G戦場ヘヴンズドア(日本橋ヨヲコ)のネタバレ解説・考察まとめ
日本橋ヨヲコが『月刊IKKI』にて2000年11月から2003年6月に連載した作品。単行本は全3巻。漫画家の父を持つ堺田町蔵と、編集者の父を持つ長谷川鉄男の、漫画を通した友情と成長を描いたストーリー。2005年3月にNHK-FMの『青春アドベンチャー』という番組でラジオドラマ化された。
『G戦場ヘヴンズドア』の概要
『月刊IKKI』にて2000年11月から2003年6月まで連載された、日本橋ヨヲコによる青春成長物語。
全18話で、各話のタイトルは「◯◯◯ナイ」に統一されている。
商業マンガの世界をベースに、二人の少年の成長と友情の行方を描いた傑作。
扱っている題材から『まんが道』などとの比較もよくされる。
タイトルの「G」は、マンガの作画に使う「Gペン」から取られている。
「戦場」は「G線上のアリア」からもじっている。
「マンガの世界という戦場でGペンの線を走らせる中、数少ない人間だけがその向こう側にたどり着ける境地=ヘヴンズドア」という意味づけのタイトルである。
日本橋ヨヲコは作品にスターシステム(自分の描いた別作品のキャラを登場させること)を取り入れることで有名だが、この作品にも『プラスティック解体高校」のキャラクターが登場している。
また、一部のシーンを『少女ファイト』にて効果的に再登場させている。(例:町蔵が鉄男に「この世界で一緒に汚れてやる」というシーンを女優である久美子が演じているテレビドラマのシーンとして構図を同じくし再登場させた)
打ち切りという形ではなく、最後までキャラの寿命を描き切れたと、日本橋本人が言うほど、密度が高く綺麗に完結している話として評価も高い。
2005年3月にNHK-FMの『青春アドベンチャー』という番組でラジオドラマ化された。
『G戦場ヘヴンズドア』のあらすじ・ストーリー
大人気漫画家の父を持つ堺田町蔵は、そのことで日常に不満を抱いていた。
クラスメイトの長谷川鉄男が教室内でマンガを描いていることをバカにし、「お前が尊敬してる漫画家って誰だよ」と質問する。
それに父の名前である「坂井大蔵」と答えられた町蔵は激昂し、鉄男の描いた原稿を破り捨てる。
クラスメイトはこぞって「お前は遠くに引っ越した方がいい」「かわいそう」と言うが、理由がわからない町蔵。
そこに鉄男にベタ惚れの菅原久美子が現れ、鉄男に害をなした町蔵を「逆包茎手術」すると言い出す。
鉄男はそれを止めるが、かわりに町蔵が大切にしているものを差し出すことになる。
それは小説の原稿だった。
鉄男はそれを読み、「坂井大蔵のにおいがする」と言う。そして、これを破り捨てるなんて自分にはできない、と町蔵に手を差し伸べる。
鉄男は町蔵の原稿を原作にマンガを描きたがったが、町蔵はマンガの世界に足を踏み入れたくない。
久美子に執拗に脅され、結局町蔵と鉄男はタッグを組むことになる。
第35回少年ファイト新人マンガ大賞に原稿を応募し、二人は佳作を得る。
町蔵は選考委員に自分の父親がいることを知っており、もしかしたら褒めてくれるのではと期待していたが、坂井大蔵が抱きしめたのは町蔵ではなく鉄男だった。
鉄男は過去、父親でマンガの編集者をしている阿久田鉄人宛に、自分の近況を描いたマンガを送ろうとしていた。
しかし、その原稿をみた母親はもともと患っていた病を悪化させ倒れてしまう。
自分のマンガを凶器だと思った鉄男は川に原稿を捨てに来るが、そこに大蔵が居合わせ、「おじさんマンガ好きなんだよ、捨てないでくれよ」と言われ原稿を譲りわたすことになった経緯があった。
坂井大蔵は「いつか川で原稿を捨てていた少年が自分のマンガを読んで勇気付けられてくれるかもしれない」ということをモチベーションにマンガを描き続け、それが鉄男に届いた形だった。
坂井大蔵は鉄男が川に捨てようとした原稿を読み、小学生が自分のエゴを完全に排除した完璧な原稿を描けることに衝撃を受けた。
さらに、そうした漫画を描かざるを得ない鉄男の環境を嘆いて、自分の漫画がヒットすることにより、いつか鉄男に届いて欲しいと願っていたのだった。
町蔵は大蔵が母と離婚し自分に構ってくれなかったことを恨んでおり、「自分や母親をマンガのために捨て、鉄男のために描き続けた」ことに対し、父親にさらなる憎しみを向ける。
さらに鉄男が自分の欲しいもの(人望、才能、友人、恋人など)を全て持っていると思い、妬ましく思う。
授賞式で阿久田に「これから君たちは連載作用のネームを切ってもらう。ただし堺田町蔵、今回は合作は認めない。君もマンガを描くんだ」と言われ、同じく受賞者の猪熊に頼み込みマンガの描き方を学ぶ町蔵。
