ノーカントリー

ノーカントリーのレビュー・評価・感想

ノーカントリー
8

静寂と銃声

コーマック・マッカーシーの同名小説を映画化したもので、2007年に公開されました。彼の作品らしい冷徹なまでの現実的な描写に、コーエン兄弟得意のブラックかつシニカルなジョークの要素を加えたような作品です。
物語はアメリカ・メキシコの国境で、麻薬の取引現場から大金を持ち出した主人公を追って、賞金稼ぎや殺し屋が主人公を追うというもの。

なんといっても、主演(助演?)のハビエル・バルデムの演技が圧倒的です。撮影監督のロジャー・ディーキンスの撮影手腕と相まって、全編に渡って彼の演技はこちらに緊張を与え、目が離せません。

派手なアクションや音楽より、映像の陰影、音そのものが緊張感をもたらしている作品のように思います。
モーテルの廊下で、殺し屋が家畜の屠殺用の器具につながれたボンベを床に置く、かすかな金属の反響音。売店のカウンターの上で音を立てる菓子の包み紙。国境の町の空気が伝わってくるような陽の光と砂漠、スーツの明るい灰色。
こうしたもの1つ1つの要素と、役者の素晴らしい演技はどれも味わい深く、雰囲気を楽しめます。

また根底を流れる哲学をとっても、言葉で説明出来ずとも、感じられるものがあると思います。
上質なサスペンス・スリラーを求める方には、ぜひともおすすめしたい作品です。

ノーカントリー
9

ハビエル・バルデムの怪演に震えて欲しい

クライムストーリーが大好きで、静かに狂ってる悪役キャラが出てくるとわくわくする嗜好の私が断然お勧めしたい映画が「ノーカントリー」です。この映画に出てくる殺し屋「シガー」の圧倒的存在感が凄くて、見終わった後に魂が抜けました。
ストーリーはとてもシンプルな映画です。麻薬取引に絡む大金を目の前に、思わず手に入れてしまったケチなおじさんを殺し屋が付け狙うという筋書きなんですが、ここに出てくる殺し屋が「シガー」なんです。
出だしから普通じゃないです。シガーが保安官に捕まっているところから始まります。シガーは保安官を絞め殺して逃げるのですが、絞め殺す道具は手にはめられた手錠。これを保安官に後ろから巻き付け、思いっきり絞める、絞める、まだ絞める、というシーンのシガーの表情がヤバいです。目を思いっきり見開きつつ、ぷるぷる震えつつ、少し微笑んでいるような顔で絞めていく、既にこの時点でシガーが普通じゃないのがわかります。
次の殺人に使う道具も頭おかしい。豚さんや牛さんを屠殺するための家畜銃という道具です。自転車の空気入れにものすごい圧力の空気を入れて、それを「ぷっ」と吹き出すと圧縮空気がドアも破壊する威力。なおかつ銃弾とかの証拠も残らないという優れものです。酸素ボンベくらい大きなこの武器を軽々抱えていくシガーに惚れるしかありません。
シガーを演じたハビエル・バルデムという役者さんは、この映画でアカデミー賞助演男優賞を獲得しています。「この人、素でおかしいんじゃない?」と思うくらいのハマりっぷりです。
映画全体も当然おもしろいのですが、この「シガー」を見るだけでも絶対にお勧めの映画です。