「狭く広大な舞台にミステリーを不気味に浮かべる、評価されるべきSF・ホラー」
「NOPE/ノープ」は2022年アメリカ制作のSF・ホラー映画。2017年「ゲット・アウト」をはじめとして注目されるジョーダン・ピールが監督の長編第3作目。主演はダニエル・カルーヤ。
舞台は牧場経営で生計を立てるヘイウッド家の在る田舎町。父と兄妹の3人で営み、調教した馬を映画撮影用に貸し出すことを長年の生業としていた。しかしある時突然、牧場の上空からの落下物に衝突し、父は命を失う。兄弟は牧場を引き継ぐが、経営はままならず。そして牧場では奇妙な停電現象や、何かを察知したのか馬が逃げ出す不審な夜が訪れる。そのなか、兄のOJは雲に隠れた正体不明の物体に気付く。
UFOがクローズアップされるSF作品は多々あれど、この映画ではその正体不明な不気味さが終盤まで連続するミステリーの要素があり、それを個性あるキャラクターたちが解き明かそうと奮闘する。またミステリーが向こう側からやってくる、というハラハラする展開が面白い。広大な田舎の闇夜の風景に溶け込んだ”何者か”に怯える馬の描写にも、息を呑む恐ろしさが演出されている。
ストーリーの背景には映画社会と人種差別の風刺も見え、それがスリルホラーの悲惨さとしても存在し、だがコミカルな演出との絶妙なバランスも感じられる。深堀りしようとすれば様々に要素が散りばめられていることに気付くが、段落的に構成された進行の展開が、考えを巡らせる余地を与えてくれているようにも思う。
残念ながらアカデミー賞でのノミネートはなかったものの、批評家らからは絶賛する声が大きい。この映画を観れば、評価が足らないことに納得がいかないはずだ。