阿久田は町蔵が漫画家としての才能を持っていることを見抜いて、一人でマンガを完成させることを宣告した。
その頃久美子は、マンガに熱中して自分のことも久美子のことも顧みない鉄男に焦燥感を感じていた。
「鉄男にお弁当を持っていけていない」と相談された町蔵は、久美子に惹かれていたこともあり、ネームの締め切りの日に気分転換としてふたりはデートをする。
町蔵は久美子に「鉄男のために生きるな」「まずは自分自身になれ」と言い、久美子に言った通り「自分自身になる」ことを実行した町蔵の連載用のネームは結局完成しなかった。
他の漫画家のヘルプにはいっていてネームが完成しなかった猪熊と共に、連載決定会議に顔だけ出しに行った町蔵。
「なぜリタイアした?(ネームを完成させなかった?)」という阿久田の問いに、「マンガより大切なことがあったからです」と答える。
町蔵にとって連載を獲ることより、その日その日の大切な人の心情を見守ることこそが大事なことだった。
町蔵は久美子と、坂井大蔵の秘書である裕美子にしか見せていないネームを読み切りで描くように阿久田に命じられる。
なぜこのネームを阿久田が持っているのか、という質問に対し、「石波修高に感謝するんだな」と言われ疑問に思う町蔵。
そこから、父親の愛人だと思い込んでいた裕美子が実は人気漫画家の石波修高であることを知る。裕美子が阿久田にネームを見せていたのだった。
連載決定会議を経て結局連載を取ったのは鉄男だったが、鉄男はマンガを、父親である阿久田や、何もできなかった自分に対する憎しみを表現するための道具として使用した。
鉄男の伏せっていた母は病気でこの世を去り、金銭面の援助もせず、母と離婚して家に全く寄り付かなかった阿久田のことをずっと鉄男は恨んでいた。
鉄男は5巻分のネームと原稿を描き貯めながら、それを全て持ち出して川に廃棄しようとした。そうすることで阿久田が窮地に陥ると思ったからだ。
そこに、坂井大蔵が現れ、「今度は誰のために捨てているんだい」と問う。
久美子はマンガを描くマシーンのようになってしまった鉄男から離れる決意を話し、鉄男は久美子を引き留めることができず、彼女の背中にマジックでメッセージを書く。
はっきり付き合っていると示さなくても、久美子はいつでも自分のそばにいてくれる、という鉄男の甘えが、彼女を引き離してしまう原因となった。
久美子はマジックでメッセージが書かれた背中を服で隠し、自分を好きでいてくれている町蔵の元へ気持ちを告白しに向かう。
町蔵は自身がずっと惹かれていた久美子を受け入れようとしたが、背中に書かれている「たすけてさかいだくん」というメッセージをみつけ、鉄男の元に駆けつける。
鉄男は右手首を切って自殺未遂をしていた。
もうマンガを描く気力もなく、生きていくのもつらい鉄男に、父親である阿久田は「あと数話で終わらせるか打ち切りか選べ」と突きつける。
町蔵は鉄男の手を握り、「オレが続きを描きます、オレが鉄男の手になります」と答える。
新人マンガ大賞の受賞者に協力してもらい、数話ぶんの鉄男の絵を偽造し、町蔵がストーリーを考える。
そうして出来上がったマンガは、「意志」で出来上がったプロの作品だった。
その後鉄男と久美子は高校を出てすぐ結婚する。
十数年後、女優業をしている久美子と編集者となった鉄男の生活がようやく落ち着くと、二人は結婚式をあげる。
バージンロードを父親の代わりに歩いたのは町蔵だった。
漫画家になった町蔵のマンガはいつも途中で打ち切られてしまうが、会心の出来であるネームを編集部に持ち込む。
しかし編集はいい顔をせず、「引き継ぎの新担当に見せます」と言う。
その新しい担当編集者は鉄男で、1話で町蔵の作品を認めた時のように、町蔵のネームを認めるのであった。
『G戦場ヘヴンズドア』の登場人物・キャラクター
主要人物
堺田町蔵(さかいだまちぞう)
主人公の一人。
父親に人気漫画家である坂井大蔵を持つ。
小説でいつか日の目を見ようと書きためていたが、それを父親にバカにされる。
しかし、鉄男はその小説を受け入れ、マンガの原作をしてほしいと申し出る。
父親はマンガを描くために母と自分を見捨てたと思い込んでおり、その後投稿したマンガの授賞式で自分より先に鉄男を抱きしめた父親にさらに恨みを募らせる。
長谷川鉄男(はせがわてつお)
主人公の一人。
駄菓子屋の孫で、漫画に関しては天才的な作画能力を見せる。
父親に敏腕編集者である阿久田鉄人を持ち、小学生の時に離婚して出ていった父に近況を知らせようと描いたマンガにより、母は倒れてしまう。
ずっと自分のマンガを凶器だと思い込み封印していたが、坂井大蔵の作品に出会いまたマンガを描くようになる。
