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ようこそ!アリ・アスターの描く圧倒的不条理の世界へ
『ヘレディタリー/継承』 『ミッドサマー』で、既存のホラーとは異なる独自のジャンルを確立した鬼才アリ・アスター監督。彼の長編3作目となるのが、この『ボーはおそれている』だ。
アリ・アスター作品には、理屈や道理は存在しない。登場人物たちはいつも圧倒的なまでの不条理に遭遇し、そして飲み込まれていく。本作ではその不条理さが格段にパワーアップしているからたまらない。
主人公のボーは40代の中年男性。心に何かしらの問題を抱えているようで、セラピストにかかっている。そんなボーのもとに突然こんな連絡が舞い込むのだ。「母親が死んだ。シャンデリアの下敷きになって、首から上はない」。そこからボーの奇妙な旅が始まる。
母親のもとに早く行きたいのに、災難に次ぐ災難でどうしても故郷にたどり着くことができない。ボーは最初から最後まで何かに怯え、何かに追われ、泣きそうな表情を浮かべながらただただ逃げ惑うばかり。見ている私たちも物語の着地点がまったく見えないまま、不安な気持ちで彼と共に不可思議な旅路を進むことになる。
ギリギリと心に爪を突き立てられているような、脳に不協和音を流し込まれているような、そんな映画体験。それを“快”と感じるか“不快”と感じるか、感想は真っ二つに分かれるだろう。
最後に付け加えると、上映時間はインド映画もびっくりの3時間15分。アスター監督いわく、「観客の尿意への挑戦」なのだそう。鑑賞前の水分摂取はどうぞ控えめに。