変わんないよ。安心して失敗するといいよ。」

受賞仲間の猪熊のツテで、少年ファイトで漫画を連載している町田都の元でアシスタントをすることになる町蔵。
励まされているはずなのに寒気を感じるこのセリフに、町蔵は漫画家の覚悟を感じて恐怖する。

「今もこの先もオレが主人公になることはない。」

「お前には、お前にはわからないよ鉄男。どこにいても感じる圧倒的な疎外感。自分だけは振り向いてもらえない妙な確信。静かな予感。」という、町蔵が常に感じていた孤独を描いたシーン。
常に人気者であった鉄男に対する町蔵の嫉妬を飛び越え諦めに近い感情を描いたシーンであり、やっと手に入れた友情がその羨望の心だけで崩壊してしまう可能性を示している。

「あなたの描くうそは、誰かがお金を払ってでも騙されたいものかしら?」

猪熊はプロアシとしての自分に誇りを持っていて、町蔵の青臭く軽率な、「プロになればいい」というセリフに本気で返す。
それは「自分は漫画家にはなれない」という確信を抱いたときから猪熊がずっと足掻き続けていた内容で、「それでも私はマンガと関わっていたいのよ。」と町蔵に答える。
漫画だけでなく、様々なものの制作に関わる人間には響くものがあるセリフ。

「…君は、作品の一般的なイメージで、読んだつもりになってるんじゃないの?」

連載作品用のネームを切れ、と言われた受賞仲間の陣中見舞いに行く猪熊と町蔵だが、稲葉の家に行くと、そこには坂井大蔵の作品があった。
「こういうの読まないと思ってた」と町蔵が言うと、稲葉はこのセリフを返す。
物事を一方から見たイメージだけで語るのではなく、様々な角度から見ることが大切だと気付かされるセリフ。

「紙の上は時間も人物も自由に描けるけど、今日のイルカも今日のお前も今日で最後だ。ちゃんと見とかねえとな。」

連載用のネームを描く締め切りが迫っていながら、町蔵は久美子と動物園のデートをする。
締め切りがすぐだと知った久美子は帰って町蔵に描かせようとするが、町蔵は久美子を座らせてデートの続きをする。
何かを作ろうだとか、何かを得ようだとかする者は、まず身近な大切なものをきちんと見守ることが大切だと教えてくれる。

「あんたは現実に逃げなくなった。照れずにまっすぐ夢を語れるようになった。マンガ家に必要なものなんてそれだけよ。」

裕美子が石波修高だとわかった町蔵は、裕美子の元へ駆けつける。
裕美子は石波としてマンガを描いていた頃付き合っていた男性に、「人を強欲にするお前のマンガが怖い」と言われ、姿を消して坂井大蔵の元でマネージャーになりすましていた。
何があっても前を向ける男が現れたら、自分もマンガをもう一度信じてみようと思っていた裕美子。
町蔵は裕美子の望んだ通りの男になった。

「お前自体が作品なんだな。」

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