ダークな世界観に思わず引き込まれます
ゲゲゲの鬼太郎は、水木しげる先生原作の妖怪たちが多く登場するテレビアニメ作品です。
アニメ放送や映画化が何度もされており、その中でも1996年から1997年に放送されたいわゆる『4期』と呼ばれる鬼太郎のアニメシリーズには、これまでにない独特な演出方法がなされました。
これまでの鬼太郎の作品では、鬼太郎は正義の味方であり、悪事を働く妖怪たちを退治するヒーロー的存在です。
この4期でもその役割はほとんど変わりません。
ですがこの作品の中では、一方的に妖怪が悪いわけではない、ということを強調している場面が多く登場します。
例えば、第一話「妖怪見上げ入道」では、人間が山を開拓するため森を切り開き、そこに住んでいた妖怪たちが棲家を失ってしまいます。
妖怪は復讐をするために人間を襲いますが、鬼太郎がやってきて妖怪を退治したのちに、こう言います。
「本当は人間と妖怪、仲良くやっていければ一番いいのさ」
このセリフに鬼太郎の父である目玉の親父は、「まあ難しい問題じゃがな」と返します。
この二人の掛け合いの中で、鬼太郎を始め妖怪たちが、人間との共存を願っていること、そして、その願いを叶えることはとても難しいことがうかがえます。
このように鬼太郎4期の作品の中では、妖怪と人間の共存を目指す話が多く存在します。
子供向けのヒーローが活躍するだけのアニメでは留まらず、その先にある、見えないもの、自分たちとは違うものと共に生きようとする、儚い願いが込められているのです。
先ほどご紹介した第一話以外にも、こういった妖怪と人間の交流を描いた話が多く存在します。
中でも第53話「霊園行き・幽霊電車!」では、鬼太郎が人間を懲らしめるという珍しい回が登場します。
この話は原作でも人気が高く、何度もアニメ化がされています。
この回の大きな特徴としては、ホラーテイストが色濃い点にあるでしょう。
大まかなあらすじとしては、ある二人の酔っ払いの男の前に、偶然鬼太郎が現れます。
妖怪を信じない二人の男に馬鹿にされ、鬼太郎はゲンコツをくらってしまいます。
怒った鬼太郎は「おじさん、悪いけど同じ大きさのコブで仕返しさせてもらうよ」と何やら意味深な発言をして去っていきます。
その後、男たちは終電を逃し困り果ててしまいますが、そこへたまたま臨時電車が出ていることを知り、乗り込むことにしました。
ですが、車内は薄気味悪い空気が立ち込め、乗客の様子も何やらおかしいのです。
停車する駅の名前も「火葬場」や「骨つぼ」など、気持ちの悪い名前の駅ばかりで、男たちは恐怖に震え上がります。
この電車のシーンは、大人が見ても背筋が凍りそうなほど、リアルでホラー要素満載のシーンです。
実はこの臨時電車は鬼太郎の仕業であり、男たちを懲らしめるために用意した罠でした。
そして最後は、鬼太郎の言った”同じ大きさのコブ”で、男たちは見事に仕返しをくらいます。
ここは見ていてスカッとするシーンでもありますが、人間である私たちからもすると、同時にゾッとするシーンでもあるのではないでしょうか……。
この他にも、ホラー作家である京極夏彦氏が脚本を務め、声の出演をしている回や、「サマーウォーズ」など多くの作品を産んだ映画監督の細田守氏が、演出を務める回があるなど、魅力が満載のアニメです!
子供のみならず、大人からも愛されるゲゲゲの鬼太郎では、いわゆる正義のヒーローだけではない新しいヒーロー像の鬼太郎と、その奥にある水木しげる先生の哲学に触れることのできる、素晴らしい作品だと言えるでしょう。