軍隊の特殊部隊出身の大学講師が様々な冒険を繰り広げる面白漫画
「マスターキートン」は、浦沢直樹の有名マンガの中のひとつ。専門的な軍隊の考察や考古学の知識など、背景となる物語の知識がかなり優れているので、まずは、その部分に驚かされます。
そして、物語が単純に面白い。読んでいて爽快で愉快で、すぐに熱中してしまうのではないかと思います。基本的に短編のストーリーが次から次へと展開されていくのですが、その中で生まれる名言の数々もすばらしいと思います。
例えば、犯罪の容疑をかけられているライアンという少年とその友人ショーンについて。犯罪の有無に関わらず、ライアンはショーンを信じ、ショーンもライアンを信じた。「それでいいんだ」と語られる場面があります。時として犯罪を犯した友人をかばう事になっても、人として友人を信じる事が大切である、という部分に、人として大切な要素が描かれていて個人的に感動しました。
また、90歳を超える老人がバス停でパイプをふかしながら、「今まででいつが一番楽しかったか」と聞かれて、「今だな」と答える場面も興味深いです。ただパイプをふかして孫の相手をしているだけの人生ですが、それが一番素晴らしい事だというのです。その老人は、次の日に老衰で亡くなってしまうのですが、その時、奥さんが、「私の亭主、良い死に顔だろ」と葬式の場で皆に言います。普通、そのような事は言えません。私の亭主が死んでしまって悲しい、なら分かります。しかし、死んだ後も、悲しみを乗り越えて亭主の死をとらえる事が出来る、その残された老婆の発言に心打たれました。
このように、このマンガには単なる感動を型どおりに演出するのではない、それを超えた何かがあります。キートンが軍隊の現実主義を否定している部分などは、個人的には、もろ手を挙げて賛成できる部分ではないのですが、それでも物語全体を通して優れた話が多いので、未読の方には、ぜひおすすめしたいマンガです。
日本のマンガ文化の品質の高さを物語っているシリーズではないか、と思いました。