パプリカ / Paprika

パプリカ / Paprika

パプリカとは今敏監督によるアニメ映画である。原作は筒井康隆作の小説「パプリカ」。2006年11月25日に劇場公開された。
千葉敦子は夢を共有できる装置DCミニの中で別人格「パプリカ」となって活躍するサイコセラピスト。ある日、研究所からDCミニが奪われてしまい悪用される事件が起こる。なんとか解決策を模索する敦子と研究所の仲間たちだが、事件の影響により夢が現実世界にも影響を及ぼし始める。

パプリカ / Paprikaのレビュー・評価・感想

パプリカ / Paprika
8

夢に、狂気に、映像圧に押しつぶされる

『パプリカ』は2006年に公開された日本のアニメーション映画だ。漫画家でありアニメ監督の今敏が脚本と監督を務めている。原作は1993年に筒井康隆によって書かれた同名の小説である。
あらすじは、他人と夢を共有できるマシン「DCミニ」が何者かに盗まれてしまい、犯人を追うために主人公の千葉敦子が夢探偵「パプリカ」に姿を変えて人々の夢の中へと調査に出る、というもの。

このアニメ映画のすごいところは何といっても映像圧である。映像美、と言うにはあまりに狂気じみて混沌とした夢の描写はまさに圧巻。押しつぶされそうな量のカオスが、映像となって視覚から入り込んでくる。しかしながらこの映像は決して不快なものではない。理解はできない、秩序もなく一般的な意味の美しさでもないが、すごくクセになる。この混沌を無秩序をずっと見ていたいと思ってしまう。
それに加えてミュージシャンである平沢進氏の手がけたBGMが、その映像に最高の味付けをしているのだ。まさしく夢見心地である。

夢の描写についてばかりになってしまっているがもちろん肝心のストーリーもしっかり面白い。DCミニ盗難の犯人捜しがベースにあるので、キャラの背景や心境もキチンと描きながらも中だるみさせることなくメインストーリーが進行する。

ただ1つ引っかかるのは、終盤の着地もきれいにまとまっているのは素晴らしいのだが、最後の盛り上がりである決戦がカオスも極まり「なんじゃこりゃあ」となりがちなところである。全裸の巨大な女性が出てくる。特にいやらしさを意識したものではないので嫌悪感等は無いのだが、知人とみているとなんとなく気まずくなる。

この映画のカオスがツボにはまる人はおそらく最終決戦も好きだと思うが、じゃあ万人に勧めるかといわれると悩ましい。このカオスを好いてくれるだろうか、この快感の伴う圧を感じてくれるだろうか。それを心配をするあまり、人には勧めづらい。気になった方は、まずは1人で鑑賞することをお勧めしたい。

パプリカ / Paprika
8

鬼才が作り出す現代アートのような一作

音楽を平沢進、原作は筒井康隆、映画監督は今敏という知る人ぞ知る鬼才たちを集めた一作。

精神病患者を治療するDCミニというマシーンがあり、このDCミニが盗まれてしまったところから物語が始まる。

見どころは現代アートのような作品だという部分だ。
映画は独創的な視覚効果や色彩、そしてサイケデリックな音楽が融合し、観る者を驚かせる。幻想的であるにもかかわらずどこか意味ありげなシーンや描写は、観る人によって感想が変わる現代アートを彷彿とさせる。
またストーリーや独特なアニメーションを通じて登場人物の精神の複雑さや人間関係の繊細さ、はたまた欲望を描き出しており、それらを美しくもどこか不安にさせるアニメーションや音楽で表現しているのだ。

また『パプリカ』の美術や色彩は『君の名は。』のような爽やかで明るいタッチとは違い、派手ながらも美しく練り上げられた色彩が際立っている。
『パプリカ』の色彩表現は夢の中に迷い込んだような錯覚を覚えさせ、観る者を没頭させる。これは『パプリカ』のアニメーション・色彩ならではの表現手法であり、アニメ映画の可能性を広げた作品と言えるのではないだろうか。
家の中にいながら現代美術を体験できる素晴らしい映画なので、是非みなさんにも1度観てほしい。

パプリカ / Paprika
8

圧倒的映像の波に乗れ

今敏監督のアニメ長編映画。夢の世界を舞台にしたサスペンス。見どころは夢ならではのシュールな世界や、現実ではありえない世界を縦横無尽に描きつくした映像!特に主人公がホテルである人物を追いかけるシーンは後のクリストファー・ノーラン監督が『インセプション』でオマージュしたほどの完成度で必見。
物語はすこしわかりづらく、つじつまもあっているのかよくわからない所もあるが、全体として映像の勢いに圧倒され、そんなことは気にならない。
夢の世界も象徴的で、鑑賞後の考察が楽しい。秘めた欲望やトラウマ、精神的な混乱など、心で起きる様々な現象を視覚的に、わかりやすく、そして面白く表現している。
ほかの今敏作品(ディープ・ブルー)にも見られる、人間の二重性というテーマにも言及されたシナリオ。表の顔と裏の顔、建前と本音、冷静さを装った顔と裏に潜む混沌…。他人には見せられない、自分の秘めた内側が知らず知らずのうちに、夢の世界へと表出していく。もし他人がその夢の世界へ足を踏み入れるようになったら…?誰もが一度は想像し、それはあり得ないことだと安心しもした空想の世界を、今敏監督がアニメの利点を存分に生かして描ききる力作!

パプリカ / Paprika
9

所詮アニメではない

「私の夢が、犯されている―」「夢が犯されていく―」をキャッチコピーに冠したアニメ映画、パプリカ。監督は鬼才、今敏だ。アニメ映画というと子供向けとか、道楽で制作されたような印象を受ける人が一定数いるのは事実だろう。そんな人にこそ観てほしいのがこの作品だ。
主人公であるパプリカは、夢を共有する装置"DCミニ”を用いて相談者の夢へと侵入し、深層心理を探る精神セラピスト。ある時、ターゲットが”DCミニ”によって悪夢を見せられ、精神を崩壊させられる事件が起こるようになる。犯人が誰なのか、その目的は何なのか。パプリカは悪夢を終わらせるため、姿なき敵との闘いに挑む。
ストーリーを見て分かるように、この作品は夢や深層心理を扱った作品だ。人間のそれらはたいてい支離滅裂で意味不明、まるで理解できない。ぼんやりと言葉の意味は分かっても、その実体は浅い夢のように常にゆらぐモヤの中にあるように感じられるのではないだろうか。
しかしこの作品では、無意識のうちに存在する思考や錯綜するイメージを映像化することに見事に成功していると私は感じる。素晴らしい映像と平沢進の音楽が高度に調和し、人間の精神の内にある静けさと狂乱をありありと見せつけられる。実写や3DCGではなく、アニメーション映画でなければ表現し得なかっただろう。事件の全容と事の顛末は案外あっけないもので、それもまた妙なリアリティを掻き立てられる。映画を語る上で外せない作品だと言えるだろう。