菅原久美子(すがわらくみこ)
鉄男の幼馴染。
鉄男にベタ惚れで、鉄男の邪魔をするものは何者でも許さない。
鉄男と町蔵がマンガによって結びついたあたりから、自分は鉄男に必要ないのではないかと思い悩む。
何も言わないが優しい鉄男と、自分を素直に出す町蔵の間で揺れる。
梨井裕美子(なしいゆみこ)
坂井大蔵の秘書をしている。
町蔵には父親の愛人だと思われていた。
しかしそれを否定せず、あえて町蔵と肉体関係を結ぶことにより、町蔵の「父親に対する憎悪」を募らせて追い詰め、人間的に成長させようとした。
実は石波修高という名前で、『少年ファイト』では坂井大蔵と人気を二分するほどのマンガを描いていた過去がある。
坂井大蔵(さかいだいぞう)
人気漫画家で町蔵の父親。
鉄男がまだ小学生の頃、川に原稿を流そうとしていたのを止め、「おじさんマンガ好きなんだよ」とその原稿を貰い受ける。
そのマンガが「完璧(描き手のエゴを一切排除したもの)」で、そうしたエゴを排除した原稿を描かなければいけない鉄男の環境を考え、いつか自分のマンガが鉄男に届けばいいと考えマンガを描き続けた。
阿久田鉄人(あくたてつひと)
敏腕編集者で鉄男の父。
鉄男の母とは鉄男が幼い頃離婚している。
以前は漫画家をしていたが、その自分の才能に体と精神を蝕まれ、引退。
その後坂井大蔵の担当編集として「少年ファイト」を盛り上げたのち、編集長の座を狙ったいざこざに巻き込まれて左遷される。
戻って来た阿久田は、坂井大蔵の人気作を打ち切り、新しい連載を始める準備をする。
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目次 - Contents
- 『G戦場ヘヴンズドア』の概要
- 『G戦場ヘヴンズドア』のあらすじ・ストーリー
- 『G戦場ヘヴンズドア』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 堺田町蔵(さかいだまちぞう)
- 長谷川鉄男(はせがわてつお)
- 菅原久美子(すがわらくみこ)
- 梨井裕美子(なしいゆみこ)
- 坂井大蔵(さかいだいぞう)
- 阿久田鉄人(あくたてつひと)
- 登場人物・キャラクターの家族
- 鉄男のおじいちゃん
- 長谷川枝美子(はせがわえみこ)
- 久美子の父
- 漫画家と編集者たち
- 猪熊宗一郎(いのくまそういちろう)
- 町田都(まちだみやこ)
- 山田(やまだ)
- 井川春樹(いがわはるき)
- 岸辺シロノ(きしべしろの)
- 小手崎ユウ(こてさきゆう)
- 定尾和幸(さだおかずゆき)
- 千葉リナ(ちばりな)
- 稲葉誠(いなばまこと)
- 伊岡起七(いおかきしち)
- 鉄男と町蔵の同級生
- 市原悦夫(いちはらえつお)
- 大地康子(だいちやすこ)
- 菅井金治(すがいきんじ)
- 『G戦場ヘヴンズドア』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 「オレにはできない。」
- 「オレを震えさせてくれるのなら、この世界で、一緒に汚れてやる。」
- 鉄男が川に原稿を捨てるシーン
- 「アタックってさ、派手だけど意外と簡単なんだよね。」
- 「かわいそうになあ。気づいちゃったんだよなあ、誰も生き急げなんて言ってくれないことに。」
- 町蔵の描いたネームをみて久美子が泣くシーン
- 「なのになんでそんな、オレの中に入ってくるんだよ。」
- 坂井大蔵が授賞式で鉄男を抱きしめるシーン
- 「多少絵が変わったところで、私のマンガは変わんないよ。安心して失敗するといいよ。」
- 「今もこの先もオレが主人公になることはない。」
- 「あなたの描くうそは、誰かがお金を払ってでも騙されたいものかしら?」
- 「…君は、作品の一般的なイメージで、読んだつもりになってるんじゃないの?」
- 「紙の上は時間も人物も自由に描けるけど、今日のイルカも今日のお前も今日で最後だ。ちゃんと見とかねえとな。」
- 「あんたは現実に逃げなくなった。照れずにまっすぐ夢を語れるようになった。マンガ家に必要なものなんてそれだけよ。」
- 「お前自体が作品なんだな。」
- 鉄男が川に原稿を流し、再び坂井大蔵が現れるシーン
- 「俺が鉄男の手になります。」
- 「もう堺田ちゃんには、安全地帯にいるあなたたちの言葉は届かないわよ。」
- 「オレにはできない」と鉄男が手を差し出すシーン
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