ボーはおそれている

ボーはおそれているのレビュー・評価・感想

ボーはおそれている
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3時間の悪夢的体験! あなたは耐えられるか? 『ボーはおそれている』

極度の不安症を患い、日常のあらゆる出来事が悪夢的な事に見えている主人公「ボー」。本作はそんなボーが実家へ帰省する、という出来事を描いた映画です。

「上映時間:3時間」え? と思った方、その感覚は正しいです。
本作の内容は、本当に中年のおっさんが実家に帰るだけなのですが、これを3時間見せられます。本当に3時間通して全編、中年の帰省です。

では何故他の映画だったら15分とかからないくらいで描けそうな物語が、3時間にもなっているのか軽く説明しましょう。
まず主人公の「ボー」。冒頭にも述べた通り極度の不安症を患っており、それに加えて優柔不断・中年・童貞と主人公としてはダメダメなんです。
そしてこの映画は、そんなダメダメなボーのグダグダな帰省の様子に、不安症状の幻覚・幻聴をトッピングしたもはや悪夢みたいな珍道中になっているのです。些細な出来事で躓き長時間足止めされ、少し進んだかと思ったらまた次は足踏みするような進行の映画だからです。

軽く例を挙げると、映画開始後数十分で
・鍵を紛失
・カードが止まっておりコンビニで買い物失敗
・小銭をもたもた出しすぎて店員に警察を呼ばれかける
・自宅から締め出される
・外で眠ってしまい帰省の飛行機に乗り遅れる
こんな調子で3時間全編ボーのダメ珍道中を見せられます。

上記の通りずっと話が進まない上に、不安症の幻覚や幻聴の表現として現実離れしたありえない出来事がコンスタントに描写され続けるので、観客のメンタルはボロボロになっていきます(実際、上映当時は途中退出者がそれなりに居たそうです)。

ここまで本作『ボーはおそれている』を散々言ってきましたが、この作品が悪い作品かというとそうではないのです。
近年稀にみる怪作であることは間違いないのですが、全編通してボーのダメ道中に付き合っていると少しずつ「頑張れ...!」という気持ちになったりならなかったり、やっぱり「いやシャキッとしなさい!」「もどかしくて敵わない!!」といった色んな感情が沸いてきます。
感動や爽快といったような、よくある映画体験に少し飽きてきた方には是非とも本作を見ていただきたいです。
悪夢的で不快な気持ちになりつつ、でもどこかボーを応援したくなるような、そんな不思議で怪奇な作品です!

ボーはおそれている
7

ようこそ!アリ・アスターの描く圧倒的不条理の世界へ

『ヘレディタリー/継承』 『ミッドサマー』で、既存のホラーとは異なる独自のジャンルを確立した鬼才アリ・アスター監督。彼の長編3作目となるのが、この『ボーはおそれている』だ。
アリ・アスター作品には、理屈や道理は存在しない。登場人物たちはいつも圧倒的なまでの不条理に遭遇し、そして飲み込まれていく。本作ではその不条理さが格段にパワーアップしているからたまらない。

主人公のボーは40代の中年男性。心に何かしらの問題を抱えているようで、セラピストにかかっている。そんなボーのもとに突然こんな連絡が舞い込むのだ。「母親が死んだ。シャンデリアの下敷きになって、首から上はない」。そこからボーの奇妙な旅が始まる。
母親のもとに早く行きたいのに、災難に次ぐ災難でどうしても故郷にたどり着くことができない。ボーは最初から最後まで何かに怯え、何かに追われ、泣きそうな表情を浮かべながらただただ逃げ惑うばかり。見ている私たちも物語の着地点がまったく見えないまま、不安な気持ちで彼と共に不可思議な旅路を進むことになる。
ギリギリと心に爪を突き立てられているような、脳に不協和音を流し込まれているような、そんな映画体験。それを“快”と感じるか“不快”と感じるか、感想は真っ二つに分かれるだろう。

最後に付け加えると、上映時間はインド映画もびっくりの3時間15分。アスター監督いわく、「観客の尿意への挑戦」なのだそう。鑑賞前の水分摂取はどうぞ控えめに。